ダンマスVSダンマス
ウルフからドラゴンまで様々な形をした眷族が殺到し、瞬く間に私は覆い尽くされた。
「フン、バカな小娘だ。命を投げ出すためにノコノコとやって来るとは……。本来ダンジョンマスターとは、敵を己のテリトリーで迎え撃つ存在なのだ。自ら乗り込んだ愚を悔いて、あの世に旅立つがよい」
――等とすでに勝ったつもりでいるバカに気安く説教されたくないっての!
ドッッッパァァァァァァン!
「何だと!?」
群がる魔物を弾き飛ばし、華麗に復活して見せた。
あ、ドローンは何もしてないわよ? もしドローンが本気を出したら、私ごと消し飛んじゃうから。
なので急遽呼び出したのが……
「残念、美味しそうな物は無さそう。ルーとしては不満タラタラ」
「右に同じ。よって報酬にはお菓子を要求する」
現れるなりボス部屋をキョロキョロと見渡してるのは、言わずと知れたゴーレム姉妹。
見た目は幼女……だけど中身はSランクとSSランクのハイスペックゴーレムなのよ。
「バ、バカな……ダンマスの権限により、魔法とスキルは使用不可としたはず……なのにどうやって召喚した!?」
「フフン、その答えは私に勝ったら教えてあげるわ」
「…………」
教えてもよかったんだけど、スマホの説明をするのが面倒なのよねぇ。
まぁ一言でいうとスマホを使って眷族を召喚したのであって、スキルと魔法を規制したところで無意味って事よ。
「フン、どういうカラクリかは知らぬが、こちらが優勢なのは変わりない。竜よ――コヤツらを一気に焼き尽くせ!」
「「「Gyaoooooo!」」」
ゴォォォォォォォォォォォォ!!
6体の竜――内1体はSランクという脅威的な竜達が、一斉にブレスを放ってきた。
いくらゴーレム姉妹でもドラゴンブレスを真面に食らえば危険すぎる。
「フハハハハ! 今度こそ終わりだ。呆気ない幕切れであったなぁ?」
白煙と黒煙が入り雑じり周囲を覆い尽くす。
並の人間なら確実に助からないし、上位の冒険者ですら運良く瀕死で済むくらいよ。
物理攻撃以外が弱点であるゴーレム姉妹も無事じゃ済まない――なぁんて事はなく……
「眷族を召喚したところで無意味――」
「――じゃないわよ?」
「なっ!?」
ガルドーラの顔から笑みが消え、驚愕の表情へと切り替わる。
何故なら私もゴーレム姉妹も無傷で立ってるんだもの、まるでバケモノを見るかのような視線を向けて――って、こんな美少女をつかまえて失礼じゃないこのオバサン?
「何故だ……何故何事もなかったかのように立っていられるのだ!?」
「ま、隠すほどの事じゃないし、教えてあげるわ――アイカ」
『了解です』
私の意図を察したアイカが、ドローンが発動させていた特殊迷彩を解いていく。
このスキルが発動してる間は視認することが出来ない。つまりガルドーラは、初めてドローンの存在を目の当たりにしたってわけ。
「な、なんだその珍妙な物体は……」
「ドローンという異世界の兵器よ。コレで結界を張って防いだの」
ゴメン……地球の皆さん。様々なスキルを付与したら兵器になっちゃいました。
何せこのドローンの結界は、ドラゴンブレスすら防いでしまうくらい強力なんで。
それじゃあ種明かしもしたことだし――
「ルー、ミリー、ついでにアイカ、やってしまいなさい!」
「「イェス、マスター」」
「わたくしはついでですかそうですか……」
まずはルーとミリーが突っ込んで――いや、ミリーがルーを担いで突っ込んでいく。
いったい何をする気だろうか?
「ミリー、目標はあのドラゴン」
「了解。ルーキャノン――発射!」
ミリーが勢い良くルーを投げ飛ばした。
その先ではSランクのシルバードラゴンがブレスを吐こうと大口を開ける――が!
ドムッ!
「Gyaooo!?」
ブレスを吐く前に、ルーが口内へと突っ込んでいった。
けれど、それだけでは終わらない。
ボゴッ!
「Gyaaaaaa……」
「突貫工事成功。トンネルが繋がった」
そのまま頭部を突き抜け反対側から飛び出してきた。さすがに脳をやられちゃ生きてはいられず、シルバードラゴンは力なく横たわる。
この間わずか20秒。そう、たったの20秒でSランクのドラゴンを撃沈したのよ。
「さすがはルー。ミリーの姉だけの事はある」
「妹より劣る姉など居らぬ。これで報酬のお菓子は全部ルーのもの」
「それは納得できない。ルーはただ飛んでただけ。投げたミリーこそ報酬を受け取る権利がある」
ちょ、こんな時に喧嘩してんじゃない!
「グオォォォォォォ!」
ホラホラ、1つ目巨人のサイクロプスがそっち行ったわよ!
「ルーが貰う」
「ミリーが貰う」
「ルーったらルー!」
「ミリーったらミリー!」
「ゴァァァ!」
「「うるさい!」」
ドゴォォォォォォ!
「ゴハァァァ!?」
幼女2人がサイクロプスを殴り飛ばすという、端から見たら前代未聞な光景を目の当たりにする。
こっちは心配なさそうね。アイカの方は……
ズダダダダダダダ!
「ギャウン!」
「ゴァァァ!」
「Goooooo……」
ドローンに搭載されてる機銃により、ガルドーラの眷族達が血溜まりに沈む。
うん、まるで虐殺のような光景がそこにあったわ。
『こんなものでしょうか。残りはルーとミリーに任せておけばよろしいかと』
「そうね~」
私とアイカが残りの眷族と戯れるゴーレム姉妹を眺めている一方で、顎が外れんばかりにあんぐりと開けているのはガルドーラよ。
まさかSランクの眷族が撃破されるとは夢にも思わなかったでしょうね。
けれど残念、Sランク以上の眷族を従えてる私には脅しにすらならない。
「有り得ぬ……。余の眷族がこうもあっさりと刈り取られるなど……こんなことはあってはならぬ……」
「ならぬも何も、現実に起こった事よ」
脱け殻のようにガクリと膝をつくガルドーラ。
ギルガメルの眷族より強かったとは思うわよ? でもキツい言い方をするんであれば、たかがそれだけって事ね。
「一応確認するわ。悔い改めて改心する気なんかないわよね?」
「ほざけ! 余が余の足元に転がる連中に屈するとでも思うたか!?」
「ですよね~」
投降するんなら国家主席にでも引き渡そうかと思ったんだけども、その必要がないなら手間が省ける。
「じゃあアイカ、トドメを刺しちゃって」
『りょうか――ん?』
「どうしたの?」
首を傾げたようなアイカの声に気付き視線を移す。
すると肩を震わしてクツクツと笑い出したガルドーラがそこにいた。
「クックックッ……」
「……何が可笑しいのよ?」
「ダンジョンマスターとして生まれ落ち、300年は経っただろうか。まさか貴様のような小娘に追い込まれようとは思わなんだ」
それは御愁傷様。
「他のダンマス共が恐れている理由がよく分かったぞ? 恐らくそこの幼女2人はSランク以上の魔物。更に貴様のダンジョンにはそれ以上の存在も居ると見た」
「急に何? 今さら持ち上げても慈悲はかけないわよ?」
「フハハハハ! バカめ、余が命乞いをするとでも思うたか!」
持ち上げたり貶したり忙しい奴ね。
「余が死ねば残りの魔力を全て消費し、地上を覆い尽くす程のスタンピードを発生させてくれよう。それでも構わぬと言うのなら、遠慮なく余を討つがよい!」
「チッ……」
私もダンマスだから分かる。スタンピードが発生する条件の1つに、自分の死を引き金にして起こす方法があるって事が。
つまりガルドーラの言ってる事は真実で、少なくともAランクの魔物を複数召喚できる程の魔力が蓄えられてるはず。
それほどの量を一気に解放すれば、この国は壊滅的な打撃を受ける……。
「分かったであろう? この国の貴族共が余と手を組んだ理由が」
「討伐しに来た貴族連中を、スタンピードを盾に脅したってわけね」
それなら討伐できないはずだわ。
そんな役目を押し付けてきたヴォルビクス侯爵も相当なタヌキおやじね。帰ったら問い詰めてやろう。
『どう致しましょう。討伐するなら後始末の方が大変そうですが』
アイカの言う通りね。
ここは1つ時間を稼いで、眷族達を掃討に回すしか――
「ほほぅ、実に好都合な話だ」
「誰!?」
慌てて入口の方へと振り向く。
そこには弓を構えた見知らぬ男が――と、思った瞬間!
ドスッ!
「グフッ!」
「ガルドーラ!?」
気付けば矢は放たれていて、吸い込まれるようにガルドーラの心臓へと突き刺さった。
「き、貴様は何奴……」
「フッ、名乗るほどの者じゃないさ」
すかした男を透かさず鑑定にかけてみる。
名前:ヨイチ 性別:男
年齢:33歳 種族:人間
身分:ダンノーラ帝国の狙撃手
コイツ、ダンノーラ帝国の!?
「アンタいったい――」
「この国が混乱するなら大歓迎――ってね。じゃあ僕は失礼するよ」
ヨイチという男はどこかへと転移した。
クッ、逃げられた!
『お姉様、ぼやいてる場合ではありません』
「そ、そうよ、ガルドーラは――」
鑑定すると、既に死亡してると出た。
「遅かったか……」
ゴゴゴゴゴ……
『お姉様、ダンジョンが崩壊します。急いで脱出して下さい!』
「分かってる。アイカは眷族達に収集をかけといて!」
『了解です』
こんな所にダンノーラの手の者が来るなんてね……。




