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変化する日常

 あれからもう1ヶ月は経ったかな? ダンジョンが崩壊しディメンションルームが機能不全になった以外は、普段通りの学園生活を送っているわ。

 もちろんガルドーラの事は学園長にも国家主席にも報告してある。この国が誕生した経緯についてもね。


「しかしアイリ君には助けられてばかりだな。此度の件にしても、もう少しで国が滅ぶところであった」


 危機は去ったからか、お茶を(すす)りのほほんとした顔の学園長。

 心なしか髪の毛もヘタってる気がしないでもない。気が緩みすぎて抜け毛が進まなきゃいいけどね。


「でもディメンションルームはもう使えないですし、学園としてはマイナスでは?」

「なぁに、心配はいらん。これからは実戦で腕を磨いてけばよいのだ、何も不自由なない。文句を言う貴族はルミナステル殿が黙らせてくれたからの」


 ならいいか。


「それにしても宇宙か……」

「どうしました?」

「いやなに、どんなところか見てみたいと思ってな。この歳になると好奇心をそそるものは早々出てきたりはしないしの」


 あ~、時間と金をもて余した年寄りの台詞そのものだわ。


「いや、1つだけ気になる存在があったな」

「気になる存在?」

「うむ。ダンジョンから帰還した際に、巨大なゴーレムが居っただろう? アレの名前は何と言うのかね? 書物で調べても見当たらなかったのだが……」


 それ、ガルツギアに搭乗したお姉ちゃんです――と、ハッキリ言えれば楽なのに、言えないこのもどかしさ!

 それはさておき、何て誤魔化そうか……


「……コホン。アレはですね、ごく一般的なゴーレムに、いろんなマジックアイテムを装備させた状態だったんです」

「なるほど。それならいくら調べても見つからんはずだわぃ」

「ええ。多分()()()見つからないでしょうね」


 見つかるとすれば、神話に関する書物で似たような兵器が記述されてればの話。

 ガルドーラいわく極秘で造ってたらしいから、万が一にも発見には至らないと思う。


「ふむふむ……つまり無属性のゴーレムにマジックアイテムを持たせ、先陣を切らせていたのだな。やはりそれだけ危険な場所と考えてよいのかの?」

「危険でもあり、不思議な場所でもあると言えますね」

「そうか……」


 ごく一部でクロコゲ虫が繁殖してるけどね。


「いずれは解き明かしてみたいものだ。――ところでアイリ君、本日()()()()事に心当たりはあるかね?」


 今度は一転、ニヤニヤしながら言ってきた。

 そう、学園長に放課後来るようにと言われたから来たのよ。理由も分かってる。


()()()()()()ですね?」

「うむ。説明してもらえるかな?」


 できれば伏せておきたかったこの事実。

 事の発端は、私が授業を受けてる最中にもう1人の私がルミルミに会いに行ったから。

 これが発覚した夜は、殴り合いの激しいバトルをしたわよ? もちろん相手は自分で、結果は引き分け。

 互いに痛い思いをしただけで、何も獲るものはなかったという……。


「え~、いろいろと有りまして、ダンジョンに行った際に分裂したんです」

「そのいろいろとやらが気になるが……まぁいい。それで?」

「元に戻せないので、そのまま生活する事にしました。この事実は、眷族とか一部の人しか知りません」


 眷族=眷族。一部の人=お姉ちゃんよ。


「ふむ、ならば私からは何も言わないでおこう。だが注意してくれたまえ、大っぴらになっては私としても隠しきれんのでな」

「はい、ありがとう御座います」


 学園長は伏せてくれるし、今後は注意すれば大丈夫でしょ。



★★★★★



 ――と、考えてたのがダメだったらしい。

 次の日にペサデロから面白い話があると言われ、アイリーンの居城についていくと……



「すっげーっ、本当に二人いるじゃん!」

「ねぇねぇ、どうやったの? ねぇ、どうやって二人になったの!?」

「アイリってば凄~い! ハッピィももう1人欲しいな~」


 はい。ソッコーでバレてたらしく、友達に群がられてしまう私と私。

 グラドとトリムそれにクレアが興味深そうに触ってくる反面、リュックとリュースが目を点にして見ている。

 なぜこんな事にと、青筋を浮かべた顔をギギギとペサデロに向けた。


「……どういう事?」

「……なんでリュック達が知ってるの?」

「答えは簡単。私がバラしたから」


 ああ、なるほど。確かに簡単な事ね――



「「って、ちょっと待ちなさい!」」


 今バラしたって言った? なぜ!?


「「……理由は?」」

「友達に隠し事はよくない」


 いや、ドライなペサデロが気にする事じゃない。


「「……本当の理由は?」」

「面白そうだから」

「「…………」」


 実に単純明快は答えね。


「そう、分かった」

「なら私達も面白そうなことをしてもいいのよね?」


 グニニニニ……


「いひゃいいひゃい、ほうりょふはんはい」

「やかましい!」

「アンタのせいでややこしくなったじゃないの!」


 ったくもう、リュック達にも釘を刺しとかなきゃならないわ。



★★★★★



 ところが別の日よ。 


「お姉様方、リュックとレックスが揃ってダンジョンに顔を出しております」

「二人一緒に?」

「珍しい事もあるわね」


 この二人はあまり仲がよくなかったと思ったんだけど、心境の変化でもあったのかも。

 そう考え会ってみると……。


「ようアイリ、元気してるか?」

「こんちには、アイリさん」

「いらっしゃい。二人とも」

「機嫌が良さそうだけど、何か良いことでもあった?」


 すると二人が顔を見合わせてニカッと笑い、後ろ手に隠してた花束を差し出してきた。


「アイリ、俺の恋人になってくれ!」

「アイリさん、是非とも僕の恋人に!」


 まさかの同時告白!?


「いやぁ、最初聞いた時はビックリしたぜ? アイリが二人になったなんてさ」

「僕も最初は目を疑ったよ。だけど正気に戻ってすぐに気付いたんだ。二人になったのなら取り合う必要はないってね」

「そうそう。アイリも迷わないし、俺達も衝突しない。まさに良い事づくめってな」

「うんうん。平和的に解決できてよかったよ」


 なぜが二人は納得してるという……。

 う~ん、まだ恋人とか考えてないし、軽い気持ちで付き合うのも抵抗がある。

 さてどうしようかと考えていると、不意に巨大な影が!?


「コ~ラ、二人とも~。アイリちゃんを困らせちゃダメでしょ~?」

「「ヒィッ!?」」


 ガルツギアが腰に手を当てて見下ろしている。初見でこれはビビるわね。

 

「お姉ちゃんこそ、その格好で現れたらビックリするでしょ?」

「特に初対面の人は注意しなきゃ」

「あら~、ごめんなさいね~?」

「え……アイリの……」

「お姉……さん?」


 はい、予想通りの反応いただきました。


「そういえば紹介してなかったわね」

「つい最近だけど、一緒に住むことになったのよ」

「「そ、そう……なんだ……」」


 当たり障りのない台詞からは、お姉ちゃんへの恐怖心が見え隠れする。

 ま、当然っちゃ当然か。


「あ、そそそうだ、お、俺、急用を思い出したぜ、じゃあまたな!」

「ぼぼぼぼ僕もだよ、じゃあまた!」


 うん、これもごく自然の流れと言えるわね。

 未知の敵に遭遇(そうぐう)したら逃げる。冒険者の鉄則よ。


「お姉様方、先ほど顔面蒼白なお二人がダッシュで帰っていきましたが、何かあったのですか?」

「「何もないわよ」」


 ま、恋人は追々――ってね。

 今はまだその時じゃない。そんな気がするのよ。


「あ、いたいた。アイリ様ーっ、ご飯ができたよーっ?」


 っと、メリーが呼んでる。


(しゅ)よ、急がねば味噌汁が冷めてしまうぞ。はよぅ食卓につくのじゃ」

「姉貴、急いでほしいッス。レイクのやつが待ちきれなくてジタバタしてるッスよ」


 アンジェラとクロも呼びにきたみたい。

 レイクはいつも通りでむしろ安心するわ。


『アイリはん、大変や! レイクとペサデロがリヴァイの警告を無視して先に食い始めよったで!』


 まるで助けを求めるかのように、ホークからの念話が届く。

 レイクはともかくペサデロまで?


『アイリ様、原因を作ったのはセレンです。リア充爆発しろ的な事を言いつつ、白米を流し込んでおります』


 ギンによると、セレンが自棄を起こしてドカ食いしてるらしい。

 いったい何があったのやら……。


(あるじ)よ、至急食卓へとお戻り願いたい。我々だけでは収拾がつかぬ……』

『マズイぜ姉御! レイクはリヴァイが押さえつけたが、他の二人は――って、ペサデロ! それは俺の肉だぁぁぁっ!』


 …………。


「アイリちゃん、早く戻ろ?」

「ですね。ただでさえお姉様は二人分を召し上がりになられるのですから、急がなければ無くなってしまいますよ?」

「「私を大食いみたいに言うな!」」


 ……っとにもう、騒がしいやら忙しいやら。

 でもまぁ――


「こんな毎日も悪くないかな。ね? もう1人の私」

「私は嫌」

「――って、そこは合わせるところでしょ!」


 もう1人の私を含め、まだまだ忙しくも騒がしい毎日が続きそうね。


 END




 あれ? そういえば、まともに学園生活を送れてない?


「頑張って、もう1人の私」

「他人事!?」


 今度こそEND


最後までお読みいただきありがとう御座います。

完結しましたが、この後閑話が続きます。

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