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誘われしダンジョンマスター・華麗なる学園生活  作者: 北のシロクマ
序章:私、ダンジョンマスターなの……
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アイリ絡まれる

「貴女なの? Gクラスのくせに調子に乗ってる小娘ってのは」


 何気無しに廊下を歩いていると、キレイな金髪を私と同じくポニーテールにした女子が行く手を(さえぎ)ってきた。

 台詞からも分かる通り、この女子も私達(Gクラス)を見下してる一人っぽいわね。

 そもそも最近だと一日に数回は絡まれるんだけども。


「乗ってるつもりはないけど、言われてるのは確かね。というかアンタ誰?」

「ウチ? ウチはセネカなの。Cクラスなんだから貴女より立場は上なの。分かるでしょ?」

「……何が言いたいの?」

「分を弁えろって言ってるに決まってるでしょ。貴女よりもウチの方が戦闘も知識も胸も上なの。だから貴女はウチの言うことは聞かなくちゃいけないの」

「……は?」


 つまり何もかも私より上だから逆らうなって言いたいわけ?

 だいたい知識も上だなんて、相当自信があるようね――って、それはともかく、胸は余計よ胸は!

 よく見たら胸だけは敗北を認めなければならないわ。くっそムカつくけれど!

 それこそ服のサイズ間違ってんじゃないかってくらい強調されてんだもの、これを上回るにはメロンでも詰めなきゃ無理よ。

 だったら胸以外は私の勝ちだと認めさせてやらなきゃ。


「そんなに自信があるなら私と勝負しなさい」

「勝負なの? そんなことしなくてもバストサイズを計れば――」

「そっちはいいわ!」


 私と同じくらいの歳のくせに胸の大きさは一人前よね。

 なんか見てるだけでイライラしてきた!


「胸に関しちゃ私の負けよ! それより戦闘にも自信があるようだし、今日の昼休みに中庭で勝負しようじゃないの」

「ああ、戦闘で決着をつけるの? 仕方ないから受けてやるの。でも本気を出すなら中庭じゃなくてディメンションルームにするの」


 ディメンションルームっていうのは私が適性試験を受けた体育館みたいな場所のことね。

 例え身体が千切れても死なないし、全力でも問題ない。


「フン、見てなさい。その脂肪の固まりが抉れるくらい後悔させてやるから!」




「――という流れなわけよ」


 教室に戻った私は、ついさっき起こった出来事をリュック達に話した。


「あ~知ってる知ってる、Cクラスのセネカ姫だろ? アイツ容姿だけはいいから上位クラスの男子にも人気があるんだよ」

「あたしも知ってるわ。大手の商会の娘で、複数の貴族からもアプローチを受けてるとか。勿論この学園の生徒からもね」


 トリムとグラドは知ってたのね。

 でも二人の話だけだと、見た目が良くて人気者ってくらいにしか感じ取れないんだけど。


「多分アレだよ。アイリさんの人気に嫉妬してるんじゃないかな?」

「へ? 私の人気?」

「え……もしかして知らないの? 今のアイリさん、強くて可愛いって評判なんだよ?」


 全然知らなかった。

 リュックが嘘を言うとも思えないし、たぶん本当なんでしょうね。

 それに可愛いと言われて喜ばない女子はいないわ。現に私は喜んでるし。

 うん、強いはともかく可愛いはもっと広めてくれてもいいのよ?


「特にアイリさんはGクラスだから、自分より下のランクの子に負けるのが嫌なんじゃないかと」


 そういうものなのかしらね?


「でも気を付けろよ? Cクラスって言えば、あの粗暴で有名なゲイルと同じクラスだからな。アイツもセネカに惚れてるらしいし、きっとアイリにも絡んでくるぜ?」


 だけど残念。グラドの忠告より先に、ゲイルには絡まれてるのよね。

 あの時は無視してやったけど。


「ねぇ、一つ疑問に思ったんだけど、今回のはアイリから決闘を申し込んだんじゃ……」

「そう見えるだけよ」


 鋭いわねトリム。

 胸で負けてるのが気に入らなかったのが本音だけども、その事実は私の中だけに留めておくわ。

 トリムにも負けてるのが地味に堪えるから!




 そして昼休み。

 手早く昼食を済ませた私は、約束通りディメンションルームとやって来た。

 けれどそこにはセネカから聞いたのか、他のクラスの生徒がズラリと勢揃い。学園の半分は居るんじゃないかしら。

 ちなみにリュック達も観戦するみたい。


「逃げずによく来ましたなの。とりあえず褒めてあげるの」

「はいはい。そういうのはいいから、さっさと始めましょ。ルールは降参した方が負け――って事でいいわね?」

「それでいいの。さっそく始めま――」

「ちょっと待ったぁぁぁ!」


 ――って誰よ、真剣勝負に水を差そうとする奴は!?


「よぅよぅ、Cクラスって言や俺の存在を忘れちゃ困るぜ!」


 ギャラリーを掻き分けて現れたのは、懸念してた通りの人物ゲイルだった。

 未成年のくせに何故かスキンヘッドなゲイルが、ゴツい体を揺らして私とセネカの間に入ってくる。


「何の用? っていうか、邪魔しないでちょうだい」

「なのなの。この貧乳に現実を教えてやらないといけないの」

「そうそう、この貧――今なんて言った?」

「なんでもないの。それよりゲイル、邪魔するなら貴方から先にやっちゃうの!」


 妙に様になったポーズで杖をゲイルに突き付けた。

 意外にも喧嘩っ早い? 見た目だとそんな風には見えないけれど。


「別に邪魔をするつもりはないぜ? ただよ、勝った方には何かしら獲るものがないと盛り上がらねぇと思ったのさ」


 一理あるけど何かを望んでる訳じゃないし、コレは貧乳(わたし)による巨乳(セネカ)への聖戦でもあるのよ。

 然り気無くバストサイズを持ち出したセネカを物理的に叩きのめせるんだから、それだけで充分だわ。


「別にいらないわよ? ハゲは黙って引っ込んでなさい」

「なのなの。貴方みたいな(アブラ)ギッシュの施しは必要ないの」

「グッ、テメェら……。フン、まぁいい。俺が言いたいのは、勝った方を俺の女にしてやるって話だ。せいぜい全力で闘うんだな」


 ま~た同じこと言ってる。

 だ~れがコイツのものになるもんかっての!


「身の丈が分かっていないスキンヘッド。所詮貴方は誰にも相手にされない哀れな野郎に過ぎないの」

「んだとぉ!? 下手に出りゃいい気になりやがって。そこまで言うなら俺の実力を見せてやらぁ!」


 セネカの挑発に乗ったゲイルが殴りかかっていく。

 体格差を考えれば断然ゲイルに軍配が上がりそうだけど……



 ゴスッ!


「ゴヘェ!?」

「甘く見ないでほしいの。そんな単純な動きでウチを捉えようなんて100年は早いの」


 ズダン!


「ゴアァッ! ゴフッゴフッ……」


 杖を一撃鳩尾に入れて、動きが止まったところで足元を掬って転倒させた。

 てっきり魔法士かと思ったんだけれど、実は肉弾戦が得意なのかもしれない。


「すげぇ! あのゲイルを簡単にのしやがった!」

「うん、流れるようにキレイな動きだったなぁ」

「あんな可愛いのに文武両道なんだもの、同性の私には憧れだわ」

「さっすが我らのセネカ姫だ!」

「キャフフフ、是非わたくしのお姉様に……」


 ギャラリーも盛り上がり、セネカはクルリとターンを決めて一礼して見せた。

 確かに良い動きだわ。伊達にCクラスじゃないって感じね。


「だ、大丈夫なのアイリさん? アレでも彼女は魔法も得意なんだよ」

「近距離は肉弾で、遠距離は魔法で闘うスタイルらしいぞ? ありゃ手強いぜ」

「そうよね。いくらアイリでも、セネカ相手だと……」


 むぅ……リュック達に心配されてしまった。

 鑑定したけど、冒険者で言うならCランク以上の実力はあると見たわ。だけど私には届かない程度だし、もうちょっと認めてくれてもいいと思うんだけどなぁ……。


「いや、セネカよりもアイリが強いぜ」


 ――という嬉しい言葉を発したのは、一度叩きのめされた経験があるリュースだった。


「お前らはアイリと戦ったことがないから分からないだろうけど、コイツはSクラスに匹敵すると思う。少しは信じてやったらどうだ?」


 リュースが言うと説得力があったのか、リュック達の様子に変化が訪れる。


「そ、そうか……そうだよね、うん。あのアーモンドとかいうヴァンパイアをやっつけたくらいだもんね」

「そういやそうだった。すっかり忘れてたぜ」

「ゴメンねアイリ。応援してるから、キッチリ勝利を決めちゃって!」


 うんうん、こういう風に友達に声援を送られるのは気分が高揚してくるわ。

 というかグラド、アンタは素で忘れてたわね?


「じゃあ今度は私が相手ね」

「今のを見て怖じ気付かないとか、もしかして鈍感なの?」

「んなわけないでしょ! 私をそこの脂ギッシュと一緒にしないで」

「そうなの。なら先手は譲るから、どこからでも掛かってくるの」


 倒すのは簡単よ。ステータスに大きな差があるんだから。

 問題なのは、マグレだと思われない程度にセネカに負けを認めさせるやり方だけど……。


「早くしてほしいの。このままだと昼休みが終わっちゃうでしょ?」


 うん、決めた。セネカの得意とする魔法でケリを着けよう。


「先手ならアンタに譲るわ。魔法が得意って聞いたし、どこからでも放ってみたら?」

「……いい度胸なの。そこまで言うなら見せてあげるの。ウチの最大にして最強の魔法――」


 む? 凄い魔力がセネカに集まってきた。

 どうやら口先だけじゃないみたい。


「ロックキャノン!」


 ドズゥゥゥゥゥゥン!


 巨大な岩の塊が私に向かって飛んでくる。

 普通なら一撃でKOされてしまうところだけれど、生憎と私は普通じゃない。


 ドッッッ!


「はい、終わりなの。案外呆気なかったの。これならゲイルの方が――え?」


 グッ……グググググ……


 セネカには巨大岩に潰れたように見えたんでしょうね。だけど残念、まだ終わってはいないのよ。

 なぁんて考えつつ、岩を持ち上げて見せる。


「い、岩が持ち上がってる!?」

「凄ぇなアイツ、アレで潰れないとかマジかよ!」

「……もしかしてセネカ姫よりも強い?」

「キャフフフ、あっちの女子もいいわぁ……」


 さて、ギャラリーが驚いたところで――


「食らいなさい――ロックキャノン返し!」


 ブン!


「ヒッ!? ウチのロックキャノンが――」


 ドゴォォォ!


「ブゲッ!」


 自分の魔法でノックアウトさせてやったわ。

 得意な魔法を使ったんだもの、鼻っ柱を折ることには成功したとみていいと思う。

 強いて言えば、最後の「ブゲッ!」は女としてどうかと思うけれど。


「な? 俺の言った通りだったろ?」

「うん、伊達にアイリさんにやられたわけじゃないんだね」

「お、おう……」


 リュック、リュースの傷を抉るのは止めて差し上げなさい。


「凄ぇ……凄ぇよアイリ! これなら今度の武術大会はアイリの優勝だな!」

「ありがとグラド――って、武術大会?」

「あれ、知らないのか? 学園のトップを決める武術大会が来週開かれるんだぜ?」


 全然知らない……。


「アイリは途中転入だからね、知らないのも無理ないわ。でも貴族や国家主席が観戦しに来るから、出場するなら頑張って」


 当然のように出場する流れになった……。


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