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三種の神器

「お時間をいただきありがとう御座います。どうしてもアイリさんにはお伝えしようと思いまして」


 黒装束の自白を元にバッカスに向かおうとした矢先、不意にイトさんから話があると言われ、アイカとアヤメを含む4人でイトさんの部屋へと集まる。

 ルミルミもついて来ようとしたけれど、聞き耳立てたら義妹としての縁を切ると言ったら泣く泣く引き下がった。


「このタイミングでって事は、リュックに関わる内容なのよね?」

「はい。本来なら他言は控えねばならないのですが、そうも言っていられません。もしかすると取り返しのつかない事態になりかねませんので、せめてお二人にはと思い……」


 恐らくはリュックの命に関わる――そう直感し、ソファーに腰を降ろすと黙って頷くことで続きを促した。


「覚えてらっしゃいますか? 頼姫が口走った琉宮(りゅうぐう)(つがい)という言葉を」


 もちろん即座に頷く。何しろリュックに異変が起こった直後だったからね。アレがどういった現象なのかは知っておく必要があるわ。


「琉宮の番とは、とある凶悪な魔物を封印するための人柱だと言われており、その子孫がリュックさんだと判明したのです」

「判明……。それってリュックが時雨叢雲(しぐれむらくも)とかいう剣を拾った時のアレ?」

「はい。あの現象はまさに、琉宮の番が三種の神器に触れた時のものでした」


 なるほど。そういえば八岐勾玉(やたまのまがたま)を拾った時も同様の反応をしてたっけ。


「イト様はもちろん私も驚いたが、それは頼姫も同じだったはずだ。そしてここから先が肝心なのだが――」



 パリッペリッパリッペリッ!


「「「…………」」」

「? ふふきをほうほ(続きをどうぞ)?」



 スパン!



「アタッ!?」

「この非常時に煎餅食べるなっての!」

「仕方ないじゃありませんか。スイーツがなかったのですから」

「しかも言い訳にすらなってない!」


 それにこの部屋に有ったって事は、イトさんのおやつじゃない。


「アイカさんって、肝が据わってらっしゃるのですね……」

「いや、食い意地はってるだけなんで気にしないでください」


 アイカをの頬張っていた煎餅を取り上げると、やれやれといった感じにアヤメが続ける。


「……でだ。琉宮の番には特殊な性質が受け継がれていて、三種の神器を身につけると劇的な身体変化をもたらすと言われている」

「劇的……って、ステータスがアップするとか?」

「それもあるが、封印されし魔物がその身に宿り、乗っ取られてしまうらしい」


 それはマズイわ。もしリュックの身体が乗っ取られてしまったら、最悪はリュックを倒さなきゃならなくなる。


「場合によっては覚悟を決めていただきたいのです。我々の手でリュックさんを仕留める覚悟を」


 イトさんが真っ直ぐに私を見据えて訴えてくる。目を見れば冗談ではないのが分かるけど、それでも私はリュックを助けたい。


「一つ質問。もしもリュックが乗っ取られたとして、魔物を追い出す事はできないの?」

「できなくはありません。リュックさん自身が抵抗すれば、可能だと思われます」


 あれ? 極めて難しいとか絶対ムリとか言われると思ってたら、意外にも簡単にできるっぽい。


「あのぉ……それなら追い出した魔物だけ倒しちゃえばよくない? そうすればリュックは助かる――」

「それは無茶です! かの魔物は万単位での犠牲者を出したほど凶悪な存在なのですよ? それを倒せるのなら封印なんかしません!」


 だからって、リュックを見捨てるのはあり得ない。


「残念だけどイトさん、私にはリュックを殺せないわ」

「……どうしてもですか?」

「どうしても」

「……この国に災いがもたらされても?」

「何が何でもよ」


 最悪はリュックを人柱にしようとするイトさんと、意地でも助けようとする私とで真っ向からぶつかり合う。

 そんな私達二人をアヤメが不安そうな表情で交互に見る中、ピリピリとした緊張感が部屋全体に広がり、やがて音として響きそうなくらいの……



 カリッ、カリカリッ、カリカリカリッ!



 スパン!



「な、何をするのです! わたくしの至福の時間を邪魔するのですか!?」

「こんな時にかりんとう食べてるんじゃなーーーい!」


 しかもそれ、絶対にイトさんのおやつよね!? どっから見つけ出したのよ!


「……やはりアイカさんは肝が据わってらっしゃいますのね。正直羨ましいわ」

「失礼ながらイト様、そこは羨んではいけないのでは……」


 うん、そこだけはアヤメに賛成する。


「フフ、なんだかわたくし一人が片意地を張ってるみたいになりましたね。ですがアイリさんのお気持ちは分かりました。最後まで希望を持ちリュックさんをお救いするため、わたくしも全力を尽くします。アヤメさんも、それでよろしいですね?」

「勿論です。不肖アヤメ、どこまでもイト様にお供します!」


 なんとか押し通した。仮にイトさんが納得しなくても、強引にリュックを助けるつもりだったけどね。

 後はリュックの居場所なんだけど……


「お姉様、拠点三ヶ所を同時に襲うのはどうでしょう? 恐らくいずれかでリュックが捕らわれているはずです。同時襲撃なら向こうは対処できないでしょう」

「賛成だ。手下の多くは捕らえたのだし、連中にも余裕はないだろう。教師と生徒の一部に協力してもらえれば、救出できなくはない」


 アイカとアヤメが同意見か。確かに一ヶ所襲えば他にバレて、別の場所に連れ去られる可能性は捨てきれない。

 だけど私としては二本刀(にほんがたな)の存在がネックなのよ。清姫の持つ勾玉(たがたま)は魔物を操るし、頼姫の持つ叢雲(むらくも)は斬りつけた魔物以外を操ってしまう。

 つまり、私の眷族が清姫と対峙するのは危険で、アヤメ達が頼姫の相手をするのも危険って事よ。

 せめて片方だけでも無力化できれば……



 ポリポリ……ポリポリポリ……



「……イトさん?」

「アイカさんの真似をしてみました。わたくしにも強靭な精神が身に付くかと思いまして」


 またアイカかと思ったら、イトさんが金平糖を摘まんでいた。ついでに断言するけど、絶対に身に付かないことだけは確かね。


「クッ、わたくしも負けてられません!」


 ポリポリポリポリッ!



 スパン!



「ブフッ!?」

「対抗せんでいい!」


 なんか妙に疲れてきた。もう帰っていいかしら……。


「……コホン。で、アイリ。結局どうするんだ?」

「う~ん……」


 難しいところね。犠牲者は絶対に出したくないし、時間差で逃げられるのも悔しい。

 でも同時に攻めるには数が――ん? 数?


「そうだ、こういう時こそ貴族の力を借りるべきよ!」

「お姉様、何か閃いたので?」

「ルミナステルよ。彼女の私兵にバッカスを占拠させるの。そうすればダンノーラの連中だって黙ってはいないはずよ」

「他の拠点はどうなさるので?」

「北西の岬には私が向かうから、アイカはルミナステルと一緒にバッカスを頼むわ。南の山中にはアヤメ達に任せる」

「その任、しかと承った!」


 何としてでもリュックは助けなきゃ!


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