ダンジョン探索①
「凄い、本物のダンジョンだ……」
「だろ? もち出てくる魔物も本物だから気を付けろよ? ボサッとしてっと食われちまうぜ!」
ダンジョンに乗り込んだ私達6人パーティは、ギルドで購入した地図を頼りに足場の整備された洞窟を進んでいく。
一応は経験者にあたる私とリュースを先頭に、後ろを他4人がついてくる感じに。
ちなみにだけど、ダンジョン探索は二回目になるリュースがリュックに対して得意気に語ってるのは、少しでも優位に立ってるのを自慢したいがためね。私からしたら五十歩百歩よ。
「ダンジョンなのに歩きやすいね~。これなら楽勝かも~♪」
ちょ、クレア――じゃなくてハッピィ、引っ込んで引っ込んで! クレアの台詞じゃなくなってる!
「す、すげぇ自信だなクレア。よ、よぉし、俺も負けてられねぇ」
「あ、あたしも見習わなきゃ」
クレアの――もといハッピィの台詞がよかったのか、みんなの緊張が和らいだ気がする。結果オーライだけど、極力自重してほしい……。
「お、分かれ道だ。右か左か真っ直ぐか、どれにする?」
「慌てないで。まずは地図を確認しましょ」
リュースに待ったをかけると、地図を広げてそれぞれの行き着く先を調べる。
私だけなら強引に進めるけど、今はパーティの一員として行動しなきゃね。
「右も幾つかの道に別れてるけれど、いずれも行き止まりね。魔物が涌くから狩り場として使ってる冒険者がちらほらといるらしいわ」
「じゃあ小手調べで右に行く?」
本来なら慎重なリュックの意見には凄く賛成したい。
でも今回は攻略を目的としてるから、頭を振って否定する。
「小手調べの必要はないわ。だって今のリュック達なら楽勝過ぎるもの」
「なるほどなぁ。よく見りゃFランクの魔物しか出ないって書いてあるし、飛ばして進んだ方がよさそうだ」
「そ。よく分かったわねグラド」
リュック達の実力ならDランクからが本番よ。それまでは油断さえしなければ問題ない。
「じゃあどうするんだ? 左か真ん中――」
「おいお前ら、邪魔だ邪魔だ!」
「うぉっと!?」
ガラの悪い中年男がグラドを押し退けて現れた。その後ろには似たような人相の男達3人が続き、まるで品定めをするような視線を向けてくる。できれば遭遇したくない手合いだったんだけどねぇ……。
「ここはテメェらみてぇなガキンチョが来るところじゃねぇ。命が惜しけりゃおとなしく帰んな!」
「んだと――」
「ちょ、ちょっとリュース、やめなさいよ」
「お願いだから落ち着いて」
挑発されて腕を捲ったリュースを、トリムとクレアが慌てて止める。
私達より弱いとはいえ、こちらから喧嘩を吹っ掛けるわけにはいかない。万が一冒険者ギルドにバレたら、罰金とか言われる可能性もあるからね。
あ、弱いっていうのは鑑定スキルで見たからよ? 4人ともデリカシー0のグラドより弱いでやんの、プークスクス♪
だけどコイツらには一言伝えておこう。
「あいにくだけど、雑魚の相手してやるほど暇じゃないのよ。目障りだからどっか行って」
「ああっ!?」
「このガキャ……」
思った通り、沸点の低い連中ね。これなら使えるかもしれない。
「ちょっとアイリまで――」
「落ち着いてトリム。大丈夫だから」
トリムを始め、リュック達が不安そうな表情を向けてくる。
けれど私がいる限りこの場で襲ってきても即座に返り討ちよ。
「おいおい嬢ちゃん、冗談にしては笑えないぜ? 自分たちより強い相手を雑魚扱いするたぁ罰が下るってもんだ」
「罰ね……下せるものなら下してみれば?」
「コイツ――」
ついにキレそうになった一人が私に掴みかかろうとする。けどリーダー格とおぼしき男に止められ、舌打ちしながら引き下がった。
「いいか? こっちは親切に忠告してやったんだ。この先何が起きても後悔するんじゃねぇぜ」
……などと捨て台詞を吐いて、左側の通路を進んで行った。
改めて地図を見ると、真ん中はやや遠回りながらも2階層へと繋がってて、左側が最短距離で行けるみたい。
「さ、私達も行きましょ。左側が近道だから」
――って言ったら皆が揃って反対してきたから、私に考えがあるとバラして強引に進んだ。あの連中と同じルートを進むのが余程嫌なのね。
だけどこれも経験よ。冒険者は良い奴ばかりじゃない。中には悪どい連中もいて、ダンジョンに潜った冒険者を襲って身ぐるみを剥ごうとする奴らも多い。
これはダンジョンマスターの立場で見てきたから間違いないわ。
もっとも、私のダンジョンでソレを行った奴らは既に生きてはいないけど。
「シューーーッ!」
「あ、壁から何か出てきたぞ!」
透かさず剣を構えたリュースが見たものは、アシッドワームというFランクの青虫みたいなやつ。
「飛ばしてくる酸にさえ注意すれば問題ない相手よ。各自で迎撃して」
「分かったよ!」
「おっしゃ、いくぜ!」
リュックとリュースが左右に分かれて迎撃に移る。動きが鈍い魔物だし大丈夫でしょ。
「きゃっ!」
「!?」
トリムの悲鳴で慌てて振り向く。
「だ、大丈夫。酸で裾が溶けただけだから」
ふぅ、ビックリした……。まぁ仮に腕が溶けたとしてもエリクサーで完治できるけどね。
「大丈夫かトリム!?」
「う、うん、ありがとグラド……」
「よし、トリムの仇だ!」
「……って、勝手に殺すな!」
こっちも大丈夫そうね。
「シューーーッ!」
――っと、私の頭上にも涌いてきた。こっちも迎撃しなきゃ。
「雑魚はお呼びじゃ――」
「いっくよ~、ハッピィ~~~スペシャル~~~!」
「――って、コラーーーッ!」
現れたと思った次の瞬間には消し飛んでいた。
ハッピィは自重しろとあれほど言ったのに、いつになったら分かってくれるのか……。
「殲滅したぜ。Fランクだったし楽勝だな」
「うん、これなら落ち着いて対処すれば何て事ないね」
リュースとリュックは自信がついたみたい。
これが慣れてきた時が一番危ないけれど、私がついてれば大丈夫。
それから意気揚々と進んでいくと、不意にグラドが立ち止まる。
「待った!」
「ど、どうしたんだいグラド?」
「その先の地面、不自然だと思わないか?」
「地面? ……何もねぇぞ?」
リュックとリュースには分からない――けれど、グラドの耳にはハッキリと聴こえてるみたい。
「地面から空気が流れ出てる。罠の可能性が高いぜ」
はい、良くできました。私の鑑定にも、地面からの空気を遮断することで落とし穴が作動するって書いてあるわ。
「な~るほど。だったら飛び越えてやりゃいい。グラド、どこまでが罠の範囲だ?」
「ああ、ここから1メートル半だ。俺達なら楽勝だろ」
最初にリュースとグラドが飛び越えて見せ、リュック達も後に続く。最後に私も飛び越えて全員クリアー。
中々バランスの取れたパーティだわ。
それから1時間は経過しただろうか。
何度か魔物と遭遇するも、私が指示するまでもなく各自で撃破するくらいには慣れてきたと見え、途中の罠もグラドが発見して回避するという理想的なパーティプレイがそこにあった。
これなら私が居なくても上手くやっていけるかもしれない。
「あ、通路の先に扉が見える」
クレアが見たのは、ズバリ1階層のボス部屋の扉よ。
というか、私の目で辛うじて視認できるレベルなんだから、ハッピィはいい加減自重しなさい!
「いよいよか……。みんな、気を引き締めてかかろう!」
「おぅよ、これまで通りやりゃ問題ないぜ」
既に前衛というポジションが馴染みつつあるリュックとリュースが扉を開け、私を含む4人が2人の背中越しに中を覗き込む。
そこに居たのは……
「あ、あれれ? ボスがいないよ?」
「ホントだ。なんでだろ?」
「あ~、他の冒険者が倒した直後なのね。ボス部屋の魔物は一度倒すと復活するまで時間がかかるから」
「「なるほど~」」
疑問符を浮かべる2人に透かさずネタばらし。というか――。
「ト~リ~ム~、クレアはともかく授業で習ったはずなのに、何で知らないのかな~?」
「あ、あはははは……そうだっけ?」
「そうなの! っともう……。グラド、幼馴染みの立場からも言ってやって」
「……すまん、俺も知らんかった」
ズルッ!
ったく、この2人は……。
「それよりどうすんだ? このまま先に進むのか?」
「ええ、進みましょう。時間は有限なんだからね」
ボス部屋を抜けた私達は、2階層に続く階段を下りていく。
私の勘が正しければ、そろそろ遭遇はずだけど……。




