ダンジョン探索③
リュック達を寮まで送り届け、私はダンジョンへとUターンする。オリガが暴れてるというバカバカしい理由でね!
ペサデロが言うには、親睦を深めたいとかいうもっともらしい理由を上げて私に接近しようとしてるらしいく、それにセネカやサフュアが乗っかってるんだとか。
何故――って思うわよね? その理由がこちら。
『セネカは大物貴族とのコネクションを求めてる。アイリなら伝ができるとかなんとか』
さすが商人の娘。そういうところは抜け目ないわね。
『サフュアは周囲に煙たがられてるので、アイリなら構ってくれると思ってるらしい。つまりは寂しんぼ』
それはそれで哀れな……。
あの上から目線を直せばサフュアも社交的になれそうなものだけど。
『アヤメはアイリに対抗意識を燃やしてる。ダンジョンの1つくらい攻略して見せると必死になって少々暑苦しい』
アヤメまでいるの……。
対抗意識を持つのは勝手だけど、自滅しないように気をつけてほしいもんだわ。
『あとゲイルとナンパールもいるけど、どうでもいいと思われるから関知しない』
ソイツらまで……。
どうせ不純な理由だろうし、放っておいていいわ。
『それで、今どの辺りにいるの?』
『先ほど2階層に着いたばかり。ボス部屋までは遠いと予測する』
完全に入れ違いね。
まぁあの男達がいる状況で遭遇するのも面倒だったし、これでよかったのかな?
『すぐに戻るけど、危なくなったら教えてちょうだい』
『分かった。催促するようで恐縮だけど、早く来てほしい』
『そりゃ早く行くけれど……2階層はEランクまでの魔物しか出なって判明してるんだし、ペサデロの実力なら対処可能でしょ?』
『そうじゃない。いい加減オリガがウザい。隙あらば抱きつこうとしてくるから、気分は最悪……』
もうね、正直オリガに関しては諦めてほしい。シバイても喜ばれるだけだし、こうなったらダンジョン攻略に協力させよう――って事で……
「はい到着~」
「「「アイリ!?」」」
一度通ったルートだし、短時間で移動するくらい訳無いわ。
「せっかくの休日なのに、いったいどこをほっつき歩いてたなの? 随分探し回ったなの」
「セネカさんの言う通りです。私に探す手間を取らせたのですから、それ相応の報いを受けていただきますよ?」
ま~た勝手な事言ってる……。
「まぁまぁお二人とも。ここは1つ、ワチキのお姉様への純粋なラブセッションに免じて矛を収めていただければ――」
「「「どこが純粋か(なの)!」」」
私を含む全員から突っ込みが入る。この中だとオリガが一番不純であることは間違いないもの。
「ったくよぉ、これだから痴女は嫌なんだ。ちったぁセネカやアイリを見習えってんだ」
バキッ!
「はぁ!? 勝手についてきた分際でワチキに意見するつもりで? この汗臭いハゲが!」
スパスパスパッ!
「ハゲじゃねぇ! スキンヘッドだ!」
ドゴォ!
「ええぃ、うるさいぞキサマら! 今はダンジョンを攻略中なのだ、真面目にやれ!」
ザシュ!
「フッ、怒った顔もまた魅力的だよ彩愛嬢」
フィシュ!
「寄るな気色悪い!」
ズバン!
「まったく、ナンパールは相変わらず見境がないのですね」
フィキーーーン……ザシュザシュザシュ!
「ゲイルといいナンパールといい、どうして男ってこうなのなの?」
ドスッ! グシャ!
軽口を叩き合いながらも魔物を撃破していくところは称賛に値する。リュック達じゃ真似できないと思うし。
この調子なら本当に攻略できちゃうかも?
「ところで一つ気になったんだけど、どうしてアンタ達が一緒に行動してるわけ?」
「それはですね、ワチキがアイリお姉様に会いに行くと叫んでたらみんなして寄ってきたんですよ」
「しかも人目も気にせず寮の食堂でな!」
アヤメの補足で大体の構図が分かった。というか堂々と叫ぶな。
ギリギリギリ
「……で、どうして冒険者ギルドに?」
「お姉様、一応ワチキも女なんで、顔を潰すようにプレスするのは勘弁してもらえると……」
「いいから、早く答える!」
「が、学園長れす。ダンジョンを探索しに出たのではないかな? とか言ってたれす……」
あの薄らてっぺんハゲ、余計な事を……。
「おい、ありゃボス部屋の扉じゃねぇか?」
「確かに。あの扉の奥にはボスがいると、僕の千里眼が訴えてるよ」
男2人が見たのは正しくボス部屋の扉。
というかな~にが千里眼よ。あんなデカイ扉はボス部屋の扉以外にあり得ないわ。
「たかが2階層のボスごとき、このアヤメが討ち取ってくれる!」
「あ、お待ちなさいアヤメさん。一人で突っ込んでは――」
「大丈夫でしょ。情報によればここのボスはEランクの魔物が一体だけって話だし、アヤメなら問題ないわ」
後を追おうとしたサフュアを手で制する。
アヤメの場合は連携するよりも単独の方が動けると思うから、余計な手出しはしない方が良さげよ。
「グォォォォォォ!」
「フン、クラッシュベアか。こんな雑魚など私一人で釣がくる――テヤッ!」
ザシュ!
「ゴガァァァ……」
「お粗末!」
思った通り、速攻で首を斬り落として戦闘は終了したわ。
この調子でどんどん先に進もう――としたんだけれど……。
「ったく、やってらんねーぜ!」
「ああ。貴族様のやることなんざ理解できねぇっての」
ぶつくさと文句を垂れ流しつつ他の冒険者パーティが引き上げていく。
「なんだアイツら? 貴族がどうとか言ってやがったが」
「察するに、この先で貴族の妨害にあったのだと思うの。おおかた貴族が訪れてて、探索の邪魔だからと追い返されたとかだと思うの」
貴族の考えそうな事ね。
私達が行っても同じだろうけど、現状を把握するためにも先へと進む。
その途中で数組のパーティとすれ違い、貴族によって追い返されたという共通の話を小耳に挟んだ。
どうやらセネカの予想通りになっいてるっぽい。
「ここから先は立ち入り禁止だ。一般の冒険者は引き返してもらおう」
ほらね? ボス部屋を封鎖するように、貴族の私兵と思われる連中が行く手を阻んだわ。
「そのような勝手な振る舞――」
「サフュアはちょっと黙ってるの。……コホン。貴方達はどちらの貴族様にお仕えしておりましてなの?」
「フッ聞いて驚け、我々はかの名高きヴォルビクス侯爵様の私兵であるぞ!」
セネカに乗せられ出てきた名前は、フローレン派と対立してるヴォルビクス侯爵だった。
「まぁ! あの無駄に派手好きな――じゃなかったなの、実にファッショナブルなヴォルビクス侯爵様の! ではヴォルビクス様ご自身でダンジョンを攻略されてるのですなの!?」
「う、うむ、その通りだ。そういう訳でな、邪魔が入らないよう我々が封鎖しているのだ」
ふ~ん? 侯爵家の当主自らがダンジョン攻略をねぇ? それが本当なら、もっと大規模に冒険者を募集して攻略に挑んだ方が良さげだけども。
「……今日のところは引き上げましょ」
「い、いいんですかお姉様?」
「だって仕方ないじゃない、貴族様には逆らえないんだもの」
現状は分かったので、おとなしく引き下がることにした。それに気になる事も出てきたしね。
★★★★★
「なるほど、帰りが早いと思ったらそういう事でしたか」
「そ。だからアイカにはヴォルビクス侯爵の情報を集めてほしいのよ」
「畏まりました」
またしてもダンジョン攻略には至らず、解散して自宅に戻ってきた。
それにあの様子じゃ強引に突破するしかないし、そうすると100パー面倒な事になる。
「しかしよかったですね。今日はいろんなご友人と外出できて。あのボッチだったお姉様が別人のように感じます」
「ボッチは余計よ!」
真っ向から否定できないのが悔しい!
「ところで、ヴォルビクスの情報を集めるという事は、次にハッ倒す相手は……」
「人聞きの悪い言い方しない!」
場合によっちゃそうなるかもだけど。
そもそも旗本の侯爵がダンジョン攻略なんてやってるのがおかしいのよ。傘下の貴族にやらせればいいのに、よっぽど踏み込まれたくない何かがあるんでしょうね。
その何かにダンジョンマスターも関わっているとなれば、いよいよ私の本領を発揮する時かも。




