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二本刀

「逃がさないわよ清――」


 ブン!


「――っと、あっぶな!」

「チッ、避けたか……」


 清姫に続いて天井を飛び出たところで、薙刀が頬を掠める。

 そのまま突っ込んでたら危なかったわ。予想してたからそうはならなかったけど。


「ダンジョンマスターごときが調子に乗りおってぇぇぇ!」

「フフン、悔しかったら私を倒してみれば?」

「言われなくとも!」


 完全に悪役の台詞(言ってから気付いた)を言い放つ私に、清姫が斬りかかってくる。


 サッ!


「――っと、あれ?」


 以前より動きが鈍い?


「おのれぇ……猪口才(ちょこざい)な動きを!」


 倉庫の屋上で激しい攻防……いや、私が一方的に避け続ける戦いが続く。

 昨日の今日で急に弱くなったとは考えにくいんだけど……。


「アンタ、さっさと本気出したら?」

「ふ、ふざけるな! これが妾の全力だ!」


 本気と書いてマジで言ってる!? 昨日とはまるで別人じゃない。


「こうなれば仕方ない。受けてみよ、奥義――飛翔六波斬(ひしょうろっぱざん)!」


 シュゥゥゥゥゥゥ!


 清姫の放つ斬撃が六つに割れ、頭上から迫り来る――けれど、昨日のような迫力はない。

 まぁいいや。受け止めて吠え面かかせてやろう。


「ソードディフレクトォォォ!」


 バシィィィン!


「何!?」


 シールドを張って真っ正面から打ち破ってやった。清姫は信じられないって顔して宙に浮いている。


「やっぱり弱くなってるような……」

「お姉様、恐らくは勾玉の影響ではないかと」

「勾玉?」

「はい。アレにはステータス上昇の効果もあったはずですので、ソレを失った清姫は弱くなっていると言えるでしょう」


 残りの黒装束を片付けたらしいアイカが告げてくる。三種の神器って言われてるだけあって、効果は絶大だったのかも。


「貴様らぁ、黙って聞いてれば妾が弱いだと!?」

「だって事実じゃない。嘘だと思うんなら掛かって来なさいよ」

「おのれぇぇぇ!」


 ガキィィィン!


「ほら見なさい。アンタの薙刀じゃ私には届かないわ。二本刀(にほんがたな)だか何だか知らないけど、勾玉の力で強くなってただけじゃない」

「クッ……」


 薙刀を正面から受け止めると、清姫の顔に焦りが見え始めた。


「こんな……こんなバカな事があってたまるか! 妾はダンノーラの二本刀にして法皇の片腕。その妾が貴様のような小娘に!」

「私の事は知ってるんでしょ? なら只の小娘じゃない事くらいは分かってるはずよ」


 私の事はダンノーラ帝国にも知れ渡ってるらしいし、その上で勝てると思ってたんなら甘過ぎる。


「私の平穏な学園生活を邪魔するやつは、誰であろうと容赦はしない!」


 キィン!


「クッ!?」


 薙刀と弾いて剣を突き付ける。チェックメイトってやつね。


「アイカ、コイツを拘束――」

「上です、お姉様!」



 ガッ――ギギギギ……


 アイカの警告と何かが降ってきたのが同時だった。咄嗟(とっさ)に剣で防ぐと、正体不明の和風美女が大きく距離を取る。


「……誰? 身形(みなり)からして清姫の仲間だろうけれど」

「フフフフ、まこと聡明で御座いますこと。本来下賎(げせん)な輩には名乗りませぬが、清姫を追い詰めたという実力を認め、特別に名を耳にする名誉を与えましょう」


 何故だか上から目線の女が器用に扇子を開き、口元にあてながら名乗りを上げる。


「姓は河内(かわち)、名は頼朝(よりとも)。二本刀の頼姫(よりひめ)とはわたくしの事ですわ」


 ふ~ん? この女がもう1人の二本刀ねぇ。

 銀髪の長い髪に派手な着物。右手に持つのは年期の入った刀。そして何故か無駄に強調している胸元……。


「フフフフ……」タユン!

「(ムカッ!)」


 あーーーもぅイライラしてきた! まずはコイツから血祭りに――って、落ち着け私。アレは無駄に年食ったオバサンよ。惑わされてはいけない!


「……で、何しにきたの?」

「そうだ頼姫、まだ小娘との決着はついてない。私の邪魔をするな!」


 いや、アンタとの決着はついたわよ……。


「フフ、無様に醜態(しゅうたい)を晒しておきながら嘆かわしいことですわね。法皇様の耳に入ればさぞ落胆されることでしょう」

「クッ……」

「ですが今回は相手が悪かった――そういう事にしておきましょう。砂粒演舞(さりゅうえんぶ)!」


 頼姫が扇子を一振りすると、私の周囲で砂埃が舞い上がった。


「クッ、視界が……」

「フッ、隙ありぃ!」


 スパッ!


「痛っ……くない?」


 清姫に隙を突かれたはずなのに、どこも負傷しては――


 ハラリ……


「ちょ、スカートが!?」


 切られたスカートが落ちそうになったところをすんでで押さえる。


「何すんのよ変態!」

「フン、貴様の下着なんぞに興味はない。コレを返してもらっただけだ」

「あっ!」


 切られた拍子に勾玉を盗られた!


「今日はこの辺でお(いとま)しますわ。計画を練り直すため(しばら)くこちらにはお伺いできませんが、しばしの休息をご堪能くださいませ」

「さらばだ小娘!」


 転移石を使用したらしく、二人揃って目の前から消え去った。完全言い訳だけど、スカートさえ無事だったらみすみす逃がしたりはしないのに……。


「申し訳ありませんお姉様。勾玉が清姫の手に渡った途端、身体に異常が発生しまして」

「いいのよ。今回は私のミスだから気にしないで」


 あの勾玉はアイカにも効果があったらしい。

 向こうに渡った以上、再度警戒しなきゃいけないかも。



★★★★★



「バカ者ぉぉぉ! どこの世界に朝帰りする罪人がいるのだぁぁぁ!」


 朝一の独房にチョビ髭看守の声が響く。原因はうっかりダンジョンに帰還しちゃった事にある。

 でもって朝になってから気付いて慌てて戻ったんだけど、不運にもチョビ髭とばったり遭遇しちゃったわけよ。

 寝ぼけてたらしく通路に転移しちやって、イソイソと独房に入ろうとしたところにチョビ髭参上って感じよ。

 というか、私の幸運はチョビ髭には通用しないらしい。神のギフトを打ち破るとか末恐ろしいわね。


「聞いておるのか貴様ぁ!」

「はいはい」

「聞く気がないのが丸分かりだぁぁぁ!」


 ったくうっさいわねぇ。一晩帰らなかったくらいでネチネチと……。


「いいか、もう一度言うぞ? 貴様が勝手に出歩くと私が処罰されるのだ、それでもいいのか!?」

「うん、別にいいんじゃ――」

「なにぃ!?」

「あ~はいはい、それは大変ですね。今度から門限を守って外出しま~す(棒)」

「うむ、分かればいい」




「分かっとらんではないかぁぁぁ! ここの独房に門限などないわぁぁぁ!」


 チッ、もう少しで丸め込めたのに……。


「どこの世界に堂々と出歩ける罪人がいるのだぁぁぁ!」

「いや、ここに居ま――」

「なにぃ!?」

「あ~はいはい、それは大変ですね。おとなしく反省してまーーーす(棒)」

「ったく、余計な手間をかけさせおって。お陰で胃が痛くてかなわん……」


 ブツクサと文句を言いながらチョビ髭が引き上げていく。胃潰瘍(いかいよう)になったら責任感じるし、今のうちに胃薬でも用意しとこうかな?


「ハハッ、あれでも先輩は苦労してるみたいだからね。僕のせいで何度か始末書を書かされてたし」


 リチャードさん、そこは反省しないとダメよ。他人の事言えないけど。


「あ、そうだ。今日にもアイリちゃんの知り合いが来るって学園長から通達があったよ?」

「知り合いが?」

「うん。早い時間帯に来るって聞いてるし、もうすぐ来るんじゃないかな?」


 リュック達が様子を見に来るのかな?

 ……と、思ってた私が態度を急変させる人物が現れるとは、この時は予想してはいなかった……。


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