プロローグ
この小説はカクヨムでも同時掲載しています。
彼女が死んだ。
交通事故だった。
実際、僕はその瞬間を見てはいないが、きっと無惨で残酷な光景だったのだろう。腕は砕け、在ってはいけない方向にねじ曲がり、内臓は飛び出て、足はタイヤで潰れ、無傷だった頭も地面に打ちつけられ、頭蓋骨も砕けたのだろうか。
どんな情景だったのか。
考えれば考えるほど、自分が落ち着いているということを考えさせられる。
五年間つき合っていた彼女が、ある日突然死んだんだ。
五年だから、単純計算して、中学二年生から今まで六十ヶ月。時間が問題というわけでもないのだが、その時間は確かに長かった。「短い間だったけど」なんて言葉はもちろん当てはまらない。
思い出そうとすれば、彼女との記憶は溢れるぐらい沢山ある。
そして、彼女の笑い方、泣き方、照れ方、怒り方、好きなもの、嫌いなもの、髪の匂い、似合うもの、コンプレックス、全てが僕の中にはあった。記憶があればあるほど、その人との関係は濃く確かなモノへとなっていく。
僕の場合、それは大好きな彼女だった。
友達が死んだとか、そういうのとは訳が違う。
別に「友達が死んだからって一々、悲しむなよ」とか非道い事を言いたいわけじゃない。ただ、“恋人”と“友達”では掛ける想いが違うと言いたいのだ。
そうだろう。
友達と恋人の約束。
アナタならどっちを選ぶ。
たとえ、親友がそれで怒ったとしても、それで怒って責めてくる奴は、恐らく友達ではない。恋人との関係を理解した上で、「なら、しょうがねぇな。また今度な。絶対だぞ」ぐらい言えて、初めて友達なのだろう。少なくとも、僕はそう思う。
葬式は、結構な人数の人が居た。
親族はもちろん、高校のクラスメートまで、僕が見知っている大学の友達まで来ていた。
みんな泣いていた。
葬式の最中にも、小さな嗚咽が響いていた。
道行く人たちは、なんとも言えない、なんと声をかけたらいいか分からない、というような顔で僕を見ていた。
あえて、声をかけない事をみんな選んだのだろう。
もう一度言う。
彼女が死んだ。
五年付き合ってた彼女が死んだ。
それでも僕は、
――僕は泣いてない。