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武術大会2日目①

 武術大会も2日目を迎え、今日で勝ち上がった16人から4人へと絞られる。

 けれど今年は観戦に訪れる貴族が多く、例年より3割増しになっているのだとか。

 その理由は……うん、まぁ早い話が、私を含むGクラスの生徒が4人も残っているからなのよね。

 そのせいでディメンションルームには貴族とその従者で満たされ、それを当て込んでか露店を構えてる奴までいるし。

 っていうかこれ、ちゃんと学園長に許可貰ってるのかしらね?


「今年の観客はやけに多いんだってな? やっぱ俺達が勝ち上がったからか?」

「だと思うよ。昨日は例年並みだったらしいし、今日になって増えたのは僕らの噂を聞き付けたからだろうね」

「へへ、だったらカッコよく決めないとな!」


 周りを見渡しながらグラドが鼻を擦る。

 調子いいこと言って、いざ本番で盛大にやらかすところまでは想像したわ。


「いいよなお前らは。俺だって初戦でアイリに当たらなきゃ……」

「日頃の行いが悪いからじゃない? 寧ろあたしは代わってほしいくらいだわ。さっきから足が震えて……」

「なんだ、小便でも我慢してんのか?」

「違うわよ変態! 緊張して震えてんの!」


 リュースもそうだけど、トリムは本番に弱いタイプね。

 次に当たるのがAクラス以上だと苦戦しそう。


「それでは本日の第1試合を始めます。呼ばれた生徒はステージに上がってください」


 ステージに上がったフローリア先生のアナウンスにより、観客の喧騒が収まる。

 その静けさの中で呼ばれたのは……


「Gクラスのグラド君、こちらへ」

「っしゃあ! 今日は俺が先陣を切るぜ!」


 緊張のきの字も感じさせないグラドが、意気揚々とステージに駆け上がる。


「さぁさぁ、俺にブチのめされたい奴はどこのどいつだ?」

「続いてSクラスのアヤメさん、こちらへ」

「……え、Sクラス?」


 なんと、呼ばれた相手はSクラスで、ダークブルーの髪をサイドテールにした女生徒だった。

 どうやらグラドの強気な姿勢がフラグを立たせちゃったみたい。


「……フン、貴様が相手か」

「な、なんだよ、文句あるのか?」

「文句はない。例え格下であろうと全力で粉砕するまで」

「な!?」


 おっと、いきなりの挑発。クラスだけを見ればゾウ対アリの戦いに感じるだろうし、間違ってはいない。

 けれどこの生意気そうな女生徒――アヤメは試合前の今も隙はなく、決して油断してるわけじゃないわ。これは苦戦必死ね。


「それでは第1試合……始め!」

「いくぜ! 格下かどうか、その目で確かめてみやがれってんだ!」


 トスッ!


「――っと」

「へへ、近付けるもんなら近付いてみろ!」


 挑発にのって突っ込むかと思いきや、距離を取る方を選択したわ。

 そこから透かさず早射ちにもっていき、アヤメって奴の接近を牽制した。

 弓使いのグラドは接近されると不利だから、適度に距離を取り続ける必要があるのよ。


「……いい動きだ。てっきり突っ込んでくると思ったのだがな」

「へっ、生憎だな。これでも血の(にじ)むような特訓をしてきたんだ。Gクラスだと思って見下したら痛い目見るぜ?」


 そこから距離を取る――接近――距離を取るを繰り返していく2人。観客目線では互角の戦いをしているように見えてるでしょうね。

 けれど実際は違う。


「ハァハァ……もう一丁!」

「フンッ」


 トスッ!


「チッ、また外したか……」


 なかなか矢が命中に至らず、グラドの顔に焦りが見え始める。息も上がってきたし、そろそろ不味いかもしれない。

 一方のアヤメはクールに無表情を決めているものの、まだまだ余裕がありそう。

 理由の一つは、ただ接近してるだけの動きしかしてないからで、移動しながら矢を射るグラドと比べて体力の消耗が少ないのよ。


「どうした? 特訓の成果を魅せるのではなかったのか?」

「へっ、挑発しても無駄だぜ。俺は俺のペースを崩さねぇ」

「ほぅ、つまりこれ以上の力は発揮できないというのだな?」

「は? どういう意味だ?」

「こういう意味だ!」


 シャッ!


「うわっ――と、あっぶね!」


 いつの間にかアヤメの手にはクナイらしき物が握られてて、それをグラドに向けて投げつけた。

 何とか回避したもののグラドは体勢を崩し、アヤメが短刀を手にして一気に距離を!




 キィィィン! ギギギギ……


「……やるな。とてもGクラスとは思えない腕前だ」

「お誉めにあずかり何とやら――ってな」


 まさに間一髪って感じに短剣で防いだわ。

 けれど体勢は崩れたままで、地面を背にしたグラドの喉元にジワジワと短刀が迫る。


「チッ、力はそっちが上かよ……」

「貴様もGクラスとしては上出来だったが、どうやらこれまでのようだな?」


 このアヤメって奴、恐らく実戦慣れしてるわね。グラドの動きを観察した上で接近戦を仕掛けたのよ。これは勝負あったかな?


「いや、まだだぜ?」

「ほぅ、この状況を覆せるとでも?」

「おぅよ。テメェが()でよかったぜ!」

「は? それはどういう――」




 ムニッ!


 ちょ、グラドったらアヤメの胸を! 怯ませるには最適だけど、これは……


「…………」プルプルプル

「っしゃあ! 今のうち――」




「イヤァァァァァァッ!」


 ドゴォォォォォォ!


「ブゲラ!」


 哀れグラドは股間を蹴られ、この世の終わりのような顔をしながら消えていった――って、そりゃこうなるわよねぇ。


「し、試合終了。アヤメさんの勝ちとします」

「「「おおっ!」」」


 観客の女性貴族からは惜しまない拍手を送られ、男性貴族は股間を押さえて顔を真っ青にしていた。

 もうグラドは完全に女性貴族を敵に回しちゃったわね。


「おい、先ほどの奴に言っておけ。このアヤメを怒らせたらどうなるかを思い知らせてやるとな!」

「なんで私?」

「貴様が奴とつるんでるのは知っている。だから伝えておけと言っているのだ」

「はいはい、(気が向いたら)伝えておくわ」

「フン!」


 顔を真っ赤にしたままアヤメは足早に立ち去った。最後まで生意気そうだったし、私は好きになれないタイプだわ。


「Sクラスの冷血騎士って、一部じゃ言われてるらしいぜ」

「ふ~ん? 騎士はともかく、無愛想な感じが強いから冷血って言われてるのは分かるわ」

「そうだけどよ、騎士って言われてるのにも理由があって、普段は同じSクラスのイトって女から離れないんだとさ。2人に近付こうとする男は片っ端から排除してるらしいし、実はレズなんじゃないかって話もあるな」


 ふむふむ、リュースの話によると同じクラスの女生徒が好きで――って、そんな生々しい情報はいらないわ!


「でも真面目な話、イトって生徒はダンノーラ帝国の姫様じゃないかって噂もあるよ」


 ダンノーラ帝国――ね。

 遥か東にある島国で、まるで日本の戦国時代のような国らしいわ。

 それにアヤメやイトって名前はこっちの大陸じゃ珍しいから、日本から召喚された勇者じゃなければダンノーラ帝国の人くらいしかあり得ないんだとか。

 もしかして亡命でもしてきた? 他国の情勢は気になるし、今度接触してみようかな。


「それよりアイリさん、グラドを助けてあげられないかな?」

「ん?」


 リュックに言われて振り向けば、トリム()に囲まれたグラドの姿が。


「このアホグラド! 大衆の面前でなんてことしてんのよ!」

「あれは許されない行為なの!」

「女の敵です、潔く滅びなさい!」

「アダダダダ! ちょ、お前らマジでやめれって!」


 トリムだけじゃなくセネカとサフュアまでもが制裁に加わわっていた。

 うん、アホなことしたグラドが100%悪いから自業自得よ。


「どうせ死なないんだから放って置きなさい」

「う、うん……」


 それから間もなく、容赦なくボコボコにされたグラドが再び昇天していった。

 今度復活したらアヤメに謝っておきなさい。


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