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ドーラの正体

 街道をひたすら進む馬車の中。私とルミルミは向かい合わせに腰を降ろし、街灯に照らされている夜の街並みを眺めていた。

 他の国よりも魔導が進んでいるためか、街灯は明るく馬車のスピードも早いため、意外にも快適だったりする。時折感じられるルミルミからの超溺愛視線さえなければね!


「ふぅ、夜風が心地よいですわねぇ。アイリもそう思うでしょう?」

「ええ、まぁ……」

「雲一つないためか、星空も綺麗よ」

「はぁ……」

「それにほら、見てご覧なさい。教会のシンボル――マッスルアニキが、スポットライトを浴びて輝いて見えるわ。今日のポージングもバッチリ決まってますわよ」

「それは……よかったですね……」


 ――とまぁこんな調子よ。

 あの後――湯浴みを終えた後なんだけど、日が沈むまで寝室で寛いでいると、再びルミルミからの呼び出しが掛かったのよ。

 夕食かと思ってたら違ったらしく、着せ替え人形のようにドレスを何着も試着させられて、最終的に決まったドレスでいざ出発。

 行き先はドーラの指定した邸なんだとか。


「ごめんなさいね? 本来ならディナーの時間ですのに連れ出してしまって。――まったく、ドーラったら急に呼び出すんだもの、困ったものですわ……」


 いや、寧ろドーラグッジョブよ。

 ルミルミと二人きりの晩御飯とか絶対に落ち着かなもの。


「けれどドーラが主催する晩餐会の会場までしばらく掛かるわ。それまでゆっくりと夜景を楽しみましょ。フフフフ♪」


 ファッキュードーラ! アンタのせいで、息の詰まる時間が長くなったわ!


「あ、流れ星よアイリ。一緒に願い事を言いましょ!」ギュッ!

「はいはい……」


 ――とまぁそんなこんなでルミルミに抱きつかれている私は、非常にゲンナリしながらも夜景で気を紛らわしつつ会場に向かっている最中ってわけ。

 私としてはドーラの実体を探るチャンスでもあるし、この機を生かして裏の繋がりなんかも暴いてやりたいと思ってる。


「そうだわ、いっそのことドーラとの晩餐会はドタキャンしちゃいましょうか?」

「はいぃ!?」

「だって、わたくしはアイリを一人占めしたいんですもの、例えドーラが差し出せと言ってもお断りですわ」スリスリ

「…………」


 差し出されても困るけど、一人占めされるのも暑苦しくて嫌。うん嫌。とっても嫌。

 今もリアルタイムで頬擦りしてくるし、この溺愛っぷりは異常だわ。


「ルミナステル様、到着致しました」

「はぁ……着いてしまいましたわねぇ。――こうなれば仕方ありません、覚悟を決めて行きますわよ、アイリ」

「はい」


 またもやルミルミに手を引かれて馬車を降りた私は、ミスリルのように青白く光る大きな邸を見上げる。

 あらゆる角度からライトアップされているその輝きは多くの通行人を惹き付けていて、まるで遠くからディズ○ーランドを眺めている観客のようだわ。

 そんな観客の視線を浴びつつ、私とルミルミは邸へと足を踏み入れた。



「やぁ、ルミナステル殿。そちらが噂の少女かい?」

「ほぉ~、端からではダンジョンマスターには見えぬな」

「でも羨ましいわ。まるで仲の良い姉妹のように見えるんですもの」

(しか)り。それに噂に(たが)わぬ美しき容姿よ。孫の婚約者として迎えたいくらいだ」


 中には多くの人達――恐らくドーラ派の貴族が集まっていて、私達は注目の的となった。すでに私の正体も認知されているようで――まぁこれは今さらか。


「フフフ、御免あそばせ。わたくしの妹を嫁に出す気はありませんわ。貴方が一国の(あるじ)ならば考えてあげてもよろしくてよ?」

「カッカッカッ! それは残念」


 密かに婚約を取り付けようとした貴族に釘を刺し、主催者と思われる貴族の元へ――ん?


「ほほぅ、その娘がアイリか。これはまた美少女であるな」


 真っ白なベールで顔を隠した銀髪の女性が、威圧感のある口調で私を見下ろす。恐らくコイツがドーラね。

 だけどこの声、どこかで聞いたような……


「ごきげんよう、ドーラ殿。見ての通りに自慢の妹ですわ。さ、アイリもご挨拶なさい」

「あ……は、初めましてドーラ様。このたびルミルミ様――「公の場ではルミナステルよ」……コホン。え~と、ルミナステル様より妹として迎えられましたアイリと申します。以後お見知りおきを」


 ルミルミって言おうとしたら咄嗟(とっさ)に訂正された。恥ずかしいならルミルミ呼びを強要しないでほしい――って、そんなことよりドーラよ。

 顔は見えないけど、以前どこかであったような気がするのよねぇ。ちょっと鑑定を――って、これは!?


 名前:ドーラ 性別:女

 年齢:??? 種族:自動人形(オートマタ)

 身分:ガルドーラの侯爵


 自動人形(オートマタ)ってどういう事? 誰かに造られた存在?


「ルミナステルよ、少しの間アイリを借りたいのだが」

「それは困りますわ。アイリはわたくしの目に入れても痛くはない存在ですもの、例えドーラ殿であっても――」

「何も日を跨いでまで貸せとは言わぬ。少しばかり話をしたいだけだ」


 これは好都合だわ。私としても第三者に邪魔されずに接触したかったんだもの、ルミルミには悪いけどドーラに乗っかるとしよう。


「大丈夫ですよルミナステル様。話が終わればすぐにでも戻りますので」

「そこまで言うのなら……」


 渋々といった感じにルミルミが引き下がると、私とドーラは別の個室へと移動する。

 今のところ害意は感じないし、いきなり襲ってきたりはしないでしょ。

 それにいざとなれば……


『わたくしが目を光らせておりますのでご安心を』


 特殊迷彩(ステルス)(まと)ったドローンが私の傍にいるしね。


「ここなら誰も来ぬし邪魔は入らん」


 ドーラに付いていくと、六畳ほどの個室へと通された。

 さて、ここからどう切り出そうか……。


「いつまでも畏まらなくてもよいぞ? 楽にするといい」

「はい、ありがとう御座いま――」

「そうではない。洗脳されたフリはもうよいと言っておるのだ」

「え……」


 そんな! 気付かれてる!?


 スタッ!


「慌てるな。お主をどうこうするつもりはない」


 透かさず剣を抜いて飛び退くも、ドーラは落ち着き払った様子で両手を上げた。


「アンタ何者? 裏に隠れている奴は誰なの?」

「落ち着けというに。順を追って説明するから剣をしまえ」

「…………」


 やはり敵意が感じられないので、剣をしまい黙ってソファーに座る。

 ドーラも向かい合わせに座ると、ベールを外して素顔を――あ!



「ガ、ガルドーラ!?」


 隠された顔は、正にガルドーラそのものだった。どうりで聞き覚えのある声だと思ったわ。


「正確にはガルドーラに造られたオートマタだがな。言い換えると奴は産みの親――という事になるのだろうが……」


 聞けばドーラは30年以上も前にガルドーラによって造られたらしく、貴族としての教育を施されて国に潜り込むよう命じられたんだとか。

 その結果、派閥筆頭の侯爵にまで上り詰める事に成功し、中立派として国のバランスを保っていた。


「……で、今度は何を企んでるわけ?」

「人聞きが悪いぞ。そもそも何も企んではおらぬし、こうして正体を明かしたのだから少しは信用してもよいのではないか?」

「それなら他にも聞きたい事があるわ。なぜ私の動きを封じるように仕掛けたの?」


 自ら正体を明かした点は考慮する。だけどドーラ派の動きは怪しさ満点だし、私の身柄を押さえるように言ったのもドーラだったはず。


「誤解を招いたのはこちらの落ち度だ、申し訳ない。だがこうでもしないと敵対したまま顔を合わせる羽目になったであろう? 何しろこの見た目だ。この(つら)を晒せば間違いなく敵と判断されただろう」


 確かに。スタンピードを何度も仕掛けた張本人と同じ顔だと、信用を得るのは難題かも。


「この国を裏から支配していたガルドーラだったが、ある時それが限界にあると気付く。そこで表立って動ける私を造り、表からの支配を思い付いたのだ」

「ならアンタもガルドーラと同じ考えなんじゃないの?」


 ガルドーラの命令で動いてたなら、結局は私とも敵対するんじゃ……と思ったらドーラは静かに首を振り、私の考えを否定した。


「それは違う――いや、変わったと言った方がよいのかもしれん。長らく貴族社会に馴染んだためか、私の思考は貴族の立場から物事を捉えるようになった。するとどうだろう、ガルドーラの存在は民にとっての脅威に他ならないではないか」


 まぁそうよね。ダンジョンを運営するには侵入者を殺すか、協力してもらうかの二択しかない。

 ガルドーラは定期的に侵入者を刈り、スタンピードで間引きもしていた。

 これだと安心して暮らせるわけがないもの。


「そこで私は決意した。ガルドーラとは(たもと)()かち、民の側に立ったのだ」


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