武術大会2日目②
「Cクラスのセネカさん、こちらへ」
「ウチの出番なの。例えSクラスだろうと負ける気はしないの」
次に呼ばれたのは、文武両道な大商人の娘であるセネカ。
なんと彼女、初日にAクラスの生徒を倒してて、多数の貴族に実力をアピールしたのよ。
「昨日も貴族連中から縁談を申し込まれてたし、こりゃあ競争率が高くなりそうだ」
「とはいっても、僕らには関係なさそうだけどね」
「リュックの言う通りよ。リュース、セネカの縁談なんかどうでもいいから自分の試合を心配しなさい」
「いや、俺は昨日で敗退したんだけど……」
……そうだったわ。
「しかもアイリに――」
「はいはい、私のせい私のせい。リュースはグラドと一緒にトリムとリュックを応援してあげて」
「へいへい……」
正直なところ4人の中で一番目覚ましい成長を遂げたのがリュースなだけに、私としてもちょっと残念だったりする。
もしダンジョンにでも潜る機会があれば、存分に活躍してもらいましょ。
「続いてSクラスのオリガさん、こちらへ」
セネカの相手がコールされステージに――ってアイツは!
「セネカお姉様がお相手……キャフフフ♪ ワチキのハートがバクバクしちゃう!」
私のブロックに居たキモい奴その4だわ。
背の低い普通の女生徒で、深緑の髪が地面スレスレまで伸びているのが印象的よ。
「それでは第2試合――はじめ!」
ザッ!
開始と共に距離を取る2人。
セネカは杖を、オリガは鋭利な爪を構え互いに出方を窺っていると、突如オリガが不適に笑う。
「キャフ♪」
「な、なんなの? 貴女すご~く気持ち悪いの」
「オゥフ! ワチキにとって気持ち悪いは誉め言葉。さすがはセネカお姉様、分かってらっしゃる!」
「そんなことは知らないの! と、とにかく気持ち悪いからさっさと終わらせるの」
相手の気持ち悪さに圧されたセネカ(私も同意する)が更に距離を取り、透かさず詠唱を始めた。
「打ち砕け――ロックキャノン!」
得意だと豪語した土魔法がオリガ目掛けて飛んでいく。
けれど彼女は避ける素振りは見せずに棒立ちのまま。まさかこのまま命中するのか――と思いきや……
「キャフ♪ ウィンドスマッシュ」
バシュゥゥゥ……
「そ、そんな、ウチのロックキャノンが……」
岩の砲弾が当たるすんでで向きを変え、オリガを掠めて飛んでいく。
風魔法は土魔法に強いため、セネカにとっては天敵というわけね。
「まだです、まだ終わりじゃありません!」
「ヒッ!?」
「さぁ、もっとワチキに刺激を!」
「し、刺激?」
「さぁさぁさぁさぁ!」
「ヒィィィィィィ! ストーンバレット、ストーンバレット、スプラッシュストーンバレット!」
変態チックに迫られて危機感を覚えたのか、セネカがステージ上で逃げ回りながら魔法を連発しだした。
「これが――グフッ! セネカお姉様の――ガフッ! 愛情表現――ゲフッ!」
全身に石の塊を浴びても尚も迫るオリガ。っていうかコイツ、耐久力の高い只の変態なんじゃ……。
「いい加減倒れるの! テメェみたいな変態に迫られるウチの身にもなりやがれなの!」
「キャフフーーーン♪ 怒ったお姉様も、ス・テ・キ♪」
「ヒィィィィィィ!」
あまりの醜態にセネカの言葉づかいが乱暴になるも、あのキモい女は益々大喜びの模様。
「すげぇなあの女。セネカ姫が圧倒されてるじゃねぇか」
「何言ってんの馬鹿グラド。キモくて近寄りたくないだけでしょ」
「うん、僕もそう思う」
間違いなくトリムの言う通りでしょうね。接近戦を避けてるから、必然的に遠距離から魔法を放つしか手はなくなるのよ。
もしそれを狙ってやっているんだとすれば、相当な強者ってことに……
「お姉様~ん、ワチキはここよ~ん♪」
「来るなっつってんだろゴミ! いい加減にしねぇと、土ん中に永久的に沈めんぞ!?」
いや、どう見ても天然です。本当にありがとう御座いました――って、セネカのキャラが変わってる……。
まさかセネカも、こんな形で本性を見せる羽目になるとは思わなかったでしょうね。
「ほ~ら捕まえた♪」
「クソッ……離せ、離しやがれ!」
「さぁて、どう料理しちゃおうか……」
ポニーテールをブンブンと振りまわして身を捩るも、オリガの熱い抱擁により身動きが取れなくなった。
そして涎を垂らしたオリガの顔がセネカへと近付けられ……
「カフ……」
あ、気絶した。
「そ、それまで! 勝者はSクラスのオリガさんで――ってオリガさん、勝負は着きましたのでセネカさんから離れてください。」
「……チッ」
何をするつもりだったのか定かではないけれど、勝ったはずのオリガが悔しそうにステージから降りていく。
もし私と当たったら、コイツはキツ~イお仕置きをくれてやろう。
「ああ、どうしよう。あんな女と当たるくらいなら棄権した方がマシな気がする……」
「落ち着きなさいトリム。少なくとも次の相手はあの変態以外だから」
「そ、そうよね。あんな変態が二人も三人もいるはずないものね」
「……そうね」
い、言えない。私のブロックにはあの変態以外に三人もおかしな奴が居たなんて。
「第3試合を始めます。Gクラスのトリムさん、こちらへ」
「ヒッ!」
フローリア先生に呼ばれ、ビクリと身体を跳ね上がらせてる。この緊張状態はちょっと不味いかも。
「よ、呼ばれちゃった! どどどどうしようアイリ……」
「どうもこうも、早くステージに行きなさいよ」
「そそそそ、そうよね……」
と言いつつ右手と右足を同時に前に出すトリム。
これ、笑ってるところじゃないわ。なんとか緊張を解す方法は……
「お~いトリム、右手と右足が同時に出てて恥ずかしいぞ~?」
「ちょ、グラド!?」
そんなこと言ったら余計に――
「だぁれが恥ずかしいですってぇ!?」
あ、あれ? なんだかいつもの調子に戻ったっぽい。そして顔をヒクつかせてこっちに戻ってくると、グラドに掴みかかった。
「ちょ、お前、今は試合中――」
「んな事はどうでもいいわ! それより誰が恥ずかしいってのよ!?」
「イダダダダ! マ、マジで落ち着け!」
よく分かんないけれど、グラドのお陰で緊張が解れたのね。
そんなグラドはボコボコにされてるけれど。
「僕が知り合った時も二人はこんな感じだったよ。幼馴染みらしいし、馬が合うんじゃないかな」
「ま、俺に言わせれば二人ともまだまだガキだけどな」
「ト、トリムさん、ステージに戻らなければ棄権と見なしますよ?」
「――ハッ!?」
リュックとリュースが呆れ顔を見せる中、フローリア先生の呼び掛けにより慌ててトリムがステージに駆け上がる。
よし、これからはトリムの緊張を解す際は、グラドに任せることにしよう。
「……コホン。続いてSクラスのペサデロさん、こちらへ」
トリムの対戦相手は銀髪をショートカットにした低身の女生徒。メガネをかけてるせいか知的に見えなくもない。
「それでは第3試合――始め!」
ザッ!
開始と共に互いに距離を――って、ペサデロは動いていない?
「動かないならこちらから仕掛ける!」
好機と見なしたトリムが素早く詠唱を終え、杖をペサデロへと向けた。
「浄化せよ――ホーリーレイ!」
ドシューーーッ!
強い光が光線となりペサデロへと飛んでいく。トリムの得意な光魔法ね。
相手は動いてなかっただけにまともに直撃を受け、立ち上がった煙が消えたところにはペサデロの姿は跡形もなく消えていた。
「あ、あれ、もう終わっちゃったの? なぁんだ、Sクラスだったから身構えてたのに」
……おかしい。確かにホーリーレイは命中した。だけどそれが命中したところで煙が立ち上がることなんてないはずよ。
恐らくあの煙はペサデロが発生させたものよ。じゃあ何のためにって事になるけれど――あ!
「アナタ……弱いわね……」
「……へ?」
気付いた時には既に遅く、トリムの後ろにペサデロが回り込んでいた。
ドジュ!
「ゴフッ!?」
ナイフで的確に心臓を刺され、トリムは光の粒となって消えていく。
多分だけど、何らかの方法でホーリーレイを防いで、あの煙を発生させてるうちにこっそりと背後に回ったんだわ。
「試合終了。勝者はSクラスのペサデロさんです」
「「「おおっ!」」」
トリムは噛ませ犬となってしまい、力の差を見せつけたペサデロに惜しみ無い声援がおくられる。
これで残るのはリュックと私のみ。
せめてリュックには勝ち上がってほしいところね。




