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悲恋

「ゴメンねカゲツ。ちょっと外せない用事があるから、明日にしてくれる?」


 近付いてくるビルガさんに視線を送り、それとなくカゲツに悟らせる。なるべく早くにビルガさんとは決着させなきゃならないし。


「……ああ、なるほど。逢引の予定があったのだな」

「ちょ!?」


 コイツ、堂々と逢引とか言い出して!

 そもそも周りに知らせたら逢引にならないじゃないの! もちろん逢引じゃないけども!


「アイリさん、ビルガ子爵と何か後ろめたい事でも?」

「落ち着いてリュック、何もないから。ただ()()()二人きりで話したいのよ」


 そう、この用事だけはどうしても外せない。


「だから今日は――」

「ねぇねぇねぇねぇ、どこまでいくの? 夜景見ながら愛の告白とか? それかこっそりとお持ち帰りされちゃう!? も~ぅアイリったらおませさんなんだから!」

「――ってトリム!」


 またしてもトリムの暴走が始まった。


「アイリさん……」


 ほらぁ、余計なこと言うからリュックが肩を落としてるじゃないの。ったく、後でキチンと説明しなきゃ……。


「と~に~か~く! ビルガさんとは重要な話があるから、詳しい事は明日になったら教えてあげる。いい!?」

「ア、アイリってばちょっとした冗談なんだから落ち着いて……」


 いいや、トリムの目は本気だった。冗談であんなに目を輝かせてたら怖いわ!


「アイリさん、本っ当ーーーに何もないんだね!?」

「だからないって。いい加減にしないとリュックでも怒るわよ!?」

「う……ご、ごめん……」

「アンタらもいい!?」

「「「お、おぅ……」」」


 トリムとリュックを黙らせて、グラドとリュース――ついでにカゲツにも釘を刺すと、ビルガさんの元へと向かった。



★★★★★



「やっぱりキミは凄いよ。まさか決勝戦があんな短時間で終わるなんてね」

「そ、そうですか?」

「そうとも。お陰で午前の予定が丸々空いてしまったよ。――あ、別に責めてるわけじゃないからね」


 春の心地よい風に背中を押される形で、疎らに人々が行き交う街並みを眺めつつもビルガさんとの他愛のない会話が続く。

 時おり目が合うおばちゃんが微笑ましい表情で見てくるのは、恋人同士に見えるからだろうか? それか年の離れた兄と妹? まぁどっちでもいいか。


「もう少し人通りの少ない場所に行きません?」

「ん? 僕は構わないが……ああ、周囲の視線が気になるのかい? それならこっちだ」


 ビルガさんに手を引かれ、中心部からどんどん遠ざかっていく。

 やがて郊外からも外れて門を潜ると、近くの森へと足を踏み入れた。


「この辺りは低級とはいえ魔物が出るからね。非力な住民達は来ないし、稼ぎを求める冒険者も実りが少なく滅多に来ないんだ」

「でもビルガさんは護衛が……」


 そう、今のビルガさんは本当に私と二人きりなのよ。無防備とも言えるんだけど、かなり私を信用してるらしい。


「ハハッ、おかしな事を言う。護衛なんぞいなくてもキミがいれば百人力――だろう?」


 近くに護衛の気配は無いし、本気で信用してるっぽい。


「ビルガさん、もう一度確認したいんですけれど、貴方の考えは変わらないですか?」

「勿論だよ。これまでも()()()()()()()()()()()し、()()()()()()()()()()()

「ならもしも……もしもですよ? 自分の目的のために大切な仲間が死にそうになったとしたら……どうします?」

「う~ん、そうだなぁ……」


 やや考える素振りを見せ、やがて私に顔を向けると、ビルガさんは告げてきた。




「理想のため、仲間には犠牲になってもらうよ。それが僕の存在意義だと信じてね」

「そうですか……」


 思った通り、私とは考えが違うみたい。鑑定スキルをかけた時点で分かってた事だけど、言わば答え合わせみたいなものよ。


「じゃあ僕からも聞くよ。本気で僕に付いてきてくれないかい?」


 いよいよか……。


「たった3日間ではあるけれど、キミの魅力は充分に伝わったよ。だからアイリさん、僕はキミが欲しい」


 魅力――ねぇ……。

 でもビルガさんの言う魅力とは私の桁外れの力を指すもので、私そのものではなかった。


「……どうかな?」


 もう答えは決まっている。そして決着もつけなきゃならい――だから!


()()の言いたい事は分かったわ」

「本当かい!? それじゃあ――」




 ザシュ!




「ゴフッ!?」


 私の剣が深々と心臓に突き刺さり、()()ヨロヨロと後退り仰向けに倒れた。


「ガ……ア、なぜ……だ?」

「何故って? ()()()とは生き方が違うからよ」


 はぁ……もっと早くに鑑定スキルをかけてれば、こんなに悩む事はなかったのに。

 私の鑑定スキルは【ミルドの加護】のお陰で偽装を看破できる。だから対象が偽装スキルを持ってたとしても、私の目は誤魔化せない。


「ア……イリ……」


 やがて動かなくなったのを確認し、プレゼントにと用意したペンダントを懐から取り出すと、おもいっきり――



 バキン!


「さよなら。私の初恋の人……」


 ペンダントが粉々になり、サラサラと音を立てて手から溢れ落ちる。

 やがて灰のような塊が地面に出来上がると、一迅の風が何処かへと運び去った。

 まるで最初から何もなかったかのように。


 偽名:ビルガードノフトーレ

 名前:ギルガメル

 性別:男 年齢:26歳 種族:魔族

 職種:ダンジョンマスター

 備考:表では偽名を名乗っているが、偽装スキルにより看破はされていない。ダンジョンの上に自身の邸宅があるため、誰もダンマスだとは気付いていない。


これにて第1章は終わりです。

次話で閑話が入ります。

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