動き出す新皇帝
天気も良くて程よい微風が、夏の気温を和らげる学園での昼休み。
それとは反対に、私の心情はどうにも晴れない。
「(ムスッ)」
「どうしたのですかお姉様? あまりご機嫌がよろしくなさそうですが」
「……何でもないわよ」
――と言いつつも、私の視線は中庭で寛ぐリュック達へと注がれている。
芝生に敷いたシートの上で楽しそうにランチタイムって感じに。
「リュック、おかずを交換しましょ。はい、あ~ん♪」
「ね、姉さん、こんな人前で……。それに白米はおかずじゃないような……」
「もうリュックったら、贅沢を言ってはいけませんよ?」
「え、ええ……」
ご覧のようにイトさんは弟が生きていた事に大変な喜びようで、端から見たら仲の良いカップルかと思えるくらいの世話焼きっぷりを発揮していた。
「なるほど。リュックが取られたみたいで面白くないのですね?」
「別にそんなんじゃないわよ」
――と言ったら嘘になるかな? そりゃ今まで私を追いかけてくれていた男子が急に――と思えば多少はモヤっとしてくる。
それでも柱の陰から覗いているアノ二人よりはマシだと思うけどね。
「ぐぬぬぬぬ……。あんな男にイト様が……」
「何よあの女、私のリュックを独占しちゃって……」
以上、アヤメとクレアの現状でした。
「確かお姉様は面白半分で見てみたいと仰ってたではありませんか」
「そりゃ言ったけども……」
だからって、あんなにデレデレしなくたっていいじゃない。
あ~、なんだかイライラしてくる!
「っ!?」ビクッ!
「どうしたのリュック?」
「いや、なんだか殺気が……」
おっといけない。ついつい殺気を飛ばしちゃったわ。
「はぁ……お姉様は贅沢ですね。そもそも姉弟なのですから、目くじらを立てるほどではないかと。」
「分かってるって」
「それに愛情が恋しいのであれば、お姉ちゃんに注いでいただければ――」
「それはもう充分」
寝起きの頬擦りから始まり、お風呂では一方的に体を洗われ、寝る時は頬っぺにキスしてくるという過剰なまでの愛情を注がれ過ぎてるくらいにして。
そして極めつけは、子守唄を歌いだしたらお姉ちゃんが先に寝ちゃったりとかね。
ちなみにアイカが私をお姉様と呼んでいるために、お姉ちゃんもアイカに対して「お姉ちゃんって呼んでね」ってお願いしたらしい。
妹が増えて嬉しいとか言ってた気もする。
「愛情といえば、ルミルミに会いに行くという方法もございますが?」
「それも勘弁」
寝起きの頬擦りから始まり、お風呂では一方的に体を洗われ、寝る時は頬っぺにキスしてくるという――あれ? さっきも同じ台詞を喋ったような……ま、いいか。
あ、ルミルミと言えば、私が洗脳に掛かっていないのを最初から知ってたらしい。
必死に演技している私を見て余計に可愛く感じたんだとか。見事に一杯食わされたわ。
「ところでバッカスは大丈夫なの? 今朝もダンノーラからの刺客が法王を狙ってきたらしいけど」
「いくらルミルミでも偽装している者は見抜けませんよ。当分の間は冒険者か傭兵を雇って強化するしかないでしょう」
こっちもテコ入れが必要かもしれない。
本当はさっさとケリをつけに行きたいところだけど、防衛拠点としての役割を果たしてもらわなきゃね。
「さっそく明日にでも強固な要塞に作り替えてみよう。ちょうど休日だし」
「おや、やる気に満ちてますね?」
「当ったり前よ。散々ちょっかいかけてきてるんだから、新皇帝とやらに目にもの見せてやるわ。アイカはドローンでのマッピング及び偵察をよろしくね」
「了解です。八岐勾玉さえなければドローンに怖いものはありません」
まだ油断はできないけどね。
特にヨシテルの時を止めたヤツが何者なのかを探らないと。
★★★★★
アイリ達の生活に変化が訪れていた頃、ダンノーラ帝国でもまた新たな動きを見せようとしていた。
新皇帝の居城では多くの配下が集められ、彼らの視線は上段の間で肘をついている主君へと向けられている。
そんな中、配下の一人が重々しく面を上げると主君への上申を行った。
「殿、ご存知の通り二本刀はいずれも討ち取られ、法王に封じていた前皇帝はガルドーラへと亡命しました」
「…………」
「差し向けた忍びも一部は捕らえられ、大半は死亡したものと見て間違いありません」
「…………」
「法王を連れ戻しに向かわせた二名も音信不通、忍び四天王の地月も同様で御座います」
「…………」
「また、ガルドーラの国家主席からは侵略行為に当たるとして、一連の流れの釈明をせよと迫っております」
「…………」
「両国の緊張は極限まで高まっていると言っても過言ではなく、もはや武をもって答えるしか御座いませぬ。殿、すぐにでもご決断を!」
「殿!」
「殿ぉ!」
上申した男に続き、他の配下も声を上げた。
彼らの主張は戦いによる決着であり、全面戦争を望んでいるのだ。
そしてこれまで黙って聞いていた新皇帝がついに口を開いた。
「で、あるか……」
肘をつくのを止め改めて姿勢を正すと、上申している男に向き直る。
「瞬く間にダンノーラを手中に収めた殿であれば、ガルドーラを攻め落とす事など容易いでしょう。すでに兵の訓練も終え、出陣できる準備は整って御座います」
「ふむ……では今一度問おう。お前達、この儂に天下人になれと申すのだな?」
「勿論です!」
「ダンノーラが強固な国になったのも殿のお力によるもの」
「イグリーシア全土を支配する日も遠くは御座いますまい!」
「殿の名を世界に轟かせましょうぞ!」
誰もが口を揃えて新皇帝を持ち上げる。
これに気をよくしたかどうかは定かではないが、新皇帝はウンウンと頷くと徐に立ち上がり……
「ならばついてくるがいい。これより我がダンノーラ帝国は、魔導国家ガルドーラに対し宣戦布告を行うものとする!」
「「「おおおっ!!」」」
後日、ダンノーラより帰還した使者により、宣戦布告がなされたのを国家主席にも伝わるのであった。
これにて第4章は終了です。
第5章は戦国武将が大量に……な予感。




