信長の娘
信長の居城へとおもいっきり正面から突入すると、手分けして城内の捜索にあたる。
何を探してるかって? そんなの新皇帝である信長に決まってるわ。
まずは信長を捕まえて、お姉ちゃんを召喚したやつとヨシテルの時を止めたやつを突き止めなきゃ。
「て、敵だ、敵襲ーーーっ!」
「あそこだ、撃て撃てーーーっ!」
――っと、まだ残ってたか。
「スプラッシュウォーターボール!」
ドドドドドン!
「「「ギャッ!?」」」
通路の向こうから現れた敵兵に水弾を叩き込んでやった。急所は外したから死にはしないだろうけど、激痛でしばらくは立ち上がれないでしょ。
「なんつーかよ、お前さん本当に人間離れしてんのな。これじゃあ俺の出番は永遠と回ってこねぇぜ……」
「何よ武蔵、私がバケモノだって言いたいわけ?」
「少なくとも普通じゃねぇよ。プラーガ帝国の勇者なんかよりよっぽど恐ろしいぜ」
まぁそうね。自慢じゃないけど、他国の勇者にも太刀打ちできる自信はあるわ。
それに私だけじゃなく優秀な眷族もいるしね。
「大丈夫よアイリちゃ~ん。バケモノになってもお姉ちゃんは味方だからね~? 辛くなったら慰めてあげる~」
「あ~うん、ありがとう。でもお姉ちゃん、私はバケモノじゃないからね? あんましつこいと、お姉ちゃんでもハッ倒すからね?」
この敵意のない反応が一番堪える……。
ったく、それというのも武蔵のせいよ。この際だからハッキリと言わせてもらうわ。
「アンタって本当にデリカシーがないんだから。女の子に対してバケモノとか言わないの! ちょっとステータスが高いくらいで中身は普通なんだからね!?」
「ちょっとどころじゃねぇわ! さっきの魔法で壁に穴が空いてんじゃねぇか!」
「城が脆かっただけでしょ!」
「君主の城が脆いはずあるか! だいたいバケモノって言い出したのはお前の方――」
「ハイハイ、二人ともお静かに。今は信長を探すことに専念してくださいね」
見かねたアイカによって中断させられた。
この件に関しては後でじっくり話すとして、眷族からの報告を聞きましょうか。
『みんな、状況はどう?』
『見たところ1階にはいないようです』
『多分上の階じゃないッスかね?』
ギンとクロによると、1階には居なかったみたい。
『主よ、地下に来てみたがここにも居ないようだ』
『でも~、まだ全ての座敷牢を~、調べてはいませんが~』
『せやかてセレンはん、君主が牢屋に入ってたら一大事でっせ?』
地下を捜索していたのはザードとセレン、そしてホークの三人よ。
まぁさすがに牢屋には入ってないだろうし、ここも居ないって事でよさそうね。
『姉御、2階にいた信長の手下だと名乗る丹歯長秀ってやつをブチのめしやしたぜ』
『主よ、3階にいた信長の配下だと名乗る歯歯田勝家という者を倒したぞ』
2階にいるモフモフと3階にいるアンジェラから相次いで報告があがる。
だけど信長の発見には至らず――っと。
城は5階建てだから、4階か5階にいるはずよ。
『アンジェラ、モフモフ、そのまま4階と5階を捜索して。他のみんなは一旦私と合流よ』
『うむ、任せるがよい』
『ガッテンでぇ!』
これでよし。後は――
『アイリ様~、座敷牢に怪しい人物がいました~』
『え? まさか本当に信長が!?』
『聞いてみます~♪ 貴方のお名前は~? ――――、あ、違いました~』
まぁそうよね。おおかた政治犯として捕まってた人でしょ。
『この人は~、佐々木小次郎だそうです~♪』
『はいはい、人違い人違い――』
――って、ちょっと待ったぁぁぁ!
『何だってまた佐々木小次郎が座敷牢に!? あ、いや、それより本人に直接聞きたいから、私のところまで連れてきて』
『畏まりました~♪』
★★★★★
で、本人と会ってみたんだけど……
「いや~、まさかお前までこっちに来てるとは思わんかったぜ」
「それはこちらの台詞ぞ。まさか生前と同じ面で某の前に現れるとはな」
聞いての通り、この佐々木小次郎も武蔵と同じく転生者だったのよ。
何というか、本当に世界は狭いのね……。
「でも何だってまた投獄されてたんスか? 実は犯罪者だったりするッス?」
「武士の誇りにかけてそれはない。某はただ、兵の訓練に関わるのを拒否しただけだ」
聞けば前皇帝の時に教官をやっていたらしいんだけど、信長に代わってから拒んだのだとか。
「奴は皇帝の器などではない。四六時中遊び回っているただのうつけだ。生憎そのような者のために振るう剣は持ち合わせてはおらんのでな、こうして剣を持たずに過ごしているわけだ」
本来なら処刑されてもおかしくはない。
実際に処刑されそうになったところへ、兵達の猛反発が起こったのだとか。よほど慕われてるのね。
やむ無く信長は投獄までにとどめたんだって。
『お姉様、この男は間違いなく本当の事を話しています。いかが致しますか?』
『もちろん連れていくわ。前皇帝に戻れば丸く収まるだろうし』
前皇帝の護衛を任せようかとも思ったけどそのために武蔵を連れてきたんだし、小次郎には教官に戻ってもらいましょ。
「信長には皇帝の座から降りてもらうわ。後任は前皇帝の前白河のお爺さんになるから安心して」
「それはありがたい。ならば某も信長の首を跳ねるため助太刀させていただこう」
「あ、いや、殺すと決まったわけじゃないからね? おとなしく降伏するなら拘束すればいいだけだし」
小次郎が突っ走らないようにしないと。信長から情報を引き出す前に殺されたらマズイもんね。
『姉御、4階にいた歯歯歯秀吉ってやつをねじ伏せましたぜ。コイツによると5階に信長がいるそうですぜ』
ハヤッ! けどまぁ、予想通りね。
『主よ、5階にいたアケチなんちゃらを倒したぞ。ついでにえらく怯えきった爺さんがおるが……どうする?』
二度目のハヤッ! さすがアンジェラ相変わらず動きが早い! そしてそいつが信長ね。
「大丈夫だと思うけど逃げないように見張ってて。すぐ行くから」
★★★★★
で、信長との御対面なんだけど……
「ヒィィ、ゆゆゆ許してくれぇぇぇい! 何でもする、何でもするから命だけはぁぁぁ!」
畳に頭を擦りつけながら必死に許しを乞おうとしているオッサン。これが本当に信長だっていうの?
「小次郎?」
「間違いない。コヤツが前白河様から皇帝の座を奪った張本人の信長だ」
鑑定スキルで見ても結果は同じ。こんな腰抜けが皇帝に成り上がったとか、とても信じられないわね……。
「取りあえず私の質問に答えて。なぜガルドーラを侵略しようとしたの?」
「なぜ――と言われても、儂はただ娘のお徳の言う通りに従っただけじゃ。ガルドーラに対して特に思うことはない」
「なによそれ。それじゃあ娘の言いなりじゃない?」
「し、仕方なかったのだ。義理の娘であるお徳がある日突然現れて、言う通りにすれば皇帝になれると唆してきおった。現にお徳が居なければ、置狭間の戦いで命を散らしておったところだ」
詳しく聞くと、居間川義元の動きを察したお徳の進言により、見事撃退に成功したのだとか。
どういうカラクリか知らないけれど、お徳が黒幕で間違いないわ。
「念のため聞くけど、前白河さんの孫のヨシテルについて何か知ってる?」
「ヨシテル? それなら生後まもなくして亡くなったと聞いたが……」
「……え?」
それはない。現に保護してるんだから、その情報はデマで確定よ。
「誰から聞いたの?」
「お徳じゃ。重要な情報は全てお徳から直々に聞くことになっておる」
またお徳……。このオッサン、お徳がいなければ何もできないんじゃ……。
「最後の質問よ。私のお姉ちゃん――はいこの人ね「は~い、お久しぶりです~」。このお姉ちゃんを召喚したのは誰?」
「召喚って……ああ! あの時の娘であったか! あの儀式もお徳が主導して行ったものじゃ。理由はさっぱり分からんがの」
はい、黒幕はお徳で確定。
「ついでにもう一つ聞くわ。徳姫の居場所はどこ?」
「それなら上の天守閣に居るはずだが、用がない時は来るなと言われて――」
信長のイメージがどんどん崩れていく。こんな言いなりな人じゃなかったと思うし――って、どうでもいいわね今は。
待ってなさい徳姫。転移者か転生者かしらないけれど、好き勝手してくれた報いは受けてもらうからね!




