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誘われしダンジョンマスター・華麗なる学園生活  作者: 北のシロクマ
序章:私、ダンジョンマスターなの……
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仕返し

「酒だ酒だ、ジャンジャン持ってこい!」


 金貨1000枚を手にした冒険者の男スキッドの声が、夜の酒場に響き渡る。

 すでに顔を真っ赤に染めるほど酒を(あお)っており、若い女給を口説きながらも上機嫌な様子だ。

 そんな中、酒場のマスターがため息をつきながら、カウンター越しにスキッドへと視線を送る。


「おいスキッド、幾らなんでも飲み過ぎだ」

「何言ってやがんだオヤジ。客が飲まなきゃオメェさんは儲からねぇだろうがよ。売り上げに貢献してやってんだ、文句を言うと罰が当たるぜ――ガッハッハッハッ!」

「はぁ……そうは言うがな? 酔いつぶれたお前の面倒をみるのは別問題だ。それにこんだけ飲んで金は大丈夫なのか?」


 飲んだ量も()ることながら、スキッドが注文した酒はどれも値が張るものばかりとくれば、顔馴染みのマスターであっても不安を覚えるのは当然というもの。

 だが指摘された本人は、胸をドンと叩くと口の端を吊り上げて自慢気にズタ袋を見せびらかす。


「心配ねぇぜ? 今日はちょいと臨時収入があってよ、それこそ毎日飲んでも遊んで暮らせるくらいは楽勝ってもんだ!」

「毎日ねぇ……。ろくに依頼も受けずダンジョンに潜るわけでもないのにな。いったいどんなトリックを使ったんだか」

「トリックなんて凝った事ぁしてねぇぜ? まぁちょいと頭は使ったけどよ。案外ちょろ過ぎて拍子抜けだったぜ」


 スキッドは冒険者という肩書きこそ得てるものの、依頼の達成率は低く腕っ節も下から数えたほうが早いくらいで、彼を知る者達からの評判は良くはない。

 そんなスキッドが偶然にも金に困っているリュースを見つけたのが発端となり、ほくそ笑みつつ契約を迫ったのである。


 内容はというと、今すぐ必要な金を立て替える代わりに、期日を設けて利子をつけた上で返済してもらうというものだ。

 これ幸いと飛び付いたリュースは内容をよく見ずに契約を交わしてしまったため、危うく妹のリルルが奴隷落ちするところであった。

 

「これから毎日飲みに来てやるから崇めてくれてもいいぜ!」

「ああ、そうかい。なら今日の酒代を払ってくれ。ツマミも合わせて金貨3枚と銀貨50枚だ。本当に大丈夫なんだろうな?」

「へ、勿論だ」


 いまだ疑いの目を向けるマスターに多少はムッとしながらも、たかが金貨数枚大したことはないと思いつつズタ袋に手を伸ばす。そして数枚の金貨を掴んでマスターに放り投げるが……


「おいおい、冗談は止してくれ。こいつぁ只の石じゃないか。こんなものをズタ袋に詰め込んで悪趣味なヤツだな」

「……は?」


 スキッドは一瞬理解できなかった。

 冗談を言ってるのはマスターの方ではないかと思うも、表情はそれを否定しているようにしか見えない。


「……ほら、俺をからかうのもいいが、払うもんはキッチリと払ってもらうぞ」

「…………」


 ここへ来て嫌な汗が流れ始める。

 マスターの掌には通貨サイズに切り出された石が乗っており、この石はどこから出てきたのかを思い出すと慌ててズタ袋を覗き込む。




「な、なんじゃこりゃぁぁぁ!」


 突然の叫び声に酒場にいる全員の視線が集中する中、スキッドがズタ袋を放り出して腰を抜かした。

 何故か中には石の通貨(金銭的価値はない)がビッシリと詰まっており、放った勢いで石が床へとバラまかれる。


「おい、アレって石……だよな?」

「ああ、間違いなく只の石だな」

「あんなもん袋に入れて何してんだ?」

「さぁ?」


 その様子は周囲の客にも見られており、皆一様に「コイツ何してんだ?」という表情を見せていた。


「まさかお前さん、本気でコレを金貨と間違えてたんじゃないだろうな?」

「……ハ、ハハ、ハハハハハ……そそそ、そんなわけは……」


 ではリアルタイムで真っ赤な顔を青くしていくスキッドは置いといて、何故このようなことになったのかを解説しよう。

 と言っても大方の予想通りアイリが仕組んだものであり、一見普通のズタ袋に見えるそれは、実はアイリのアイテムボックスへと繋がっているのだ。

 この状態なら()()()()()()()()事くらい造作もなく、金貨と石をそっくり入れ換えたのである。

 しかもスキッドが気付かないように重量を正確に計った上でだ。


「ク、クソッ、きっと何かの間違いだ! 金貨の中には石が混ざってたに違いない!」


 ポジティブに考えた結果、石が混ざってたという結論に達したらしく、再びスキッドはズタ袋を漁りだす。


「無い……無いぞ、なんで無いんだ!?」


 しかし出てくるのは石のみで、昼間に見た黄金色はどこにもない。


 ガサッ


「!?」


 スキッドの指先に石以外のものが触れる。

 何かと思い引っ張り出してみると、ソレは一枚の紙切れであった。

 最初に見たときはなかったはず……そう思って広げてみれば、そこにはこう記されていた。




 バ~カ♪


「…………」


 すると一瞬の間を置いてスキッドの中に沸々と怒りが沸き上がっていき、再び顔を真っ赤に染めあげると――


「あのクソガキィィィ!」


 ようやくスキッドはリュースのクラスメイトとして現れた少女に騙されたのだと気付いた。

 しかし契約書にサインしてしまった以上どうすることもできず、できる事といえば直接捕まえてどうこうする以外にない。

 が、それよりも今は支払いをどうするかであって、目の前で腕組みをするマスターにどう弁明するかが重要だ。


「まさかとは思うが、テキトーに誤魔化してタダ飲みしようってんじゃないだろうな?」

「まままままさか……」

「じゃあ早いとこ払ってくれ。言っとくがツケはなしだぞ?」


 ここで払えなければ最悪は奴隷に落とされても文句は言えず、再度顔が青ざめていく。

 ならば逃走あるのみと出口に視線を向け……


「悪ぃなオヤジ、もう二度と来ねぇぜ!」

「ああっ! 待ちやがれ!」


 スキッドに遅れてマスターもグラスを置いて追いかけるが、出口までに障害となるものはなく、そのまま逃げられてしまう――


 ドン!


「グホッ!?」

「うおっと!?」


 ――かと思われたが、偶然入ってきた赤毛のチャラそうな男にぶつかり、スキッドは仰向けに転倒して悶絶(もんぜつ)する。


「なんやなんや、そない急いで飲み逃げでもするつもりかいな?」

「おいアンタ、ソイツは飲み逃げしようとしやがったんだ、そのまま押さえててくれ!」

「ホンマかいな!? 悪いやっちゃでコイツゥ!」


 哀れスキッドはそのまま取り押さえられ、ロープで縛り上げられてしまう。


「クソクソクソォォォ! 俺は悪くねぇ、全部あのクソガキが悪いんだぁぁぁ!」

「うるさい、おとなしくしろ!」

「ったく、金もねぇくせに浴びるほど飲みやがって! 俺なんか妻に懐管理されててろく飲めねぇってのに!」


 そして駆けつけた兵士により連行されていくスキッドは、最後までアイリ(クソガキ)が悪いと喚いていた。

 しかしこの場にいる者は事の経緯を知らず、首を傾げてスキッドを見送るのであった。


「ありがとうよ! アンタのお陰で逃げられずにすんだぜ!」

「へっ? うん……まぁ、たまにはアイリーンとは違う街の酒を飲みたいと思って来ただけなんやけどな」

「なんだっていいさ。さぁさぁ座ってくんな、特別に一番高い酒をサービスしてやる!」

「ホンマか!? 今日はラッキーやで!」




「――なぁんて事になってるでしょうね、今頃は」

「中々面白い仕返しですね、お姉様」


 あの後もう一度リルルの様子を見てからダンジョンに帰ってくると、さっそくあのスキンヘッドの話になった。

 どんな方法で痛い目に合わせるのかってアイカに言われたからね。

 なので仕掛けたトリックを教えてあげたわ。


「他人を騙した男に相応しい末路だと思います。きっと鉄格子の中で喚いていることでしょう」


 もう二度と会うことはないだろうし、好きなだけ喚いてくれていいわ。



「ただいまやでぇ!」

「おや、お帰りなさいホーク――って、随分と酒臭いですね?」

「いやぁ、なんかよう分からんけど酒場のマスターに感謝されてもうてな? 高い酒をサービスしてもろたんや。まぁ日頃の行いがええからやろなぁ」


 なぁんて言ってるこの男は眷族のホーク。

 ワイルドホークというBランクの魔物が人化して、今は赤毛のチャラそうな青年になってるわ。


「アイリはんが通ってる学園がクラウンにあるって聞いたからな、試しにいってみたんよ。良い思いもしたし、けっこう気に入ったで」

「そうだったの」


 ホークも気に入ってくれたし、明日からはもっと楽しめるといいなぁ。


一般的な酒場では、安い酒だと銅貨30枚くらいからで、一度の支払いとしては一人あたり銀貨1枚(銅貨100枚)前後が相場となっております。


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