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ロマッリとケリマの実力

 私たちはザインツの町の宿屋の食堂で、二人の戦士に見下ろされていた。


 小男のロマッリは、巨大なギロチンという名の刃を私たちに披露した。

 高身長の女であるケリマは、腰に2本の巨大なナイフを携帯している。

 甲冑を着込むロマッリと違って身軽そう、というか露出度が高く破廉恥だ。


「最初は冗談かと思ったぞ。顔に大きな傷のある執事の手配書を見たときはな。賞金首の執事とメイドが一緒にいるなんて最高に笑える」


 ロマッリは上機嫌な様子で白い歯を見せた。


 2人に賞金が掛かっているなんて考えてもいなかった。

 ということは、ロマッリは賞金稼ぎだろうか?


「私はあなたと共に衛兵の元へ向かいます!」

「私も抵抗しません!お嬢様、後はお願いしますね」


 アンナとジーンは、無理やりな笑顔を作って立ち上がった。


「おいおい。立つな、立つな。めんどくさいヤツらだなぁ。ギロチンがあるんだ、立つまでもなかろう」

「ああ、首だけもらってやるよ」


 ケリマが冷たい視線をジーンに向けた。



 私は考えるより先に行動していた。


< ドラゴンフレイムスロワー >


 無言の詠唱を終えた直後に、漆黒の火炎放射兵に姿を変える。


「すごい娘だな!」


 ケリマは私に微笑みかけると、テーブルに片手を付いて飛び上がった。

 空中で一回点ひねりを決めて、ナイフを抜きながらアンナの後ろに着地する。


「ミリエル!やるぞ!」


 魔法陣を目に浮かび上がらせたエドガーが命じた。


「自然の営みに我干渉す。ただ成長することこそ、その縛めとならん。<グロウ・ソーニィー>」

「古の白き姫に我……ぐっぅ」


 ミリエルの魔法で茨が飛び出したはずだった。

 ケリマは茨を物ともせず、絡まれたまま足を踏み出した。

 そして、その長い腕を伸ばしてエドガーの首を掴んだのだ。


「小僧、熱があるだろ?魔法を使っていいのか?」


 ケリマはエドガーを引き寄せると首にナイフを突きつけた。



 ―――ヒュンヒュンヒュン


 右肩にギロチンを乗せたロマッリは、左手で鎖を回し始める。

 鎖の先には、もう一本の巨大なギロチンが取り付けられていた。


 私は動けなかった。

 弟に刃を向けられていたから、という理由だけではない。

 この得体の知れない二人組には、まだまだ余裕が感じられるからだ。


「どうぞ、私たちの首を落としてください!」


 我慢できなくなったアンナが跪いて懇願する。

 ジーンも隣に跪いた。


「なにを言っている!あの男と違って、お母様がそんなことを許すわけないだろう?お姉様!私ごと、このデカ女を燃やしてください!」


 私を見つめるエドガーに狂気を感じる。

 その目には、一切の恐怖も迷いも浮かんでいないのだ……。


「どうする?小娘?執事とメイドのために弟を焼くか?」



 ―――ガシャコン


 私は火炎放射の魔力燃料を銃部から噴射ノズルへと行き渡らせる。


「ふしゅうぅぅぅぅー。エドガー、あなたの救出が遅くなったのは私の判断が間違っていたからです。もっと早く助けて、色んな話をしたかった。ふしゅぅしゅしゅうぅぅぅ。プシーッ!」

「感動のシーンでいいのか……。本気で弟を焼くつもりか?」


 私はロマッリに体を向けた。


 道連れとは、いかないかもしれない。

 だが、私も弟と心は同じだ。

 アンナとジーンが命を落とすときは、一緒に決まっている!


 ―――ジャラジャラジャラジャラ


 ロマッリが鎖つきのギロチンを放り投げた。


 ―――プシャアアー


 ギロチンが首をはね、大量の血が噴出した……。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



 ロマッリは鎖を引き寄せるとギロチンを掴んだ。


「ケリマ。執事と使用人の賞金はいくらだ?」

「執事が銀貨8枚。使用人が銀貨5枚だ」


 ロマッリはギロチンを背中にしまいながら大笑いする。


「なんだ?金貨と銀貨1枚ずつにしかならんのか。やめだ、やめだ。くだらん」

「そうだな。時間の無駄だ。とりあえず、エール持って来い!!2つだぞ!」


 ケリマは長椅子を私たちのテーブルに引っ張ってきて座った。


「どうした?座らないのか。このトゲに毒はないよな?」

「えっ?はい。そのような魔法ではありません」


 あまりにも自然に話しかけてくるケリマにミリエルが返事をした。



「あの、後ろのあの方は……」


 ロマッリの背後で血を流し続けてる死体が気になった。

 死体の脇には小さなクロスボウが転がっている。


「あれか?気にするな。最初から死んでたとか適当なことを言えばいい」

「いーわけないだろ!あんた馬鹿か!?どーすりゃいいんだこの死体!」

「知るか!血抜きの練習にでも使え、この半人前が」


 ロマッリは宿屋の主人らしき男に面倒くさそうに答えた。


「早くエールを持って来い!死体なんかに気を取られてないで、仕事をしろ」

「あんたホント滅茶苦茶だよ!」


 宿屋の主人は涙目になって厨房に向かった。


「あのー、ロマッリさんは賞金稼ぎの方なのですか?」

「うーん……。どうだケリマ?俺たちはそうか?」

「まあ、一応そうかもな。この大陸に来て兵を集めてないし」


 隣に座られて間が持たないミリエルが二人に質問をした。


 別の大陸の貴族?


「外国からいらしたんですか?」


 魔法陣が消えたものの、前より体調が悪そうなエドガーが呟いた。


「外国というか大陸が違う。こんな焼け焦げた肌をするヤツは、西の大陸のさらに南の島にしかいないんだ」

「ほぉ?こんな禿げ方をするヤツは、だいたい西の大陸の帝国出身だ」


 西の大陸の帝国?

 残念ながら私にはわからない。

 自分の住んでいる大陸の地理すら習っていないのだから。


「ここに来たのには理由があるんですか?」


 落ち着いてきたアンナが座りながら尋ねた。


「まあ、名声のせいだな?俺たちは12年か?それぐらい帝国と戦い続けたんだ。俺たちが死ぬ前に帝国が滅んでな。そのせいで、そこら中の貴族やら王族が助力を求めに来た」

「帝国が滅んで自分達が助かった瞬間、お互いに殺し合おうって言うんだからな。馬鹿ばっかりだ。私達の傭兵団で西の大陸に残った馬鹿共は、今頃みんな貴族になったか死んでるかだろう」

「こっちでボチボチ稼いで行こうと思ってたんだがな……」


 ロマッリは大きくため息をつくと、死体に目をやった。


「テオバルト?あのクソガキが精神病の公爵令嬢を捕まえろって命じて来てな」

「他は殺してもいいとか抜かしやがったな。会ってみたらガキばっかりだ」

「テオバルトは我々がここに来ることを知っていたんですか?」


 ジーンは狼狽していた。

 テオバルトはカサンドラの弟だ。

 教会でも私たちの行動は筒抜けだった。


「あのなぁ、傷の執事。馬車はいつ手に入れた?直前の仕事を辞めて、いつ金をかき集めた?」

「私は見張られていたのですか?」

「おいおい勘弁しろ。見張る必要なんかないだろ?金の動きと、お前が行動を起こせる期間に絞ればいい。カサンドラ夫人?そいつが不在でお前らが大金を使った後に警戒するだけでいいだろ」


 ジーンとアンナはうな垂れた。

 きっと二人は、色々と策を弄してきたのだろう。


「この町に来ることまで察知されていたのはなぜですか?」

「ご令嬢はなぜこの町を選んだんだ?」

「ザインツは兄が直接領主を務めている町だからです」

「賢い!わざわざ金で人を雇う理由はそこだ。他の町なら衛兵がどっさりだぞ」



 教会周辺の町は全て手配済みなのだろう。

 我々を伯父様の元へ逃がしても問題ないはずだが、弄びたいのだろうか?

 カサンドラの気持ちひとつで、皆の生死が決まってしまう……。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「この町には、もう私たちを狙う者はいないのですか?」

「お望みとあらば、首を拾ってご挨拶させてやってもいいぞ」


 ロマッリはエールを片手に死体を差した。


「こんな所でゆっくり飯を食ってていいのか?小僧の容態はだいぶ悪いだろ」


 ケリマがエドガーの額を触った。


「そんな……。早くお医者様を!お願いです、二人はご存知でしょう?」

「医者ではなく錬金術師はいませんか!?」


 ミリエルがアンナの言葉を遮った。

 そして、私に跪こうとする。


 私は事情がなんとなく掴めているので、ミリエルを立たせた。


「ミリエルの記憶がはっきりしているのは、エドガーがあなたの分の薬も飲んだからですね?」

「はい……。体にも良くないのに、私は止めませんでした……」

「以前も同様の症状が出たのですね?錬金術師ですか」


 混乱したエドガーが口にした憎しみを耳にして、なんとなくわかっていた。

 エドガーは忘れたいことをたくさん抱えていたのだと。

 ミリエルの為だけでなく、自分のために薬を口にしたのだ。



「ここの錬金術師はゴミだ。東の村に腕のいいのがいたろ?」

「ケリマ?わざわざ行く気か?道を教えてやるから勘弁しろ」


 ―――ガシャン!


 ケリマはロマッリのエールを取り上げて厨房に叩きつけた。

 厨房から出てきた宿屋の主人が、悔しそうにエプロンを噛む。


「その小僧が死んでもお前のせいじゃない。むしろ魔法を止めてやったろ?」

「この町に来てから久しぶりに楽しんだろ?借りは返せ」

「お前は肌の色のわりには、真面目だな……。いいだろ、あいつにはカードの貸しもある。家の酒を全部空けに行こう!」


 彼らの親切を素直に受けた方が良いのだろうか?

 私たちを殺すつもりなら殺しているだろうし。

 取られるお金もほとんどない。


「早く馬車を用意しろ!そんなに小僧を苦しませたいか?」


 私と同様に迷っていたジーンが、ロマッリの言葉で駆け出して行った。


 そうだ。

 迷ってる時間などあるはずがない。

 弟が苦しんでいるんだ……。



 ◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇



「この娘は本当に精神を病んでるのか?」


 馬車に乗り込んだロマッリがさっそく口を開いた。


「お嬢様から離れてください!」

「そうだな。禿げがうつると可哀想だ」


 アンナはロマッリを押しのけた。


「お嬢様は天国のジェラードお爺様に魔法を披露したかっただけなのです!カサンドラに唆されて魔術品評会でお使いになったので、各地の貴族達に恐れられていますが……」

「品評会とやらで、あの格好になったのか!最高に病気だな!」


 ロマッリは手を叩いて笑い始めた。

 ケリマはそれを冷たい表情で見ていたが「ぷっ」と吹き出して後ろを向いた。


 この二人に笑われると不思議と腹が立ってくる。

 私たちより大人のはずなのに、ずいぶんと無邪気だ。


「東門から出るつもりか?傷の執事はカードでは勝てんだろうな」


 ロマッリがジーンに馬車を止めさせた。


「おい、そこのヒゲ!そこのヒゲの衛兵!」

「はっ!なんでしょう?」


 少し年取った口ヒゲのある衛兵が走り寄ってきた。



「頼みがある。もちろん金を払う気はないし、借りを返すつもりもないぞ。だがこの先、お前の子供か孫に”あのロマッリ様をお助けしたことがある”そう語ってもいいぞ」

「私のような老いぼれにできることでしたら……」

「知ってる衛兵全員に、”公爵令嬢様が北門から出て森に入った”そう伝えて、誰に聞かれても同じ答えをさせろ。いいか、誰に聞かれてもだぞ」


 なんという無礼で滅茶苦茶な頼み方を……。

 一体何様のつもりなのか。


「お任せください!私が、あのロマッリ様をお助けしますよ」

「うん。頼んだぞ!」


 肩を叩かれた衛兵は、ロマッリに敬礼をして戻って行った。


「なんだ不思議か?言ったろ?名声がありすぎてここに逃げてきたって」


 ロマッリは勝ち誇った顔で私を見た。



 私は心の中でケリマのように毒づいた。


「お前の頭がまぶしすぎて、話を聞いていられなかっただけだろう?」と


 久しぶりに少しだけ気分が良くなった。




まだまだ全力を見せていないロマッリとケリマが錬金術師を紹介してくれるようです。


次話はエドガーの治療と、ついに話の流れが変わる告白をバイオレットが行います


※ブクマありがとうございます

読んでくれる人がいるのを実感できてうれしい

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