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ようこそビルガ邸

「ああ、うんめぇぇぇ! こんな豪華な晩飯は初めてだぜ!」

「おう! こりゃ3日分くらいは食い溜めしなきゃ大損だよな!」


 横長のテーブルに並べられた豪勢な料理に、グラドとリュースがガッついていく。

 呆れながらもその行動は理解できるわ。

 理由はグラドが言った通りで、貴族の食べてる料理を味わえる機会なんて今までなかったのよ。

 あ、私は別よ? ダンジョン周囲にある国々の有力者と懇意で、一緒に食事したこともあるから。フフン、ちょっとした自慢ね♪


「ちょっと2人とも、もう少し落ち着いて食べなさいよ」

「んなこと言ったってよ、放っといたら腐っちまうかもしれないだろ? トリムもさっさと食えよ」

「ングング……」

「出されたばかりの料理が腐るわけないでしょ、このアホグラド!」

「そんなこと言って、実は俺の分を狙ってやがるな? トリムの食いしん坊め!」

「ングング……」

「食いしん坊はアンタよ!」


 喧しいけれど、こういう風に友達とワイワイするのも悪くない。

 それでも食事中は遠慮してほしいところだけども。


「ホラホラ落ち着いて。トリムまで騒いじゃダメじゃない」

「あ……すすす、すみませんビルガさん。あたしったらつい……」

「ハハハ! 賑やかでいいじゃないか。静かだと味気無いし、多少騒がしいくらいがちょうどいいのさ」

「ングング……」


 ――とまぁ何故ビルガさんが居るのかというと、なんと私達は今、ビルガさんの邸にお邪魔していま~す♪ って感じなのよ。

 武術大会の初日が終わったところで再びビルガさんが顔を出してきて、晩御飯を食べてかないかって聞かれたのが始まりね。


「…………」


 仏面で黙々と食べているリュックを含め、友達も一緒にと言われたら断れない――というより、グラドとリュースによって勝手に了承されてしまって現在に至るってわけ。


「どうかなアイリさん。口に合っていれば嬉しいんだけども」

「ングング……」

「ええ、美味しくいただいてますよ? このお肉とか柔らかくて凄く美味しいです!」

「ああ、それはへヴィボアのストーム仕上げだね。仕留めたてのへヴィボアを血抜きして、フャイヤーストームの中心でこんがりと焼き上げたやつだよ」


 なるほど、調理に魔法士も加わってるんだ。

 当然費用も掛かるだろうし、ザッ貴族って感じよね。


「うへぇ……。魔法士に調理させるとか金掛かってんな~。これ、余ったやつは持って帰っちゃダメなんかな? どう思うトリム?」

「止しなさいよ、みっともない」

「ングング……」


 グラドの気持ちは分かる。

 知り合いのダンマスで物凄い極貧生活を送ってる人がいて、その人なら同じことを言ってると思うわ。


「ングング……」

「…………」



「ングング……」


 スパン!


「ブッ!?」

「リュース、さっきから口に詰め込み過ぎよ。ちゃんと味わってるの?」

「フググックル(あじわってる)! フググンググンンクウクウググンククググクンクグ(それより食うのに集中してるから邪魔すんなよ)!」

「そうだぞアイリ、食わねぇと腐るぞ」


 どうしてグラドはリュースの言ってることを理解してるのよ……。


「それにしてもよかったんですか? 私達みたいな庶民がいきなり食卓に上がり込むなんてことをして」

「貴族によっては……だねぇ。序列にうるさい貴族なんかは、平民を邸に近付けさせなかったりするらしい。あ、もちろん僕はそんな真似はしないよ?」


 格差を広げるために役立たずな教師をねじ込んでくるくらいだもんね。つくづく貴族って面倒だわ。


「だから一つお願いしたいんだけど、今日のことはあまり吹聴しないでもらいたいんだ」

「もちろんです。誘っていただいた立場ですし、ビルガさんには迷惑をかけません」

「フフ、ありがとう」


 こうして話してると貴族って感じがしないわね。まるで頼りがいのあるお兄ちゃんって感じがするわ。

 だけど……何て言えばいいかな? お兄ちゃん――とも違うのよねぇ。もっと一緒に居たくなるというか、この感情は上手く説明できそうにない。


「そういやさ、アイリはビルガさんと何を話してたんだ?」

「それ、あたしも気になってた」

「ングング……」

「そ、それは……」


 さて、どうしよう。

 偽装の話を打ち明けるか、隠し通すか……。


「アイリさん。彼らはご友人なんだし、本当のことを話してもいいと思うよ? 理由は至極真っ当なんだからさ」

「そ、そうですね。……コホン。実はね――」


 ビルガさんの方は問題ないらしいので、本当の事をみんなに話した。


「なるほど、いいアイデアだと思うぜ? 最悪難癖つけられる可能性もあるからな」

「でしょ?」

「ングング……」

「なぁんだ、てっきり将来を誓い合ったりしたのかと思ったのに」

「やかましい!」


 ほんっっっとトリムは恋愛ネタに走るのが好きよね。

 それからリュース、アンタはいつまで頬張ってるつもりよ……。


「そ、そうだったんだ。ゴメンねアイリさん、僕が勘違いしてただけだったみたいだ。てっきり……」

「てっきり?」

「い、いやいや、なんでもないよ! うん」


 よく分かんないけれど、リュックが納得してるからよしとしとこう。


「もちろん本気で仕えてくれても構わないんだけどね。僕としてはそっちの方が遥かに有り難いんだが」

「それは――」

「失礼ですが、アイリさんは僕が先に誘おうと思ってますので」

「――って、リュック?」


 ま~たリュックが刺々しい口調でビルガさんに噛みついた。

 何かこう――間に挟まれてる感じで気が気じゃない。


「少し落ち着いてリュック。そもそも誘って、何に誘うつもりなの?」

「ゴ、ゴメン。急で申し訳ないけれど、卒業したら冒険者になろうと思っててさ。アイリさんさえよければ一緒に――」

「本当に急ね……。すぐには返答できないから、もう少し待っててちょうだい」

「うん、分かった!」


 ふぅ……やれやれ。ダンジョンを放ったらかしにするつもりはないし、一緒に行動するのは限界がある。多分リュックはそこまで考えてないんでしょうね。

 今は先送りにして、頃合いを見計らってから断ることにしよう。


「ふむ、冒険者か……。他のご友人も同じように考えてるのかな?」


 あ、これは私も知りたかったんだ。


「俺は実家が寂れた農村だから、冒険者としてやってこうって考えてますよ。トリムもそうだよな?」

「もちろんよ。あたしとグラドは同じ農村だから、目的は最初から一緒ね」


 ふ~ん? この2人はいわゆる幼馴染みってやつなのね。


「俺も冒険者だな。とにかく依頼をこなして妹の治療費を稼がないといけないし」


 リュースは事情を知ってるだけに、冒険者を目指すのは予想通りだわ。


「ふむふむ。それならキミ達でパーティを組んでダンジョンに挑むのも有りだね。ちょうど今は首都に発生したダンジョンがあるから、そこで稼ぐのも手だろう」


 そういえば何年か前に、首都(ここ)でダンジョンの存在が明るみになったって学園長がいってたわね。

 こちらの呼び掛けには応じずスタンピードを三度も起こされてるらしいから、ガルドーラと敵対姿勢なのは間違いない。

 ったく、只でさえギルガメルと敵対してるのに、他にも敵対姿勢のダンマスが居るとかつくづく面倒よ……。



★★★★★



「ビルガさん、今日はありがとう御座いました」

「「「ありがとう御座いました!」」」

「いやいや、こちらこそ楽しい一時(ひととき)を堪能させてもらったよ。次の機会はアイリさんが優勝した時かもね」

「はい、頑張ります」



 笑顔でビルガさんに手を振り、私達は邸を後にした。

 本当はそのままダンジョンに帰ろうとしたんだけど、リュースとグラドの膨れ上がったお腹を見て急遽荷台を召喚し、学園寮まで送ることに。


 ガラガラガラ……


「ったく、世話のかかる2人ね……」

「まったくよ。アンタ達、アイリに感謝しなさいよね」

「ウェップ……すまねぇアイリ。それからリュック、もう少しゆっくり歩いてくれ。じゃないと胃の中身が……」

「グ、グラドと同じく……」

「はぁ……充分ゆっくりだよ」


 荷台を引いているリュックが後ろを振り返り、ため息をつく。

 荷台の2人とは違って、リュックは大食いしなかったわね。遠慮したのか、はたまたビルガさんを嫌ってるのが原因かは不明だけども。


「2人も冒険者になるなら気をつけなさいよ? 食べ過ぎた挙げ句に閉店で店を叩き出されても、誰も助けちゃくれないんだから」

「アイリさんの言う通りだよ。例え店先で胃の中身を吐き出す直前だったとしても、誰も助けてはくれないよ」


 いや、さすがにそれは店主が助けると思うわ。吐かれたら迷惑だし。


「グラドはともかくリュースは妹がいるんだから、もっとしっかりしなさい」

「ホントにすまねぇアイリ。――ていうかアイリって姉ちゃんみてぇだな。いや、俺に姉ちゃんは居ないけどさ」


 リュースが眠そうに何か言ってる。


「いきなり何を言い出すのよ……」

「あ~分かる分かる。俺は一人っ子だけど、姉ちゃんが居たらアイリみたいな感じだったんだろうなぁ……」


 グラドまで……。


「そうねぇ。何だかんだいって、アイリって面倒見がいいもんね~」

「うん。凄く頼りになるよ。でも僕は姉としてより……」


 トリムとリュックにも……。


「お姉ちゃんか……」

「ど、どうしたのアイリさん?」

「ううん、なんでもない」


 ちょっと昔を思い出しちゃったわ。

 転生前の私には愛奈(あいな)っていうお姉ちゃんがいて、凄く可愛がられてたのを覚えてる。

 但し、かな~りのんびりしてるところがあって、頼れるお姉ちゃんじゃなくて天然なお姉ちゃんだったけれど。


「お姉ちゃん、元気にしてるかな……」

「んん? 何か言った?」

「なんでもないよトリム」


 ま、お姉ちゃんは私の分も元気にしてるに決まってるわ。


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