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眷(犬)族の戦い? モフモフVSガルフォード

「まずは小手調べだ。いくぜぇ?」


 シュ!


 やっぱり速い! 肉眼じゃとても追いきれないわ!


 ガキン!


「クッ……」


 目の間に現れたガルフォードの牙を、辛うじて剣で止めた。


「……小手調べで首を狙うようなヤツはアンタが初めてよ」

「いや、小手調べだぜ? なんせ俺ッチは本気を出してないんだから――な!」


 バキィィィン!


「チッ!」


 剣が噛み砕かれたのを見て、透かさずバックステップで距離をとる。

 本気を出さずにコレだと、とても対抗しきれない。


「さぁ、もっと盛り上がろうぜぇ? そして俺ッチを熱くさせてくれ――ピュイ♪」


 ガルフォードが余裕こいて口笛をかましてきた。

 その余裕顔を(ゆが)ませてやる!


「ホークとザードは足止めに協力して、セレンはその隙に眠らせて!」

「分かったで!」

「御意」

「やってみます~♪」


 本気を出してないなら正にチャンスよ。

 今のうちに全力で――


「「「オオオォォォ……」」」

「な、何!?」


 不気味なうめき声にゾクリと肩を震わせ思わず振り向く。

 そこには正気を失ったかのような雑魚兵が、目を紅く光らせズラリと並んでいた。


「おいお~い、俺ッチが気まぐれで口笛を吹いたと思ってるのか~い?」

「じゃあコイツらは……」

「そうさ、俺ッチが呼んだのさ。パーティーってのは大勢で楽しむもんだろ?」


 コイツ1人でも厄介なのに、雑魚に構ってる隙はないわ。


「「「敵……殺せ……司令……護る……」」」


 タタタタタタッ!


 危な! コイツら、ゾンビみたいな動きのくせに射撃は正確じゃない!


「作戦変更、セレン達は雑魚を蹴散らして!」


 雑魚はセレン達に任せて、私とアイカはガルフォードと対峙し、両サイドからルーとミリーが注意深く接近していく。


「ハハッ、ちょいと色気不足だが、美少女に囲まれるってのも悪くないねぇ」


 回り込まれてるってのに随分と余裕かましてくれちゃって。

 ムカつくけど飛びかかったところで回避されるのは目に見えてるし、上手く油断させて動きを鈍らせないと……


「色気不足ね。だったら赤い薔薇(バラ)でも咲かせて見る? もちろん原料はアンタの血よ」

「ホーゥ、乗っかるねぇ? だが自分の血はノーセンキューだな。それに色を出すなら――」


 シュ!


「「!?」」


 マズイ、見失った! 奴はどこに――


「女じゃないとなぁ!?」



 ガッ――――――ブジュッ!


 !!!!!?????



「ギャァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ!」

「お、お姉様!?」

「「マスター!?」」


 奴に――ガルフォードに右腕を食われれた! 激痛で意識が持ってかれそうになるのを堪え、大きく飛び上がるのと同時にエリクサーを一気飲みすると、ガルフォードを見下ろせる積み上がったコンテナへと着地した。

 アイカも隣に着地し、下の様子を伺いつつ私を気にかける。


「ハァハァハァハァ……」

「お姉様、大丈夫ですか!?」

「ええ、何とかね」


 息を整え新しい剣を取り出すと、改めて観察する。

 下ではゴーレム姉妹とガルフォードが戦っており、速さの差でこちらの攻撃が当たらないでいた。


「アイカ、上手く押さえ込む方法はない?」

「難しいです。魔法で牽制するにしても、ルーとミリーを巻き込んでしまう可能性が高い上に、最悪回避されかねません。奴のスタミナを削れば押さえ込めそうですが、こちらが先に尽きてしまうと予想します」


 打つ手なし――か。

 セレン達は雑魚相手に手一杯だし、こうなったら捨て身で挑むしか……


「さぁて、そろそろメインディッシュを頂くとしようかぁ?」


 タッ!


「あ、逃げた!」

「卑怯者!」

「ハハッ、じゃれあうのも飽きたんでな、()()()()()を果たさせてもらうぜぇ」


 ルーとミリーを振り払い、高く飛び上がるガルフォード。

 刹那(せつな)私と目が合い直感する。

 狙いは私!


「ヘヘッ、殺すにぁ惜しい女だが、これも宿命ってやつさ。観念して遺伝子から出直してきなぁ!」

「クッ――」


 剣を構えるよりも、奴が迫るスピードの方が速い。

 ダメ、とても反応できない!



 サッ――――ガチン!


「何!?」


 初めてガルフォードの動揺した声を耳にした。

 理由は簡単。奴が噛みつくよりも速く、私は()()()()()()から。

 結果、奴の牙は空を切り、再び距離を取ることに成功する。


「大丈夫ですかい姉御?」

「ええ、大丈夫よ。()()()()のお陰でね」


 モフモフに抱えられ下に着地すると、ゴーレム姉妹が盾となるように前に出る。

 私を追ってきたアイカも横に降り立ち、再び奴と睨みあう形に。


「新手かい? 随分と厳つい顔してるが、まさかハーレム野郎が出てくるとはねぇ」

「姉御達はそんなんじゃねぇ! テメェこそなめた口叩きやがって、覚悟はできてんだろうなぁ!?」

「覚悟? そんなもの、とっくの前にできてるっての。先手は譲ってやるから試してみな」

「ハッ、上等だ。無謀にも俺に挑んだ事、後悔させてやらぁぁぁ!」


 ダッ!


 走ってる最中に人化を解いたモフモフが、猛スピードでガルフォードへと迫る。


 ガチン! ガキッ! ガギギギギッ!


 私の目で追いきれなくなり視界から消えると、あちこちで牙と爪がぶつかり合う激しい音だけが響きわたる。


「へッ、やるじゃないか。俺ッチの動きについて来れる奴ぁいないと思ってたがなぁ」

「テメェこそやるな。久々に本気を出す必要がありそうだぜ!」


 モフモフにあそこまで言わせるなんてよっぽどね。もしも助けに来てくれなかったら生きては帰れないとこだったわ。


「マスターからはあの嬢ちゃんを殺れと言われてたが気が変わった。ここは一つ、タイマンといこうじゃないか」

「おもしれぇ、売られた喧嘩は買わなきゃならねぇ。互いのプライドを掛けて――」

「「勝負だ(ゴルァ)!」」


 ガルフォードの標的がモフモフへと変わった。

 現状相手にできるのはモフモフだけだし、この場は任せるしかない。

 信じてるからね? 絶対死んだらダメよ?


「いくぞ!」

「こいやぁ!」


 ガキン!


「動きも互角、力も互角――ってとこか?」

「さぁな? だが一つだけ確実に言える事があるぜ」

「……ほぅ?」

「勝つのは俺、負けるのはテメェだって事がなぁ!」


 シュン――――ガスッ!


「クッ……やってくれる……」


 鈍い音と共にガルフォードが飛び退き、口元の血を器用に拭う。

 肉眼では見えない動きの中で、モフモフが顔に一発叩き込んだらしい。


「この程度で終わりじゃねぇぜ――オラオラオラオラオラァァァ!」

「チィッ!」


 一気に畳み掛ける気か、モフモフによる怒涛(どとう)の前足ラッシュが始まり、ガルフォードを壁際へと追い込んでいく。


「これで終わりだ――くたばれぇぇぇ!」

「フッ、それはお前の方さ――破壊爪痕(ブラストクロー)!」


 ドゴォォォ!


「ゴフッ!?」

「モ、モフモフ!?」


 ガルフォードのカウンターを食らったのか、モフモフがくの字に曲がって飛ばされた。

 更に着地に失敗してフラつきながら立ち上がり、溜まった血を吐き出す。


「ペッ! クソが……」

「ハハッ悪い悪い、騙し討ちみたいになっちまったなぁ? だがこれも作戦のうちってやつさ。切り札は最後まで隠しとくもんだろ?」


 致命傷を負わせるために苦戦を演じた? いや、それより切り札の使いどころを(うかが)ってたと言う方が正しいのかも。


「さて、次で最後だ。お前はもう、まともにゃ動けんだろう?」

「ほざけ、クソッタレが。このくらい丁度いいハンデだ」


 明らかに強がりよ。

 本当なら今すぐにでもエリクサーを使ってあげたい。けれど私が割って入ればモフモフの足を引っ張りかねない。

 ならせめて、ガルフォードの気を逸らすくらいなら――。


『アイカ、こっそり奴の側面に――』

『いけませんお姉様。それではモフモフとしても納得いかないでしょう』

『そんな事言ってる場合じゃないでしょ!? このままじゃモフモフが――』

『そのモフモフがサシの勝負を受けたのです。彼はお姉様の負担になる事を極端に嫌いますし、何より援護に失敗したら、その時は即座にお姉様が狙われるでしょう。今はモフモフを信じるしかありません……』

『…………』


 アイカに言われて思いとどまる。

 もしも作戦が失敗したら、その時点で敗けが決まるようなもの。

 だったらモフモフを信じて最後まで見届ける!


「さぁいくぜ? フィナーレに相応しく、派手に散ってもらおうか!」


 すでに勝ちを確信したかのように、ガルフォードが突っ込んでくる。対するモフモフは静かに立ったまま。

 だけど私は信じると決めた。

 お願い、モフモフ!


「トドメだ――破壊爪痕(ブラストクロー)!」




 ザシュ!




「グホァッ!? バ、バカな……なぜ……なぜ急に消えた!」


 腹を抉られたガルフォードが、血を吹き出しつつ仰向けに倒れていた。

 台詞から察するに、モフモフが使用したスキルは恐らく――


特殊迷彩(ステルス)だ。切り札は最後まで取っておく――だったよな?」

「ハ……ハハッ……そいつで俺ッチの目を掻い潜り、腹に大穴を空けたってわけか……」

「ああ。これなら動きが鈍っても致命傷を当てれると思ってな」

「結果その通りになったと……」


 観念したのか、ガルフォードが静かに目を閉じた。


「フッ、俺ッチの負けだ。――飼い主の嬢ちゃん。アンタ、良い眷族に恵まれたな? 俺ッチとしても、アンタ……みたいな……マスターが……よかっ……」


 モフモフを羡ましがるような台詞を最後に、ガルフォードは永遠に口を閉ざした。

 ――っといけない、早くモフモフを回復させなきゃ!


「モフモフ、エリクサーよ!」

「す、すまねぇ姉御……」


 緊張から解放されたせいか、フラフラと倒れ込んだモフモフにエリクサーを振りかけた。


「――っしゃあ、完全復活! 助かりましたぜ姉御!」

「それは私の方よ。モフモフが助けに来てくれなかったら、今頃は死んでたもの」

「――ですね。わたくしからも礼を言います。ありがとうモフモフ」

「ルーからもサンクス」

「ミリーからも――チョコレートいる?」

「いや、ソレはいらねぇ……」

 

 何にせよピンチを切り抜けたわね。


「アイリ様~、殲滅完了しました~♪」

「敵の残存兵は無しに御座る」

「めっちゃ疲れたでぇ……」

「ありがとう。そっちも無事みたいね」


 セレン達の方も、群がる雑魚兵を蹴散らしてくれた。

 後は巨大ロボを破壊して――


 ゴゴゴゴゴ……


「な、何? 地震?」


 何の前触れもなく、施設全体が揺れ始めた。


「お姉様、ダンジョンで地震が自然発生する事はありません。恐らくはガルドーラの仕業かと」


 次の仕掛けでも作動させる気?

 そう思ってると、ゴーレム姉妹が何かに気付いた。


「マスター、あのロボットが動いてる」

「あのロボット?」

「ルーが言ったのはアレ、あの巨大ロボ」

「巨大ロボが――って、まさか!?」


 今まさに破壊しようとしていた巨大ロボが、ゆっくりと動き出していた!


ガルフォード「フッ、顔は俺ッチの勝ちだがな」

モフモフ「んだとゴルァ!」

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