勝ち上がったのは……
午後になり、いよいよ本戦がスタートした。
今日で16試合を消化して、32人が16人となって明日の試合に挑むんだとか。
今は第2試合が終わったところで、これまで私達の出番はなし――っとなると、そろそろ私達のうちの誰かが呼ばれそうな気がする。
ちなみにだけど、私を含む32人は完全にシャッフルされるから、誰と誰が当たるかは見当もつかない。
「それでは第3試合を開始します。Gクラスのリュース君、こちらへ」
「きた!」
膝をパンと叩いたリュースが勢いよく立ち上がる。
本来ならGクラスというフレーズだけで笑い者になるところだろうけども、今のリュック達は違う。
何せバトルロイヤルを堂々と勝ち上がったわけで、さすがに軽視する奴はいなくなったみたい。
「頑張れリュース!」
「これまでのアンタとは違うんだから大丈夫よ!」
「そうそう、一丁かましたれ!」
「お、おぅ……」
リュック達の声援を受け緊張しつつもステージに上がると、それを見届けたフローリア先生が対戦相手をコールする。
「続いてGクラスのアイリさん、こちらへ」
呼ばれたのは同じGクラスの――
「――って私!?」
「」
あ、リュースが言葉を失って固まった。
なんというか、くじ運が悪い? とでも言えばいいだろうか。
これは少々――いや、凄ーーーく可哀相な気がするわ……。
「ほら、絶句してるんじゃないの! 頑張って特訓したんだから、全力を見せてみなさい」
「あ、ああ、そうだよな。今までの俺とは違うんだ、今の俺ならダンジョンにだって潜れるはずだ!」
随分と自分を過小評価してる。
リュース達はとっくにダンジョンに潜れるくらい強くなってるのにね。
「定位置につきましたね。それでは――」
…………。
嵐の前の静けさ――とでも言えばいいのか、数秒間の静寂が会場を包み込む。
そして……
「試合開始!」
――のフレーズと同時に、剣を手にしたリュースが私へと突撃してきた。
「いくぜ、特訓の成果を見せてやる!」
正面から突っ込んできたリュースをそのまま迎え撃つ――なんてことはせず、そう見せかけて側面へと回り込んだ。
「分かってるぜ? そこにいるのはな!」
ブン!
「――っと、よく分かったわね。以前なら移動したのすら見えなかったのに」
「言ったろ? 特訓の成果を見せてやるって」
腕を折ってやった時はまったく気付かなかったのにね。
それだけ強くなったことの証明ではあるけれど、さすがに私の域までには達していない。
まぁ簡単に達したら、それはそれで困るんだけども。
「まだまだいくぜぇ!」
話しながらも腕は止めず、次々と斬撃を繰り出してくる。これはアンジェラとの特訓で身に付いた教訓よね。
あの時のリュースは鳩尾に食らったせいで一晩ご飯が喉を通らなかったらしいし。
「もう飯が食えなくなるのは懲り懲りだからな。隙を見せるつもりはないぜ?」
「いいことだわ。ディメンションルームじゃなければ良い台詞だったのにね」
「うぐっ……そういやここ、ディメンションルームじゃねぇか」
痛みこそ感じるものの、ディメンションルームでは肉体と精神が壊れることはない。だから先の台詞のような事は起こらないのよ。
「そろそろ決着をつけてやるわ――」
「ゲッ、もうかよ!」
私の台詞でリュースが低く身構えた。
その構えに隙はなく、他の生徒なら攻めあぐねたでしょうね。
けれど私の方が技量が上なら話は違ってくる。
「――ハッ!」
キィン!
「だぁ! しまった、剣が!?」
「そこよ!」
ザシュ!
「ゲハァッ!」
剣を弾き飛ばし、がら空きになった胴を斬り下ろす。
結果リュースは光の粒となって消えていく。
「それまでです。第3試合はアイリさんの勝利です!」
「「「おおっ!」」」
試合は私が圧倒したけれど、リュースの実力ならDランクの魔物であっても充分戦えると思う。リュック達とパーティを組めば、Cランクの魔物も相手に出来るかもしれない。
あ、そういえばリュック達はどうするんだろ? やっぱり貴族に仕えたり軍に入ったりするんだろうか? 後で聞いてみよっと。
「おめでとう! やっぱりアイリさんは強いなぁ」
「ありがとリュック。だけど感心してる場合じゃないわよ? 他にも私みたいなのが居ないとも限らないし」
「うん。誰が相手でも油断はしないよ。例え相手がビルガ子爵であったとしてもね」
「ちょ、ちょっと、どうしてビルガさんが出てくるのよ? あの人は参加者じゃないんだから……」
「そ、そう……だね、うん……」
どうしてもビルガさんを敵視したいらしい。
ひょっとして貴族が嫌いだったり? これはもうビルガさんと会う時は要注意ね。
「それでは第4試合を開始します」
いろいろ思考してたら次の試合が迫ってきた。
「Gクラスのリュック君、こちらへ」
「は、はい!」
今度はリュックの出番ね。
私以上の伏兵がいなければ充分に勝機はあると見てるわ。
「頑張ってリュック!」
「リュースは残念だったけど、お前なら大丈夫だ!」
「おいヤメロ。その台詞は俺に直撃する」
「リュック、しっかりね」
「ありがとう!」
私の時だけ露骨に明るい表情で反応した。
「フフ、モテる女は辛いわよねぇ?」
「な、なによトリム?」
「ま~たとぼけちゃって~。忘れたの? リュックはアイリが好きなのよ。そりゃもう正に一目惚れって感じにね」
そういえばそうだったわ。
だからビルガさんに噛みついていったのね。
「Cクラスのゲイル君、こちらへ」
あ、リュックの相手はあのゲイルみたい。
「へっ、Gクラスのくせに武術大会に参加するたぁ身の程ってやつを教えてやるぜ!」
「クッ、僕は構わないが、アイリさんまでバカにするのは許さない!」
「あ? 何言ってやがんだテメェ。アイリはいずれ俺の女になるんだ、バカにしてんのはアイリ以外に決まってらぁ!」
「許さない許さない許さない……」
あ、あれ? なんだかリュックの様子が……
「それでは第4試合……始め!」
ダッ!
「ハン、テメェなんざ片手で――」
「死ねぇぇぇ!」
ズバン!
「ギェハ!」
え……
ええ!? 目で追えなかったんだけど、今のは何? 何が起こったの!?
「し、試合終了! 勝者はリュック君です!」
「「「…………」」」
観客の皆も口を開けてポカーンとしている。
ただ、ゲイルが消えたというのが事実なので、リュックの勝ちだとフローリア先生は気付いたみたい。
「アイリさん、不届き者は成敗しました!」
「あ……うん、ありがと」
もしかしたらリュックって、私の想像以上に強くなってるのかも。
「凄ぇ……凄ぇよリュック! いつの間にそんな強くなったんだ!?」
「いつの間にって……グラド達も同じ特訓をしたじゃないか」
「そ、そりゃそうだが……」
「リュックがこれだけの動きを出来るんだから、きっとあたしにも出来るわよね? そうよね? ね!?」
う~ん一瞬とはいえ、私が追えなかった動きをトリムやグラドにも出来るかと聞かれると、正直微妙としか言いようがない。
『愛の力ですね、お姉様』
そしてアイカも覗き見してたらしい。
『そんな不確実な力が発揮されたらたまんないわ』
『ですがそれ以外に言いようがありませんよ? 鑑定スキルをかけてみましたが、ステータスは他の三人と大差はありませんし、特殊なスキルや加護も所持しておりません』
ますます謎が深まった……。
『ですが調べた結果、先ほどのリュックの状態はいわゆるヤンデレという状態に近かったと言えるでしょう』
『……ヤンデレ?』
『はい。好きな人を想うあまり、とんでもない現象を引き起こすのがヤンデレだと言われております。このままではお姉様に対しても悪影響を及ぼす可能性もありますので、表面上だけでも彼と親しく接してみては?』
『でもねぇ……』
そんなことがクレアに知られたらマジギレされかねない。
リュックのことは何とも思ってないって言った手前、その私が率先して矛盾した態度を見せるのは躊躇われる。というか……
『半分は冗談でしょ! 本当にヤンデレだったら鑑定スキルで看破してるわ!』
『あ、バレてました? ですが半分は当たってますので、くれぐれも邪険にしないよう心掛けてください』
『はいはい』
その後も試合は進み、グラドとトリムは無事勝ち上がった。
この結果に当人達は喜び、更に会場は番狂わせだと大いに盛り上りをみせる。
私を含めればGクラスの生徒が4人も残ってるわけだし、事情を知らない――というか私達以外の人達は「Gクラスの生徒が何故!?」と、首を捻るのは当然の事よ。
さてさて、このままどこまで行けるか明日以降に期待しましょ。




