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琉宮の番

「ん……あれ? ここは……」

「お目覚めのようですわね。琉宮(りゅうぐう)(つがい)

「お前はっ!?」


 寝起きでボンヤリとしていたリュックの目に、敵将である頼姫の姿が写り込む。

 慌てて構えようとするも剣は取り上げられたらしく、透かさず壁際まで後退した。


「一つ申し上げておきますが、殺そうと思えばいつでも殺す事ができましてよ? せっかく延命できているのですから、無駄に命を散らすのは感心致しませんわ」

「…………」


 言われて冷静になると、改めて周囲を見渡す。

 どうやら何処かの洞窟内にいるらしく、所々に灯された松明がパチパチと音を鳴らし、石と土が入り雑じった内部を照らしていた。

 頼姫はというと、洞窟に不釣り合いとも言えるきらびやかな椅子に腰を降ろし、これまた不釣り合いなテーブルに置かれた鏡に視線を注ぎつつ、自慢の髪を手入れしている最中だったりする。


「どうもここは乾燥しやすくていけませんわねぇ……。お肌によくないのは一目瞭然ですし、平然としているガルドーラの(たみ)が信じられませんわ」


 一見無防備にも感じる光景だが、決して隙があるわけではない。頼姫の傍らにはあの時雨叢雲(しぐれむらくも)が立てられており、襲いかかろうものなら3秒もかからないうちに返り討ちだ。もっとも、手元に剣がないリュックではどうにもならないだろうが。

 仕方なくリュックは近くの岩に座り、現状の把握に努めることにした。


「ここはどこなんだ?」

「ガルドーラのどこか――とだけ言っておきましょうか。あの生意気なアイリに発見されると面倒ですので、正確な場所は伏せさせていただきますわ」


 念には念を――とでも言いたげに、顔を鏡に向けたまま頼姫が語る。何らかの魔法やアイテムでアイリに嗅ぎ付けられるのを危惧したためだ。


「なぜ二度に渡って学園を襲った?」

「皇帝陛下がこの国をご所望だからですわ。戦力が集中している学園を落とせば、ガルドーラは手に入ったも同然ですもの。ああ、それと帝国から逃げたネズミ刈りも含まれてますわ。こちらはついでですけれど」


 正式な宣戦布告はなされてないが、冗談ではないのは身をもって知っている。

 また、カゲツから聞かされていたイトとアヤメの命が狙われているのも事実だろう。


「そんな事より、もっと知りたい事があるのではなくて?」

「……何が言いたい?」

「フフフ、琉宮の番ですわ。知りたいのでしょう? ご自分の素性を」


 当然だ! という言葉が飛び出そうとしたのを辛うじて抑え、不適に微笑む頼姫の様子を(うかが)う。リュックとしては簡単に教えてくれるとは思っておらず、何らかの条件を突きつけてくると予想したのだ。

 しかし、その予想はあっさりと覆されることとなる。


「教えて差し上げますわ」

「……え?」

「あら、そんなに不思議かしら? そのために連れて来たのですから、今さら隠したりは致しませんわ」


 思わず面食らい、目を白黒させた。

 だが教えてくれるならそれでいいと思い直し、頼姫の言葉に注意深く耳を傾ける。


「その昔……もう200年以上は前の事でしょうか。ダンノーラ帝国を絶望の底に叩き落とした凶悪な魔物が存在したのですわ」


 そして語られるダンノーラ帝国の過去。その地に出現した恐るべき魔物により、民達は窮地(きゅうち)に立たされた。

 村一つを覆うくらいの巨大なソレには軍隊でも刃が立たず、犠牲者は増すばかり。そこで当時の皇帝はとある場所に誘き寄せる事を思いつく。


「ダンノーラから南西に位置する琉宮(りゅうぐう)と呼ばれる孤島。その島を決戦の舞台と決め込み、全戦力の7割を投入した――が、しかし、それは決して魔物を討伐する戦いではなかったのですわ」

「討伐するのが目的ではなかった……って、まさか囮!?」

「フフフ、その通り。つまり皇帝の作戦とは、琉宮に誘い込んだ魔物を軍隊共々封印するという苦肉の策だったのですわ」


 当然戦闘に駆り出された兵士達は何も知らされてはおらず、魔物に食われつつも当時の皇帝を恨んだであろう。

 だが多数の兵士を犠牲にしながらも封印は成功した。

 最後に残されたのは、兵士を率いていた当時の勇者が使用していた剣。封印された魔物の核。そして封印を施した鏡。これら三つは三種の神器と呼ばれ、琉宮の地にて祭られている――いや、すでに持ち出されてる以上、祭られていたと言うのが正しい。


「待ってくれ。三種の神器については分かったが、僕の素性とは関係――」

「なくはないのですわ。何故なら、貴方は魔物と共に封印された勇者の子孫なのですから」

「え……勇者?」


 勇者と言われて驚くものの、決して感動したりはしない。そもそも勇者とは名ばかりの(てい)のよい生け贄ではないかと。

 だがそんなリュックの心情を無視するかのように、淡々と頼姫は続ける。


(つがい)とは対となる存在の事を指す。つまり琉宮の番とは、琉球の地に封印されし魔物を繋ぎ止める人柱の事。もし再び魔物が復活するのであれば、己の身を捧げて封印せねばならない。その子孫が貴方なのですわ」

「…………」


 一通り聞き終えたリュックは、改めて情報を整理する。自分がそのような存在だとは夢にも思わなかったが、勾玉や叢雲を手にした時に感じた鼓動は頼姫の話の裏付けでもあり、納得せざるを得ない。

 そして気になるのが、魔物が復活した際はリュック自身が人柱になるという部分だが……


「そんなに怯えなくとも魔物が復活する可能性は殆どありませんわ。ですから安心してくださいまし。それよりも、もっと面白い話がありましてよ? フフフフ」


 鏡から目を離すと、今度は一転もったいつける言い方で含み笑いをしてきた。


「……言ってみろ」

「あら、随分と高圧的ですこと。聞きたいのでしたらもっと素直になりなさいな」

「無駄話に付き合うつもりはない」

「あらあら、強情ですわね。でしたら仕方ありませんわ。ここから先はわたくしの独り言になりますが、人柱となった勇者は皇帝の側室が産んだ子供だと言われてましてよ」

「!」


 これもまた放置できない話であった。頼姫の話が本当ならば、リュックには皇帝の血が流れてる事になる。

 それに何より、リュックの記憶にはない両親への手掛かりにも繋がってくるだろう。


「ま、待ってほしい、僕の両親を知っているのか!?」

「フフフフ、わたくしは独り言を述べてるだけですわ。質問は受け付けませんわよ?」

「クッ……」


 先ほどの態度が気に入らなかったのか、ただの気まぐれか、頼姫は質問に答えずに独り言を続ける。


「琉宮の番とは魔物復活に備えた存在である反面、人目に触れることは許されなかった。当然ですわよね? 生け贄のために生きている一族がいるなんて知れれば、国への不信感が強まりますもの。ならばもし人目に触れてしまった場合、国はどのように動くかしら?」


 これは言われるまでもなく想像できる。存在そのものを無かった事にするしかなく、口封じをするに違いない――と考えたところで、リュックはハッとなる。


「ま、まさか、僕の両親はすでに!」

「そこまでは知りませんわ。わたくしはただ、過去にあった例を持ち出したにすぎないのですから。ただ……」

「……ただ?」

「ガルドーラに逃げ込んだ二人。あの二人を逃がした人物がどうにも特定できないのですわ。もしも貴方を連れ出したのが同一人物であれば、何らかの事情を知っているやもしれませんわね」


 頼姫の言う二人とは、イトとアヤメに他ならない。特定できない人物とはカゲツの事を指すのだろう。カゲツ本人からも見た目を偽装しているとカミングアウトされたので、特定されてないのも頷ける。

 もしもリュックを連れ出したのがカゲツならば……


「そうそう、肝心な事を忘れてましたわ。これもわたくしの独り言ですが、琉球の番には三種の神器を使いこなせる素質があるという伝説がありましてよ? もしかすると、アイリを上回る力が得られるかもしれませんわね」

「アイリさんを……上回る……」


 頼姫よりもたらされた情報は、リュックの心を大きく揺さぶるのであった。


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