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抜け忍

「え? カゲツって抜け忍なの!?」


 漫画とかでは見たことあるけど、実際の忍者――それも抜け忍を見る日が来るなんてね。


「フッ、まさか抜け忍を知っているとはな。思った通り文武両道であったか」

「うん、まぁ……ね」


 い、言えない……ネットや漫画から得た知識だなんて。


「ねぇねぇ、ヌケニンってな~に?」

「あ、忍者っていうのは組織行動してる存在なんだけど、その集団の輪から勝手に離れた忍者のことを指すのよ」

「へ~ぇ、じゃあカゲツってば逃走中なんだ~?」

「うむ、その通りだ。我ら忍びは組織の決定は絶対であるがゆえ、従わぬ者は消される宿命にある。それを避けるには追手から逃げるしか道は無い」


 カゲツ同様アヤメも抜け忍だって言うし、まだ未成年でありながら命を狙われるなんて、学園生活を楽しんでるどころじゃないと思う。

 今さらながら、初めてカゲツと顔を合わせた時に殺気立ってたのは理解できるかも。


「その歳で修羅場を潜ってるのねぇ」

「……勘違いしてるようだが、俺の実年齢は40を越えてるぞ?」

「……え?」


 っと思って鑑定スキルをかけてみる。


 名前:火月(カゲツ) 性別:男

 年齢 42歳 種族:人間

 身分:元ダンノーラ帝国の忍者

 特徴:一見すると赤髪の少年だが、中身はアラフォーのオッサン。

 備考:特殊なレアアイテムにより外見を誤魔化している。弟子の彩愛(アヤメ)と共に皇帝の娘である一十姫(いとひめ)を警護しつつダンノーラ帝国を脱出。後に亡命する形でガルドーラへと入国した。


 さすが私の鑑定スキル。アヤメのみならずイトさんの正体まで(あらわ)になった。


「ちなみにだがアヤメは俺の弟子で、イト様はダンノーラ帝国現皇帝の側室の娘だ。まぁイト様に関しては噂が流れてしまったが……」


 リュースやグラドが耳にするくらいだからね。それにイトさんって気品があるし、平民じゃないって直ぐにバレるわ。


「それで、逃げてきた理由は? 大方イトさんが暗殺されそうになったとかでしょうけど」

「察しがいいな、ズバリその通りだ。俺とアヤメはイト様の母上――三十(サト)様に大変世話になったのでな、その恩返しも兼ねてイト様をお護りすると決めたのだ」


 お家騒動ってやつね。イトさんやアヤメは少し気の毒だと思う。


「それじゃあさ、カゲっちゃん達がここに居るって事もダンノーラ帝国に伝わってるんじゃない?」

「噂の件はともかく、すでに情報は掴んでいると考えている。いずれ刺客が送り込まれる事だろう」


 そりゃね。忍者を抱えてる国だもの、刺客が送り込むくらい――って!


「この学園に送り込まれるって事じゃない!」

「うむ。その可能性は高いな」


 高いな――じゃないわ! そんな事になれば、無関係な生徒だって死ぬかもしれないじゃない。


「俺とアヤメなら他人の目を掻い潜るくらい造作もないのだが、イト様はそうはいかん。そのためにここウィザーズ学園で匿ってもらっているのだ。他の生徒にはすまないと思っているが……」


 これは刺客が送り込まれる前提で対策した方が良さそうだわ。手遅れになっちゃ意味ないしね。


「国と国とが絡むのもあり学園長を通して国家主席には話をしてあるが、残念ながらこの国も一枚岩じゃないらしくてな、他の貴族がどう動くかが予測できん」

「他の貴族?」

「ああ。もしもダンノーラ帝国から我らの身柄を引き渡すよう要求された場合、国家主席は断っても他の貴族が我々を拘束しようとするかもしれん」


 それは大いにあり得る。

 学園の運営に口を挟むくらいだし、向こうの口車に乗っかって拘束しようとする可能性も捨てきれない。


「そこでだアイリ、お前にはアヤメとイト様を護ってもらいたいのだ。勿論ただでとは言わん。相応の礼はさせてもらう」


 ドサッ!


 アイテムボックスでも持っているのか、自身の背丈と同じくらいのズタ袋をどこからか取り出し、私の目の前に下ろした。

 脱出の際に宝物庫から拝借してきたんだろうか? でも私はお金には困ってないし、寧ろ余ってるくらいなのよ。

 先月もアレクシス王国の(さび)れた地方都市に寄付してきたし――って、この話は別にいいわね。


「悪いけど、このお金は受け取れないわ」

「むぅ……つまり、交渉は決裂と――」

「いや、そうじゃなくって、アヤメ達を護るのにお金はいらないって事」

「!? し、しかし、それだと見返りのない頼みを命懸けで引き受ける事に……」


 まぁ端から見たらお人好しに見えるだろうけどね。

 でも貰っても使い道に困るのよ。今のままでも充分満足な生活をしているし、消費するのが逆に疲れるくらいにして。


「これまでも敵は容赦なく潰してきたし、命懸けなのは今さらよ。私がこの学園にいる限り、生徒達には手を出させない。だから安心しなさい」

「かたじけない……。この恩は必ず返させてもらおう」

「ヒューヒュー! アイリってば男前~♪」


 また安請け合いしちゃったかな? でも外に選択肢は無いも同然だし、降りかかる火の粉は振り払うまでよ。

 それからハッピィ、私が男前ってどういう意味!?


「ではよろしく頼む。俺はダンノーラ帝国へと戻るのでな」

「え? それじゃあ火中に飛び込むようなもんじゃない。何でまた……」

「果たさねばならぬ用がある。例え己が命を惜しんででもな」


 この時のカゲツの顔は、()き物がとれたような(さわ)やかな顔だった。まるで思い残すことは何もないかのように。

 だから私は止めなかった。恐らくカゲツは死ぬつもりだと悟ったから。

 でも()()をかけるくらいならいいわよね?



★★★★★



「ダンノーラ帝国の情勢ですか?」

「ええ。至急調べてちょうだい」


 一日の授業が終わりダンジョンに戻った私は、すぐさまアイカに調べさせた。勿論遥か東にある島国――ダンノーラ帝国に関してね。

 以前リヴァイから聞いた話だと、こっちの大陸を侵略する動きを見せてるとか言ってたし、もしかしたら刺客どころか軍隊が来るんじゃないかと思ったのよ。


「ダンジョン通信によると、今年の春に内乱が収まり、最近まで大規模な祝勝パレードが行われてたらしいですね。一部の領主が大陸に侵出せよと叫んではいますが、国全体で見ると鳴りを潜めてる感じがします」


 それを聞くと、大陸侵出にはもっと時間がかかりそうな気がするわね。それとも祝勝パレードで表向きを誤魔化してる? いずれにしろ水面下で動いてる可能性もあるし、油断は禁物よ。


「ダンノーラ帝国の情報は以上です。しかしお姉様、ダンノーラよりも国内を気にされた方がよろしいかと思われます」

「それってギルガメルに荷担してた連中が暗躍してるってこと?」

「恐らくは。わたくしも日中は暇なのでドローンを飛ばして遊んでるわけですが――」


 私が真面目に授業を受けてるってのにアイカときたら……。まぁ今さらだけど。


「その結果、注意すべき貴族が何名か浮かび上がってきました」


 ブラスキー外交官:ビルガ子爵にちょくちょく助言をしていた。


 シルベスタ裁判官:ビルガ子爵の死後、自身の邸宅に隠るようになった。


 ソレイジア財務官:ビルガ子爵と共に劇場に訪れたり、買い物をしたりしている姿が目撃されている。


「以上の三名です」


 見事なまでに主要人物と繋がってるわね。

 これだけでも本気で国を乗っ取ろうと画策してたんだと分かるわ。


「他にも怪しい貴族はいますが、元々野心家だろうと考え省きました」


 疑ってたらきりがないもんね。そっちは追々って事にしよう。


「アイリ、ソレイジアという人物なら私も知っている」

「本当? ――っていうかペサデロ、なんで学生寮じゃなくダンジョンに戻ってくるの?」


 ギルガメルは排除したから危機は去ったはずなのに。


「ダンジョンのご飯が美味しい」


 それはよく分かる。特にペサデロのお気に入りはチャーハンだった――って、今はどうでもいいわ。


「あとオリガがウザい。ぶっちゃけこっちが本命」


 それもよく分かる。とりあえず明日学園に行ったらシバいておこう。


「そういう事ならダンジョンから通学してもいいわ。で、どこでソレイジアを見たって?」

「ギルガメルのダンジョンに出入りしてた」


 はい。どう考えても真っ黒です。

 この財務官とは直接OHANASHIをする必要があるわね。


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