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誘われしダンジョンマスター・華麗なる学園生活  作者: 北のシロクマ
序章:私、ダンジョンマスターなの……
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精霊ハッピィ

 精霊に会うには何かしらの儀式が行われる――というのは今じゃ古い考えみたいで、難しいなんて事はないらしい。

 屋敷を出てから里の中央広場まで案内されると、社のようなものにお供えを始めた。


「精霊様は鶏肉が大好物でな、程よく熱した鶏肉に塩を振りかけると満面の笑みで御光臨されるのだ」


 随分と欲望に忠実な精霊ね。

 だけどそれだけで会えるなら安いもんだわ。


「ほれ、さっそく御降臨されたぞ」


 まるで匂いを嗅いでるかのように鶏肉の真上の空間が開いていき、裂け目からニュッと手が延びて鶏肉を掴み上げた。


「あ~うんま~! やっぱ出来立ては最高じゃ~ん! これで一週間は頑張れっかな~」

「お気に召していただけて何よりです」


 見れば生意気そうなパツキンJKに、長老が(こうべ)を垂れていた。

 もしかしなくてもコイツが精霊なのね。

 というか思いっきりブレザー着ててしかもミニスカよ。

 もしかして日本から転移してきたJKなんじゃ……いや、そんなわけないか。


「んでんで、今日は何の用なわけ?」

「はい、実はハッピィ様に会いに来た人間の娘がおりまして、是非とも会っていただけないかと……」

「ぇえ~、マッジ~? もしかしてサインとかしなきゃいけない感じぃ? どうしよっかな~、全然練習してないや~」


 うん、これは面倒臭い。

 もう一度言うけどメンドクサ!

 だいたいタレントか何かと勘違いしてんじゃないの!? いや、タレントってものを知ってるかは知らないけど!


「まぁいいや~、会いたいなら会ってあげてもいいよ~」

「ありがとう御座います。ささ、アイリ殿」


 長老に促されて前に出る。

 今さらながら話したくなくなってきたけれど、クレアのためだと思って堪えよう。


「はじめまして、アイリといいます。今日はお願いがあって来ました」

「ええ~、お願い~? なんか~面倒臭いって感じ~?」


 いや、アンタの方がよっぽど面倒臭いからね?

 しかも話してるだけでイライラしてくるし。


「そこを何とかお願いします。友人のクレアに掛かってる呪いを解いてほしいんです」

「……へ? 呪い?」

「はい。なんでも精霊の衣が関わっ――」

「精霊の衣ーーーッ!?」

「――んひっ!?」


 この精霊、いきなり大声あげてビックリするじゃないの!


「そこのキミ、ハッピィの服がどこにあるか知ってるの!?」

「はい? 服?」

「そだよ~。精霊の衣はハッピィの余所行きのお洋服なの~。昼寝してる間に風でどっか飛んでっちゃってさ~、探しても見つからないからパクられたと思ってたんだよね~。だから手にした奴に災いがおこるように呪いをかけちゃった♪」


 なぁにが「かけちゃった♪」よ。これじゃあ本当にクレアはとばっちりじゃない!

 なくした理由もバカくさいし、頭おかしいんじゃないのこの精霊!?


 ……っと待て待て、こんなことで取り乱しちゃだめよ、冷静に冷静に。


「んでんで、ハッピィの服はどこ~?」

「それがですね……」


 長老に話した内容と同じことを、ハッピィとかいう精霊にも話した。


「マッジ~!? パクられたんじゃなかったんだ~。でもここにないのはざんね~ん! だからお洋服を持って来たら呪いを解いてあげちゃうよ~」


 やっぱりそう来るか……。

 恐らく精霊の衣は国家主席の遺品として保管されてると思う。これを国に話してもまともに取り合ってくれないだろうし、ましてや盗むわけにもいかない。

 さて困ったわねぇ……。


『お姉様、もしかしたら何とかなるかもしれませんよ?』

『ほんとに!?』

『はい。ドローンで画像をプリントアウトしますので、手にとって見てください』


 アイカから見てほしいものが有ると言われて画像を確認する。

 というか、いつの間にドローンにプリンターが備わってたんだろう……って、今はどうでもいいか。


『どれどれ――ってアイカ、これセーラー服じゃない』

『その通りなのですが、精霊の衣で検索したところ、セーラー服がヒット致しまして』

『……もしかして、精霊の衣っていうのはセーラー服のことなの?』

『恐らく』


 んなアホな……と言いたいところを我慢してハッピィをもう一度よく見る。


「ん、なになに? もしかしてハッピィに惚れちゃった~? でもざんね~ん、ハッピィはノンケで~す♪」


 うん、何度見てもアホっぽい――じゃなかった、何度見てもブレザーを着てるようにしか見えないし、もしかすると……


「あ~すみません、一つお聞きしたいんですが……」

「なになに~?」

「精霊の衣っていうのはコレのことでしょうか?」

「どれどれ~」


 不思議そうな顔をしてプリントを受け取るハッピィ。

 すると次の瞬間……



「あーーーっ、そうそうコレコレ! 間違いなくハッピィのお洋服だよ~!」


 まさか本当にセーラー服だったとは……。


『ですがこれでハッキリしましたね』

『そうね。さっそく()()()()ちょうだい』

『畏まりました。必要なDPは100ポイントですので楽勝です』


 やっす! 

 まぁ安い分には困らないし、さっそく画像のデザインとなるべく近いセーラー服をチョイスして、アイカに召喚してもらった。


『召喚完了。お姉様のアイテムボックスに転送致しました』

『ありがと』


 微妙にデザインが違うところは目を瞑ってもらおう。

 というか文句は言わせない。

 元々は自分のせいなんだから、ここは無理にでも納得してもらうわ。


「精霊の衣って、コレのことですよね?」

「あーーーっ! マジでハッピィのお洋服じゃ~ん! 約束通り呪いは解いちゃうよ~♪」


 御覧ください皆さん。

 こちらがDPたったの100ポイントの服を着て、大はしゃぎな精霊様です。


「――あれ? でもサイズがちょっと小さいような……」

「成長したんじゃないですか? 胸のところとかキツそうですし」

「そっか~! ハッピィってばまだまだ成長期だったんだ~! そりゃキツくもなるよね~」


 これだけ簡単に騙されてるところを見ると、この精霊様の将来が心配になってくる。

 いや、寧ろこんな精霊に護られているエルフの里は大丈夫なんだろうか……。


「どうやら上手くいったようだな」

「はい。ありがとう御座います、ヌジュールさん」


 いまだ舞い上がっているハッピィをよそに私達はヌジュール長老に礼を言うと、エルフの隠れ里を後にした。


「なぁ、クレアに呪いが掛かってるとか、リュック達は知らないんだよな?」

「そうよ。グラドには仕方なく話したけれど、他の2人は知らないわ」


 でも呪いは解いてくれたんだし、明日にでも説明してあげようと思う。


「呪いだっていわれてピンと来なかったけどさ、そもそも本当に呪いは解けたのか?」

「さすがに精霊ともあろう者が約束を破るとは思えないわ」

「いや、アレが精霊だっていうのがいまいち信用ならなくね? なんか頭悪そうだったし」


 言い切ったわね……。

 確かに言動がアレだし私の視点だとただのJKにしか見えないから、グラドが不安がるのももっともなんだけれど。


「もう一度クレアを鑑定すれば分かるわ。明日の放課後にでも様子を見に行きましょ」

「分かったぜ!」



 でもって次の日の放課後。

 リュックとトリムにも経緯を説明し、再びクレアの邸を訪れた。

 すると顔を真っ青にした初老の執事が、クレアの様子がおかしいと言ってきたのよ。


「おかしいって……どういう事です?」

「そ、その点で御座いますが……リュック様、わたくしめにも何がどうなっているやらサッパリで御座いまして……。と、とにかく会っていただければお分かりになられるかと」


 私達は互いに顔を見合せつつ中へと通され、クレアの部屋までやってくる。

 そして意を決して扉をノックすると……。


「あいてるよ~、もぅジャンジャン入っちゃって~!」

「「「……え?」」」


 昨日とは別人のハイテンションになってる気が……。


 バタン!


「ク、クレア、いったいなにが!?」

「ん~? どったのリュック? まるで別人を見るような目をして」

「ど、どったのって……」


 ベッドの上で俯せになって足をバタつかせながら本を読んでる姿は、本当に別人かと思えてくる。

 というか、私の知ってるどこにでも居そうな女子高生そのものなんですが……。


「ア、アンタってクレア……よね?」

「そだよトリム~。それとも別人にでも見える~?」


 ええ、別人にしか見えません――と、皆の視線が訴えていた。


「あ、そうだ。アイリちゃ~ん、呪いを解いてくれてありがとね~。何か~、昨日の夜から調子メッチャ良くって~、なんだか別人に生まれ変わった感じ~? みたいな~?」

「はぁ……」


 そりゃ昨日とはまったく違う言動だもの、別人だと言っても過言ではないわ。


「それから精霊様から念話があって、特別にハッピィの加護をあげちゃうって~。よく分かんないけどハッピー? みたいな~?」

「加護?」


 透かさず鑑定スキルを使ってみれば、クレアのステータスにハッピィの加護が追加されていた。

 詳細には、ハッピィの加護は小さな不幸から護ってくれるありがたい加護で、例えばタンスの角に小指をぶつける等の不幸を回避できるらしい。

 えらく具体的な例ね……。


 但しその代償として、言動が精霊ハッピィに似通ってくる――って、思いっきりコレが原因じゃないの!


「あんのアホ精霊ーーーッ!」


 もちろん直ぐ様ハッピィの元に舞い戻ったのは言うまでもない。

 ええ、ちゃんとクレアは元に戻ったわよ?


アイリ「ところでアイカ。精霊の衣を献上された国家主席は、毎日のようにソレを身に付けていたって記述があるけど……」

アイカ「はい。当時の国家主席は小肥りの中年男性だったとあります。つまり――」

アイリ「分かった、もういいわ」

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