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ルミルミ

「こんなにスムーズにいくとは思いませんでしたわ。もっと激しい抵抗を予想したのですけれど……まぁいいでしょう」


 抵抗しようとしても無駄でしょうね。そもそも洗脳されたらそれまでだもの、万が一にも失敗する事は考えてなかったと思うわ。


「後はドーラに報告し、新たな指示を待ちましょうか」


 そう言って扇子を閉じると、傍らの騎士2人に指示を出す。


「この子を連れて帰ります。騎士団長にはそう伝えなさい」

「「ハッ!」」


 捕らわれているにも拘わらず、私を連れ出すつもりらしい。というか、この騎士2人も洗脳されてるっぽいなぁ。

 逆にチョビ髭が居ないところをみると、あの人は洗脳されてないのかも。


「ささ、アイリちゃん? わたくしと共に参りましょうね」


 あれ? もっと乱暴に扱うのかと思ったけれど、そうでもない?

 慈愛の眼差しを向けてきてるし、私にとっては有難いから素直に従うけれど。


「はい、分かりました」

「フフ、素直でよいお返事ね」


 正面から軽くハグをし、私の手を引いて部屋の外へ。一見すると歳の離れた姉妹に見えなくもない私達は、詰所の裏に停めてあった馬車へと乗り込む。


「さ、早く出しなさい」

「畏まりました!」


 命じられた御者が手綱を振るい、どこかへと走り出した。向かう先はルミナステルの邸でしょうね。


 さて、ここまでくれば分かると思うけれど、当然私は洗脳なんかされていない。

 私のギフト【ミルドの加護】は、あらゆる状態異常を防いでくれるの。つまり掛かったフリをして、相手の懐を探ろうって魂胆よ。


『お姉様のことですから、スキルが効かないという事実を即座に突き付けるのだと思っておりました』

『それだとルミナステルしか断罪できないでしょ』


 学園長が言うには、ドーラ派はダンノーラ帝国と繋がってる可能性があるって言うし、キチンと調べてやるつもりよ。

 

『しかし驚きましたね。貴族とはいえ普通の人間が特殊スキルを所持しているとは』

『それね』


 この国にはまだまだ謎の部分が多いわ。当然ダンノーラ帝国もね。


『それよりアイカ、学園の方はどう?』

『現在のところ異常はありません。ダンノーラからの刺客も侵入しておりませんし、逆に不気味なくらいですね』


 嵐の前の――って感じじゃなければいいんだけどね。でも近いうちに仕掛けてくるのは間違いないだろうし、もうしばらくはアイカに任せよう。リュック達の暴走防止も兼ねて。


「フフ、我が邸宅に着きましたよ。わたくしに付いていらっしゃい」

「はい」


 アイカと念話をしているうちにルミナステルの邸に着いた。

 手を引かれて馬車を降りると、執事やメイドが入口前でズラリと整列しているのが目に飛び込んでくる。


「「「お帰りなさいませ、ルミルミ様!」」」


 ルミルミ様!?


「はい、ただいま。あなた達の主人――ルミルミが帰りましたよ」


 聞き間違いじゃなかった……。子供ならまだしも何だってそんなキッツイ呼び方を……。

 見た目は……うん、20台に見えるからギリギリOK的な? でも数年後には後ろ指をさされるんじゃないかなぁ。


「今日からこの子を義理の妹とします。キチンと世話をするように。さぁアイリ、貴女もご挨拶なさい」

「あ、はい、え~と……初めまして、アイリと申します。今日からお世話になりますので、宜しくお願い致します」

「「「ようこそアイリ様。我々一同は、貴女様を歓迎致します!」」」


 一斉に頭を下げた使用人達の間を通り、邸の中へと足を踏み入れる。

 ピタリと寄り添う使用人により私の部屋まで案内され、ご用があればいつでもお呼び下さいと一言添えると、静かに立ち去った。


 ボフッ!


「やっと1人になれたぁ~!」


 ベッドに身を放り投げ、ゴロゴロしながら強張った体を(ほぐ)していく。

 いやね、たえず誰かが側にいるのって凄く落ち着かないし疲れるのよ。

 こんな生活が続くなら貴族になんか一生なりたくないわ。


『随分と(くつろ)いでらっしゃるようで』

『アイカだって学園生活を堪能してるでしょ。そんな事よりルミナステルよ。アイツいったい何を企んでいるのやら』


 まさか義妹にするのが目的じゃないだろうし、私を使って何かをやらせようとしてるのは確実よ。


 コンコン!


「失礼します。ルミルミ様からアイリ様をお連れするよう申し付けられましたので、そちらまでご案内致します」

「は~い」


 さっそくの呼び出しか。何を言いつけてくるのやら……。




「――はい?」

「あら、理解できなかった? これからアイリはずぅーーーっとわたくしと暮らすのよ」


 テラスで優雅に紅茶を飲んでいたルミルミことルミナステル。開口一番に飛び出た言葉が【わたくしと一緒に不自由のない生活を楽しみましょう】だった。

 言ってる意味は理解できる。できるけれど、そんな事をするメリットって何?


「そうよね。アイリは有能なダンジョンマスターですもの、何か裏があるのかと勘繰るのが普通ですわよね」


 その通りよ。さっさと本音を言いなさい。


「あると言えばありますわ。旗本であるドーラからは、可能であれば身柄を押さえるように言われてましたからね」


 やっぱり。そのドーラって奴が黒幕か。


「でもね、アイリ。わたくしはそのような事はどうでもよいのですよ?」

「え?」

「だって、初めて貴女を見た時にかつてない衝撃を受けたんですもの」


 かつてない衝撃?


 ギュッ!


「ちょっ、ルミナステル様――」

「ルミルミよ。邸で呼ぶ時はルミルミって呼ぶこと。よろしいですわね?」

「は、はぁ……」


 突然抱きついてきたと思ったら、ルミルミ呼びを耳元で強要された。

 害意が無いからされるがままだけど……。


「フフ、甘い香りがするしホッペもフニフニだし、凄く良いわぁ。一目見た時から、妹にするなら絶対この子だーーーっ! ――って思ったのよねぇ♪」

「あ、あのぉ……つまり目的って……」

「決まってるじゃない。貴女を妹にするのが私の目的よ。あ~よしよし良い子良い子♪」


 呆れた……。主目的が斜め上過ぎる。そんな事のために特殊スキルを……いや、ある意味平和的なのかもしれない。


『愛されてますね、お姉様。いっそ貴族として中枢に潜り込んではいかがでしょう?』

『絶対嫌よ。ただ出歩くのに付き添いが張り付くとか、息が詰まって窒息死するわ。何だったらアイカが代わりなさいよ。きっとスイーツ食べ放題よ?』

『この世界限定じゃないですか。わたくしは発展した地球から召喚しますので、すでに間に合っております。それよりお姉様はドーラの情報を集めて下さいね』


 はいはい、分かってますよ。


「あの~、連れて来られた理由は分かりましたが、ドーラというのは何者ですか?」

「ドーラねぇ……。実のところ、よく分からないのよねぇ」


 え……分からない?


「多額の報酬と引き換えに固有スキルを付与してもらったのですわ。ドーラとその関係者には使用しないって契約をさせられてね。けれど声はすれど姿が見えぬって、同派閥の貴族からも疑問の声があがってますわね」


 なるほど。よほど慎重なのか、尻尾を掴まれないように表には出てこないわけか。


「そんな事よりもアイリ、今日はルミルミと一所に湯浴みをしましょうね~♪」


 ガシッ!


「ちょ、ちょっと!?」

「そんなに怯えなくてもいいのよ? 身体の隅々までキレイにしてあげますからね~♪」


 洗脳されてる設定だから、抵抗するわけにもいかない。

 こんな事なら地下牢でチョビ髭と喧嘩してた方がマシだったかも……。


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