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武術大会2日目③

「試合終了。第4試合はBクラスのサフュアさんの勝利です!」

「「「おおっ!」」」


 優雅に一礼したサフュアがステージから降りてくる。

 対戦相手はAクラスの生徒だったため、見事に下克上を果たした事に。

 そんなサフュアが自慢の金髪ストレート(実際に自慢かどうかは別として)をファサっと(なび)かせて、私の前で立ち止まった。


「アイリさん、私と当たるまで敗北は許しませんわよ?」

「負けるつもりはないけれど、アンタに言われる筋合いはないわ」

「クッ、なんと非常識な! こういう場合は素直に――私は負けましぇ~ん、貴女が好きだから――とか言えばいいんです!」


 誰の台詞よ……。

 そもそも好きでもなんでもないし。


「やはり貴女とは決勝の舞台において決着をつけるしかなさそうですね。絶対に泣かせてやりますから覚悟なさい!」

「はいはい、精々頑張って」


 ロッドを握りしめたサフュアが決め台詞(捨て台詞とも言う)を吐いて立ち去る。

 でもさすがにSクラスの生徒が残っている現状じゃ、サフュアも厳しいだろうけどね。


「ねぇねぇ、今の人ってアイリをライバル認定してる感じ? 誰かを取り合って雌雄(しゆう)を決しようとか?」


 ま~たトリムは目を輝かせて……。


「ライバル認定はされてるかもね。私としてはどうでもいいんだけど」

「またまたぁ、二人でビルガさんを取り合ってるんじゃないの~?」

「だからビルガさんとはそんなんじゃないってば!」


 その積極性を試合で生かしなさいっての。


「第5試合を始めます。Gクラスのリュック君、こちらへ」

「は、はい!」


 いよいよリュックの番が来たわね。適度な緊張を保ってて本人には問題なさそうだし、勝てるかどうかは相手しだいかな?


「続いてAクラスのナンパール君、こちらへ」

「お呼びいただいたこと――感謝するよ、美しいフローリア先生」

「……ふざけてないで位置に着いて下さい」

「これは失礼」


 リュックの相手はナンパ野郎ことナンパールだった。

 コイツは異性なら立場を問わずに口説こうとするのね……。


「勝てよリュック、お前は俺達の希望だ!」

「そんなナンパ野郎なんかブチのめしちまえ!」

「リュースの言う通りよ。女の敵に鉄槌を下してやって!」

「トリムの台詞じゃないけれど、そいつはムカつくから徹底的にやっちゃって」

「うん、分かったよ!」


 何故か気合い充分に、目を細めてナンパールと対峙する。

 あ、リュックのこの目、ビルガさんを見る時と同じ目だ。


「それでは第5試合――始め!」


 チャキ!


 互いに接近戦を重視してるためか、その場で剣を向け合う二人。

 数秒間の沈黙の後、偶然か将又(はたまた)必然か動いたのは二人同時だった。


「フッ、キミに僕の剣が見切れるかな?」


 シャシャ――シャシャシャシャ!


「クッ……」


 まるでフェンシングのように鋭い突きを繰り出すナンパール。伊達にAクラスじゃなかったみたい。

 リュックはなんとか食らいついてる感じで、反撃する機会を(うかが)っている。


「フフ、Gクラスのキミがよくここまで来れたものだ。クジ運が良かったのかな?」

「自慢じゃないけどクジ運は凄く良いよ。このまま行けば、決勝でアイリさんと戦えるんだからね」

「ハッ、キミが決勝に? 冗談はキミの実力だけにしてくれたまえ。この試合で敗北するのはキミなのだからね!」


 シュシュシュシュ!


「な! さっきよりも速く!?」

「まさかアレが全力だと思ったのかね? だとしたらとんだ笑い者だよ。過小評価もいいところだ」


 レベルが上がったとは言え、やっぱり実戦経験の差が出てるわね。

 言い換えるとナンパールは経験豊富なエリートで、リュックはノンキャリアの叩き上げなのよ。

 今のリュックだと力押しで勝てるかどうか――って感じに……


 キィィィン!


「しまった!?」

「さて、フィナーレといこうか!」


 リュックが捌ききれなくなったのを見てナンパールが剣を弾き飛ばし、一気に(ふところ)へと詰めよってきた。

 

「決勝へは僕が進むよ。そしてアイリさんに勝利して、僕に(ハート)を射抜かれるのさ!」

「ッ!」


 戯言をほざきつつも、ナンパールの突きが的確に心臓へと迫る。

 残念だけど、ここでリュックも敗退か……



 パシッ!


「「「!!!?」」」

「まだ終わりじゃない!」


 嘘ぉぉぉっ!? リュックってば突きを真剣白刃取(しんけんしらはど)りしちゃった!?

 これには私もナンパールも恐らくフローリア先生も、目を白黒させてビックリよ。


「バカな! たかが素手で僕の突きを防げるわけが!」

「バカでもなんでもいいさ。けれど――」


 パキィン!


「んな!?」

「これが現実だよ!」


 そのまま白刃取りした剣を強引にへし折った。

 力は有るだけに、剣をへし折るくらいなら容易いってところかな。


「これでお互い武器が無くなったね」

「その通りだが……フッ、まさか素手なら勝てるとでも?」

「やってみなくちゃ分からないだろ」


 今度はリュックが拳を握りしめて殴りかかる。素手ならリュックに軍配が上がりそうよ。

 うん、そのままボコボコにしてや――って、危ない!



 バズッ!


「グハッ!」


 頭上に旋風が発生し、リュックは勢いよく薙ぎ払われた。こっそりと詠唱してたらしいナンパールがウィンドスマッシュを放ったのよ。


「ハハハハッ! これでもAクラスだよ? 魔法を使えないなんて言った覚えはないよ」


 見かけによらず強かな奴ね。魔法は切り札として残してたんだと思う。


「なんのこれしき!」

「フッ、甘いよ。隙を作った時点でキミの負けさ。受けてごらん――ウィンドカッター!」


 ズバッ!


「グァッ! う、腕が――」


 飛ばされた先にあった剣を上手く拾ったところへ風の刃が切りかかり、左腕が切り落とされた。

 不味いわ、両手で剣を握るリュックには益々不利な状況に……。


「クソッ! まだ終わりじゃ……」

「よしたまえ。片手では上手く振れないだろう? 引き際を誤るのは利口とは言えないなぁ」

「うるさい! アイリさんと戦うのは僕だ。こんなところで引けるかぁぁぁ!」


 怒声と共にリュックの右腕に炎が?

 あ! あれはアップヒーターという自身の力を強化する火魔法よ。


「いくぞ、ザード師匠直伝――ベノムスラァァァッシュ!」


 ザシュゥゥゥ!


「く、往生際の悪い――エアーシールド!」


 バシィィィィィィ!


 炎を(まと)った横薙ぎが風の盾に直撃する。

 短時間に詠唱を終えたナンパールはさすがとも言える――けど、この場合は悪手だと言っていいわ。何故なら……


 ピシッ――ピシピシッ!


「いけぇぇぇ、そのまま突き破れ!」

「く、くそぅ……」


 リュックの放った斬撃がエアーシールドを押し込んでいく。

 風魔法は炎に弱いから、ナンパールの魔力が高くてもそう長くは持たないでしょうね。


 ズバァァァァァァン!


「ぐぁぁぁぁぁぁ!」


 次の手を打つ間もなく、ナンパールはそのまま消え去った。


「それまで。勝者はGクラスのリュック君です!」

「「「おおっ!」」」


 サフュアの時よりも一際大きい拍手が寄せられ、リュックは照れ臭そうにしながらステージから降りてくる。


「凄いなあの少年。遥かに格上のAクラス相手に勝ってしまったぞ!」

「うむ。これでGクラスだというのだから、この先まだまだ伸びるかもしれんな」

「あら、可愛い子。ちょっとツバ付けておこうかしら」


 さっそく貴族達の間で話題になっていた。

 ベスト8に残ったんだから、今後は注目されるかもね。


「やったなリュック! 親友としちゃあ鼻が高いぜ!」

「ホントホント。あのムカつくキザ野郎をのしてくれただけでもスカッとするわ!」

「あ~あ、俺もあのナンパ野郎と戦いたかったなぁ……」

「みんなありがとう! このまま決勝まで行けるように頑張るよ!」

「そうね。私も頑張るからリュックも頑張って。そして決勝で会いましょう」

「うん、勿論だよ!」


 あ、言った後で気付いた。

 決勝で会いましょうは死亡フラグだったことに。

 でもまぁ、いざとなれば全力を出せばいいから、それまでは気楽に行きましょ。


 こうして2日目の午前は終了し、午後に8人から4人へと絞られることになる。

 ん? 私の試合はどうなったのかって?

 あんまり思い出したくないんだけども、私のスカートの中を覗いた奴と当たったから、目潰しをした上で八つ裂きにしてやったわ。

 そしたら何故かありがとうと言われてこっちが困惑した――以上!


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