分断
「ではよろしく頼む。何か必要な事があればすぐに言ってほしい」
「ええ、その時は眷族を通してお願いするわ」
学園長達に見送られ、元ディメンションルームへと足を踏み入れた。
クロとギンは外に残し、それ以外の面子でダンジョンを攻略する事に。
ちなみに……
「ふ~ん? 何だか博物館の中みたいだね~」
ご覧の通りお姉ちゃんも一緒よ。
危険(いろんな意味で)なのは分かってるんだけど、何気ない一言がヒントになったりするし、それに期待して連れてきたわ。
「どうします? 取りあえずは階段を登ってみますか?」
「そうね」
まずは所々が錆びついてる粗末な螺旋階段を登ってみる事に。
こうしてみると廃工場のようにも見えて足場に不安が――いや、そもそも未知のダンジョンな時点でとっくに通り越してるか。
「お姉様、地上から約30メートル地点ですが、特に変わったところは見られません」
「そうねぇ。同じような背景が続くだけで特に変化は――ってお姉ちゃん、何してんの?」
「同じ光景ばかりでつまんないから~、落書きでもして面白くしようかな~って」
アイテムボックスから取り出したであろう赤い油性ペンで、鉄柱に何やら描き出した。
「は~い、ギンちゃんのかんせ~い♪」
いや、どう見てもこれ、キツネの顔じゃないかと……。
「ブァッハハハハ! こいつぁいいや、ギンがキツネになってやがる!」
「ホンマや! アイナはん、才能あるで!」
「うぅむ、これが芸術というものなので御座るか……」
「ありがと~♪」
いや、アンタら……ギンが知ったらショックを受けるから、ここだけにしときなさい。
「お姉ちゃん、落書きはいいから先に進みましょ」
それから更に上へと進み、地上から100メートルほどの高さまで上ってきた。
暗いのもあって肉眼では地上を視認できないくらいよ。
「しっかし何もないのぅ。退屈すぎて眠くなってくるわぃ」
「だなぁ。どうせなら向こうから仕掛けてこいってんだ。そうすりゃ返り討ちにしてやるのによぉ……」
脳筋二人の言う事はもっともね。
逆に言えば自分のテリトリーで待ち構えてるんだから、油断するわけにはいかない。
「あ、見てください~、あんなところにギンちゃんの顔が見えます~♪」
「ギンの顔?」
セレンが更に上を指して知らせてきた。
近付いてみると、まさしくそれは――
「お姉ちゃんの落書きね」
「そのようです。やはり一定間隔でループしてるのは確実で、およそ100メートル間隔で繰り返すのでしょう」
「じゃあここから引き返せば――」
そう思い階段を下りてみると……
「すぐに着いたわね」
「はい。30メートルくらいでした」
さて、ここからが問題よ。
実際に上ってみた感じ、違和感となるものはなかった。ダンジョンなら必ず正解があるはずで、どこかに抜け道のようなのがなければならない。ダンジョンの構造上ダンジョンコアまでの道を完全に遮断はできないから。
ペタペタペタ……
「お姉ちゃん、今度は何?」
「この真ん中の柱って大きいでしょ~? 中はどうなってるのかな~って」
「…………」
言われてみれば気になるわね。
他に怪しい場所はないし、どこかに隠し扉があったりとか――
シュン!
「……え?」
「ア、アイナお姉様!」
お姉ちゃんが目の前で消えた!?
「多分触れたら転移する仕掛けが施されてたのよ!」
マズイわ、お姉ちゃん一人で魔物に遭遇したら無事じゃすまない!
「お姉様、確かこの辺りを触れていたはずです!」
眷族達にも協力してもらい、お姉ちゃんが消えた辺りをくまなく触れてみる。
するとまたしても――
シュシュン!
「お姉様、アンジェラとモフモフが!」
「分かってる!」
ただ触るだけじゃなく、触れた順番にも影響されるんだわ。
「そうです、お姉様! ドローンの映像を再生すれば、手順が分かるかと!」
「ナイスよアイカ!」
さっそく消えた三人の動きをチェックする。
すると共通点となる動きをした後に、同じように消えた事が判明した。
「みんな、合わせて!」
映像を見ながら同じ動きを再現し、それを完了したタイミングで――
シュシュシュシュシュン!
私を含む全員がその場から転移した。
★★★★★
――で、転移した先はというと、六畳間ほどの真っ暗な部屋で天井は青白く光っている神秘的な場所よ。
言うなれば……そうね、プラネタリウムのようにも見えるわね。
「どう思うアイカ?」
あ、あれ? もしかして……
「私一人!?」
これは本格的にマズイわ。私一人って事は他も個別に転移した可能性が高い。
つまりお姉ちゃんも転移先で一人になっていると考えられる。
『お姉ちゃん、大丈夫? お姉ちゃん?』
クッ、まさか念話が遮断されてる!?
『アイカ聴こえる? アンジェラ? モフモフ? この際ならホークでもいいわ、誰でもいいから応答して!』
ダメね。眷族全員に伝わるように発信したのに誰も応答しないって事は、各々で完全に孤立したっぽい。
「やってくれるわね、ガルドーラ……」
イラッときたけどそれどころじゃない。
まずはここから脱出して、皆と合流するのを優先しなきゃ!
「まずは……」
部屋の四隅を調べてみた。
壁を手で触りながら隅々まで歩いてみたものの、扉らしきものは無し。
どこかに出口があればと思ったんだけど、そう上手くはいかないか。
「床は――」
コツコツ……
「特におかしな場所はなし……か。あとは天井ね」
よく見ると12個のパネルに分かれていて、それぞれが違う天体のようなものが写されている。
もしかして星座を当てろとか?
いや、どう見ても星座に見えない形も含まれてるから違うか。
でも他に怪しいところはないし、テキトーに触って――
ブゥン!
「しまった!」
左上のパネルに触れた瞬間、再び視界が暗転した。またどこかに飛ばされたらしい。
「――って、同じ場所?」
視界に写るのはさっきと全く同じ部屋で、プラネタリウムのような天井もそのままに――いや、違う!
さっきの部屋では左上――つまり角のパネルに触れたんだけど、そこにあった天体は正三角形だった。
なのにこの部屋の角には正三角形にあたるものが見当たらない。つまり同じ部屋がいくつも有ると考えるべきね。
「こうなったら……」
テキトーに触りまくってみる。これっきゃないわ!
ブゥン! ブゥン! ブゥン!
「まだまだ!」
ブゥンブゥンブゥンブゥン!
「もっともっと!」
ブゥンブゥンブゥンブゥンブゥンブゥン!
「もう一丁!」
ブゥンブゥンブゥンブゥン! ゴチン!
「いったぁぁぁい!」
「イタタタタタ!」
「いったいどこ見てるよの――」
「いったいどこ見てるんですか――」
「「アイカ(脳筋お姉様)!」」
「――って、アイカ!?」
「ほ、本物のお姉様ですか?」
上手い具合にアイカと合流できた。
これだけテキトーにやっても中々合流しなかった事を考えると、部屋の数は三桁以上はあるのかも。
「ご無事で何よりです、お姉様」
「まぁね。アイカは誰かに――って、会ってれば一緒にいるわよね」
「はい。わたくしなりに目印を付けつつ移動してましたが、会ったのはお姉様だけです」
似たような部屋に移動すると気付いたアイカは、一度きた部屋のパネルに分かりやすい目印をつけ始めたのだとか。
どんな印かというと……
「何でよりによってキツネの顔なの?」
「ギンに謝ってくださいお姉様。それにこれを描いておく事で、わたくし達の誰かがその部屋に転移したと一発で分かるのです。この際ギンには晒し者になっていただきましょう」
「いや、アイカこそギンに謝んなさいよ……」
利に叶った方法なのは確かだけどね。
ギンの顔をパネルに描き、そのパネルに触れて移動する。
偶然見つけた眷族は、ギンの顔をたどれば私達と合流できるって訳よ。
まぁこれはこれとして、一つ重要な事を思い出したわ。
「アンタさっき、私の事を脳筋って言わなかった?」
「……気のせいじゃないですか?」
「…………」
「…………」
「返答までに間があり――ギルティ!」
「ちょ、お待ちくださいお姉――」
「やかましい!」
ドッタンバッタンドッタン!
「このこの! この口が悪いのか!」
「わりゅふないれふ! ほれにほんなほほをあっへるははいへはないのれは?」
「よく聞こえないけど黙りなさ――」
ブゥン!
「む? 二人とも、この非常時にジャレ合ってる場合では御座らぬぞ?」
「「あ……」」
どうにかザードとも合流できた。
このままいけば、他のみんなとも合流できるかな?




