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VS清姫

 清姫が放った斬撃の波動が地上にいる者へと襲いかかる。当然魔物との戦闘どころではなく、皆は理不尽な衝撃に耐えるのに必死だ。

 その様子を眺めていた清姫は、ますます気分を高揚させる。


「クックックッ。足掻け足掻け、存分に足掻くがいい。それが貴様らにできる唯一の抵抗なのだからな――そぉら、もう一撃だ!」


 ズドォォォォォォン!


「クゥッ! イト様、大丈夫ですか!?」

「は、はい、なんとか……」


 イトが張った障壁により、アヤメを含む近くの生徒は難を逃れた。

 しかし他では遠くに飛ばされた生徒も居り、もはや防衛線は崩壊寸前である。


「お返しだ!」


 シャシャ――パキキキィィィン!


「甘いわ! その程度の飛び道具など、妾には通じぬ」

「チッ!」


 一人気を吐くアヤメが反撃を試みるも清姫には隙がなく、放ったクナイは呆気なく払い落とされてしまう。


「二本刀の清姫、まさかこれ程の力を有していようとは……」

「三種の神器には、所持者に力を分け与える効果があると聞きます。恐らくあの勾玉がステータスを上昇させているのでしょう」


 さすがのアヤメもギリリと歯軋りをし、フローリアも唇を噛み締める。

 ただでさえAランクに勝るとも劣らない実力を有していながら、神器によるステータスアップが行われているのだ。簡単に手が出る相手ではない。


「フン、他愛もない。噂に聞くウィザーズ学園とやらがこの程度とは……。ならばそろそろ終わりにしてくれる――」


 つまらなそうに吐き捨てた清姫が振り上げた薙刀に魔力を込め始め――


「奥義――飛翔六波斬(ひしょうろっぱざん)!」


 地上に向けて一気に振り下ろした。

 放たれた斬撃が六つに分かれ、学園全体を覆い尽くさんとする勢いで叩き込まれる。


 バシュゥゥゥゥゥゥ!


「集めた魔物も巻き込んでしまったが……まぁよい。これで済むなら妾一人でも容易かろう」


 清姫の奥義は学園を囲んでいた魔物をも飲み込んだ。少なくとも2割は消滅したと見ていいだろう。

 ならば教師や生徒がどうなったのかは見るまでもない。そう高をくくり、土ぼこりの舞う地上に降りようとした――が、しかし!


「――ん?」


 視界が晴れてきたところで清姫の動きが止まる。視界が晴れるにつれて、大規模な障壁が展開されているのが見えてきたからだ。


「そう易々と壊されては困るのでな、少々本気を出させてもらったぞぃ」

「貴様は……」

「一応名乗っておこうか。儂の名はカーバイン、ウィザーズ学園の学園長だ」


 学園長をはじめとする教師達が杖を掲げていた。彼らの障壁が奥義を防いだのである。


「カーバイン、それにスティブも!?」

「遅れてすまなんだ、フローリア。逃げ遅れた生徒を避難させるのに手間取ってな」

「我々が来たからにはもう安心。ショータァァァァァァイムの時間だぜぃ!」


 教師陣に混じってストロンガーとオリガの姿もそこにあった。

 奥義が放たれる直前に、障壁の展開に加わったのである。


「フン、少しはやるようだが……この状況を覆せるとでも思っているのか? 例え奥義を防げても、スタンピードは耐えられまい!」


 清姫は笑みを崩さない。

 スタンピードで発生した魔物を支配下に置いているのだ、さすがに同時には相手をしていられないと考えたのだ。

 だが清姫に対抗するようにオリガも不適に笑って見せ……


「あ~魔物ねぇ。それならほら、台風みたいに暴れてる人達がいるっしょ? 彼らスタンピードの残りかすじゃ満足できなかったみたいでして、絶賛大暴れ中ですよん」

「何だと!?」


 清姫が目を凝らした先ではリュックとリュースが弾き飛ばされた生徒を救出しており、その2人を援護するようにクレア(ハッピィ)達が魔法や弓矢を撃ち込んでいた。

 その動きが他の生徒にも影響し、群を徐々に押し返していく。


「チッ、小賢しい連中め……」

「それにワチキに言わせれば、そっちこそ注意した方がいいと思いますがねぇ?」

「なにぃ? それはどういう――」

「こういう事よ!」


 バシィィィ!


「ぐぁっ、しまった!」


 突然死角から現れた何者かが清姫の持つ勾玉を叩き落とした。

 これにより魔物の統率は失われ、変化に気付いたリュック達は更なる攻勢に出る。


「魔物の動きが鈍った、一気に蹴散らそう!」

「おう、派手にやろうぜ!」

「ハッピィいっきまーーーす!」

「グラド、あたし達も援護するわよ」

「分かってらぁ!」


 低級の魔物なら楽に倒せるリュック達である。ただ本能のままに動く魔物なんぞに遅れを取ったりはしない。


「す、すげぇなアイツら」

「ああ。これなら殲滅(せんめつ)できるかもしれない」

「私達も負けてられないわ!」


 5人の勇姿を見た生徒達もそれに続き、瞬く間に魔物は姿を消してゆく。

 これには清姫も顔を歪ませ、勾玉を叩き落としたであろう相手を睨みつけた。


「貴様……味な真似をしてくれたな? 死角からとはいえ妾に一撃入れるとは大したやつよ。名は何と申す?」


 すると少女はニヤリと不適な笑みを見せ、サッとポニーテールを(なび)かせると高らかと名乗った。


「私はアイリ。ダンジョンマスターよ」



★★★★★



「ダンジョン……マスター……だと?」


 あれ? まさかダンマスをご存知ない?


「アイリお姉様、きっとこのオバハンはお姉様の凛々しさにみとれてしまったんですよ。ちなみにワチキも――フゴッ!?」

「どさくさ紛れに胸を揉もうとしない!」


 こんな時にもオリガはブレないなと逆に感心して――いや、感心したらダメよね。危うく流されるところだったわ。


「……なるほどな。貴様が例のダンマスか」

「例の――って何の話よ?」

「貴様の名は有名だからな。妾の祖国にも幅広く伝わっておるぞ?」

「ああ、そういう事」


 どうやら別の大陸にまで私の名前が広まってるみたい。他のダンマスから情報が漏れたんでしょうね。


「ダンマスでありながら並の冒険者では歯が立たないほど強いらしいな?」

「だったらどうするわけ?」

「フッ、知れたこと――」


 正面にいた清姫が視界から消える。

 すると次の瞬間、私の右後ろに気配を感じとり……


「貴様の首を手土産に――」


 ガキン!


「――なっ!?」

「フン、手土産にされるほど私は安くはないわよ?」


 振り向き様に薙刀を受け止め、そのまま後ろに弾いてやった。

 清姫は「まさか!?」って顔をしてるけど、この程度なら私でも対処できる。


「今度は私の番よ。眷族達がおかしくなった借りも返させてもらうわ」


 コイツの持っていた勾玉とかいうアイテムのせいで、眷族を宥めるのに苦労したのよ。おかげで駆けつけるのに時間がかかったんだからね!


「一気に燃やしてやる――フレイムボム!」

「チッ、小娘ごときが調子にのるな! 奥義――飛翔六波斬(ひしょうろっぱざん)!」


 バチバチバチ――ドゴゴゴォォォン!


 私のフレイムボムと相手の技がぶつかり合い、爆風と爆煙を周囲に散らせる。

 さぁて、黒煙が晴れてきたわね。無惨な姿を私の前に晒し――あれ?


「まさか奥義を打ち消すほどの実力を持っていようとはな。少々甘く見すぎたようだ」


 まさかノーダメージ!?

 ――いや、よく見たら鎧が焦げた所から血が滴ってるし、一応ダメージはあったみたい。

 だったらもう一度――


「今日のところは退いてやろう。いずれにしろ貴様が日の目を見る事はないだろうしな」

「――って、いったい何の話よ?」

「クックックッ、すぐに分かるさ。ではさらばだ!」

「ちょ、待ちなさい!」


 転移石を持っていたらしく、掴みかかろうとしたところで逃げられてしまった。


「いやはや、助かったぞアイリ君。キミが来なければ危うかっただろう」

(おだ)てても何も出ませんよ。仮に私が居なくても先生方なら対処できたでしょ?」

「はて? それは何とも言えんなぁ」


 このてっぺんハゲ、実は相当な実力を隠し持ってる事が鑑定スキルで分かったのよ。

 いやほんと、なんで今まで鑑定してなかったのかって言われそうだけど、学園長とフローリア先生、それにストロンガー先生はズバ抜けたステータスだった。それこそ今戦ってた清姫に近いくらいのね。

 3人寄れば何とやら――じゃないけど、3人だけでも撃退できてたと思うわ。


「アイリさん、ありがとう御座います。おかげで助かりました」

「イトさんも無事でよかったわ」

「アイリさんもね。――ほら、アヤメさん?」


 イトさんの後ろに隠れたアヤメが顔を赤らめてる。

 はは~ん、今さら私に礼を言うのが面白くないのね。


「そ、その……ありがとう――って、礼は言わないぞ!?」


 言ってるじゃない……。

 もっと嫌な奴かと思ったけれど、そうでもないらしい。これが噂に聞くツンデレってタイプなんだろうか? 確かホークがそんな事を言ってたような。


「しかし清姫め、まさか三種の神器を持ち出すとは、新皇帝は何を考えている……」

「三種の神器……あ!」


 アヤメが(つぶや)いたので思い出した。

 清姫が妖しく光るマジックアイテムを持ってたから叩き落としたのよ。


「確かこの辺に……あった! これでしょ? 三種の神器ってのは」


 今は光を失ってるけど、赤紫の妙はアクセサリーをアヤメに見せてみた。


「間違いない、八岐勾玉だ。このアイテムは動物や魔物を惑わすと言われていて、大変危険なアイテムなのだ。できれば誰かに預かってほしいのだが……」


 ん?


「そうですね。やはり簡単には屈しない御方にお預けするのが最適でしょう」


 んん?

 アヤメもイトさんも、急に私の顔に焦点を会わせてどうしたんだろ?


「あ~ワチキが知る限りじゃ1人しかいないですねぇ」


 オリガ!?


「では決まりだな?」


 学園長も!?


「はい、よろしいと思います」


 フローリア先生まで!


 ポム!


「……ストロンガー先生?」


 決めポーズをした我が担任が、器用に私の肩へと手を乗せる。


「アイリ君、プレゼントフォーユゥゥゥ!」


 やっぱりぃぃぃ!


「なんで私!? こういう時は学園長が責任を持つべきでしょうが!」

「カッカッカ! よいではないか、よいではないか!」


 変な笑いまでして、どこの悪代官よ! ったく……。


「アイリさ~ん!」


 遠くでリュックが手を振ってる。こっちでごちゃごちゃやってるうちに魔物は殲滅できたみたい。

 余計な物を押し付けられたけど、これで一件落着――。


「夜分に失礼する。私はクラウンの騎士団長でラゴスという」


 さっさと帰ろうとした矢先に、ぞろぞろと騎士団がやって来た。

 今さら来ても出番はないと思うけどね~。


「儂が学園長のカーバインだが……。騎士団が何用かな?」

「この学園にアイリというダンジョンマスターが通っていると聞いたが……」


 む? 私に用?


「私がアイリだけど?」

「そうか、貴様が……。ではダンジョンマスターのアイリよ、スタンピード発生の原因を作った者として貴様を捕縛する!」

「……え?」


 いや、全然意味が分からない!


「どうして私のせいになってるのよ! スタンピードを起こしたのはクラウンにダンジョンを構えてたダンマスでしょ!?」

「その通り。あそこのダンジョンを攻略するよう頼んだのは学園長の儂でもある」

「しかし、かのダンジョンはすでに崩壊を始めており、スタンピードとの因果関係は認められないというのが上層部の判断である。つまり、別のダンマスが引き起こした事になり、消去法により貴様が浮上したのだ」

「そんな!」


 ここに来て面倒な事になった。これじゃあ骨折り損じゃない!


「それに今日のあの時間帯にダンジョンに潜ったのは貴様1人。その貴様が出てきた直後に魔物が召喚され始めたのだ。これはダンジョンを見張っていた者の証言により判明している。これを偶然だとでも言うつもりか?」

「スタンピードが発生するから急いで脱出したのよ。だいたいあの時間帯に潜ったのもヴォルビクス侯爵に頼まれたのもあるんだからね」


 もう、こんな事になるならあのタヌキオヤジと交渉するんじゃなかったわ!


「ヴォルビクス侯爵か……」

「そうよ、嘘だと思うんなら侯爵様に聞いてみなさいよ!」

「残念だが、それはできない」

「はぁ? どうしてよ!?」

「ヴォルビクス侯爵は亡くなられた」


 ……はい?


「侯爵様の邸が何者かに襲撃されたのだ。生き残りは0。よって貴様にはヴォルビクス侯爵の殺害疑惑もかかっている。おとなしく同行願おうか!」


 最悪の展開ね……。


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