冒険者ギルド
学園の休日を利用して、首都クラウンにある冒険者ギルドへとやって来た。
私とリュースにとっては別段珍しくもないんだけど他の4人はそうではないらしく、貴族の邸かと言えるくらいの大きな建物をポカーンとしつつ見上げてるわ。
「ここが冒険者ギルド……」
「デカイなぁ。クレアの邸と同じくらいじゃないか?」
リュックが息を飲んで緊張している傍らで、グラドが率直な感想を述べる。
首都にあるだけあって職員も多い――だから大きいんだと思う。過疎地なんかは納屋かと思うサイズだったりするし。
「ねぇ本当に入るの? 怒られて叩き出されたりしない?」
「それは大丈夫じゃないかな。依頼人が立ち入る事だってあると思うし。とにかく入ってみようよ」
「ちょ、ちょっと待ってよクレア!」
足踏みしていたトリムをよそに、興味津々なクレアが堂々と入っていく。案外物怖じしない性格なのね。
逆にトリムは普段の強気なところが鳴りを潜めてる感じで、慌ててクレアの後を追う。
「ほら、女の子だけを先に行かせちゃダメでしょ。私達も行くわよ」
「そうだぜ二人とも。慣れりゃどうってことねえって」
「ア、アイリさん!?」
「お、おい、押すなよリュース!」
私とリュースで強引に中へと押し込んでやった。
さて、どうして冒険者ギルドに来たのかというと、これには学園長からの依頼が深く関わってたりする。
改めて昨日の事を振り返ると……。
~~~~~
「学園長、頼みっていうのは?」
「それなんだがアイリ君。今現在の首都クラウンにおいて、ダンジョン攻略が進められているのは知っておるかな?」
「はい。噂程度ですけど」
これは一般人でも知っている事で、以前から対立しているダンジョンマスターがいるのは把握していた。何せ過去三度もスタンピードを起こしてるらしいし。
だけど他国の事っていう理由から、直接関わるのは避けてきたのよねぇ。
「頼みと言うのは他でもない、そのダンジョンを攻略してほしいのだ」
「……はい?」
なぜにダンジョンを攻略する流れに?
「ソレイジア財務官は魔物によって落命した。首都を巡回してる衛兵がいたにもかかわらずだ。瞬時に多数の魔物を召喚する――これは一介の召喚士には不可能な事。ならば犯人はダンジョンマスターしかおるまい」
「でしょうね……」
それは私も感じていた。
恐らくだけど、ギルガメルとグルになってたか利用してたダンマスがいる。つまり学園長は、そのダンマスが攻略中のダンジョンに潜んでると考えたわけか。
「どうかね? このままだとアイリ君に疑惑の目が向きかねんし、互いにメリットのある話だとは思うのだが」
確かに。寧ろ放置するデメリットの方が大きいわ。
けれど何となく利用されてる感じも否めないし、もう一声ほしいところよ。
「ねだるわけじゃないんですが、もう一つメリットとなるものが欲しいですね」
「ふむ……ならばこういうのはどうだ。アイリ君に殺到している面会希望の貴族を軒並みシャットアウトする――どうかね?」
「あ!」
忘れてた。ビルガ子爵がいなくなったんだから、私に群がる貴族は出てくるじゃない。
「すでに100を超すほどの数が寄せられておってな、国家主席との関係をほのめかせば、おいそれと強行手段は取るまいて」
そういう事なら私からお願いしたい。
「でもヴォルビクス侯爵――でしたっけ? 国家主席と対立してる貴族。その人が強行してくる可能性は?」
「正直に言うと、あり得なくもない」
やっぱり……。
「奴は自己顕示欲が強い事で有名でな、形振り構わず接触してくるかもしれん。なぁに、既にフローレン派と人脈を築いていると言ってやればよい」
「それでも引かなかったら?」
「その時はアイリ君の判断に任せるよ。荒事の対処は得意だろう?」
だろうと思った。
ま、死なない程度にボコッちゃえばいいわよね。
「ところでだな、アイリ君はギルドカードを持っておるかね?」
「持ってますよ? 自慢じゃないけどAランクです♪」
「なんと!?」
――と言いつつ、然り気無く取り出したギルドカードを照れくさそうに学園長へと見せる。
……ゴメン、嘘ついた。
もったいつけるように取り出したギルドカードを、学園長に見せつけたが正解よ。
はい、おもいっきり自慢です。
「いや、アイリ君の実力ならば当然か。ぶっちゃけ直ぐにでも卒業させたいわぃ」
「それは遠慮します」
学園生活を楽しむのが目的なんだから、卒業するのはダメよ。
まぁ私もぶっちゃけるけど、飽きたら卒業するって事で。
「では吉報を待っておるよ」
「分かりました。学園長も貴族の対処をお願いしますね」
「分かっておるわぃ」
~~~~~
――って感じね。
そこで思い付いたのが、リュック達にダンジョンを攻略させようって作戦よ。
せっかく猛特訓を経て強くなったんだし、実戦経験を積めば自信にも繋がるってわけ。
「次の方どうぞ~」
列に並んでたら私達の順番が回ってきたみたいで、ショートカットのキレイな受付嬢が微笑んでいた――って、こらこらグラド、鼻の下を伸ばしてるとトリムにブッ叩かれるわよ?
「それではご用件をお伺いします」
「はい。私とコイツは付き添いで来たので、彼ら4人の冒険者登録をお願いします」
「畏まりました。ではこちらの紙にご記入をお願いします」
ここでもリュック達を前に押し出しカウンター前に立たせると、やや困惑しつつも自分の情報を記入していく。
こういうのは多少強引でもテキパキとこなすべきなのよ。何故なら周りの目もあるし、キョドってるとガラの悪い奴らの標的にされかねない。
「おいおいマジかよ、出身地の記入とかどうすんだ? 俺とトリムがいた村には名前なんざなかったぞ?」
「そこは必需項目じゃないから書かなくてもいいって」
「性別を丸で囲うところにその他があるのは何故なんだろう?」
「リュック、世の中には知らなくてもいい事があるのよ――ってクレア、名前はハッピィじゃないでしょ!」
リュック達の反応が新鮮なのか、受付嬢を始め周囲の冒険者が微笑ましい目で見てくる。
「こ、これでいいんでしょうか?」
「――はい、大丈夫ですよ。ではギルドカードを用意しますので、少々お待ちください」
記入が終わりリュックが代表して全員の紙を渡すと、受付嬢は奥へと下がっていく。後はカードを受け取るだけ――。
「おぅ、そこのガキ共!」
――のはずだったんだけど、どうでもいいイベントが割り込んできたわ。
振り向くと、後ろから無精髭を生やしたオッサン3人組がノッシノッシと近付いてくるところだった。
この場合、次に出てくる台詞はほぼ決まってる。
「新人冒険者として歓迎するが、諸君らはまだ入口に立っただけだ! これから先は魔物やならず者との命のやり取りになる! そこで、これから新人5ヶ条を叩き込むゆえ、共に斉唱するよ~に!」
ほらほら、こんな感じに因縁を――あれ?
「ひと~つ! 金を惜しむな命を惜しめ!」
「「「か、金を惜しむな命を――」」」
「声が小さぁぁぁい! もう一度! ひと~つ! 金を惜しむな命を惜しめ!」
「「「金を惜しむな命を惜しめ!」」」
な、なんなのこれ……。
「ふた~つ! 手にした武器は己が命!」
「「「手にした武器は己が命!」」」
なんだかトンでもない熱血漢な人達のようで、リュック達が雰囲気に乗せられて斉唱してる……。
「みぃ~つ! ゴブリン食うならオークを食え!」
「「「ゴブリン食うならオークを食え!」」」
うん、先人達の教訓が滲み出てる素晴らしい斉唱ね(棒)。
とまぁ多少のトラブル? は有ったけれど、無事に冒険者登録は完了したし、さっそくダンジョンに乗り込みますか。
オッサン「よぉ~つ! ああ見えて受付嬢はアラサーの独身だ、騙されるな!」
受付嬢「んだとコラ!」




