ガルドーラ?
「ハッ!」
ザシュ!
「グギャァァァ……」
「よしっと、これで全部片付けたわ」
最後の1匹を斬り伏せ一息つく。
ダンジョンに入るなり、まるで待ち伏せをされていたかのような歓迎を受けた。
具体的には、影に隠れていたゴブリンが一斉に襲いかかってくるという初心者からしたら恐怖でしかない状況が発生したのよ。
『通常のゴブリンだけではなく、Dランクまでの上位種まで含まれていましたね』
「しかもFランクの魔物しか出ないはずの1階層でね。もう形振り構ってられないんでしょ」
『プププ♪ どうやらお姉様は相当嫌われてしまったようで』
「これから倒す相手なんだから好かれるよりマシよ」
向こうが殺しに来てくれるんなら遠慮なく殺せるもの、寧ろありがたいわ。
「グルルル……」
おっと、今度はウルフの群が通路を塞いでる。数は……うん、通路の向こう側までビッシリと居るわ。ザッと1000匹ってところね!
面倒だから回り道して――
『バリッ、ボリッ、バリッ!』
ちょ、ドローンから変な音が漏れてる!
『申し訳ありません。ちょっと小腹が空いたので煎餅を』
こんな時に煎餅なんて食うなーーーっ!
「「「グルル?」」」
「んげっ! やっぱり気付かれた!」
「「「グルルァァァ!」」」
あーーーもぅ、こうなったら突撃よ!
「アイカ! アンタのせいなんだから、煎餅かじってないで援護しなさいよ!」
『はいはい、分かってますよ』
アイカの失態により交戦を余儀なくされた。
雑魚とはいえ1000匹もの群を1人で殲滅するのは……ね?
『フフン、どうやらドローンの新魔法を試す時が来たようですね。お姉様は後ろでご覧になっててください』
よく分かんないけど、やけに自信有り有りなアイカに任せてみよう。
『さぁ燃え尽きなさい――ヘルファイヤーブラスト!』
ズドォーーーーーーッ!
ドローンから放たれたのは正に炎の光線で、これにより通路上にいたウルフの群が9割以上消し飛んだわ。
『地球にある技術を応用した結果、このような素晴らしい魔法が誕生しました。危険過ぎるので、ダンジョンのように不壊属性の壁がある場所でしか使用できないのが難点ですが』
「それはいいけど、他に冒険者はいなかったでしょうね?」
『もちろんです。近くに冒険者パーティがいないのは確認済みです』
ならいいわ。もし居たら100%助からないもの。
『お姉様、今度は罠の応報です。落とし穴の上に吊り天井が有り、更に飛び越えた先には矢が飛び出してきた――かと思えば、正面から回避できないサイズの大岩が転がってくるという凶悪極まりない仕掛けです』
まるでホークが考えつくような鬼畜トラップじゃない。
「あんまり手の内を見せたくないけど、座標転位で一気に――」
『お姉様、どうやらダンジョン内での魔法とスキルは無力化されてるようです。地道に進むしかありませんね』
ホントに面倒臭い……。ん? でもさっきのドローンは……
「ドローンで魔法をブッ放してたじゃない」
『あれはイグリーシアの理から外れたモノですので対象外です』
もうドローンだけ飛ばしてればいいんじゃないかと思えてくる。というか、あっさりと理から外れていいのかと。
『今頃ここのダンマスは焦ってるでしょうし、ドローンを先頭に突撃しましょう』
「うん、任せた」
ドローンに掴まると、超スピードで罠のあるエリアを進んでいく。飛んでるから落とし穴には嵌まらないし、速いから吊り天井をも潜り抜ける。両サイドから放たれる矢も当然当たらない。
そして正面からの大岩を――
『粉砕します』
キュィィィィィィン!
ドローンの先端がドリルのような回転を始め、そのまま大岩へと突っ込んでいく。
ドッ――――ボゴォォォォォォン!
表面に刺さったドリルがギュルギュルと内部を抉っていき、反対側から飛び出した。
『フフン、ザッとこんなものです』
「あ~~うん、よくやったわ」
すでにドローンとは別の何かに成りつつあるわね。いったい何を目指してるやら……。
『いずれは巨大ロボに変形できるよう改良するつもりですのでお楽しみに』
「しなくていい!」
こんな調子で進むこと1時間。私とアイカ――というかドローンは、5階層のボス部屋までたどり着いた。
公になってる情報によれば、5階層の全容は明らかにされておらず、たどり着いた冒険者もごく僅からしい。
その一部の冒険者は情報を小出しにして金を稼いでるとかで、実質ダンジョン攻略は停滞してると言ってもよさげね。
『噂によりますと、5階層で最後なのではと言われてますね』
「根拠は?」
『6階層の情報が皆無だからです』
「つまり根拠はないと」
だったら私が確かめてやろうじゃないの。
ギギギギギ……
扉を押して中を覗き込むと、所々に灯された蝋燭が寂しげにボス部屋を照らしていた。
見たところボスらしき存在は見当たらないんだけど……。
『お姉様、油断は禁物です。いまだ5階層のボスを撃破したという情報はありません。つまりここに訪れた冒険者はいないか、いても殺されたかの二つに一つです』
「分かってる」
ボス部屋の手前にあったセーフティエリアも使われた形跡なし――となれば、近い過去に冒険者は来てはいない。
恐らくヴォルビクス侯爵もボス部屋で会談してたんだろうし、監視の意味でもボスがいないのは有り得ない。
「出て来なさい、居るのは分かってるのよ!」
油断なく剣を構え、声を張り上げる。
すると奥に見える祭壇の影から何者かが姿を現し、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
見た感じは髪の長い女性に見えるけど……
「大したものだ。ここまで来るのに殆ど無傷なのは貴様くらいだろうな? 魔女の森に住まうダンジョンマスターアイリよ」
「へぇ、私を知ってるんだ?」
「この大陸のダンマスで貴様を知らぬ者がいたのなら、是非とも見てみたいものだ」
ん? つまりこのハスキーボイスの女性がここのダンマス?
「名前を聞いてもいいかしら?」
「フッ、鑑定スキルを持ってるのであろう? 己の目で確かめるがいい」
そこまで言うなら――
名前:ガルドーラ 性別:女
年齢:375歳 種族:魔族
身分:ダンジョンマスター
やっぱりダンマスだったわ――って、ガルドーラ!?
「なんでガルドーラなんて名前を名乗ってるわけ?」
「決まっておろう? 余がこの国を作り上げたのだ、自分の名を宛がうのは当然ではあろう?」
だったらこの国で暗躍してるのはコイツ?
「1つ確認するわ。あの3人を暗殺したのは何故?」
「あの3人とは……ああ、あの女狐共か。奴らは元々余の命令で動いていたのだ。上手くギルガメルを操るためにな」
「……それってつまり、ギルガメルが要人3人を利用してたんじゃなく、逆に――」
「その通り。余が接触させ利用していたのだ。……だがギルガメルは死んだ。最後まで正体がバレていた事すら気付かずにな」
もっと早くに鑑定してれば私も迷う事はなかったんだけどね。今さらだけど。
「ギルガメルを使って学園を潰すか、意のままに動かすかが当初の目的であったのだが、貴様が現れた事により計画は無に返した。そのまま放置すると余を嗅ぎ付けてくると考え、官僚共を始末したのだ。……まぁ結局は無駄だったようだがな」
なるほど、やっぱり口封じだったんだ。
「さて、話は終わりだ。もちろん貴様の命の灯火もな」
シュザザザ!
ガルドーラが片手を上げると、10体の魔物が私を取り囲んだ。
雑魚じゃないところを見ると、恐らくは眷族……。
「ここに来た以上、生かして返すわけにはいかんのでな。余の素性を冥土の土産とするがよい!」
ガルドーラの眷族が一斉に動き出した。




