表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誘われしダンジョンマスター・華麗なる学園生活  作者: 北のシロクマ
第5章:進軍、ダンノーラ帝国!
85/110

キシリトール

「ありがとう! 皆さんのお陰で捕縛されずにすみました!」


 暑い握手と共に何度も頭を下げてくる、人柄の良さそうな商人のオジサン。

 この人が商船団の責任者らしく、取引を終えて帰国しようとしたところを海上封鎖に合い、出港できずにいたのだとか。

 ちなみに握手に応じてるのはモフモフで、強面のせいか私達のリーダーだと思われてるっぽい。


「アンタも災難だったな。つい先日ダンノーラから宣戦布告を受けたところだぜ」

「やはりそうでしたか……。ならば一刻も早く出港するべきでしょうね。しかし……」


 オジサンがチラリと船に視線を移す。

 釣られて見てみればあちこちがキズだらけで、立て籠ってた時に外から傷つけられたんだと思われる。


「航行には問題ありませんが、嵐に遭遇した際に積み荷と乗員が心配です。修復には半日かかると予想され、すぐに出港するのは難しいでしょう」

「なるほどな。どうしやす姉御?」 

「そうねぇ……」


 追い払ったダンノーラ兵が戻ってくる可能性が高いし、このままサヨナラは可哀想よね。

 やはりここは修復が終わるまで護衛してあげるのが無難かな。


「あ、あのぉ……失礼ですが、そちらのお嬢様がパーティのリーダーで?」

「おうよ。何を隠そうダンジョンマスターのアイリ様って言や、姉御の事に他ならねぇ」

「ダンジョンマスターの……あっ、もしかして、魔女の森にダンジョンを構えたっていう()()アイリ様で!?」

「おう、お前さんも知ってやがったか。今のうちに拝んどいた方がいいぜ?」

「ははぁ、ありがたやありがたや……」

 

 私の正体に気付くと、手を合わせて拝みだした。

 いや、神様じゃないんだし、その持ち上げ方は止めてほしい。モフモフもね。


「……コホン。拝むのも結構ですが、船の修復を急がれた方がよろしいのではなくて?」

「おおっと! その通りですな」


 ギンに指摘されたオジサンが慌てて船に駆け込んでいき、乗員達に指示を出し始めた。

 何だか他人に振り回されてる感が強いオジサンだけど、大丈夫なんだろうか……。


『アイリは~ん、東側から敵の新手が接近してくるでぇ。仕掛けてもええかぁ?』


 上空を旋回していたホークが敵を捕捉したらしい。


『いいけど、大将だけを捕えて。ちょっと話したい事があるから』

『了解や。ちょっくら――』

『まぁ待て。ここは妾に任せてもらおう』

『――ってアンジェラはん、他人の獲物を横取りする気かいな!?』

『先ほどの戦闘だけじゃ物足りんのでな』

『だぁぁっ! ちょ、待ちぃや!』


 ドゴン! ズバン! バシュゥゥゥゥゥゥ!


 競い合うような激しい音が聴こえてくる。

 ……大丈夫よね? 大将殺しちゃったりしてないわよね?


『終わったぞぃ。それで(しゅ)よ、この坊主頭をどうするんじゃ?』


 坊主頭? 敵の大将はお坊さんだったり?

 ともかく本人に会ってみよう。



★★★★★



 アイカと共に現場に駆けつけると、まるで空襲を受けたかのような生々しい惨状が平原に広がっていた。

 抵抗したであろう一部の兵がたいへんグロい事になっていて、大将とおぼしきハゲオヤジの首根っこを掴んだアンジェラを、降参したであろう兵達が遠巻きに眺めてる。


「物足りないのは仕方ないにしろ……」

「兵達には最大級のトラウマを植え付けましたね」


 これ以上恐怖を与えるつもりはないので、兵達から視線を逸らしアンジェラの元へ。

 そして何故か真っ黒になって転がっているホークを素通りし、いまだにジタバタしているハゲオヤジの顔を覗き込んだ。


「アンタが大将ね?」

「ぶ、無礼者! 私を誰だと思っておる! ダンノーラ帝国のキシリタンにしてキシリ党党首の大供宗麟(おおともそうりん)なるぞ!」


 捕らわれの分際で威勢のいい奴ね。


「キシリトールだか何だか知らないけれど、アンタは負けたの。分かるでしょ?」

「ほざけ下郎が! 神は――キシリトール様は我々を見捨てたりはしない!」

「…………」


 キシリトールって神様だっけ?


「ねぇアイカ?」

「恐らくですが、海を渡った北大陸に広がるキシリ教という宗教が流れてきたのだと思われます。そこではキシリトールを崇拝しているらしいので。ですがダンノーラ帝国では宗教を禁止しているので、キシリ党と改めグレーの状態で存在しているのではないかと」

「って事はキシリトールって実在するの?」

「それは分かりかねます。それこそ女神クリューネ様にお尋ねされる案件でしょうね」


 実在するかどうかは……どっちでもいいか。


「――っで、アンタは降参しないのね?」

「無論だ。私がお慕いするのはキシリトール様のみ」

「じゃあ仕方ないわ。無益な殺生はしたくないけど……ゴメンね?」

「無論だ。無益な殺生は――って、ちょっと待てぃ! 貴様、私を殺す気か!?」

「だって降参しないんでしょ?」

「無論だ。私は降参なんぞ――いや、待て待て待て! 命あっての物種だ、何でもするから命だけは助けてくれぃ!」

「……キシリトールはどうするの?」

未曾有(みぞう)の危機に馳せ参じないなど神の風上にも置けぬ! だからお助けくだされぇぇぇ!」


 キシリトールが少々哀れな感じがするのは置いといて、まずは一人落ちたわね。

 さて、どうして私が大名を捕えたのか。これには当然理由があって、現皇帝を潰した後にガルドーラへの侵攻を企てないようにさせるためよ。

 後継者が再び攻めてきたら意味がないし、私がダンノーラを支配するなんて面倒な事も御免被りたい。

 その代わり内戦に突入するかもだけど、そこわ割り切ってもらうしかないわ。


「じゃあアンタは殺さないでおくわ」

「かたじけない!」

「但し条件付きでね」

「じょ、条件とな?」


 このまま逃がしても大人しくしているとは限らない。だからキチンとした条件をつけようと思ったのよ。


「今後ガルドーラに侵攻しないってのが絶対条件よ。例え皇帝の命令でもね」

「な!? そ、それは……」


 喉を詰まらせたような苦しい表情を見せてきた。皇帝の意に背くのはよほど不味いらしい。


「皇帝に――信長(のぶなが)様に逆らうなど、恐ろしくてできぬ。お主は知らぬだろうが、あの御方はある日を境に豹変されてしまったのだ」

「豹変って、どんな風に?」

「一言でいえば遊び人と呼ぶに相応しい御方で、朝から晩まで遊び呆けていたために【大うつけ】と陰で(ささや)かれておった。そのため誰もが侮り気にも止めなかったのだが、これが大きな間違いであった」


 まるで後悔したかのように(かぶり)を振ると、(にじ)み出た汗を拭いつつ話を続けてきた。


「どこに忍ばせていたのか分からぬが、突如として大軍を周囲に差し向け、瞬く間に制圧していったのだ。当然油断していた国々は足元を掬われ、ついには前皇帝――前白河(さきしらかわ)様を脅かすほどの規模にまで膨れ上がった。すると二本刀の戦姫までもを味方に取り込み、ついには前白河様の軍を打ち破ったのだ」


 こっちの世界の信長は、怒涛(どとう)の快進撃により一気に皇帝の座を掴みとったらしい。

 まさか信長まで転生を果たしてるとか言わないわよね?


『確かお姉様の世界では、信長の遺体は発見されなかったのですよね? でしたら――』

『転移して来たって言いたいの? でも信長が生きていたのは500年近くも前の事よ。ならとっくの昔に世界進出を果たしてないとおかしいじゃない』

『そう言われればそうですね』


 だいたい生きてたら人間じゃなし、そんな奴が日本に居たとか考えたくもない。

 以上の事から、こっちの信長は別人だと思われる。

 転生者じゃなければ――ね?


「ところで小娘――「アイリよ!」……コホン、アイリ殿、やはり反旗を(ひるがえ)さねばならぬのか?」

「随分な怯えようだけど、そんなに怖いなら私が後ろ楯になってあげてもいいわよ?」

「ほ、本当か!? なら決まりだ!」


 ア、アレ? もっと悩むかと思いきや、案外あっさりね。


「私としても前々から気に入らんかったのだ。なぁにが怪しげな宗教は認めんだ、キシリトール様を何だと思っておる!」


 胡散臭いと思ってるわよ、きっと。

 っていうか、神の風上にも置けないとか言ってなかったっけ? まぁいいけど。


「これからはアイリ殿をキシリトール様の化身として崇めさせていただきますぞ! アイリ様バンザーーーイ!」

「勝手に化身にするな!」


 いっその事キシリトールのお告げとかいって、派手に暴れてやろうかな?


例のごとくですが、大名の漢字が違うのはスルーしてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ