表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誘われしダンジョンマスター・華麗なる学園生活  作者: 北のシロクマ
第5章:進軍、ダンノーラ帝国!
81/110

ワクワク街中探索

「ルミナステル様、アイリ殿よりバッカス改造計画完了の報告が上がっております」

「えっ? もう終わったの!?」


 椅子から転げ落ちそうになったルミルミが何とか表情を取り繕うと、報告に上がった私兵に再確認を行う。

 まだ太陽は真上にすら到達しておらず、昼食の時にでも経過報告を聞こうかと思ってたくらいなのだ。それがまさか朝飯前ならぬ昼飯前で終わるとは夢にも思わなかったであろう。


「はい。是非ともルミナステル様にご覧になっていただきたいと(おっしゃ)られております」

「そ、そう。それにしては随分と早かったようですが……」

「そうですね~。私としてはもう少しお菓子を摘まんでいたかったのに~」


 ルミルミの対面では暇を持て余していたアイナが茶菓子を頬張っており、アイリが心配していた通りになっていた。

 そんなアイナの手をとりルミルミが立ち上がると、目を輝かせて鼻息を荒くする。


「アイリの事だからきっと目に見えた変化をもたらしてるはずよ」

「はい~。昔から器用な妹ですので~、一瞬で軍港に変えるくらい余裕ですよ~」

「フフ、さすがに一瞬で軍港は無理でしょう。けれど軍船の一つや二つは召喚しているかもしれないわ」


 密かにハードルを上げるアイナは真に受けず、船着き場が新しくなってれば有りがたいかな~くらいにしか思っていないルミルミ。

 そこでアイナを伴い邸を出たのだが……


「あら? 今日は随分と人通りが少ないわね?」


 いつもならそこかしこで荒くれ男を見かけるはずが、今日に限っては殆ど見ない。

 それどころか商人や一般人すらも少なく、もしや何かあったのかと表情を曇らせる。

 ――が、それはまったく別の意味で裏切られる事となった。


「あ、見てください~。あっちの方に人が集まってますよ~」

「あっちって……確か北側には海岸があるだけで特に何も――あら? そういえばこの辺りって、北門があったはずだけど……」


 気付けば北門の辺りまで来ていた。

 しかし本来あるべき門が無く、変わりに見た事もない建物が建ち並び、その周辺では多くの人が遠巻きに様子を伺っているようだ。


「教会に服屋、それにマジックアイテムのお店は分かるけれど、このオシャレなお店は何かしら?」


 ルミルミの目に止まったのは、ズバリ言うとカフェテリアである。

 セネカ考案のこの店は、元はアイリのダンジョン――アイリーンが発祥であり、それを知っていたセネカが真似たのだ。


「ああ、良い香り~。これはカフェオレですね~」

「カフェ……オレ?」

「はい~、この【カフェ・セネカ】からのようです~」


 匂いに釣られてアイナが入店する。その後をルミルミも続くと、客の居ない店内をキョロキョロと観察した。


「新装開店? こんなお店は無かったわよねぇ……」

「でも~、とってもオシャレでカワイイですよ~!」


 アイナの言う通り女性をターゲッにしてるのか、ハートを型どった木製テーブルに小動物をモチーフにした椅子の背もたれ、それに淡いピンクやブルーのカーテンが目に優しい。

 ――と、そこへ店の奥から湯気の立つカップをトレーにのせた少女――セネカが顔を出す。


「あ~ダメダメなの。今日はプレオープンだから関係者以外は――」

「あら、貴女は確か……セネカさん?」

「――っと、失礼しましたなの! まさか領主様が一番乗りするとは思わなかったなの」


 ルミルミに気付いたセネカがトレーをテーブルに置き、改めてペコリとお辞儀する。

 よく見ると服装もメイド服であり、これがこの店のスタイルなのだと理解した。


「学園を卒業したらここで働く事にしたの。この服装とウチの魅力があれば、色んな男を落とせて選り取りなの!」


 早くもセネカの就職先が決定したらしい。

 貴族とのコネを模索していた彼女だが、オッサン貴族よりも若くて有望な冒険者もいいかなと思い始めたのだとか。

 そんなセネカの仕切るカフェを出ると、隣に建つ教会の扉を押し広げた。

 すると祭壇の奥で目を(つむ)っていたサフュアがこちらに気付き、優しい笑顔で微笑んで見せた。


「よくいらしてくださいましたルミナステル様。卒業後はこの教会で司祭を勤める事にしましたので、以後もサフュアを宜しくお願い致します」

「そ、そう……なの……」


 どうしたらいきなり司祭になるのかは置いくとして、正面の奥に掲げられた女神クリューネの肖像画が両サイドのステンドグラスから照らされており、集まった庶民が黙々と祈りを捧げていた。

 すでに生活の一部と化しているようで、このままサフュアに任せるしかないだろう。


「ま、まぁ今まで教会はなかったことですし、こちらからもお願いしますわね」

「はい。謹んでお受けいたします」


 教会を後にした二人は、一目で服屋だと分かる店へと入っていく。

 もはや防備とは無関係になりつつあるが、どのような服が売られているのかは興味があるわけで、目につく服を次々と物色していった。


「ふんふん……庶民の服から貴族向けの服、更にはダンノーラでお馴染みの和服まで揃ってるのねぇ」

「あ、これ、私の学校の制服だ~」

「へぇ~、これがアイナさんの――ってちょっと待って。この服、どこかで見たような……」


 アイナが手にしたセーラー服を指して眉間に信者(しわ)を寄せるルミルミ。

 そんな彼女の後ろから、小悪魔っぽい笑みを浮かべたクレアが答えを告げた。


「あ~それね。精霊の衣のレプリカで、セーラー服って言うんだって~」

「セ、セーラー服?」

「そだよ~。アイリが住んでいた所じゃ当たり前のように売られてるんだって~。それに精霊を奉る人達のためにブルセラショップっていう専門店まであるらしいよ~。もうハッピィってばスッゴい人気者ぉ? みたいな感じぃ?」


 クレア――もといハッピィは微妙に勘違いしているが、何も知らないルミルミはそうなんだと頷き、世間知らずなアイナはクエスチョンマークを浮かべる。

 この場にアイリが居なかったために、ブルセラショップ=精霊を信奉する者が集う場所という間違った認識が広がろうとしていた。

 ――が、特に誰も困らないので、アイリが気付いても訂正することはないだろう。


「そゆ事でぇ、この服屋さんはハッピィが仕切りま~~~す! 卒業後はヨロピク~♪」

「……ヨロピク?」


 流れるままにハッピィに押し切られ、固い握手を交わすルミルミ。

 こうなると残り一つのマジックアイテム店も常識を逸脱している可能性が高い。そう考え腹を括ると足を踏み入れた。


 カランカラン! 


「はぁい、いらっしゃ~い――と言いたいところだけど、実はこの店まだ開店してないんだよねぇこれが。オープンするのはあたしが卒業したらってところ――って、ルミナステル様!」


 カウンターで書物に目を通していたトリムがルミルミの顔を見ると、慌てて姿勢を正してペコリと頭を下げる。


「いいのよ楽にして。それより見た事もない不思議な物が多いわね。これ全部マジックアイテムなの?」

「あ、はい! ――と言っても、全部アイリのダンジョンで売られているアイテムなんですけれどね」


 トリムですらもよく知らないアイテムが多く、目録を読んで勉強中である。

 ちなみに店頭に並べられている物は、防犯ブザーや三色ボールペンといったアイリにとっては馴染みのあるアイテムだ。


「そうなの。オープンが待ち遠しいわね」

「はい。ぜひ楽しみにしてて下さい。あ、そういえば、港はもう見ましたか?」

「いえ、これから向かうところよ」

「でしたらきっと驚くと思いますよ? 何せ北から東にかけて、巨大な港湾が出来上がってるんですから!」

「巨大な……港湾?」


 そういえばとルミルミは思い出す。北門周辺がこれらの建ち並ぶ場所だ。

 そこで店を飛び出ると、人集りの出来ている北へと向かう。


「そうよ、確か北側は海岸が広がっているだけだったはず――え?」


 走っていたルミルミが急停止する。

 彼女の視線の先に見えるもの――それは、漁船や商船がひしめく港――ではなく、沖合いに見える高さ数10メートルはあろうかと思われる外壁であった。


「……な、なんなのアレは?」


 いや、恐らくは船の出入りを制限するゲートであろうという事は分かる。

 しかし、その外壁を短時間で造り上げたのが信じられなかったのだ。


「ご覧くださいルミナステル様。これぞ鉄壁の護りならぬ、ミスリル壁の護りです!」


 やや興奮気味のエリオットが得意気に胸を張る。

 よく見れば青白く光る外壁はミスリルに見えなくもない。


「ま、まさか全てミスリルで?」

「その通り! 更にあちらをご覧ください。アレは灯台といって、暗い海を遠くまで照し、敵船団を捕捉できるものです」


 北西の隅――北と西の外壁が交わる場所に、イグリーシアには存在しない灯台が建てられていた。もちろん入れ知恵はアイリである。


「さて、お待たせしました皆様。ルミナステル様がいらしたことですし、いよいよ当バッカスの秘密兵器をご覧にいれましょう!」


 いまだ興奮覚めやまぬエリオットが、集まった民衆に呼び掛ける。


「おい、最終兵器だとよ?」

「そんな物まであるってのか」

「新たな港ができただけでも凄いのに、これ以上何があるんだ!?」


 不安と期待の入り交じった民衆をよそに、ルミナステルも見守る中、ゆっくりとゲートが開いていく。

 しかしてその先に見えたものは!?


「「「うおおおっ!?」」」

「さぁ存分にご覧ください。コレがバッカスの最終兵器、ムサシという名の軍船です!」


 そう、アイリが召喚した二つの軍艦の片方がそこにあった。

 民衆には巨大な何かにしか見えないが、軍船と言われればそうなのだろうと思うしかない。

 ちなみにいまだイグリーシアには軍艦がないため、今後しばらくは軍船と呼ばれる事になるだろう。


「アレが……軍船……」


 想像以上の代物に言葉が少なくなるルミルミ。

 しかしこの後、エリオットの口から更なる事実が明かされる。


「あ、そうそう、東側にも()()と同じものがありますので、どうぞご安心を」

「…………」


 終いには言葉が出なくなった。


アヤメ「あ、あれ? 私の小物ショップは?」

アイリ「あんたが店主になるのは不都合だから却下されたわ」

アヤメ「そんな!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ