城塞都市での爆破とジェットブースターの可能性
城塞都市ワイアルハット。元は小さな外壁に取り囲まれた小さな町だった。
今や、王都に並ぶ職人街と大店が軒を連ねる商人街がある。
さらには、王国一の穀物倉庫を持ち、王都にもその多くを売却している。
祖父そしてモーリスが長年に渡ってこの地に心血を注いだ結果であった。
残念ながら今は、ミラージェス家のテオバルドが治めている。
兄が祖父からヒッチクリフを受け継いで、数年で領主の立場を失ったせいで。
城塞都市と呼ばれるようになったのは、町の防御も生まれ変わったからだ。
巨大な外壁が張られ、広大な外堀りを作成し、最後に川から水を引いた。
外堀りと門の間には美しい石橋が掛けられ、その下には船が行き交っている。
外壁には水路用の門も用意され、外堀から多くの船が出入りをしている。
「あの水路と外堀りをつなぐのが厄介でしてな。そして、川の氾濫がワイアルハットの水路に影響を及ぼさないよう運河を作ったり、堤防を工夫してみたり、それはもう難題だらけでございました」
モーリスが目を細めて水路用の門を見つめた。
モーリスと祖父はきっといくつもの難題に立ち向かったのだろう。
それを乗り越えてワイアルハットを王国有数の都市にまで押し上げた。
このことは、二人の人生の中で誇るべき偉業の一つと言っても過言ではない。
「モーリス。本当にいいのですか?私の計画は既に達成されているのですよ?」
「お嬢様が、公爵夫人やその弟テオバルドへの恨みを晴らしたいだけ、そう申されるのなら私も悩むところですな。ヒッチクリフの領民に恨みはありますが、ここはジェラード様との思い出の地でもありますから」
モーリスは祖父に絶対の忠誠を誓っている。
ワイアルハットには私の知らない二人の思いが詰まっているのだ。
今までのように領民への怒りだけでは手伝ってくれない。
モーリスはあのおとぎ話、いや、建国会議には参加していませんでしたね。
笑われてしまうかもしれませんが、彼にも私の目的を聞く権利はあるはずです。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
城塞都市ワイアルハットへの侵入は実に簡単だった。
ロマッリが輸送船に賄賂を渡して荷物に紛れて乗せてもらったからだ。
ミラージェス家の許可印が押された輸送船だったので、検査は免除された。
今は、ロマッリが帰りの船を捜して、ケリマは下見に向かった所だ。
ジーンとモーリスの部下は、外堀付近に馬車を止めて待機している。
「モーリス、笑わないで私の話を聞いてくれますか?」
「もちろんでございます。お嬢様」
「私とエドガーは、コフィの”ダンジョンホード”終了後に兄とカサンドラを糾弾する声明を出すつもりでおります」
「確かに、お嬢様の幽閉やエドガー様の教会送りは不自然でございました……」
私たちの幽閉の不当性は、元使用人たちが各地を回って説明してくれていた。
「当初は、隣国の伯爵である伯父様を頼る案もありましたが、私の意志を無視した王子との婚約やカサンドラの謀略により、それは不可能になりました」
「なるほど。私も今や脱獄犯ですし、親戚など頼れませんな」
「そこで、最近までハーディング領であったコフィを所領とするつもりです。そして、近隣の2カ国に今後の”ダンジョンホード”阻止を確約します。同時に我らの正当性を説いて協力を要請します」
私の話を聞いてモーリスが大笑いを始めた。
さすがに大風呂敷を広げすぎてしまったのかも知れません……。
「いえ、失礼いたしました。ジェラード様はよく変わり者と言われておりましたが、お嬢様には敵いませんな」
モーリスは突然真剣な表情を浮かべて私を見つめた
「近隣2カ国に対しては、既に”ダンジョンホード”を半減させたようなものです。テオバルドが我らの策に気付かねば半数、いやロマッリたちがおびき寄せましたからそれ以上がヒッチクリフを襲うでしょう」
なるほど。
私たちは近隣2カ国にとっては、既に有益な存在かもしれない。
「できれば”ダンジョンホード”前にニュエルソーン王国と森の民ボルスタへ使者を送るべきでしょうな。暗に功績を知らせておくのです」
あくまで私たちの関与を匂わせる?。
確かに、ヴェルシナーク王国視点だと自国領にモンスターを増やすだけだ。
お家騒動とはいえ、反逆者を公言するようなモノだ。
「ただ、お嬢様は本当に隣国の協力を得られるとお考えなのですか?」
「もちろん物資や資金、それに援軍などは期待しておりません。私にとって最も重要なのは、ヴェルシナーク王国軍が兄やカサンドラの味方をしないことなのです」
モーリスは私を見て大きく頷いた。
「お家騒動の発端は公爵夫婦にあるのだからヴェルシナークの王家は口出しすべきではない、そう口添えしてくれる味方が欲しいのですね?」
その通り。
圧倒的に不利な我々に味方が少ないのは当然である。
問題はこれ以上、敵が増えることだ。
「テオバルドが守るべきヒッチクリフを蹂躙されたとあれば、それを任せた姉のカサンドラ公爵夫人の責任を問えますな。彼らに公爵領を治める器量などない、と?」
「彼らの責任を問えるかどうかまではわかりません。ただ、彼らはしばらくの間、ヒッチクリフの建て直しに追われることになるでしょう」
とにかく時間を稼ぎたい。
コフィの放棄された村や町を建て直せるかどうかはわからない。
だからといって、ヒッチクリフのテオバルドを放置することはできない。
コフィを所領として宣言した直後にヒッチクリフから攻められたら終わりだ。
”ダンジョンホード”で大きく兵力を削りたい。
そして、ヒッチクリフの建て直しという課題も残せれば状況は変わる。
精神を病んだバイオレットと”落とし子”エドガーの悲しい反乱。
モンスターまみれのコフィを所領と宣言する狂気の姉弟。
そんな二人を討つために兵を派遣することもまた、異常な行動だ。
テオバルドやカサンドラにはもっと優先すべきことが山積みになるのだから。
カサンドラが植えつけた私達の印象は、とことん利用してさしあげますとも。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
「私は喜んでお嬢様に協力させて頂きます。ただ、ひとつだけ条件が」
「あなたは既に我らの建設大臣候補になっていますが、なんでしょうか?」
私の言葉を聞いてモーリスは再び大きな笑い声を上げた。
建国会議でエドガーの承認は受けている。
伯爵の地位とか、そんなのは置いておきますけど……。
「身に余る栄誉です。残り少ない人生でしょうが、バイオレット様に生涯お仕えすることをお誓い申し上げます」
モーリスは私の前に跪いた。
「ありがとうございます。モーリス。あなたが今後も力を貸してくれるなら私たちの未来は明るいモノになるでしょう」
私はモーリスの手を取って立たせた。
正しい儀式などは知らないが、モーリスを迎えられたのはうれしい。
「ならばさっそく行動に移りましょうぞ。テオバルドの失態をできるだけ増やしておきたいですからな!私は爆破すべき船着場の場所に印をつけて参ります」
モーリスは爆破という言葉を口にして頬を赤らめた。
余計なモノまで爆破するよう言ってこなければいいのですけど。
「バイオレット様。全ての船着場を破壊しませんか?堤防の破壊も可能ですぞ!」
「ダメです!!絶対ダメですからね!」
やはり根は攻撃的なお爺さんだ。
堤防の破壊なんかしたら大勢の町人が溺死するでしょうに……。
「小娘女王!私はだいたいの目星をつけておいたぞ?決行までに町を散策していいか?」
ケリマが私の背後から声を掛けてきた。
もしかしたら、少し前からいたのかもしれない。
「ロマッリさんはなにも言わなかったのですか?」
「あいつは船の改造に忙しいから放っておいた。凝り性だから終わらないぞ」
「改造もしてるんですか?」
嫌な予感しかしない。
今回のロマッリの役割は賄賂を使って水路の門を閉じさせないこと。
それと脱出時の船の操作だったはずだ。
「決行は深夜前ですよね?一緒にご飯食べましょうよ」
「は?なんで?」
「なんでって……。商人街に食堂がたくさんあるそうですよ?」
「宿無しの飯屋か?それなら行ってやってもいいな」
ケリマの機嫌が少しよくなったように見えた。
私が抱きついてからかなり冷たくなった。
私の顔を見て「くそ!油断した!」と一日に何度も悔しそうな顔をする。
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「リスとかウサギの脳みそとか、そういうのが食いたくなるよな?」
「えっ?あ、はい」
ケリマにはこの辺りの食事が口に合わないようだ。
「ケリマは準備万端みたいですけど、印などをつけたのですか?」
「油は塗っておいたが、全部憶えるだろ普通?」
そういうものなのか……。
私が爆破する穀物倉庫周辺をかく乱するのがケリマの役目だ。
開始の合図もしてくれる。
「心配するな。船着場周辺だけでことが片付く簡単な仕事だ」
「簡単ですか?討伐隊が編成された分、衛兵は減っているようですが」
「ん?敵の野営地に入って馬全部殺してこい、とか言われてないだろ?」
それは無茶な命令ですね……。
大騒ぎになるじゃないですか。
「できるだけこの前みたいに肩を刺していくから、文句は言うなよ?」
「もちろんです!ケリマさんは怪我しないように気をつけてください」
「フッ。お前は派手に吹っ飛ばされて、私たちを笑わせてくれよ」
笑い事ではないかもしれない。
私は吹っ飛ぶはずだ。
軽く穴を掘れる場所もない。石畳だらけだ。
「じゃあな。警鐘じゃなくて火の手が上がったら動き出せよ?」
「了解です!」
私はケリマに親指を突き出した。
夜中だというのに水路の門が不自然に開いている。
金持ちロマッリは上手く金を渡したようだ。
「バイオレット様。私はそろそろロマッリの船で待機いたします」
「わかりました。脱出時にまた会いましょう」
私もそろそろ準備をするべきだ。
今回の作戦はケリマの負担が重い。
迷惑はかけられないのだ。
不思議と不安を感じないのは、あの二人がいるからなのでしょうか?
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城塞都市ワイアルハットの船着場から少し離れた場所に巨大な倉庫がある。
穀物倉庫、農作物の倉庫、鉱石や木材などの倉庫だ。
ここの倉庫は一時的な保管所であるが、管理がずさんだとそうはいかない。
テオバルドは自分の所領にミラージェス家のお抱え商人を大量に連れてきた。
地元の商人との対立が起き、荷運びの人足たちにも混乱をもたらしてしまった。
倉庫の外にまで色々な荷物が放置されている。
さらに、お抱え商人たちは、ここの倉庫を所有物のように扱っている。
自らが所有する倉庫へ移動すると輸送費も管理費もかかる。
再び水路を利用して輸送する商品は、わざわざ移動させたくないのだろう。
そんな事情があるせいで、穀物倉庫は満杯である。
ここの穀物は、王都や”ダンジョンホード”の守備兵に送られる物も含んでいる。
その上、倉庫の外にも溢れて放置されている。
これじゃ、私に爆弾を置いてくれといっているようなものでしょ?
―――カン!カン!カン!カン!
警鐘が鳴った。
ケリマが倉庫の番兵の詰め所に火を放ったということだ。
―――ヒュン! ボッ ヒュン! ボワッ
ケリマがスリングを使って火に包まれた丸石を投げた音だ。
油を染み込ませた布にで包まれた丸石が火災を発生させる。
火災現場は監視等や向かいの倉庫などで、そこにも油が塗ってある。
木造の屋根や建物は勢いよく燃え上がる。
石壁や石畳は燃えるはずはないが、塗った油によって少しだけ火がつく。
混乱させることが目的なので火事は不要だ。
向かいの倉庫は放置された荷物に火がついて燃え上がっている。
木材などもその辺に立てかけてあるから、きっと大火災になる!
最悪だ!そんなの計画してない!
頑丈そうな石造りの円柱の建物の前に私は歩を進めていた。
町の穀物倉庫の3倍以上はありそうな高さだ。
その巨大な円柱の建物は4つある。ヒッチクリフ中の穀物が詰まっている。
私が破壊するのはその内の二つになる。
ケリマがそこら中に火を放ったり、ナイフで人を刺している間に爆破する。
ぜんぶ破壊する必要はない。後に押し寄せる難民が食い尽くす予定だ。
< バンドルマイト 極大 >
私は手っ取り早く巨大なバンドルマイトを出した。
素早さがだい……大事だ。
まずい……。一気に魔力を込めてしまったせいで、ひどいめまいに襲われた。
時間短縮を狙ったはずが、膝から崩れて地面に両手をついている。
体内に残る魔力には余裕があるものの、これを使うのは危険だ。
めまいの治まった私は極大のバンドルマイトを……。
転がす。
持てないサイズだ。間違いなく調整に失敗している。
極大の威力がわからないので、破壊しない穀物倉庫からは遠ざける。
破壊する予定の穀物倉庫の中心の位置にくるようにも調整する。
若干長めになった導火線に指を触れて点火だ。
―――ヒゥシュゥジジ
点火を終えたら慌てて駆け出す。走れてはないだろうけど。
倉庫の周辺は壁で囲まれている。
とりあえず、倉庫から離れて壁を背にできれば爆風も届かないだろう。
私は倉庫から離れて壁を背にして歩くことに成功した。
次は船着場の爆破に取り掛からなければならない。
テンション高めのモーリスがたくさん印をつけてなければいいけど……。
―――ボォォォーン!! ドガガガァァァアアアアアァァン!!!!!
あれ?
二回音がした?
あっ、まぶしい……。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
……。
……。
うーん。
頭がズキズキしますねぇ。
「おい!ねーちゃん、大丈夫か!?」
「はい。ありがとう……」
樽人間と呼ばれていない!?
爆発音を聞いて駆けつけた衛兵に声をかけられたようだ。
私のブヨブヨ甲冑は解除されていた。
「なにが起こったのですか?」
「わからねえ。倉庫が一気に吹き飛んだんだ。あれか?爆発樽の仕業か?」
船着場の倉庫があった方向からすごい煙が上がっている。
私は船着場のすぐ側まで飛ばされていた……。
水路まで吹き飛ばされていたら溺れていたかもしれない。
ケリマは!?
いえ、ケリマを信じます。
私は、船着場の印を破壊しないと。
< バンドルマイト 2つ >
船着場の階段の下に身を隠して無言詠唱をした。
「おい!あれ見ろ!」
「なんだあれ?アレが樽のヤツか!?」
私を見つけた衛兵や爆発で集まってきた船頭たちが騒ぎ始める。
「これですね」
船着場の石畳に小さな印がしてあった。
モーリス男爵家のエンブレムが書いてある。
細かい上に吹き飛ばさないと犯人のサインが……。
―――ヒシュゥジジ
―――シュワゥジジ
爆弾を2つまとめて点火する。
まず一箇所。
予定ではあと二箇所だったはず。
穀物倉庫とその周囲を吹き飛ばしてしまったから、もう終わりにすべき?
まだ頭痛がしていて、判断力が鈍ってしまったようです。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
「おーい!こっちに逃げたぞ!」
「絶対に逃がすな!」
残りの2箇所を破壊した私はフラつきながら階段下を目指していた。
―――ジジジジジ バーーン!
「ちくしょう!近寄れねー」
私は後方に極小の爆弾を投げながら逃走していた。
魔力にはまだ余裕があるが、頭痛で歩みが遅くなる。
< バンドルマイト・解除 >
ようやく階段の下に隠れてバンドルマイトを解除できた。
「あっちだ!あそこの下だ!」
対面の水路にいる衛兵が樽人間を追っていたようだ。
解除はしたものの人が集まってくれば、私は捕まるだろう。
私は階段下から移動して夜空が見えたのを確認した。
そして付近の壁に手をつく。
< ジェットブースター >
壁についた手に力を込めて重みに耐える。
< ブースト・オン・弱 >
―――ボォーッー!ボッ、ボッ
私は軽く浮上したまま水路の上を漂った。
そして水路の作りから水門の位置を特定する。
「おい!あれだ!知ってるぞ俺は!」
「飛行魔法だ!初めて見た!」
衛兵たちが騒ぎ出しましたね。
一気に飛び立ちます。
< ブースト・オン>
―――ブォォオオーオオーー!!
「ケツからファイアだ!」
「ケツからファイアのバイオレット公爵令嬢様!」
ん?
なんの幻聴でしょうか?
きっと頭を打ったせいですね。
水門から少し離れたところで停泊するボートを見つけた。
ロマッリが用意したボートだ。
「よおし!よく戻った小娘女王!」
ロマッリが大喜びで私を迎えた。
「ケリマは?」
「お前を探しに行ったぞ。飛んでるお前に追いつけなかったんだろう」
なるほど。
ではジェットブースターを解除してもよいですね。
「おいおい、気の抜けた顔をするなぁ?辛そうなところ悪いんだが、もう一働きしてもらわねばならん」
「私はもう頭が痛くて」
「そういうな!頼むっ!お前にしかできんのだ」
ロマッリが私を見て拝んでいる……。
そして私を抱えて船尾に連れて行っている……。
―――ジャラジャラジャラジャラ
「おい貴様!なぜバイオレット様を巻きつけている!?」
「黙って見てろ老いぼれ男爵。これは世紀の発明だぞ!」
船尾に取り付けた長い棒の先に私はくくりつけられた。
また縛られてる……。
「あの溺れそうなんですけれども?」
「安心しろ!嫌でもお前は浮き上がる」
浮き上がるのかぁ……。
「ケリマ遅いぞ!お前、大事なところを見逃したぞ」
「くそお!小娘女王が早すぎて追いつけなかったんだ!」
「私になにをさせるつもりなんですか?」
ロマッリとケリマは満面の笑みで私を見た。
「ケツからファイアーボートだ!史上最速だぞ」
ケツからファイアって……、なに???
モーリス男爵が正式に仲間に加わりました。
想定以上の破壊活動をして城塞都市の脱出準備が整いました。
次話 ワイアルハット脱出と隣国への使者選別になる予定です
次話予告詐欺にならないように最後まで書いたら、7000文字超え……。
※ブックマークありがとうございました!
10万字超えたので、とりあえずブクマの人が増えたのかもしれません。
もちろん、1話以上読んでくれる人がいるのは、大変ありがたいことです。




