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誘われしダンジョンマスター・華麗なる学園生活  作者: 北のシロクマ
第5章:進軍、ダンノーラ帝国!
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南北挟撃

「これで出港できるのね?」

「はい。それもこれもアイリ様ご一行の護衛があったからこそです。誠に感謝致します!」


 日が沈みかけたところで補修が終わったらしい。

 もうすぐ夜だから出港は明日になるかと思いきや、すぐにでも出港するんだとか。


「もうすぐ夜だけど……」

「なぁに、心配には及びません。【身を粉にして働け】というのが我が商会のモットーですので、2日や3日の徹夜程度で根をあげる者は居りません。これでも他の商会からは社畜の鏡だと言われて好評なのですよ。では我々はこの辺で失礼致します」


 (さわ)やかな笑顔と共に出港した社畜のオジサン。

 さながらその光景は、夕日へ向かってダッシュしていく青少年のようにも見える。


「まるでお姉様の世界の人間を見ているような気がしました。しかも社畜を誇ってるかのように――」

「それ以上は言わないであげなさい」


 社畜から脱する事ができるかは本人次第だから、私がどうこうする事はない。


「ところでアイカ、宗麟はどうしてるの?」

「はい。何やら居城に立て籠り、お姉様の銅像製作に執念を燃やしているようです」

「……は?」

「お姉様はキシリトールという神の使徒ですから、崇めるのは当然かと」


 ええぇ……。私じゃなくてキシリトールの銅像をたてればいいのに……。


「アイリ殿ーーーッ!」


 噂をすればハゲ――じゃなかった、かげね。


「ちょうどいいところに来たわ。私の銅像じゃなくて――」

「大変ですぞアイリ殿! 私が反旗を翻したのを受け、北の竜造寺(りゅうぞうじ)と南の嶋津(しまず)が討伐軍を差し向けて参りました!」


 予想以上に早い? まるでこっちの動きがバレてるかのように……。

 それこそヨシテルの時を止めた奴が直々に動いてたり? 可能性はあるわね。ここからはより慎重に――


「まったくもってけしからん! せっかくキシリ教を盛り立てようと呼び掛けてやったというのに、即答で断ってくるとは!」

「アンタが原因かい!」


 このハゲがバラしたせいで、信長の耳に入るのは時間の問題となったわ。

 こうなったらその二つも潰して、こちら側に引き込んじゃおう。



★★★★★



「あ"~かったりぃ……。何だってまた宗麟の野郎は信長様を裏切ったんだか」


 宗麟のキシリ教設立を受け、すぐさま軍を動かした竜造寺隆信(たかのぶ)

 夜間のうちに強行軍にて山を越え、明日にでも宗麟の居城へと攻め込まん勢いで、強い夏の日差しを受けつつ広野を南進していた。


「しっかしアッチィなおい……。こんな糞暑い日に城から出なきゃならねぇとは、あのハゲ野郎ゼッテェ許さねぇ!」


 ブツクサと文句を言いつつも大名自ら出陣するのには理由があり、裏切り者が出た場合には必ず近隣大名自らが動くようにと命じられているのだ。

 つまり、武を持って忠誠を示すことで本人への疑惑も晴れ、裏切り者も始末できるという信長にとっては一石二鳥の政策なのである。


「あ"~くそぅ、こうもアチィと士気が落ちやがる。一旦休んで朝飯にすっか!」

「「「おおおっ!」」」


 ダルそうながらも隆信の休むという話を聞き、兵士からは歓声があがる。

 なにしろ昨日の晩から何も口に入れていないのだ、まさに腹が減っては戦は出来ぬだ。


 ポフッ!


「あ"~疲れた。一度止まると動く気になれねぇ……」


 原っぱに寝転がると、そのまま目を閉じてしまった隆信。

 しかし、ジリジリと照りつける太陽が煩わしく、間もなく目を開くのだが……


「せめて日差しをどうにか――んあ?」


 ふと、太陽の中に黒い点があるのに気付く。

 それは徐々に大きくなり、やがて隆信の目にもハッキリとした姿で見えてきた。


「アレは……鳥?」


 それは金色の羽を持つ鳥であった。

 ――が、只の鳥ではない。それは最古の時代から語り継がれている、伝説のセイレーンなのだから。


「そのまま~、お休みなさ~い♪」

「うぉ……ぁ……きゅ、急に眠気……が……」


 隆信が眠ったのを見届けたセイレーンことセレンは、せっせと食餌の準備に取りかかっている兵士にも子守唄を流す。


「あぁ……これ……は」

「ダメだ……眠くて耐えられな……」

「た、隆信様に……報せ……」

「あ、これアカンやつや」


 どうやら魔法耐性の強い者は居なかったようで、全ての兵が夢心地となった。


『アイリ様~、北の軍勢は~、無力化しました~♪』

『ご苦労様。大将だけ連れて来て』

『は~い~♪』


 哀れにも何も出来ずに拘束された竜造寺隆信は、セレンに連れられてアイリの元へと運ばれていくのであった。



★★★★★



 一方、隆信が捕まったとは知らない嶋津義弘(しまずよしひろ)は、宗麟の居城を目指して北進していた。


「宗麟め、ガルドーラとの戦争中に何を血迷うた事を。これでは連中に隙を与えるだけではないか」


 義弘は憤っていた。――というのも宗麟によるキシリ教設立宣言は、宗教そのものを禁止している信長の意に(そむ)く行為に他ならないのだ。


「まぁよい。ダンノーラの足元を揺るがす宗麟は我らの敵。キシリトール等という宗教ごと叩き潰してくれるわ!」

「しかし兄上、油断は禁物ですぞ。あれほど信長様を恐れていた宗麟が、掌を返したのです。何か秘策があるやも……」


 そう促すのは弟の嶋津歳久(しまずとしひさ)である。

 彼らも信長の脅威は知っているので、刃向かえば一族郎党処刑は免れない。

 にも拘わらず臆した様子を見せない――それどころか嬉々としてキシリトールも持ち上げた宗麟は不気味にすら思えるのだ。


「なぁに、心配は無用ぞ。我が渾身(こんしん)()野伏(のぶ)せを用いれば、どのような秘策があろうとも恐れる事はない!」


 自信に満ち溢れた表情で鼻を鳴らす義弘。

 彼らの背後には野に伏せた兄――嶋津義久(しまずよしひさ)が控えており、退却を偽って急襲する手筈となっている。


「よぉし、全軍停止! この川を越えれば宗麟の居城が見えてくる。今のうちに休息をとり、いざ戦いに備えるのだ!」

「「「ハッ!」」」


 川を前にして陣を築くと、朝食の準備に取りかかる。こちらも竜造寺と同じく、腹が減っては何とやらだ。

 ――が、そんな彼らにかつてない地獄が訪れようとしていた。


「義弘様ぁ! 川の向こうに怪しい人影を発見しました!」

「フン、宗麟が寄越した偵察だろう。簡単に見つかるような二流はお呼びじゃない。矢で射ぬいてしまえ!」

「ハハッ!」


 敵と判断した義弘に命じられ、矢を放つ一般兵。だが……


スパッ! 


「!?」


 なんと! あろう事か、矢を真っ二つに斬り捌いてしまったではないか。

 これには義弘も驚き、刀を手に取り立ち上がる。


「聞けぇ、皆の者! 敵は精強だ。休息を中止し、川の向こうにいる輩を包囲せよ!」

「「「ハッ!」」」


 只者ではないと気付いた義弘は、即座に包囲作成に出た。

 例え一人であろうとも、油断なく当たるのが嶋津流である。


「さて、貴様はすでに包囲した。もはや逃げ場はどこにもないぞ?」


 取り囲むよう動いている間、一歩たりとも動かない相手を不審に思いながらも、相手から目を離さないよう語りかける。

 すると、青い鎧兜で身を包んだ相手が初めて口を開いた。


「逃げ場がなければ進むのみ。最初から退くことなど頭にはない。むしろ退路を絶ってこそ、心踊る熱き闘いが(それがし)を待っていると思い(そうろう)


 ジリッ……


「「「!」」」


 相手が一歩進むと、義弘達も一歩下がる。

 それは無意識のうちに行われ、目の前の相手がただならぬ強者であると、本能が訴えているのだ。


「どうした? 某が怖いで御座るか?」

「ああ。実に怖い存在だ。たった一人で包囲されているど真ん中に居ながらも、まるで臆した様子はない。果たしてどれほどの者が同じ状況で冷静さを保てるか――いや、恐らくは殆ど居るまい」


 義弘は素直に認めた。この状況で堂々としてられるのは、余程のバカか桁外れに強いかのどちらかである。

 付け加えると、先ほどの弓矢の結末を見る限りは、後者であると言わざるを得ない。


「ほぅ、某をそのように評価する者は殆どいなかったが……まぁいい。誉め言葉の礼――と言ってはなんだが、名乗らせてもらおう。我が名はザード。ダンジョンマスターのアイリ殿を(あるじ)とする眷族である」


 鎧兜の正体はザードであった。

 元々劣勢を好む彼にとっては、今の状況はまさに天国である。


「ではこちらも名乗ろう。父である嶋津貴久(しまずたかひさ)を主君とし、その息子の嶋津義弘である!」


 互いに睨み合うこと数秒。先に動いたのは義弘であった。


「かかれぇぇぇ! 鬼嶋津(おにしまず)の異名は伊達ではない事を知らしめるのだぁ!」

「「「おおおっ!」」」


 一斉に斬りかかる兵。しかしザードは落ち着き払い、横薙ぎの一閃を見舞う。


「フッ、数で某を止めようとは笑止! 受けよ――ベノムスラァァァッシュ!」


 ズバァァァン!


「「「ぐわぁっ!?」」」


 前から迫る嶋津兵を薙ぎ払うと扇状に芝が(えぐ)れ、それを見た背後の兵はザードへ斬り込むのを躊躇(ためら)う。

 しかし、そんな兵達にもザードは容赦しなかった。


「臆したか愚か者ぉ! その程度の心意気で某を討ち取ろうなど笑止千万! 本当の闘いというものをその身に刻むがいい――ベノムスラァァァッシュ!」

「「「ぎぇはーーーっ!」」」


 たった二振りでザード周囲には広々とした空間ができ、威勢のよかった義弘も口をパクパクと開け閉じするのが精一杯な様子。


「こ、こんなの無理だ……勝てるわけねぇ!」


 こうなると嶋津の士気は駄々下がりで、一人が逃げ出すと二人三人と増え続け、ついには雪崩のような大移動が始まった。


「ま、待たんか貴様ら! 嶋津家の誇りをなんとする――」

「言ってる場合ではありませぬぞ兄上! もはや士気はガタ落ち――ならば一度退却し、釣り野伏せの本領を発揮するまでに御座います!」

「そ、そうだな。これは退却ではなく、次なる一手の策なのだ。そうだそうに違いない!」


 歳久の進言により、偽退却という名の本気の退却が始まった。

 当然ザードも追撃を開始し、殿(しんがり)の小隊長を次々と薙ぎ払っていく。


「なぜ逃げる!? 背水の陣で挑むが武士というものだろう!」

「ふ、ふざけるな! 貴様のような奴を相手にしては、命がいつく有っても足らぬわ!」


 追うザード。逃げる義弘。やがて彼らの向かう先に義弘の兄――義久の伏せる草原が見えてくると、弟が来たのを察知した義久がタイミングを見計らった。

 

「……来たか。では手筈通り、義弘が通り過ぎたら一斉に掛かるのだ。よいな?」

「「「ハッ」」」


 この時、義久もザードの実力を見ていれば共に退却しただろうが、当然の如く知らない。

 そしていよいよ鬼気迫る表情の義弘がやって来ると、通り過ぎるのと同時にこう述べた。


「作戦は失敗、退却を提案する」と。


「……へ?」


 当然義久が理解する筈もなく、目を白黒させて立ちすくんだ。

 そこへザードが到着し、彼の前方で必死に逃げる義弘を発見。


「これで終わりだ――ベノムスラァァァッシュ!」


 ドシュドシュドシュ!


「ブホッ!?」

「ゲハッ!」

「ゴフッ!? な、何が起こったんだ……」


 一方的に巻き込まれた感じに義久はブッ飛び、他の兄弟も呆気なくKOされてるのであった。


セレン「ザードのが文字数多い!」

ザード「な、なにやら殺気が……」

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