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クレアの秘密

「へーーーィ、キミらの新しい仲間を紹介するぜーーーぃ!」


 パチン!


 いつものハイテンションでターンを決めた我が担任ストロンガー先生が、視線を廊下へと移して指を鳴らす。

 すると、恐る恐るといった感じにツインテールの可愛い女生徒が入ってきた。

 転入生なんだろうけれど、この娘どこかで見た記憶が……


「皆様初めまして、クレア・アインシュタインと申します」


 あ、誰かと思ったらクレアじゃない。本人には悪いけど、今まで忘れてたわ……。


「本当は入学式からGクラスに入る予定だったのですが、難病にかかっていたために今まで通学出来ずにおりました」


 さすがに呪いとは言わなかったわね。無駄に不安を煽るつもりはないし、本人が言わないなら私も黙っておこう。


「出遅れてはしまいましたが頑張って挽回しようと思っておりますので、どうぞよろしくお願い致します」

「――というわけさエブリバデェ。ま、1つフレンドリーに頼むぜーーーぃ」


 そんなこんなで、クレアがクラスメイトとなった。そうなるとリュック達とは実力差が出てしまうし、クレアもレベリングを行ったほうがいいかもしれない――と、思った矢先の授業で予想外の展開が!



 いつもの中庭に移動した私達は、例のごとくハリボテを相手に訓練を開始した。

 但し、私達はすでにAクラスやSクラスと同等の強さ(私は更に例外)のため、ハリボテのランクも調整されてたりするのよねぇ。


「っしゃあ! 見ててくれクレア。俺が手本を見せて――」

「リュック、どうやればいいの?」

「ああ、クレアは初めてだもんね。分かった、教えてあげるよ」

「うん、ありがとう!」


 あらら……、さっそくグラドは空回りしちゃったみたい。というより、クレアは意外と積極的ね。


「プククク♪ 残念だったわねグラド。ほら、あたしがクレアだと思って教えてよ」 

「なぁんでお前に教えなきゃならねぇんだよ……」


 長い付き合いだからか、グラドとトリムの方が良い組み合わせに見える。クレアはリュックを見てるんだし、そのままくっついちゃえば――いや、余計なお世話ね。


「いいかいクレア? ここにある魔物に見立てたハリボテを倒すんだ。有効打になればダメージが入って、魔物の耐久が無くなれば倒れるって仕組みだよ」

「うん、やってみる」


 リュックが親切丁寧に教えている。レベリングした今なら自信を持ってレクチャーできるものね。

 けどハリボテとはいえ本物の魔物と同じ耐久力だから、Gクラスに振り分けられたクレアじゃまだ早い――


「――えい!」



 フィキキキキ――バキンッ!



「「「えええっ!?」」」


 クラスメイト全員が驚愕(きょうがく)する。ハリボテを氷結させたかと思ったら、最後に氷の矢で砕いてしまったのよ。これでGクラスとかないわぁ(自分の事は棚に上げて)。

 しかもロッドが無い上に無詠唱だったような……。


「やったわリュック! クレアってば超~イケてるっ――じゃなかった、凄いでしょ!?」

「…………」


 反応を求められたリュックはというと、口を開けてポカーンとしていた。


「リュック?」

「え……あ、ああ。うん、なんというか、とても衝撃的だったよ」

「やったぁ! リュックに褒められちゃった~♪」


 肯定的に受け止めれば褒めたことになるとは思う。けれどこの場合、ろくに訓練を行ってないクレアが何故? という印象の方が強い。


「なぁアイリ、このクレアって女は本当に病弱だったのか?」

「ええ、病弱だったはずよ」

「でも戦闘の経験はないって話だったろ? どう見てもトウシロとは思えねぇんだけど……」


 あいかわらずリュースは鋭いわね。

 けどその意見には賛成するわ、どう考えてもおかしいもの。


「すっげぇなクレア! なぁ、もう一度見せてくれよ!」

「えっ!? で、でも……」

「グラドにさんせ~い! あたしは攻撃魔法が苦手だから参考にさせて!」

「う、うん……」


 グラドとトリムにせがまれて、再びハリボテと向き合うクレア。やはりロッドは手にしておらず、そのまま掌を前方向けると……


「そんじゃいっくよ~、ハッピィ~~~スペシャルーーーッ!」


 ゴゴゴゴゴ……


 ハッピィスペシャル? 変わった名前の魔法だな~と思ってたら、クレアの周りに拳大の氷が集まりだし、徐々に槍へと形状を変えていく。


「いっっっけぇぇぇぇぇぇ♪」


 そしてふざけてるのかと思っちゃうくらい気の抜けた声で、ハリボテに向けて放たれた。


 バズバズバズバズッ!


 またしても呆気なく倒れる――というか粉々に粉砕してしまった。

 以前鑑定した時はここまで出来るステータスじゃなかったはず。まるで急激に成長したかのような豹変ぶりよ。


「いっえーーーぃ! やっぱハッピィってば超凄じゃね?」


 ん? ハッピィ? そういえばさっきも聴いたわね?

 それにどっかの誰かの名前だったような気が……



 あああっ!! 思い出した! ハッピィっていったら、エルフの里にいた精霊じゃない!


「ねぇハッピィ」

「ん? なになに――あ……」


 やっっっぱりそうだ! これ、クレアの中身はハッピィよ。


「ねぇクレア、ちょ~~~~~~っと大事な話があるから、ディメンションルームの裏まで来てくれない?」

「え、えっと……」

「い・い・わ・よ・ね?」

「はい……」


 またもや呆気にとられているリュック達をそのままに、私とクレアは人が寄り付かないディメンションルームの裏へと場所を移した。



「……で、なんで精霊であるハッピィがここにいるの?」

「ん~? 何の事~? ハッピィ分かんな~い♪」


 堂々と自分の名前を暴露しといてシラを切りますか……。


「このまま切り抜けられるとでも思ってるの? そもそもクレアはあんな喋り方をしないんだから、見る人が見ればすぐにわかるわ」

「…………」

「それにね、私の鑑定スキルにはハッピィ憑依中って出てるんだけど?」

「うっ……」


 つまり、今のクレアの身体にハッピィが入り込んでるって事ね。

 ここまで言うと観念したのか、徐々に瞳をうるうるとさせ……



「も~だから言ったじゃない、変な言動見せたらダメだって!」

『何それずる~い。ハッピィだってちゃんとクレアの許可とったジャン!』

「だからそれは変な言動を見せないのが前提でしょ! だいたい何がハッピィにお任せよ、これじゃあ天才魔法使いじゃない!」

『天才の何が悪いのさ? 一流魔法使いで名を上げるチャンスなのに』

「私はただリュックと同じクラスで楽しく過ごせればいいの!」


 どうもハッピィからの打診があったらしく、それをクレアが了承したって感じね。端から見ると一人漫才を始めたようにしか見えないから、他の人には見せられないけれど。

 私が辛うじて視認できるくらいだから、ハッピィを認識できる人は殆どいないと思う。


「とにかく二人が合意して現在に至るのは分かったわ。だけどハッピィの魔法は多くの生徒が目の当たりにしちゃったから、今さらクレアが普通の女の子です――は通用しないわよ?」

「だよね……」


 私の言葉を受け、大きなため息と共にガクリと肩を落とす。


「ああ、日差しがあったかい……」

「日差しなんでどうでもいいから。これからは天才魔法使いとして、常にハッピィと一緒に行動してちょうだい」


 もうこうなったら連帯責任として、ハッピィにも責任を取ってもらおう。元凶だし。


「ハッピィもそれでいいわね?」

『オッケー♪ 里から出るのは初めてだし、100年くらいは帰らないよ~。普段の人格はクレアに譲るから安心して~』


 利害が一致してなにより。


「ところで気になったんだけど、エルフの里を放置しててもいいの?」

『あ~それ平気。ハッピィの本体は里にあるから、何か起こってもすぐに対処可能だよ~。だから大丈(ブイ)♪』


 それならいいか。

 こっそり里から抜け出してきたとかなら強制送還だったけども。


「じゃあ戻りましょ。あんまり遅いと不審に思われ――」

「ここにいたか、アイリ」


 ザザッ!


「――って、カゲツ!」


 不意に後ろから声をかけられたから、おもいっきり飛び退いちゃったじゃない。


「らしくないな。お前なら驚いたりはしないと思ってたが」

「だったら気配を消して近付くのはやめて。殺気を出さないで接近してくる輩もいるんだから。で、何の用なの?」

「もしや忘れたのか? 武術大会の次の日に話をするという約束だったが、ここしばらく休んでたそうじゃないか」


 ……忘れてた。

 ギルガメルのせいで、休んでまで工作をする羽目になったのよ。


「なになに~? 面白そうだからハッピィも交ぜて~」

「ちょっ!」


 このアホ精霊、普段はクレアに譲るって話はどこいった!? しかも名前まで暴露して!


「む? しかし……」


 カゲツの視線が「どうする?」って言ってる。ハブると面倒なことになりそうだし、一緒に聞くしかないか。


「一緒に聞くわ」

「うむ。ならば話そう。まずは俺の正体から……」


 この後耳にするのは、国をも揺るがしかねない内容だった。


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