再会?
「洞窟……洞窟っと……」
ルミナステルと私兵、ついでにアイカをバッカスに送り届け、北西にある岬へとやってきた。黒装束から得た話ではここにある洞窟を拠点にしてるって事で、三人の眷族と一緒に探している最中よ。
「どう? 見つかった?」
「いや、それらしき洞窟は見当たらないでござるな」
「ないですね~」
「右に同じや」
捜索にあたっていた眷族達が戻ってきた。
ザードには海岸沿いを、セレンには内陸部を、ホークには上空から探してもらったんだけど、結果は空振り。場所は間違ってはいないと思うんだけどなぁ。
「他に岬と呼べるような場所はないから、ここで合ってるはずよ。そうよねホーク?」
「せやな。極端に飛び出てる地形っていやここくらいやで」
「実は~、ホークが鳥頭で~、見逃してる可能性が~」
「まてや。わいが鳥頭なのは認めるが、見逃しはあり得へんでぇ!」バッサバッサ
ワイルドホークなだけあって、鳥頭は認めるんだ……。
「でしたら~、黒装束が~、虚言した可能性が~」
「それもないのよ。アイカがドローンで探ったから間違いないわ」
さすがにドローンの読心スキルを掻い潜られたらお手上げだけど、その可能性は100%ないと思っていい。
「そういうセレンはんはどうなんや。実は捜索をサボってたんやないか?」
「真面目に探しました~~~! もぅプンプンです~!」
「い、いや、年齢の割にその反応はキツイんやが……」
ドゴッ!
「……今なんつった? あ?」
「すんまへん……(メッチャ痛いで)」
ホーク、いい加減セレンに年齢の話はしちゃダメだって覚えなさい。
「とにかく、もう一度探してみましょ。今度はホークが陸で、セレンが上空からね」
「はい~♪」
「了解やで」
それから一時間ほど経過するも、やっぱりさっぱりもっさり見つからない。もしかして聞き間違い? 確かに北西の岬って言ってたはずだけど……。
「おっかしいわねぇ……」
「これだけ探してないとなれば、違う場所を探すべきでは?」
う~ん、間違った場所を探してても時間の無駄だし、ここはザードの言う通り移動すべきかな?
「それとも~、騙されたんでしょうか~」
「まっさかぁ! セレンはんの鯖読みじゃあるま――」
ドゴォォォッ!
「永遠の眠りにつかせんぞコラ」
「ず、ずびばぜぇん……」
セレン、グーで殴っちゃダメよ。アンタ一応セイレーンなんだから、イメージは大事にしなさい。
「ほらほら、遊んでないでもう一度探すわよ。今度は違う場所――」ズルッ!
ズテン!
「いったーーーぃ!」
「アイリ殿、大丈夫で御座るか?」
「イタタタ……。足場が悪かったみたいね。潮が引いた場所だから滑りやすくなってたのよ。もう大丈夫だから」
ったく、拠点は見つからないしスッ転ぶし、今日はツイてな――あ、そうか!
「そうよ、潮の関係よ!」
「どういう事で御座る?」
「ほら見て、さっきよりも潮が引いてるでしょ? 水位が下がらないと入れない場所がどこかにあるはずよ」
「「「おおっ!」」」
朝よりも目立つ岩肌を指して確信する。腐っても忍びだもの、満潮の間は侵入を防げるとか考えててもおかしくないわ。
「んじゃあもう一度海沿いに探すんか?」
「いや、その必要はなさそうで御座る」
岬の下を覗き込んでいたザードが、ポッカリと口を開けている洞窟らしきものを発見した。
最初から真下に有ったとか、それこそ灯台もと暗し――って感じね。
「行きましょ」
ジャリッジャリッジャリッ……
微妙に潮風が入り込む洞窟へと足を踏み入れる。中は当然のように真っ暗で、波の音と足音だけが一定のリズムで聴こえるのみ。
「さすがに暗いわね――トーチ」
入口から遠ざかるにつれて光が届かなくなるので、光魔法で光源を確保。奇襲されてもこれならバッチリよ。
ジャリッジャリジャリッジャリッ……
ん?
「ストォップ!」
「な、なんやアイリはん。どないしたんや?」
「ちょっと気になる事が……ね」
私たち以外の足音が聴こえた気がするのよねぇ。
『ここからは念話で言うけど、何者かが近くに潜んでるっぽいわ。しかも上手い具合に気配を抑えながらね』
『なんと! 主殿でも感知できない曲者と申されるか?』
『ううん、気配は微かに感じるのよ。ただ存在が薄い……って言えばいいかな? 多分私以外だとまともに感知できないと思う』
しかもこの気配、前にも感じた事のあるような気配だし、いったいどこで……。
とにかく正体を暴いてやろうじゃない。
『みんな、この先は直線になってるから、一気に突き当たりまで走って』
『承知』
『は~い~♪』
『了解や』
ザッザッザザッザッザッザザッ……
うん。やっぱり違う足音が混ざってる。しかも間近に聴こえるって事は、ピッタリと張り付いてるって事?
どうやら普通の生命体じゃなさそうね。
『開けた場所に出たで。しかもご丁寧に松明まで灯されとるわ』
『しかし行き止まりで御座るぞ』
通路を抜けると、ちょっとした広間みたいな場所だった。
但し、拠点と言うには岩肌だらけで殺風景で、もしかして雑魚寝する場所だったり?
でもってここで行き止まり――っと。ま、それならそれで仕方ないし、正体不明の何者かをどうにかしよう。
「さっきからコソコソと付けてる奴、居るのは分かってるんだから出て来なさい!」
ズズズズ……
「グガァァァァァァ」
「「「!」」」
言葉が通じたのか、はたまた追い詰めたとでも思ったのか、私達の影から黒い塊が浮かび上がってきた。
そして黒い塊は人形となり……
「――ってコイツ、昨日戦ったマサカドって奴じゃない!」
「アイリ様の~、お知り合いで~?」
「昨日知り合ったばかりだけどね」
倒したはずなのに復活するとか、さすがはアンデッドと言うべきか。
「どういうカラクリか知らないけど、感動の再会って事で歓迎してあげて」
「畏まり~、ヴァーチカルショット~」
気の抜けた声の割には強力な水光線がマサカドに迫る。これを受ければ一撃で――
ズズズズ……
「えっ!?」
「影に~、入っていきます~」
透かさず影に入り込み、避けられてしまった。厄介なやつね……。
「そこかぁ!」
ザクッ!
「ぬぅ、逃したか……」
入り込んだ影にザードの剣が突き刺さる。けれど一歩遅く、手応えはなさそう。どこに消えた?
ズズズズ……
「くっ!」
ガキン!
「アイリはん!?」
「主殿ぉ!」
いきなり足元から現れ斬りかかってきた。
「こんのぉ、危ないわね!」
キィィィン――ゲシッ!
「グガァ!」
剣で捌きつつ蹴り飛ばして距離をとった。
すると再びマサカドは影の中へ。
「こうなりゃ自棄や。影に向かって撃ちまくるでぇ!」
「いきますよ~、スプラッシュウォーターボール~」
ホークが風の刃を、セレンが水球を影に向かって放つ。けれど影に入ってる間は無敵なのかダメージを受けてる様子はなく、何食わぬ顔で浮かび上がってくる。
いや、骨だから表情は分からないけどね!
「グガァァァ!」
ドゴォ! ドガァ! ゴズン!
「ちょ、コイツ無差別に暴れ出した!」
ゴゴゴゴ……
あちこちを斬りつけるせいで、洞窟か崩れそうじゃない!
「このままでは危険極まりない。我が全身全霊をかけてマサカドを――グッ!?」
「どうしたのザード!?」
突如としてザードが膝をつく。
「ヤ、ヤバイでアイリはん! こりゃあん時の現象――グググ……」
「ア"ア"ア"ア"~~」
「ホークとセレンまで!?」
これってまさか!
「ノコノコやってきたかアイリ」
「清姫!」
例の如く勾玉を手にした清姫が天井から見下ろしていた。
「せっかく来てくれたのだ、妾からの施しをくれてやろう。この洞窟と共に消えるがいい――飛翔六波斬!」
マズイ! こんな場所で大技を出されちゃ洞窟が崩れる!




