八岐大蛇VSアンジェラ
ペサデロの念話を受け、現場へと急行した私と法王さん。だけど来る途中で三種の神器である二つ――八岐勾玉と八咫烏鏡が勝手に飛び出してったのよ。
そしたら法王さん「あの魔物が復活しつつある!」って言うもんだからさぁ大変。到着したらリュック達が見上げている先で、三種の神器を吸収した魔物が復活してたってわけ。
「ごめんよアイリさん。僕が関わったばっかりに、魔物が復活する羽目になったんだ」
「何言ってるの、リュックが無事だったんだからそれでいいわ」
「そうだぞリュック。手離せって言ったのは俺達なんだし、お前の責任じゃねぇよ」
「このバカの言う通りよ。責任はあたし達全員にあるわ」
「バカは余計だ!」
リュックがケガをしているようだけど、グラドとトリムは無傷みたいだしね。
「……しかし代償は大きい。リュックを助けた代わりにアレが復活した」
「アレはヤバいぜアイリ。俺たち――夢の翼でも、単独じゃ無理だ」
「……右に同じ」
ペサデロにレックスとユユも無事だった。
学園長も無事のようだけど、他のメンバーは別行動かな?
「すまなんだアイリ殿。儂が二本刀を止められなかったばっかりに、ガルドーラの地で復活するのを許してしまった……」
「それを言うなら儂にも非がある。もっと早くにあの二人を倒しておれば……」
法王と学園長が悲痛な表情を見せる。
何せアレのステータスが――
名前:八岐大蛇 性別:???
年齢:??? 種族:大蛇
備考:かつてダンノーラ帝国で恐怖を撒き散らしたSランクの魔物。あまりに強すぎたため、多大な犠牲を払った上でようやく封印できた。しかし、本日見事に復活をはたした。
――って感じで驚きのSランクなのよ。
しかも八岐大蛇って、イグリーシアだと実在したというね……。
「まぁ、済んでしまった事は仕方ないわ。そんなに絶望した顔をしなくても、要はアレを倒せばいいんでしょ?」
「「「いやいや!」」」
一斉にパタパタと手を振られた。
その反応も分かるけども、倒さなきゃマジで国が滅ぶわよ?
「「「聴こえたぞ小娘。我を倒そうなどいう幻想をいだくとは、まっこと愚かな極。その身をもって愚かさに気付くがよい」」」
「フン、なぁにが愚かさよ。アンタこそノコノコと復活したことを後悔しなさい、この蛇野郎!」
「「「お~の~れ~ぇ、我を下等な蛇と愚弄するか!? 許さんぞ貴様ぁぁぁ!」」」
蛇に蛇と言ったらキレられた。沸点がいまいち分かんないわね。まぁいいけど。
「おーーーい、みんな無事かーーー!?」
あ、遠くからリュースが走ってきた。アヤメとイトさん、それにクレアも無事と。
それから……あ、レックスの仲間も無事だったみたいね。
「「「フッ、ちょうどよい。同族が滅び行く姿をそこで見ているがいい」」」
ヤバっ! この蛇野郎、リュースたちの方に向けてブレスを放とうとしてる!
「お願い――アンジェラ!」
「「「死ねぃ虫ケラ共がぁぁぁ!」」」
リュースたちの壁になる場所へとアンジェラを召喚した。
すると直後、八つの首から同時にブレスが放たれる。
「ん? なんじゃここは?」
「――ってアンジェラ、前よ前前!」
「前?」
ゴォォォォォォ!
「うわっぷ――」
キョトンとした表情のまま、アンジェラがブレスに飲み込まれた。
「――って、マズったぁぁぁ!」
多分リュースたちは大丈夫だろうけど、人化したアンジェラがまともに受けちゃったわ!
「「「フハハハハ! どうだ虫ケラ共、骨すら残さず焼き尽くしてくれたわ。今さら狼狽えたところでもう遅いぞ!」」」
いや、そっちの心配はしてない。問題は人化ヴァージョンで召喚したって事よ。
本当はバハムート形態で召喚するつもりが、いつものくせでそのまま召喚しちゃいましたって感じで。だから予想以上のダメージがあったはず。
「「「さぁその目に刻みつけ――ろ?」」」
八岐大蛇が動きを止める。
アンジェラを始め背後のリュース達も無事とあっては、目を丸くするのも仕方ない。
「あ、あれ? 生きてるぞ?」
「はい。確かに生きておりますね」
「イト様もご無事で!」
「ハッピィも生きてるよ~。この人が盾になってくれたみたい~」
「「「アンジェラ先生!」」」
アンジェラを知っている皆の声が不安げな声でハモる。
でも大丈夫。何せ竜の鱗はめっちゃ硬くて、魔法やブレスすら通さないのよ。
証拠にほら、血塗れのアンジェラが――って呑気に解説してる場合じゃなかった!
「アンジェラ、エクストラポーションよ!」
ダメージを回復させるためにポーションをアンジェラの方へと放り投げた。
パシッ!
「…………」
あれ? 無言で叩き落とした? しかも何か怒ってらっしゃるような……
「主よ、突然召喚された挙げ句にブレスをブチまけられた妾に何か言う事はないかのぅ?」
あ~やっぱり怒ってる。
でも私は悪くない。悪いのは――
「ごめんねアンジェラ。そこにいる八岐大蛇とかいう奴がね、どうしてもアンジェラみたいなサンドバッグが欲しいって駄々こねるもんだからつい……」
「「「……え?」」」
「ほほぅ、妾のようなサンドバッグとな……」
これでOK。怒りの矛先が蛇野郎に向いたわ。
「いいだろう。妾が本物のサンドバッグとやらを教えてやろうではないか」
「「「あ、あの……」」」
うっわ~、物凄くドス黒いオーラがアンジェラから発せられてる。これには蛇野郎も引いちゃってるわね。
「な、なぁアイリ、アンジェラ先生を止めなくていいのか?」
「そうだよアイリさん。いくらアンジェラ先生でも、あんな化け物が相手じゃ……」
そういえばレックス達――夢の翼はもちろん、リュック達も知らなかったわね。アンジェラの本当の姿を。
「よく見てなさい二人とも。私が召喚したアンジェラの真の姿を」
「「真の姿?」」
皆の視線をアンジェラへと向ける。
そして注目を浴びる中で人化を解き、彼女本来の姿――バハムートへと変化を遂げた。
「「「な、何だその姿は!? 貴様はいったい何なのだ!」」」
「見て分からぬか愚か者。妾こそが竜の中の竜――バハムートなるぞ」
「「バ、バハムートだと!?」」
光沢のある濃い紫色の鱗が気高さを物語っているバハムートのアンジェラ。
そんなアンジェラにギロリと睨まれ、さすがの蛇野郎も怯んでる様子。
「アンジェラ先生が……」
「バハムート……」
レックスとリュックが呆然と見上げる。
そうよ。そのバハムートの特訓を受けてきたのよ貴方達は。
「ア、アイリ殿、まさかコヤツは……」
「キミの眷族だというのかね……」
法王さんと学園長も、信じられないものを見てるかのように棒立ちして見上げる。
何せバハムートはSSSランクの魔物よ。敵対したら最後、絶対に助からないと思ってもいいわ。
ブシャァァァッ!
「「「グワァァァァァァッ!」」」
「まずは一本……ふむ、中々美味であるぞ?」
アンジェラに首一つを食われ、七岐大蛇に降格した蛇野郎。けれどこのまま大人しく食われるはずもなく……
「「「よくもやってくれたなぁ! 倍にして返してくれる!」」」
七つの首を器用に動かし、アンジェラを締め上げる。これにはアンジェラも悲鳴を――
「なんじゃそれは? その程度では指圧にすらならんぞ?」
――上げませんでしたね、はい。もちろん私は知ってたわよ?
「ぐぬぬぬ……、ならばこれだ! 至近距離なら防げまい!」
ゴォォォォォォ!
再びブレスを吐きつけてきた蛇野郎。いくらアンジェラでも、ゼロ距離なら回避はできない。
けれど今のアンジェラは人化を解いたドラゴン形態よ。当然防御力も上がってる訳で……
「ほほぅ、中々の威力じゃ。皮膚の表面が焦げてしもうたわぃ」
「「「そ、そんなバカな! 我のブレスに耐えきれるはずが……」」」
「お主の目は節穴か。現に妾が耐えてるではないか」
うん、予想通り大したダメージにはなってないわ。
「さて次は妾の番じゃな――フン!」
ブチブチブチブチ!
「ギョワゥエオピギョジャブァァァ!?」
アンジェラが拘束を解く。すなわち、蛇野郎の首が全て弾け飛ぶことを意味するわ。
これには言葉にならない悲鳴を上げてる。
「さて、仕上げじゃ」
ブン!
すでに首無大蛇と成り果てた蛇野郎を、空高く放り投げた。
「冥土の土産じゃ。本物のブレスを味わうがよい」
ゴバァァァァァァ!
「グア"ーーーーーーッ!」
はいお粗末様。蛇野郎は骨も残さず消滅したわ。
「フン、妾をサンドバッグにしようなど一億年は早いわ!」
サンドバッグのくだりは捏造なんだけど、丸く収まったし別にいいわよね?




