アサルトライフル
「今度こそハッピィが活躍しちゃうんだから~! いっけぇぇぇっ――ハッピィィィィダイナミィィィック!」
フィキーーーン!
「……え?」
屋根に上った孫一に向けて得意の風魔法をブッ放つが、威力充分なはずのソレは目に見えない何かによって防がれてしまう。
「やはりダメですか……」
「どういう事だいサフュア?」
「わたくしも何度か試しましたが、あの男には魔法が一切通用しないのです。そのため肉弾戦を仕掛けているのですが、あの妙な武器に翻弄されっぱなしで……」
リュックの疑問に対して悔しそうに述べるサフュア。
しかしリュック達には覚えがあった。孫一が持っている武器はアサルトライフルというアイリの世界の銃器で、イグリーシアには存在しないはずの物だ。これはアイリーンの図書館で見たものと特徴が似ているので、ほぼ間違いないだろう。
だが魔法が通用しない理由は不明であり、何らかのマジックアイテムを所持している可能性があるのだが……
「ぶーーーぅ、これじゃあハッピィ活躍できないジャン!」
「ハハッ、残念だったな嬢ちゃん。代わりといっちゃ何だが、俺からのプレゼントだ。命懸けで受け取ってくれや」
「危ないクレア!」
ドン!
「ガフッ!?」
「「「グラド!」」」
咄嗟に突き飛ばしたグラドが、クレアの身代わりに銃弾を受けてしまった。
腹部を撃ち抜かれたようで、苦しそうにその場に踞る。
「コイツ、よくもグラドを!」
「落ち着くんだトリム! 奴には魔法が効かない!」
「クッ……」
リュックに言われて悔しそうにトリムは下がる。クレアはクレアで申し訳なさそうにグラドを気にかけるが、今動けば的になるだけだ。
「ナンパール、何とかなりませんの!?」
「すまないサフュア。魔法が通用しない以上、直接叩っ斬るしか……」
実はこの孫一、送り込んだ徳姫により魔力消失のマジックアイテムを持たされているのだ。
このアイテムを所持していると、一切の魔法を発動できなくなる代わりに、殆どの魔法を無力化してしまうのである。
「ハハッ、ウィザーズ学園とやらも魔法が使えなきゃ役立たずだなぁ?」
「ほざけオッサン! 汚ねぇ格好して遠距離から狙撃とか恥ずかしくねぇのかよ!」
「へっ、ガキのくせに言うじゃないか。だがそんな安っぽい挑発にゃあ乗れねぇなぁ――ホイッと」
ターーーン!
「うわっ!?」
試しにとリュースが挑発を試みるも孫一に看破されてしまい、その隙にグラドの手当てをしようとしたリュックが牽制されてしまった。
「そんじゃま、そろそろ本気でいくぜ? 短い間だったが少しは楽しめたぜ!」
タタタタタタタタタタタタッ!
「クッ! 皆さん早く物陰か障壁の中へ!」
「あ~ん、もう最悪~!」
ライフルの連射にサフュアのクレアが慌てて障壁を張る。
倒れたグラドを護るために、トリムもまた障壁を発動させた。
「だ、大丈夫グラド!?」
「す……まねぇ……トリム。ゲイルに……エリクサー……使っちまって……」
「グラド? グラド、しっかりして!」
瀕死だったゲイルに自分のエリクサーを使ったために、手元にはもう残ってないのである。
トリムは障壁発動を止めるわけにはいかず、このままではグラドを助けられない。
「ごめ……トリム。一緒に店……開けな……」
「グラドーーーッ!」
今にも目を閉じようとするグラド。
それを見たトリムは堪えきれず、ついに最後の手段に出た。
「グラド、しっかり!」
なんと、障壁を解除してグラドにエリクサーを振りかけたのだ。
しかし孫一はそれを見逃すほど甘くはなかった。
「隙だらけだぜ、お嬢ちゃん」
タタタタタ!
「ガフッ!?」
「「トリムーーーッ!」」
胸や肩を撃ち抜かれたトリムが、仰向けになったままのグラドへと折り重なるように倒れ込む。
その光景を見たリュック達の脳裏には、二人の死という最悪の結末が浮かんできた。
「ハハッ、呆気ないものだなぁ? そんじゃ仕上げと――」
トドメを刺すべく二人に銃口を向ける――
ザクッ!
「ぐおっ!?」
――が、孫一は引き金を引くことはできなかった。
なぜなら……
「魔法が通用しないのなら、直接斬りつけてやればいい」
「「「ペサデロ!」」」
隙をついて一気にペサデロが心臓を抉ったのだ。
「マジ……かよ……。気配察知にゃ……自信あったんだがな……」
「それは無意味。ダークスイープアサシンは気配察知に掛からない。暗殺は私の十八番」
「そういう……ことかよ……」
ドサッ!
それだけ言い残すと無念そうに目を閉じ、地上へと落下した。
それを見届けたペサデロは、急いでトリムの元へと駆け寄りエリクサーを振りかける。
「遅くなって申し訳ない」
「――プハァ! だ、大丈夫よ。ちょっと死にそうになっただけだから」
「つーかマジで助かったぜペサデロ! もう少しでトリムと一緒に死ぬところだった」
「は? アンタ、あたしと一緒に死ぬのが嫌だっていうの!?」
「そそそ、そういう意味じゃねぇって! イデデデデ、イテェっつぅの!」
「…………」
取りあえずは元気そうなので、危機は脱したとペサデロは思うことにした。
「皆さん、ご無事ですか? 怪我をされた方はわたくしが治療いたします」
「ああ、今日も華麗なサフュア。是非とも僕の心を癒してほしい」
「テメェは怪我してねぇだろ……」
「こればっかりはゲイルに同意するなの」
ナンパールやサフュア達も無事のようで、リュック達もホッと胸を撫で下ろす。
だが侵入者はあと一人残っており、ソレをどうにかしなければ安息はない。
「よし、敵はあと一人だ。気を抜かず――」
ズドォォォォォォン!
「「「!?」」」
突然の爆発音にリュックが言葉を止める。
場所はどこかと見渡せば、学長室の壁が崩れ、モクモクと煙が立ち上がっているのが目に止まった。
「あっれ~? あそこってハゲ園長のいる部屋じゃ~ん?」
「学園長が!」
学園長が危ない――そう思ったサフュアが動き出そうとするも、直前で足を止める。学長室から二つの影が飛び出すのが見えたのだ。
すると影の一つは孫一のいた屋根へと着地し、もう一つはリュック達の目の前に降り立った。
「無事かね諸君!?」
「「「学園長!」」」
目の前にいるのは学園長カーバインであり、屋根にいる人物から視線を外さないよう生徒達を気遣う。
「僕らは大丈夫です。それより侵入者は残り一人。あの女を倒せば終わりです!」
リュックが屋根にいる侵入者を指して叫ぶ。
そこには露出が多めの黒装束を身に付けた金髪のくノ一が、妖艶さが漂う笑みを浮かべて見下ろしていた。
「ハァーイ、ウィザーズ学園の皆サーン。ハゥワーユー。わたくしダンノーラ帝国で忍び四天王をやってマース水月と申しマース!」
「「「水月!」」」
忍び四天王と聞いて思い出す。
リュックの父である火月は忍び四天王の一人。つまり、目の前の人物はカゲツと同等かそれ以上の実力を持っているという事に。
「気を付けたまえ諸君。こやつは以前戦った頼姫よりも手強いかもしれん」
「「「!?」」」
生徒達の間に動揺が走る。
あの頼姫相手に苦戦を強いられたのは今でも覚えており、死者が出なかったのが不思議なくらいなのだ。
そしてリュックも、父カゲツから聞かされた危険人物の中に、忍び四天王の水月が含まれていたのを思い出す。
(父さんの話では見た事もない武器を使いこなすとあった。恐らくコイツも孫一と同じ……)
するとリュックの回想を肯定するかのように、水月が拳サイズの何かを取り出した。
「ヘィベイビー、今からコレの威力を披露しマース!」
「マズイぞ! 諸君、離れろ!」
危険を察知した学園長が叫ぶ。
同時に水月は、取り出したアイテムを投げつけてくる。
「サァサァ、忍び四天王水月――またの名を滝河一益クリステール! いざ参りマース!」




