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誘われしダンジョンマスター・華麗なる学園生活  作者: 北のシロクマ
序章:私、ダンジョンマスターなの……
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力の片鱗



「――というわけで、急遽転入してきた生徒を紹介するぞ~」

「「「おおおっ!」」」


 やる気の感じられない雰囲気の担任ではあるものの、教室中が色めき立っている。

 皆の視線が私に集中し、男子からは時折「あの子めちゃ可愛いくね?」というような声もちらほらと。

 そう言われると、わざわざ黒髪から茶髪にした甲斐があったってものよね。

 何せこのイグリーシアという世界には黒髪は圧倒的に少ないのよ。

 下手すると()()と間違われる可能性も――


「ではアイリさん、自己紹介を」

「は、はい」


 ――っと、今は余計なことを考えてる場合じゃなかったわね。


「え~と……き、今日からこの()()()()に転入して来ましたアイリと申します。どうぞ宜しくお願いします」

「そういうわけで、仲良くするように~」

「「「は~い!」」」


 ふぅ、緊張しつつも自己紹介を終えると、空いてる席ならどこでもいいとの事だったので窓際の席をチョイスした。

 理由? 外からやってくる春の微風(そよかぜ)にポニーテールを(なび)かせる美少女――とか絵になるじゃない?


 ……コホン、自分で言ってて恥ずかしくなった。

 正解は、日当たりがよくて気持ち良さそうだからよ。


「あ、あの……」

「ん?」


 隣の男子がソワソワしながら話しかけてきた。


「僕はその……リュックっていうんだ。平民ですけど宜しく……」

「リュックね、これから宜しく。私も平民だから、そんなに緊張しないでいいのよ?」

「う、うん、それは分かるんだけど……」

「だけど――何?」


 私の身なりは平民の格好をしてるから、貴族と間違われることは殆どない。

 じゃあこの銀髪リュック君はどうして緊張してるのかって事なんだけど?


「ハハッ、さてはリュック、アイリに一目惚れしたな?」

「ちょっ、グラド!」


 リュックの後ろの席にいた栗色の髪の生徒――グラドって男子が割り込んできた。


「俺はグラド。一応はコイツの親友さ、宜しくな」

「ええ、宜しくね」

「それにしてもアイリってリュックには勿体無いくらい可愛いよな。お前とじゃ釣り合わないんじゃない?」

「ぼ、僕はそんなつもりじゃ……」


 妙に騒がしいけれど、可愛いとストレートに言われるのは悪い気分じゃない。

 このグラドって男子は良いやつよ。

 ひ弱そうに見えるリュックもね。


「ちょっとちょっと、またアンタは勝手な憶測で周りに迷惑かける気?」

「ゲッ、トリム!」


 今度は前の席にいる気の強そうな赤毛ロングの女子が割り込んできた。

 腰に両手を当ててキッとグラドを睨みつけている。

 名前は……


「……ゲットリムさん?」

「んな!?」

「ダッハハハハ! こりゃいいや。今度からゲットリムって呼んでやるよ!」


 あ、あれ? どうやら違ったっぽい?


「ちょっとアンタ、あたしはトリムよト~リ~ム。分かった?」

「ごめんごめん。わざとじゃないから許して」

「まぁ別に怒ってないから大丈夫よ。――って、アンタは笑いすぎ!」


 ゴツン!


「イデッ!」


 グーで殴られたグラドが悶絶(もんぜつ)してる。

 トリムは怒らせないようにしよう、うん。



★★★★★



「それじゃ今日の授業を始めるぞ~。武器や魔法、素手でも構わないから、魔物に見立てた模型を倒すんだ」


 さっそく授業ってことで移動した先は学園の中庭。

 やや離れた場所に立てられた魔物のハリボテを倒せばいいらしい。


「ねぇリュック、あのハリボテはどういう仕組みなの?」

「簡単に言うと、一定のダメージを通せばハリボテが倒れるって仕組みだよ。逆を言えば、ダメージが通ってなければ押しても引いても倒れないんだ。例えばゴブリンのハリボテは、実際のゴブリンと同じ耐久力らしいよ」

「なるほど」


 さっそくクラスメイト達が、思い思いの方法でハリボテに攻撃し始める。

 剣で斬りつける者もいれば火魔法で燃やそうとする者もいるけれど、共通して言えるのは効率よくダメージが通ってる感じがしない。


「えい! この! このぉ!」


 支援タイプなのかトリムは果敢にロッド振り回してるけれどやはり効果は薄いようで、ゴブリンのハリボテが倒れる様子はない。

 あ、そうだ。ちょっと面白いこと思いついちゃった~♪


「トリム~、私に代わって」

「いいけど……どうするの?」

「こうするのよ――えい」


 ツン


「……アイリ、そんな指でつついたくらいで倒せたら誰も苦労は――」



 バタン!


「――は?」


 口をあんぐりと開けたトリムが、ロッドを落として目を白黒させている。

 それもそのはず、普通につついただけたしね。

 けれどゴブリンを指先一つでダウンさせられる私にとってはなんてことない。


「ア……アア……アイアイアイ……」

「落ち着いてトリム。ただハリボテが倒れただけだから」

「そ、それがおかしいのよ! どうしてつついただけで倒れるの!? あり得ないわよこんなこと!」


 あらら、予想以上に取り乱しちゃった。

 トリムには悪いけど、中々面白い反応を見せてもらったわ。


「おいおい、どうしたんだよトリム?」

「そうだよ、真面目にやんないと――」

「どうしたもこうしたもないわよ、二人ともコレを見なさいよ!」

「いや、そんなに興奮してどうした――って、おおぅ!?」

「え……ぇええ!?」


 トリムに続いてグラドは思わず飛び上がると、リュックは両目をゴシゴシと擦りだす。

 ゴブリンなのに、そこまで驚くこと?


「ま、まさかお前、こんな短時間でゴブリンを倒せるように!?」

「あたしじゃないわよ、アイリがやったのよ! しかも指先一つでダウンさせたのよ、信じられる!?」

「ア、アイリ(さん)が?」


 グラドとリュックの視線が私に向けられる。

 そしてトリムの叫び声を聴いたクラスメイト達が続々と集まってきた。


「も、もうゴブリンを倒したヤツがいるのか!?」

「あの転入生が倒したらしいよ」

「アイリって子、凄いわね」

「ああ。まさかGクラスでこんなに速くゴブリンを倒せるヤツがいるなんて……」


 たかがゴブリンで大げさじゃない? とも思ったんだけど、どうやらそうじゃないらしい。

 このGクラスは8クラスの中では底辺という括りで、ステータスの低い者が集められたクラスなのよ。

 それこそゴブリン一匹倒すのにも苦労するくらいのね。


「ね、ねぇ、アイリさん。キミはいったい何者なの? どうしてキミのような子がGクラスなんかに?」


 リュックの台詞により、皆の視線が突き刺さる。

 ちょっとした悪ふざけだったんだけど、また墓穴を掘ってしまった模様……。


 さて、どうやって切り抜けよう――あ、そうだ!


「恐らく劣化してたのよ。何度も使用してればそういう事もあるでしょ?」

「でもよ、んなこと今まで一度も――」


 パンパン!


「ほらほら、喋ってないで真面目に取り組め」

「でも先生、アイリがハリボテを――」

「ん~? ああ故障かぁ。後で報告しとかないとな~」

「い、いや、そうじゃなくて――」

「しつこいぞ。さっさと授業に戻れ~」


 やる気のない担任があまり納得のいっていないグラドを押し退け、他のギャラリーも強引に解散させた。

 でもって、次の授業なんだけど……



「コース上にある障害物を避けて、ゴールを目指すんだよ。上位クラスになると2、3分で突破できるらしいけど……」

「俺らGクラスは5分以上かかるぜ」


 学園のすぐ側にある雑木林。

 ここでは手足の器用さと反射神経の訓練を行うらしい。

 私のダンジョンよりは全然簡単そうに見えるけど。


「この程度なら1分かからないんじゃ?」

「そんなわけないじゃない。足場が悪いから走りにくいし、背丈まである草を手で払う必要もあるし、罠に掛かると土弾(つちだま)が飛んできて当たると痛いのよ? ほらグラド、どれだけ難しいかアイリに見せてやんなさいよ」

「俺かよ!」


 渋々と重い腰を上げたグラドがコースに挑んでいく。

 すると最初こそ完璧なスタートダッシュを決め木々を横切って疾走するも、思いのほか足場が悪いのかしだいに動きが鈍っていった。

 最後は集中力を切らして罠に掛かりまくるという悲惨な状況演出すれば、タイムは振るわず8分オーバーというロースコアで終了っと。


「どう? これで難しいのが分かったでしょ?」

「ハァハァ……ト、トリムの……言う通り……だぜ……」


 一緒に見ていたトリムはともかく、全身土まみれになりつつ息切れしているグラドを見れば、以外にも過酷なのかと思えてくる。

 案外難しい? そんなわけないわね。


「じゃあ私がやってみるわ」

「アイリさん頑張って!」

「張り切るのはいいけど怪我しないように気を付けるのよ」


 さてさて、普通にやっても余裕で1分は切れるんだけど、それだと面白みがない。

 ってな訳で…… 


 タッタッタッタッタッタッ


「ア、アイリさん、そんなに勢いよく突っ込んだら罠が!」


 敢えて罠の中を全力疾走してみる。

 当然のように土弾が飛んでくるけど……


「ハァァァッ!」


 フィキィィィン!


 障壁を張って私は無傷よ。

 当たってもどうってことないんだけれど、服が汚れちゃうもの。

 この学園の制服は赤と白のフリフリが付いた可愛いスカートだしね。


「はいゴールっと。さてさて、タイムの方は……」


 ゴール地点に備え付けてある自動測定器を見ると、記録は7秒03となっていた。


「すすすす、すすすすす――」

「そんなに口をすっぱくしないでリュック。冷静に冷静に」

「う、うん、ありがとうアイリさん。だけど1分を切るなんて、過去にないことだよ!」

「ホント凄いわよアイリ!」

「しかも10秒すら切ってるじゃないか! こりゃ学園創設以来の記録じゃね!?」


 それはさすがに大袈裟じゃないかと思うけれど。

 でもこうやって友達から評価されるのも嬉しいものよね。


「見てください先生、アイリさんが凄い記録を――」

「ん~? なんだ、また故障かぁ」

「い、いえ、そうじゃなくて――」

「しゃーない、他の測定器を使ってくれ~」


 リュックの言葉に耳を貸さず、ここでもヤル気のなさを炸裂させた。

 まぁいいわ。気を取り直して次の授業にいっみよう!



 今度は魔力を使って魔物を倒す練習で、魔力測定器(普通の的にしか見えない)に魔力をぶつけるらしい。

 フフン、ここは一つド派手に行っちゃいますか!


「――ってリュック、どうして参加せずに眺めてるの? ついでにグラドも」

「そりゃ僕らは魔法を使えないからね……」

「魔力を込める――ってのを練習してんだが、いまだに上手くいかなくてさ。――っというか俺はついでかよ……」


 ああ、なるほど。

 だから殆どのクラスメイトが見ているだけなのね。

 一応トリムは魔法を使えるんだけれど、支援魔法がメインだから上手くいくはずもない。

 ちなみに担任が動く気配はなし――と。

 つくづくやる気のない担任ね。


「トリム、私が手本を見せてあげるわ」

「え……て、手本?」


 首を傾げるトリムを無視して掌を的に向ける。

 あ、そういえばあの的って壊れても大丈夫なんだろうか? ……ま、なるようになるか。


「よく見てなさい――ファイヤーボール!」


 シュッ――ボォォォン!


「あ……」


 やっぱ壊れた……。

 後始末は担任に押し付けとこう。


「凄いじゃないか、アイリさん! こんな芸当は国家魔法士でもできないよ!」

「ちょっとリュック、そんな大袈裟な――」

「リュックの言う通りよアイリ。上位クラスにだって中々できないって!」

「……そう?」

「マジマジ! 俺達が言うんだから間違いないさ!」


 これよこれ! クラスメイトと仲良く戯れるのが学園生活の醍醐味(だいごみ)ってやつよ!

 さて、そんな嬉しさの反面、担任は何て言うかな?


「なんだ、ま~た不良品かぁ。これも報告しとかないとなぁ」


 なるほどねぇ。Gクラスは底辺と言われてる理由は分かった気がする。

 平均値よりも遥かにステータスが劣ってるのもあるけれど、主な原因はやる気のない担任にあるわね。

 何故なら現状自習と変わらないんだから。



★★★★★



「――とまぁ、こんな感じよ」

「それはまた不憫なクラスですね」


 これだとGクラスに上がり目がないのも頷けるってもんだわ。


「ですが何故Gクラスに? お姉様ならSクラスは余裕でしょうに」


 自画自賛になるけど、実際その通りだと思う。

 そもそもなんでGクラスに入ったかというと、学園長とやり取りしていた時間にまで(さかのぼ)る。



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