バイオレット vs 村人たち
最初の村での爆破はやりすぎたらしい。
村長宅どころか周辺の家も半壊させたり、燃えた破片で火事になったり……。
だがモーリスは大喜びだった「よくやってくださいました!」と褒められた。
鉱山周辺の村には豪華な村長の邸宅が多いようだ。
鉱山事業にも成功した祖父とモーリスは、北部の開拓事業で平民を募集した。
力仕事を担当する開拓民と、広大な農地候補を購入できる地主候補だ。
地主候補は資金力のある商人が応募するのが普通だ。
しかし、鉱山周辺は鉱夫の親方たちが名乗りを上げた。
当時はまだ発覚していなかった、魔力の結晶で荒稼ぎをした連中である。
犯罪まがいの金儲けに未来はないと見抜いていた連中ともいえる。
彼らは罰せられる前に、地主となって腰を落ち着けた。
そして、村長の座について自分の行いを自慢して回っている。
「できれば、贅沢をした地主の家族の家も爆破できませんか?」
モーリスは私が思っていたよりずっと攻撃的な性格をしていた……。
村ごと爆破しても私を称えそうな気がする。
後ろで首を振っているジーンの意見に従うべきだ。
「中には商人から地主になったものもいるでしょう。手当たり次第爆破して回るのはいけませんよ?」
「そ、そうですな……」
モーリスはすごく残念な顔をして下を向いた。
もしかしてヒッチクリフの農民も不正が絶えなかったのだろうか?
「東へ人々を追い立てるように村を脅かして回るには、どのようなルートを選ぶべきですか?」
「ここから南東に進んで2つの村を襲います。そして北へ進み3つの村を再起不能に。再び南東へ進んで2つの村を更地に。最後は北東に進んで2つの村を村人もろとも爆破。これでどうでしょうか?」
「あ、はい……」
積年の恨みというのは恐ろしいのですね。
私はここまでの恨みに取り憑かれないように生きていきたいです……。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
「鬼っ!」
2番目の村で村長宅を爆破したときに、村人にかけられた言葉だ。
「悪魔!」
3番目の村の領主宅と村長宅そして集会所を爆破したときに言われた。
「人殺し!」
4番目の村では私は誤解を受けていた。まだ殺人犯ではない。
「お嬢様。大変です!お姿に変化が」
「どこか違いますか?」
ジーンが慌てた様子で私のブヨブヨ甲冑を指差した。
相変わらずブヨブヨしたままだ。
「よだれかけが、消えてしまいました!」
「プロテクターです……」
エプロンのような大きなプロテクターが消滅していた。
腕やスネの辺りを覆っていたプロテクターもなくなっている。
「爆弾を投げる前にはありましたか?」
「そのはずです。魔力の限界なのでは?」
そうなのかもしれない……。
バンドルマイトで爆弾を作りすぎたのだろう。
15、いや16個ほど爆弾を投げた気がする。
「本日の爆破作業はここまでですな。なあに村は逃げません。明日またドンドン爆破すればよいのです!」
「そうですね。近くで休ませていただきます」
モーリスが妙に頼もしい。
部下たちと興奮気味に爆破の様子を語り合っている。
坑道で過酷な日々を過ごした部下たちも、今は別人のように明るい。
翌日、次の村に到着したときには人影がなかった。
「広場にも誰もいないようですねぇ……」
「既に避難したのでしょうか?隠れている様子もありません」
「では5番目の村は、このままということで!」
気が楽になった私は、村を去ろうと踵を返した。
「お嬢様、いけませんぞ。もしかしたら避難を装って周辺に隠れているだけかも知れません」
「ですが……」
「確かに何事もなくここを後にできるのが一番です。しかし、村人が戻ってきた場合、”ダンジョンホード”の被害に遭うのは彼らなのです」
モーリスとジーンが私を思い留まらせた。
この村には大きめな穀物倉庫があった。
これを爆破するのは心苦しい……。
「モーリス。部下たちに命じてください。穀物倉庫の種モミだけは運び出すようにと。残りは爆破します!」
「かしこまりました。穀物を10キロほど馬車に積みますが、それはご了承ください」
「わかりました……」
我々は盗人になるのか?
いや、そんなレベルの犯罪じゃない。
ヒッチクリフをモンスターに襲撃させるのが目的なのだ。
―――ズウゥウーーーン!!
村人たちの努力の結晶を、私は一瞬で吹き飛ばした。
「穀物倉庫の次は村長宅ですね」
「はい。村の外れにある建物も吹き飛ばしましょう」
「なにがあるのですか?」
「密造所でございます。立派な酒屋がありますので、おそらくそこの建物かと」
モーリスは私のストレスを感じて、気を使ってくれているのだろうか?
正直に言うと、あまりうれしくない心遣いだ。
爆破で気が晴れる性格ではないのですが……。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
6番目の村。ここの村人を追い払えば、あと4つの村を爆破して回ればよい。
そう考えていたが、甘かったようだ。
この村の広場には大勢の村人が集まっていた。
「待っていたぞ樽人間モンスター!今度こそお前を倒す!」
スタングレネードを食らって泣きながら去って行ったあの小作人がいた。
「さすが俺たちのターちゃんだ!」
「やっちまえター坊!」
「頼んだぞ!ターすけ!」
ちょっと遠巻きから見ている村人たちは大騒ぎだ。
きっと近隣の村から逃げてきた人々が集まっているのだろう。
「覚悟は……できてんだろうなぁ!」
ターちゃんはイチイチ人差し指をこちらに向けてポーズを取っている。
そして、また歓声が上がる。
まるで一対一の決闘が始まる雰囲気だが、まったく違う。
「俺たち小作人の次男40人、さらに他の村から集まった色んな次男30人。そして三男25人、お前を肉の塊に変えてやる!」
そっすか……。
ターちゃんの周りにはボロを着た青年や子供たちが大勢集まっていた。
みんな農具や棒を持っている。
口減らし、というヤツでしょうか?
たぶん長男は一人たりともいないのでしょう。
もちろん、女の子もいない。
「いくぞぉぉぉ!!」
ターちゃんの掛け声で一斉に次男やら三男が私に襲いかかってくる。
『そいつをあまり調子乗って使うなよ?相手が失明するかもしれん』
スタングレネードを4発まとめて食らったロマッリが言っていた。
できることなら小作人相手に大量に使用したくはない。
そして、困ったことに小作人の三男たちに子供が混じっている。
私にはプランがあった。
1.先頭を走るターちゃんにスタングレネードを炸裂させる。
2.そして、ひるんだ隙にターちゃんをボコボコにする。
3.さらに、顔の形が変わるぐらいボコボコにする。
4.子供たちが恐怖で逃げ出す。
5.スタングレネードを撒き散らす。
6.残りの男たちをボコボコにする。
だが、失敗だ!
ターちゃん、すっごく足遅い……。
むしろ先頭を走るのは子供たちだ。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
「死ね!樽おばけ!」
「くらえ!緑熊!」
私は子供たちの飛び蹴りを食らってフラフラになった。
「押し倒せ!転がして踏みつけろ!」
後ろの方を走っている鈍足ターちゃんが偉そうに指示をする。
「押せ押せ!」
「足引っ掛けろ!」
子供たちに私は転がされてしまった。
「おらぁ!やっちまえ!村長の仇だ!」
遠くで揉みくちゃにされているターちゃんが叫ぶ。
たぶん村長は生きている。
―――ズザァーーー!ゴロゴロゴロゴロ
せっかく坑道から出たのに、また転がされている。
だが散々転がされたおかげで、目が回ることはない。
もうこのまま身を委ねた方がよいのだろうか?
< サプレッサ・ライオット >を使う?
暴徒鎮圧の達人『ポリッセ』と『エスワッティー』の力を借りれば楽勝だ。
だが、服装が真っ黒すぎる。衛兵すら漆黒の悪魔と私を呼んだ。
私が悩んでいる間に、村の樽転がし祭りが始まっていた。
一切の抵抗をやめていたので、子供たちが私を転がして遊んでいる。
少しは村人の怒りを鎮められただろうか?
「死んだか?死んだのか?」
「勝ったのか?にーちゃん!やったよ!」
子供たちが動かなくなった私に騙されて喜び始めた。
「お前ら、油断すんじゃねえ!熊は死んだフリするだろう!」
遠くで両手をついて苦しそうに息をする虚弱なターちゃんが叫ぶ。
もうターちゃんは静かに深呼吸をしていた方がいいと思う。
「ターちゃんのいう通りだ!ガキは後ろに下がってろ!」
「ここからは解体作業だ。おめえ達にはまだはええ!」
幸運なことにターちゃんを除く青年が私を取り囲んだ。
そして、鎌やクワを振り上げた。
「悪く思うなよ樽人間……」
「熊と人は、一緒には生きていけねえんだよ!」
なるほど、勉強になります。
< スタングレネード 8つでどうでしょう? >
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
―――パパパバンッバンバン!バパン!
「うわぁー!」
「目がー!」
私が撒き散らしたスタングレネードが青年達の視界を奪った。
音によって耳鳴りも凄そうだ。立っていられない者が多い。
失明していないことを祈ろう。
―――コッ
近くでフラついているタフな青年のアゴに右フックを当ててみた。
しかし、ブヨブヨ甲冑のブヨブヨの篭手ではダメージが足りない。
―――ドウッ!
「ぬをっ!?」
これは相当効いたようだ。
左手で奥襟を掴んでの右アッパーをみぞおちに叩き込むボディーアッパー。
火炎放射兵の服装を着ているときに閃いた技だ。
「ウエロエロエロエロ」
ダメだった……。
これなら「お昼はどんな食事をされましたか?」と聞いて回った方がいい。
拳の底。すなわち鉄槌。
鉄槌を下して回ろう!
―――ガッ!ガッ!ゴッ!ガッ!ゴッ!
地道な作業だが手をついている青年たちの頭に鉄槌を振り下ろし続けた。
少し離れて見ている子供たちの目が恐怖で見開かれている。
だがその程度のトラウマを植えつけることぐらい、もう気にならない。
次男や三男の青年たちが爆発で飛び散るよりはよっぽどいい。
「ふしゅー。ふしゅ、ふしゅー、ふしゅーーー」
村の青年を60人ほど殴りつけただろうか。
疲労困憊の私は肩で息をしていた。
バンドルマイト極小を使ってしまおうかと、何度思ったことか……。
「てめー!本当にゆるさ、オエッ」
ようやく立ち上がったターちゃんの首に腕をぶつけてやった。
ラリアットという未来戦闘術の一つだ。
これで抵抗する村の青年たちは片付いた。
スタングレネード見て小さくなって震えている青年は無視だ。
両膝をついて神に祈りを捧げる青年も相手にしなくていいだろう。
< バンドルマイト 極小 >
「ふしゅー!ふしゅしゅ?ふしゅーーー!」
とどめに子供たちにバンドルマイトの危険性を伝えることにした。
近くに見える物置に狙いを定める。
―――ジジジ パーーン!
「ふしゅ?ふしゅっしゅしゅ?」
「しゅ、しゅしゅしゅ。うええーん!」
私の説明に子供たちは泣きながら走って逃げ出した。
ともかく子供たちの頭を殴らずに済みそうでホッとする。
◇◇☆◇◇★◇◇■◇◇★◇◇☆◇◇
村の広場に戻ると、人っ子一人いなかった。
やはり口減らしでも構わない、ということだったのだろうか?
私もモーリスのように、ヒッチクリフの領民が少し嫌いになってきた。
ここの村長宅も豪華だ。
その隣に質素な領主の館らしき建物がある。
気になるのは村の領主の存在だ。
国王から公爵や伯爵が所領と爵位を賜る。
そして公爵や伯爵もまた騎士や下級貴族の男爵などに所領を預ける。
騎士や下級貴族は村や小さな町を治めているはずなのだ。
なのにヒッチクリフ北部の鉱山周辺の村では領主を見かけていない。
テオバルトがこの辺りの村を直接統治する?
当然、ありえない。居城から離れた村など統治も困難で価値もない。
兄のクリストファーからの引継ぎがうまく行ってないのだろうか?
だとしても不自然だが、罠でないなら騎士がいないのはありがたい。
鬼のいぬまに領主宅、爆破させて頂きます!
―――ドドドォァォオーオオン!!ズズゥゥゥーン!!!
ゴロゴロゴロっと華麗に着地した私にジーンとモーリスが駆け寄って来た。
「今回は村人をぶちのめしてやりましたな!胸がスカっとしましたよ」
「そうですか……、私はちょっと手が痛みます」
小作人にも恨みがありそうなモーリスが笑顔を浮かべた。
「お嬢様。驚くほど体が丈夫になったようですね」
「そうですわね!自分でもびっくりするほど丈夫になりました!」
ジーンの言葉に私のテンションが上がった。
魔法の影響で強くなったのだろうか?
それとも巨大な鉄の箱に押し潰されかけたからだろうか?
『ポリッセ』と『エスワッティー』で番兵をボコボコにしたこともある。
坑道で倒れるまでブヨブヨ甲冑で歩き回り、暴れ、転がされ……。
爆発で空を飛んだり、オオトカゲに「クチャクチャ」されたり……。
思い当たる節がたくさんある気がしてきた。
極めて過酷な旅をこなしているのかもしれない。
こんな私が公爵令嬢を名乗るのを、世の令嬢たちは許してくれるでしょうか?
村を襲撃して強制的な村人大移動を開始しました。
当然、説得という手段は取れません。逆に説得されてしまうでしょう。
次話 村の領主と地雷の話です
村襲撃が長引いてしまったので、いつもの時間にもう1話アップします。
よろしくお願いします
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