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未知のダンジョン攻略

「「「ダンジョン(だと)!?」」」

「ええ。見事なまでに」


 驚く教師陣を尻目にディメンションルームへと向き直る。

 クロコゲ虫の視点だと、イグリーシアのものとは思えない巨大な塔の中だった。

 壁なんかはあれよ、まるで宇宙船の中みないに鉄製のものが貼り付けられてて、コンサートホールくらいの広さのまま何百メートルあるのか分からない高さが続いてるみたい。


「まさかこの学園にダンジョンができてしまうとは……」

「それは違うわカーネル先生。ここは()()()()()()()()()()のよ」

「なんと!?」


 気付いたのはついさっきだけどね。


「す、すまないアイリ君。そ、その……今の話は本当なのかね?」

「学園長、こんな時に嘘はつかないわよ」


 そもそもおかしいとは思ってた。

 死んだら部屋の外に出されるだけ――そんな都合のいい場所が自然発生するはずがない。

 可能性があるとすれば、効率良くDP(ダンジョンポイント)を稼ぐために()()()()()()という利用価値の高い()を撒いた。それ以外にないと思う。


「恐らくだけど、セーフティゾーンを応用したのがディメンションルームなのよ」

「……というと?」


 ダンジョンの一部に存在するセーフティゾーン。一般的にはここでは魔物が涌かないとして知れ渡っているけれど、実際は少し違う。

 魔物が涌かないというのは設定の一つでしかなく、例えば魔力が消耗しないとか、体力が減らないとかに設定できたりもするのよ。


「つまりここのダンマスは、セーフティゾーンでは死なないという設定にしてただけで、ここを利用されるたびにDPが手に入る仕組みを構築してたって事です」

「うぅむ……(しゃく)な話だが、これまでダンマスの掌で踊らせれてたというのだな」

「それもかなり前からね。ここまで周到に仕掛けられる人物は限られてます。そして学園長の目を掻い潜れるほどの存在――」


 詳しい目的は分からない。

 でも学園ができる前から存在していたのなら、建国した人物が関わってる可能性が高くなる。

 恐らく、ダンマスの正体は――


「ガルドーラ」

「「「ガルドーラ!?」」」


 奴は自分がこの国を建国したと言っていた。

 裏で暗躍してたのも事実だし、それでいてダンマスという条件に当てはまるのはガルドーラしかいないのよ。


「ヘェーィ、アイリ。ガルドーラはユーが倒したんじゃないのかーーーぃ?」

「正しくはダンノーラのヨイチって奴に殺られたはずなんですけどね。でも……」


 よく考えたら、ヨイチの衝動的な動きでガルドーラが死ぬという流れが不自然なのよ。

 むしろ(あらかじ)め決められた通りに動いたと言った方がしっくりくる。

 ヴォルビクス侯爵の暗殺を手引きしたのもガルドーラで、ドーラを壊したのもガルドーラ。

 そしてダンノーラ帝国――いや、千石をけしかけたのもガルドーラなら全てが繋がるわ。


「奴は生きている!」


 これは間違いなく断言できる。

 そうでなければ神隠しよ。


「しかしそうなると、もはや我々の手には負えません。……アイリさん」

「分かってます、フローリア先生。ここまで来たら、全力で叩きのめしてやります」


 元々は向こうから売ってきた喧嘩よ。

 私の平穏な学園生活を脅かす輩は、誰であろうと容赦はしないわ。


 ――って事で、再度クロコゲ虫の視点を確認してみる。

 塔の中央に螺旋(らせん)階段つきの鉄柱があって、現在鉄柱を伝って上へ上へと進んでる最中よ。


『お姉様、魔物や罠の類いは見当たりませんし、ドローンも突入させたいと思います』

『そうね、お願いするわ』


 クロコゲ虫が平気なら問題ないと考え、アイカの操作するドローンが内部に突入した。

 するとあっという間にクロコゲ虫を抜き去り、グングン真上に進んでいく。


『どうせならアイナ殿も入ってみてはどうかの?』

『何言ってんのよアンジェラ。そんな危険な事できるわけないじゃない』

『どうだかの。結界をアッサリと破壊したくらいじゃ。もうアイナ殿だけで充分じゃろ』


 あ~なるほど。このいかにも面白くなさそうな態度。出番が取られたみたいで()ねてるのね。


『そんなに拗ねなくても出番は有るわよ』

『な!? べ、別に妾は拗ねてなど――』

『その反応は認めてるようなもんスよ?』

『むぐ!? クロのくせに余計な事を――』

『へへっ、語るに落ちたなアンジェラ?』

『ええぃ、モフモフまで妾を愚弄(ぐろう)するか! お主ら後で覚えておれよ!?』

『『ヒィッ!?』』


 うん、ちょうどいいから、クロとモフモフにはアンジェラのストレス解消に付き合ってもらおう。


『プクククク、日頃の行いが悪いからやで?』

『お主も追加じゃホーク!』

『なんでや!?』


 日頃の行いが悪いからよ。


『も~ぅ、アンジェラちゃ~ん? 心配しなくても大丈夫だよ~。そもそも私じゃ戦えないし~、戦闘はアンジェラちゃんに頑張ってもらうから~』

『と、当然じゃ。戦闘で妾に勝てる者など居らぬ。安心するがよい!』


 お姉ちゃんが上手くまとめた!? ま~た妙なスキルを覚えたんじゃないでしょうね?


『それよりお姉様、外からだと暗くて見えませんし、内部の映像を学園長達にも見えるようにしてはいかがでしょう?』

『それもそうね』


 アイカの助言通り、壁にモニターを貼り付け学園長達にも見えるようにしてみた。


「これはまた奇妙な造りをしておるな。それなりの数のダンジョンを知っておるが、このような光景は見たことがないわい」

「わたくしもです学園長。塔型のダンジョンは樹木をくりぬいたものや石壁が大半。まるで()()()()()()()()()()という感じさえします」


 鋭いわねフローリア先生。

 私も同じ考えで、これはイグリーシアの(ことわり)から外れてる気がするのよ。


「ホッホォーーーゥ、スピーディーな感覚だぜぃ。これはドォーーンな仕組みでルックしてるんだ~い?」


 おっといけない。ドローンはまだ秘密だからテキトーに誤魔化しとこ。


「実はクロコゲ虫に特殊なスキルを付与したんです。これにより数百倍の速さで動いてるんですよ」

「ア、アレが数百倍で……」

「オォフ!? ミスフローリア、大丈夫か~~~い?」


 あ、フローリア先生が倒れた。


『お姉様、他の誤魔化し方はなかったのですか?』

『アイリちゃ~ん、さすがにお姉ちゃんでも引くかな~?』

『いや、別に大したことは――』


 うん、よく考えたら大変恐ろしい事だわ。

 これからはテキトーに言わないよう心掛けよう。

 ちなみドローンは本来の数百倍の速さで動かせるわ。


『お姉様、話をダンジョンに戻しますが、クロコゲ虫は引き上げてもよろしいかと』

『どうして?』

『映像だけでは分からないかもしれませんが、ドローンはすでに地上から35万キロは離れています』


 な、なぁにその途方もない数字は……


『お姉様の世界で例えると、地球と月が一番近い時と同等です』

『そんなに!?』

『はい。ですのでこれ以上進むのは無意味だと思われます』


 いったいどういう仕組み?

 まさか本当にそれだけの高さまで造ったとは考えられない。


 ボスン!


「「「!?」」」


 ん? ディメンションルームの中で何か落ちてきた?


『申し訳ありませんお姉様。ドローンを引き返したのですが、すぐに地上へと到達したため地面に激突してしまいました。尚、激突による破損はありません』


 破損してないならいいわ。というかさすがドローンと言うべきか。


「アイリ君、先ほどの音と共に映像が途絶えたようだが……」

「あ、大丈夫です、すぐに復帰しますから」


 砂嵐から再び天井を見上げる形になった映像。

 激突の原因は、進んだ距離よりも短い距離で戻ってきたから。

 ここから導きだされる答えは、ただ進むだけでは永遠とたどり着けない仕掛けになっている――これしかないわ。


『ドローンでの探索では限界があります。いかが致しましょう?』

『そこよね』


 少々リスクがともなうけれど、直接乗り込むしかなさそうね。


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