リュックの行方
「リュックが……」
清姫が召喚したマサカドを撃破し学園に戻った私が耳にしたのは、二本刀の二人によりリュックが連れ去られたというショッキングな事実だった。
学園長には悲痛な表情で「すまない……」と頭を下げられ、イトさんとアヤメにも自分たちのせいだと謝罪され、更にグラド達には泣きながらすがり付かれてしまった。
「リュックを助けてほしい!」――と。
『助けに向かわれるのですよね?』
『当たり前じゃない。仲間を連れ去られたのに指咥えて見てるだなんて、それこそあり得ないわ』
『ですよね。せっかく好意を寄せてくれる異性なのですから、殺気立つのも無理はありませんね』
『……どういう意味?』
『深い意味はありません。ですがお姉様からただならぬ殺気が放出されてるのは間違いありませんよ?』
『そんなに!?』
周囲の生徒達が距離を取るくらいの殺気が漏れてたらしい。リュースとか顔を真っ青にしてるし。
「な、なぁアイリ、助けろと言った手前でアレだけど、今日はもう休んだ方がいい」
「そ、そうよアイリ。もう夜中だし、明日から全力で探しましょうよ、ね?」
「……そうね」
グラドとトリムが宥めるように言ってきた。
……ダメね、冷静さを欠いた上、友達に気を使わせるなんて私らしくない。
『少しは落ち着かれましたか?』
『ええ。心配かけたわね。だいぶ落ち着いたから帰って寝るわ。リヴァイにも伝えておいて』
『何を仰るのです? お姉様には帰るべき邸が別にあるじゃありませんか』
忘れてた。ルミルミにもちゃんと話さないといけないわね……。
『いっその事、本当の養子として迎えていただいては?』
『それは嫌』
『きっとルミルミは大歓迎してくれると思いますよ?』
『だから嫌だって!』
ルミルミはともかく、貴族の馴れ合いとかやってられないもの。いや、ルミルミの抱擁も大概だけども。
★★★★★
明くる日の朝。学園へと転移した私とアイカは、そのまま地下の隔離部屋へと直行した。
理由は昨日捕らえた黒装束への尋問を行うためで、リュックの居場所を聞き出すのが最重要項目だからよ。
ちなみに今の学園は厳戒態勢にあり、しばらくの間授業は行われない。
「学園長!」
「おはようございます」
「おおアイリ君。それにアイカ君も来たかね」
さっそくと言っていいのか、隔離部屋には大くの教師と生徒が集まっており、拘束された黒装束達への尋問を行っていた。
「何か分かりましたか?」
「それなんだが、こちらの言うことには全くと言っていいほど無反応なのだ。よほど精神的な鍛練を積んだらしい」
「拷問は?」
「……さらりと怖い事を言う。まぁ死なない程度に痛め付けてはみたが、それでも口を開こうとはせんな」
尋問も拷問も効果は薄いか。
でもリュックの身の安全を考えれば、手段を選んではいられない。
「学園長、私にやらせてください。絶対に吐かせてやりますから!」
「アイリ君が? しかしな……」
「そうですよお姉様。今のお姉様なら加減を誤って殺してしまいかねません」
「いや、そんな事は――あ……」
アイカに言われて気が付いた。周囲の生徒や教師までもが引くくらい殺気が駄々漏れに。どうにも昨日から感情のコントロールが出来てないっぽい。
「ご理解いただけましたか?」
「……じゃあどうするのよ。鳴かぬなら、鳴くまで待とう――とでも言うつもり?」
「少なくとも、鳴かぬなら、殺してしまえ――よりはマシかと」
いやいや、最初から殺すつもりなんてないってば。今の私じゃ説得力ないけど!
「いっその事ホークでも連れてくる? アイツなら喜んで鳴かせると思うわ」
「それは危険です。ホークの場合、鳴かせるのがメインになってしまいますので」
……確かに。ホークに任せたら拷問に熱中しちゃいそう。とあるダンマスに拷問まがいの事をして、トラウマを植え付けたらしいし。
「気持ちは分かるが焦るでない。ここは儂らに任せて――ん? なんだ?」
上の階がざわついているのに気付き、皆の視線が階段へと移る。すると見慣れた女性が降りてきて――ってルミルミ!?
「ヘェイ、ミスルミナステル。ここは一般人には刺激が強すぎるぜぇい!」
「そんな事を言って、わたくしからアイリを遠ざけるおつもりでしょう? そうはいきませんわよ。――アイリーーーッ、ルミお姉ちゃんが会いにきましたわよーーーっ!」
「オゥフ、クレイジィ……」
ストロンガー先生を押し退けルミルミが抱きついてきた。邸から学園までそれなりに距離があるはずなのに、無駄にアクティブよね。
ちなみにルミルミが抱きついたのはアイカだったりする。ルミお姉ちゃん、ひょっとして盲目?
「あの~、わたくしは妹のアイカですが……」
「あら、そうなの? でも妹ちゃんもカワイイじゃない。――あ、そうだわ、アイリはすでに妹なのですからアイカも妹ですわよね! ええ、そういう事にしましょう!」
速報。アイカもルミルミの妹になる。
「……コホン。ところでルミナステル侯爵、何故当学園に?」
「そんなの決まってますわ。こんな穢らわしい連中に妹達が関わっては心まで穢れてしまいますもの、わたくしがしっかりと見張っておく必要がありましてよ」
ルミお姉ちゃんが溺愛攻勢に出た。これには周囲も呆れてしまい、黒装束に至っては精神的にダメージを受けてるっぽい。穢らわしいって言われたのが効いた?
「でもねルミナステル様、これから拷問をして――」
「ダメよアイリ! そんな事をしたら、コイツらみたいな非常識で醜いゴミ溜めみたいな存在になってしまいますわよ!」
何気に酷いこと言ってる気がしないでもないけれど、でもそうでもしないと情報が得られないし……。
「それに拷問なんかしなくても、こちらに従わせればよいのですよ?」
「従わせる?」
「こうするのよ」
そう言って近くにいた黒装束の頭を掴むと、顔を向けさせ覗き込んだ。
「わたくしに従いなさい――咲き誇る薔薇の息吹」
「ぐっ!?」
そうだった。ルミルミには相手を洗脳するスキルがあったわね。
「これから質問する内容には嘘偽りなく答える事――いいわね?」
「……御意」
「「「!!!」」」
仲間が裏切ったのを目の当たりにし、黒装束達に動揺が走る。
「じゃあさっそく――」
「血迷うたか貴様!」
「我ら忍びの掟を破る者は、一族郎党皆殺しだぞ!?」
「この面汚しめ!」
ああもぅやかましい!
「ルミナステル様、残りの奴らもお願い」
「任せなさい――咲き誇る薔薇の息吹」
「「「ぐっ!?」」」
これでよし。
「さぁ、教えてちょうだい。リュックはどこに連れていかれたの?」
「リュック……とは?」
ああ、そうか。コイツらを拘束した後の出来事だから分からないのね。
「質問を変えるわ。清姫と頼姫の潜伏先はどこなの?」
「拠点は全部で三ヶ所ある。港街バッカスとそこから北西の岬にある洞窟。最後にバッカスから南に進んだ山中だ。このいずれかに居るだろう」
すでに三つも拠点を持ってるとか。しかもバッカスはすでにダンノーラ側についてると考えてよさそうね。
「う~む、やはりバッカスに領主がいないのが裏目に出たか……」
「うっそ、領主がいないの!?」
「過去には居たのだがな。当時の領主は金に汚い奴で、多額の納税額を民間ギルドに要求したのだ。当然ギルド側は反発し、力ずくで領主を追い出してしまった。それ以来ガルドーラに属していながら領主不在の状態が続いてる」
学園長のお陰でバッカスに領主がいないのを初めて知った。それならソコが連中の足場になってても不思議じゃないわね。
まずはバッカスを徹底的に調べましょ。




