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ダンノーラ脱出!

 すっかり日も落ち、通りを行き交う人達も(まば)らになり始めると、静けさと共に招かれざる客もやって来るというもの。

 タイミングを見計らったかのように宿を取り囲んだ輩が一般人であるはずがなく、やれやれといった感じにモフモフが口を開く。


「近付かれるまで気配を感じなかったが……お前の仲間じゃねぇよな?」

「ないな。仲間であったならば包囲なんぞ不要だろう」


 分かってはいたが、モフモフからの問いかけによるカゲツの返答はNOであった。


「やはり追手ですか。できれば事を荒立てずに帰還したかったのですが、やむを得ませんね」


 アイリからは極力殺さぬよう言われていたがそれは可能な範囲での話であり、自分たちの命を最優先するようにとも言われているのだ。


「たった今、他の眷族に脱出のサポートを依頼したッス。船は諦めるとして、一旦は町を出るッスよ」

「あら、クロのくせに手際が良いですこと。では強行突破と行きましょうか」

「っしゃあ、先頭は俺に任せろ!」

「はいはい。こういう時、脳筋の貴方は実に頼もしいですわ」


 宿の主人には予定が変わったと伝え、足早に宿屋を後にする。

 人目に付くのを避けるために裏通りへと出ると、待ってましたとばかりに複数の黒装束に取り囲まれた。


「そちらから出てきてくれるとはありがたい。おとなしくヨシテルを引き渡すのなら命だけは助けてやろう」


 鎖鎌(くさりがま)を手にした黒装束が引き渡しを要求してきた。

 声からして女のようだが、恐らくはリーダー格と見て間違いない。


「ケッ、わざわざ連れ出したもんを返せってか? 寝言は寝て言えアホんだらがぁ!」


 ゴツン!


「「ぐがっ!」」


 モフモフが先頭で突っ込むと、立ち(ふさ)がった二人の首根っこを掴み、両者の頭を打ち付けた。

 これにより包囲に穴が開き、再び逃走を開始する。


「ヘッ、朝まで寝てろってんだ!」

「お休みなさ~い」




「はっ!? ――な、何をしている、さっさと奴らを追わないか!」

「「「承知!」」」


 遠ざかる五人の背中を見ていたリーダーがハッとなり、透かさず追うよう命じる。


「クッ……この風囮(ふうか)を甘く見るなよ!」


 包囲しつつも簡単に逃げられた事に苛立ちを募らせ、拳を強く握りしめたリーダー格――風囮が次なる作戦に出ようとしていた。



★★★★★



「逃がさぬ――忍法斑蜘蛛(まだらぐも)!」


 シャーーーッ――ズバン!


「何!?」

「へへーん、そんな糸屑じゃ俺を拘束なんてできないッスよ――カオスボール!」


 シュ…………ボム!


「グァァァ!」


 拘束から逃れたクロが闇魔法を放つと、黒装束の一人をドロドロと溶かしていく。

 それを見ていた他の黒装束が、舌打ちしつつも焦りを募らせる。


「チッ、また一人やられたか……」

「そろそろ諦めたらどうだ?」

「ほざけ裏切り者め! 我ら忍びの面汚しは生かしてはおかぬ! 食らえ――忍法風柱(かぜばしら)!」


 抜け忍であるカゲツに怒りを向けると、風の刃を(まと)った砂嵐を放ってきた。


「フッ、忍び四天王の火の使い手である俺に風属性で挑むとは愚かな。身の程を知れ――火球(ファイヤーボール)!」


 ドシューーーッ!


「何!? 風を突き抜け――グハッ!」

「属性による優劣だ。ガルドーラで得た魔法知識は伊達ではないぞ?」


 最後の一人を撃破したところで速度をおとし周囲を見渡す。

 気付けばさっきの港町すら見えないところまで走ってきたようで、すぐ横の街道以外には草原が広がるのみだ。

 敵影は見当たらず、一応は危機を脱したと思ってよいだろう。


「なんでぇ、もう終わりかよ」

「よいではないですか。過剰に群れて来られても面倒なだけです。後は救援が来るのを待ちましょう」


 物足りないとばかりにモフモフが横になると、ギンもテキトーに腰を下ろす。

 クロとカゲツも周囲を警戒しつつ腰を落ち着け、アイナはヨシテルを抱きよせ頬をつつき始めた。


「フフ、可愛いわね~。キミはホントに15歳なの~?」

「キャキャ!」

「あらあらそうなの~」

「あのぉ、アイナさん。ヨシテルの言葉が分かるんスか?」

「それは分からないわ~。テキトーに頷いてみただけ~」


 ズルッ!


 クロと一緒にヨシテルもガクリと肩を動かした気がするが、恐らく気のせいだろう。


「ヴゥヴゥ……」

「あら~、急に泣きそうな顔をしてどうしたのかしら~?」


 ヨシテルが何かを訴えている気がした。

 しかし残念な事に、先ほどのやり取りの通りにアイナには一切伝わらない。

 そこでヤレヤレといった感じにギンとクロが覗き込むと、何となく理解することができた。


「なるほど。――アイナさん、口元に手を寄せているのが分かりますか?」

「ええ~。変顔で遊んでいるんですよね~?」

「いや違うッスよ……。恐らくミルクが欲しいんだと思うッス」

「なるほど~。頭が良いのね二人共~」


 いやそれほどでも――と思いかけたが、どう考えてもアイナが鈍いだけである。


「哺乳瓶なら持ってるッスから、これを使ってほしいッス」

「準備がいいのねクロちゃ~ん。それじゃあいっぱい飲みましょうね~♪」

「キャキャキャ!」


 ミルクで正解だったらしく、早く寄越せとばかりにヨシテルがバタつく。

 さっそくアイナがミルクを与えるが……


「ブフッ! ブキャ! ヴゥヴゥヴゥ!」

「あら? どうして飲まないのかしら~?」

「ちょ、ちょっとアイナさん、何をやっているのですか!?」

「お、落ち着くッスよアイナさん、鼻に入ってるッス!」

「あら~」


 どうやらアイナは手先も不器用らしく、鼻からミルクを飲ませようとしていた。


「クロ、代わってあげなさい」

「分かったッス」

「ングング……」


 クロに代わった事により、ヨシテルはミルクを飲み始めた。いまだ鼻の中が痛いだろうが、しばし我慢するしかない。


「おかしいな~。どうして私の時は飲んでくれなかったの~?」


 ボソリと(つぶや)くアイナに「鼻からは飲まねぇよ!」というヨシテルの抗議めいた視線が突き刺さるが、残念な事にアイナに伝わった様子はない。


 ムクリ


「……誰か来やがるな」


 不意にモフモフが立ち上がる。

 何者かの気配を察知したようで、人影の見えない草原の先を注視した。


「……一人か?」

「一人っちゃ一人だな。だがその後ろを複数が追ってきてるぜ」


 モフモフによると、何者かに追われた一人がこちらに向かって来るのだとか。

 やがてその一人の姿が見え始め、こちらに気付くと助けを求めてきた。


「た、助けて下さい旅の御方! 怪しげな連中に追われているんです!」


 息を切らしながらも現れたのは、どこにでも居そうな町娘だ。


「待ちやがれ女ぁ!」

「俺達から逃げられると思うなよ!」

「ヒッ!?」


 町娘を追ってきた強面の男達も現れ、娘はモフモフの背中へと隠れる。


「おうテメェら、おとなしくその女を寄越しな!」

「でなきゃ痛い目みるぜぇ!?」


 ここは当然拒否するところ……


「ああ、いいぜ?」

「「「……へ?」」」


 男達も町娘も、目を白黒させて立ち尽くす。この流れで要求をのむとは思わなかったのだろう。


「ほら、煮るなり焼くなり好きにしな」

「ちょっ!?」


 町娘の襟首を掴み、そのまま男達の方へと押し付ける。

 男達が困惑し始めたところで、ニヤリと笑ったモフモフが真相を突き付けた。


「女、テメェの注意は最初からヨシテルに向いてたぜ?」

「!」

「おかしいよなぁ? 初対面のくせにヨシテルを気にするなんてよぉ? 追ってきてる男達にゃ気にもとめねぇで、こんな赤子がそんなに気になるってか?」

「…………」


 そう、最初からおかしかったのだ。夜中に町娘が追われている事もそうだし、誰もいないであろう草原をまっすぐこちらに向かって来たのはあまりにも不自然過ぎた。


「バレてしまっては仕方ない――お前達!」

「「「おぅ!」」」


 スチャ!


 町娘の正体は、港町で遭遇した黒装束のリーダーであった。


「忍び四天王である風月(ふうげつ)の愛弟子にして風囮――いざ参る!」


 ガキン!


 騙し討ちに失敗した風囮がクナイを振るうも、モフモフのドスが簡単に受け止める。


「……やるな。殺すには惜しい奴だ」

「バカが。テメェの動きに合わせてやってるだけだ」

「フン、強がりを……」

「だったら見切ってみろや、俺の動きをよぉぉぉ!」


 シュン!


「き、消えた!?」

「後ろだよノロマが!」

「んな!?」


 後ろに回り込んだモフモフが首にドスを突き付けていた。


「周りを見な。お仲間は全員夢心地だぜ?」

「クッ……」


 他の黒装束はギンやクロ、それにカゲツによって無力化されていた。

 そんな状況の中、風囮は肩を振るわし……


「ククク……フハハハハハ!」

「あん? 何がおかしいんでぇ?」

「この私に最後の手段を使わせた事――誇りに思うがいい」

「……何?」


 意味深な言葉を口走る風囮に、モフモフの脳裏に嫌な予感が(よぎ)る。

 風囮を突き飛ばして距離を取ると、警戒を強めた。

 すると次の瞬間!


 ビュゥゥゥゥゥゥ!


「た、竜巻だと!?」


 頭上から巨大な竜巻が迫ってきたのだ。


「ま、まさかコヤツ!?」

「ククク、我が身を犠牲にして放つ事ができる究極の奥義――風神(ふうじん)!」


 青ざめたカゲツは知っていた。忍びの中には命と引き換えにして放てる究極の奥義が存在する事を。


「不味いッスよアニキ! このままだとアイナさんが!」

「クソガッ!」


 モフモフ達はともかく、アイナやヨシテルが奥義を食らえば一溜りもないだろう。

 竜巻は間近まで迫っており、回避には間に合いそうにない。

 ならば身を呈して護るしかない――



「甘いでぇ――ハリケーンやぁ!」


 ビューーーッ バチバチバチバチ――バシュゥゥゥゥゥゥ……


「「「ホーク!」」」

「お待たせやで皆の衆!」


 間一髪ホークが現れ、風神を消し飛ばした。

 人化を解いた状態のため、ハリケーンの威力は相当なものだ。


「そ、そんな……我が究極奥義……が……」


 奥義により力を使い果たした風囮が力なく横たわった。

 後はホークの背中に乗って帰還すれば、晴れて任務完了となる。


「遅ぇぞホーク! 来るなら早く来やがれってんだ!」

「なんやとコラ! ワイをパシらせといてその言いぐさかいな!」

「最後まで喧しいですわね貴方達は……」


 ともかく、これにてダンノーラを脱出する五人と一人と一匹。

 しかし帰還後、アイナの驚くべき素性が彼らを待っていた。



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