ウィザーズ学園の秘密
「おはようみんな」
「「「アイリ!」」」
久々の登校にクラスメイトの視線が集中する。
一週間くらいのはずが、1ヶ月近くも休んでた感覚になってるわね。なんというか、教室が凄く懐かしく感じるみたいな。
「今日からまた通学できるんだね?」
「そうよリュック。心配かけてごめんね?」
「い、いや、そんな……。心配はしてたけど、それ以上に信じてたから。アイリさんならきっと無事に帰ってくるって」
自分で言うのも悲しいけど、心配されるほど弱くないというのもある。
でもその気持ちはありがたく受け取っておくわ。
「でも考えたんだ。もしもアイナさんの身に何かが有ったらって。そう思うとジッとしてられなくて、本気でダンノーラに行こうかって思ったくらいに――」
「なぁに辛気臭ぇ雰囲気つくってんだよ」
バシッ!
「いたっ!?」
「もっとこう――ガツンと言ってやれよ。俺にはお前しかいないんだーーーっ! とか」
「こればっかりはリュースの言う通りだな。そんなんだとレックスってやつに取られにまうぞ?」
「そ、それは困る!」
割り込んできたリュースとグラドが何か言ってる。別に私はどっちかのものになるとか決めてはいないし、ガツンと言われたところで気にしたりは――
「ア、ア、アイリ……さん」
「リュック?」
まさか本当にガツンと言う気!?
「そのぉ……ぼ、ぼ、ぼ、僕の……」
「僕の恋人になってください!」
「それは困りますね。そのような重要な通告は本人に言っていただかないと」
「……アレ?」
「お姉様ならほら――トリム達に拉致られて行きましたよ」
「あ……」
残念な事に、近くにいたアイカに何かを告げるリュック。
そして更に残念な事に、トリムがうるさくて聴こえなかったという。
「アンタ達ばっかりズルいじゃない。私達だってアイリと話したいんだから、一人占めしないでよ」
「お、落ち着いてトリム、私は逃げないから」
「じゃあダンノーラであった事を詳しく聞かせて!」
「ハッピィもさんせ~い!」
「だから落ち着いてって。――ごめんねリュック? 何て言ったの?」
「ハ、ハハハハ……。い、いやぁ、なんでもないんだ……」
ガックリと肩を落としたリュックが、苦笑いを浮かべるリュースとグラドに伴われて壁際に移動した。
もしかして、本当に愛の告白だったりしたんだろうか?
「ハローエブリバデーーー! 今日も楽すぃ授業が始まるぜーーーぃ!」
――っと、担任も来ちゃったし、続きは昼休みにでも――
ズドォォォォォォン!
「「「!?」」」
何事!? 建物が崩れるような音がして、振動も伝わってきたんだけど!
「まさか地震!? 机の下に隠れなきゃ!」
「落ち着いてトリム。地震とは違うわ」
「地震じゃないってハッピィにも分かる。あっちの方から嫌な空気が漂ってきてるよ」
ハッピィが中庭の方を指す。
教室を出て窓から見下ろしてみたけれど、特に変わった様子はない。
でも……
「お姉様、中庭の向こうはディメンションルームだったかと」
ディメンションルーム。この中では意図的に魔物を召喚できるとされていて、上位クラスは毎日のように訓練を行ってるらしい。下位クラスの場合は魔物に見立てたハリボテが相手だけどね。
この空間は不思議な構成をしていて、死んでも部屋から追い出されるのみという大変ありがたい機能がある。
但し作ったのは学園長ではなく、学園の建設前から存在したのだとか。
いつ――誰が――何の目的で作ったのかは不明ながらも、この便利機能を放置しとくのはおしい。そう考えた学園は、その場所をディメンションルームとして囲い、学園を設立した。
「――という訳なのだよ」
クラスメイトには教室での待機を指示し、私とアイカは担任のストロンガー先生と共に学長室へとやってきた。
すでに他のクラスの先生も集まる中、先ほどの話を聞かされたところよ。
「この件に関しては国家主席と一部の貴族しか知らぬ。表向き私が作った事にしてあるのは、余計な火種にならぬようにするためだったのだが……」
「でも危険はなかったんですよね?」
「勿論だ。魔物や動植物を用いて何度も実験を繰り返した。その結果、例外なくディメンションルームの外で復活をはたしたため、使用には問題ないと考えた」
そりゃそうよね。
ぶっつけ本番で自分の命をかけて実験するなんて、よほどのマッドサイエンティスト以外に考えられないもの。
そうするとさっきの振動は、ディメンションルームじゃなかったって事――
バタン!
「た、大変ですぞ学園長! ディ、ディメンションルームが!」
「落ち着きたまえ、カーネル先生。いったい何があったというのだ?」
「それが、勝手に結界のようなものが発動し、中に入ることができないのです!」
「結界……だと?」
調べに行ってたカーネル先生が、血相変えて戻ってきた。
やっぱりディメンションルームで異常が発生したらしい。
「外からの侵入は確認されていない。やはりあの空間そのもので問題が発生したと見るべきだろう」
「じゃあ調べなきゃ――ですよね?」
「うむ。すぐにでも調査を――」
「お待ちください学園長」
アイカが席を立とうとした学園長に待ったをかけた。
「どうにも嫌な予感がします。生徒全員を屋外に避難させた方がよろしいかと」
「むぅ……」
腕組みをして唸る学園長。
生徒に犠牲者が出るのは避けたいと考えたのか、やがてウンウンと頷いてアイカの進言を受け入れた。
「うむ、アイカ君の言う通りだな。授業は一時的に中断し、全生徒には学園の外で待機しててもらおう」
今はまだ入れないだけのディメンションルーム。
だけどいつまた急変するか不明だと説明し、私とアイカ以外の生徒と一部の教師は外へ、その他の教師と私達はディメンションルームの調査へと乗り出す。
「何だかんだと、わたくし達も駆り出されてしまいましたね」
「今さらよ。それに手遅れになって後悔するよりは百倍マシじゃない?」
とは言え、自分から首を突っ込んでるようなものだし、そこに不満はない。
そんな感じで気付けば現場に到着。
扉が砕け、壁の一部も崩れ、部屋の中でエメラルド色に光っている結界が外からでも確認できる。
「デンジャラァァァス。この部屋が壊れるなんざぁ聞いた事がない。こいつぁヤベぇ雰囲気がバリバリMAXだぜ!」
どちらかというとストロンガー先生のテンションがヤバい気がするのは置いといて、中に入れないんじゃ確認のしようがない。
「この結界さえ無ければ入れるのよね? 何とかして消せないの?」
「ディメンションルームの操作は全て部屋の中で行われている。どうにかするにも中に入る必要がある」
強行突破しかないと。
「時間は掛かりますが、地道に削っていくしかないかと」
「しかしですなフローリア先生、それだと1週間――いや、1ヶ月はかかるのでは?」
「ヘィ、カーネル。それでもやらなきゃ進まないぜぃ?」
「うぅむ……」
ディメンションルームの結界は学園全体を覆うものとは違い、数倍は強力になっているらしい。
せめて仕組みが分かれば解決の糸口となり得るんだけれど……。
「言っちゃなんですが、ディメンションルームについて学園長より詳しい人とかは?」
「居たら苦労せんわい。仮に知っておったらソイツに丸投げするがな。それこそガルドーラを建国した者くらいしか知り得んだろう」
そっかぁ……ガルドーラを建国――
「そうよ、アイツなら知ってるかも!」
「「「!」」」
「お、お姉様、急にどうされましたか?」
「手がかりになりそうな人物がいたわ! すぐに聞いてくるからちょっと待ってて!」
「ア、アイリ君!?」
驚く学園長達を尻目に部屋を飛び出すと、ルミルミの邸へと転移した。理由はドーラに会うためよ。
ガルドーラの建国者はダンマスのガルドーラだから、アイツに造られたオートマタなら知っててもおかしくはないわ。
但し、急に訪ねても通してくれるか分かんないので、アポなしでも通してくれそうなルミルミを連れて行こうってわけ。
「ア、アイリ? 学園はどうしたの?」
「実はカクカクシカジカで」
「学園でそんな事が……」
アレで通じるの!?
いや、今はいい。急を要するから。その方がありがたいし。
「実はね、まだ公にはされてないけれど、ドーラとは会えないのよ」
「あ、会えない? どうしてですか?」
「他言無用でお願いするけど、昨晩ドーラが何者かに暗殺されたのよ」
暗殺? ドーラが!?
「すぐに公にできないのはオートマタだという事実を一部の者しか知らないからよ。何せ死体の代わりに壊された部品が散乱してたのだから、それをどうすればいいか――あるいは公表すべきかで、結論が出てないわ」
ディメンションルームの異常に続いてドーラの暗殺。これは偶然とは思えないわね。




