基地司令官
「隊長、すべての生存者を搭乗させました。侵入者の姿が見えない今が好機だと思います」
「よし、直ちにここを放棄し、避難エリアの部隊と合流する。発進!」
多数の輸送車が地下通路を進んでいく。
どこまで離れてるかは分からない。けれどこのまま息を潜めてれば、避難エリアへの侵入は容易いはず。
ガタッ――ゴツン!
「いっ――」
車体が揺れたせいで、積み荷に頭をぶつけた。
僅かに声が漏れたところで咄嗟に口を塞ぐ。
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、何も発しておりません」
「気のせいか……」
危ない危ない。危うく荷台に潜んでるのがバレるとこだったわ。
『気をつけてください、お姉様。バレたら責任もって殲滅していただきますよ?』
『さっきのは仕方ないでしょ? それに殲滅ならルーとミリーにやってもらうわ。頼りにしてるわよ二人とも!』
『『イェス、マスター。我らの命はお菓子と共に!』』
両脇にいるゴーレム姉妹の頭を撫でる。
ガルメタルアーマーだっけ? あれに勝てたのは彼女達のお陰よ。
そう思うと、この無表情な顔も愛おしく感じるわ。
『ところでマスター、積み荷から甘い匂いがする。漁ってもいい?』
……は?
『ルーに同意。この積み荷が開けてほしがっている』
うん、前言撤回。
わざわざピンチを招いてどうする!
『頼むからジッとしてて。さっき見たデカブツが他にもいないとは限らないんだから』
『せやで。あんな化け物と再戦なんて、死んでも御免や』
『アイリ殿を護るとあらば、某としても無謀な戦いは避けたいところで御座る』
『あ"~さっきのはマジでヤバかった~』
若干一名キャラが変わってるけど、見つかってデカブツに襲われるのは避けたいところよ。
『ノー。この車両ごと乗っ取れば問題ない』
『ルーに賛成。えらい人は言った――お前のものは俺のもの、俺のものも俺のもの』
『某ガキ大将みたいな事を言わない! だいたい乗っ取るって、どうするつもり?』
『『もちろんこうする』』
ズボッ!
「ゴフッ!?」
「……隊長? ッヒィィィ!?」
助手席にいた隊長とやらの胴体を、ルーの腕が貫通する。
突然胸から手が生えた状態になり、大量の血を口と胸から垂れ流し始めた。
「そこを退く」
「ムグググ!?」
ズルズルズル――ゴキュ!
「許せ、使命のためだ」
隊長を見てビビっていた部下の口をミリーが塞ぎ、荷台へと引きずり込んで首を折る。
そしてルーが透かさず運転席へと着くと、ノリノリでハンドルを握り始めた。
「これで問題は解決した。ミリー隊員、積み荷の確認を急げ」
「了解した、ルー隊員。必ずや戦利品を見つけ出すと約束しよう」
ヤレヤレ。上手くいったのはいいけど、到着したらソッコーでバレるじゃない……。
「アイリ隊長、チョコレート発見した!」
「はいはい。ルーと分けて食べなさい」
「「イヤッフゥゥゥ!」」
何故か積まれてたチョコレートをゴーレム姉妹が頬張る。
あの隊長、甘党だったのかな?
「おや、チョコレートとガム、それに――ンクンク……ふぅ。ただの水が大半のようです」
「食料? せっかくだし貰っときましょ」
ダンジョンでのドロップ品扱いなのか普通に食べれるみたい。
というかよく口に入れたわね、このゴーレム姉妹……。
『隊長、もうすぐ避難エリアにつき、次の指示をお願いします』
あ、無線が入ってるわね。
コレを無視するのはヤバイと思う。
「マスター、どうしよう?」
「う~ん……」
できれば何とかして切り抜けたいところ。
こういう時にアドリブが得意なのは――
「ホーク、何とかして」
「任せんかぃ!」
ルーからマイクを受けとったホークが、軽く咳払いをする。
そしてスイッチを入れると……
カチッ
『お前ら、よう聞けや。避難エリアには入らず、手前で待機しときや』
『て、手前で――ですか?』
『せやで。ちゃ~んと密集しとくんやで?』
『りょ、了解しました』
プツン
「こんなんでどや?」
「さっすがホーク、口先だけなら誰にも負けないわね!」
「せやろせやろ? もっと誉めてくれてもええんやで!」
「ここを攻略し終えたらね」
誉めるのはほどほどにしとこう。すぐに調子に乗るのが目に見えてるし。
「お姉様、通路の先の開けた場所で輸送車が密集しております」
「ちゃんと命令に従ってるのね。なら誠意に応えて――」
「やりますか――」
アイカと共に荷台から顔を出し、先で密集する車両へと狙いを定める。
「フレイムボム!」
「ブリザードボム!」
フレイムボムで爆発炎上した車両をブリザードボムで凍りつかせた。
なんて地球に優しいのかしら。いや、ダンジョンだし異世界だから全く関係ないけども。
「見てください。あそこのゲートが避難エリアの入口と思われます」
車両を片付けたことで入口が見えてきた。
「――みたいね。ルー、あのゲートに突入」
「イェス、マスター」
輸送車の氷像を横目にゲートの中へと入っていく。
すると間もなく、司令塔内部と似た場所へとたどり着いた。
但し東京ドームと同じくらいという広々としたスペースで、多数の戦車や戦闘機が置かれてるという言わば格納庫みたいな場所ね。
「マスター、広すぎて目的地が不明」
「どこか上に行ける場所はない? ここは地下だから、地上へのルートがあるはずよ」
徐行しながら皆で周囲を見渡す。
入口と似たようなゲートは幾つかあるけれど、そこが正解かは分からない。最悪は手当たり次第に行くしか……
「アイリ隊長、なんか凄そうなのを発見した」
「凄そうなの?」
ミリーにつられて見てみると、さっきのデカブツの何倍ものサイズがある巨大ロボが目に止まる。
光沢のある黒塗りで両目だけが紅くなっている。うん、これぞ最終兵器って感じ?
「手強そうで御座るな……」
「怖いです~」
「っは~~~、コイツぁ凄いで。まるでガン○ムやないか」
車両から降り、近くで観察してみる。
全長10メートル――いや、それ以上はありそうよ。何せ腕一本が私と同じくらいの太さだもの。
「お姉様、これを放置するのは危険かもしれません。今のうちに壊してしまうのがよろしいかと」
「あのデカブツよりも更に強い可能性が高いものね。うん、そうと決まれば――」
「まぁまぁ、そう慌てなさんなぁ」
突如響く男の声。聞き覚えのない声をたどると、短髪オールバックを金髪染めたオッサンが巨大ロボの陰から現れた。
「……誰?」
「俺ッチか? マスターからはガルフォードって名前を授かったぜぇ。一応ここの司令官ってやつよ、まぁ宜しく頼むわぁ」
白いコートでグラサンかけてて、とても司令官には見えない。
どっちかと言うと、マフィアのボスと言った方がしっくりくるわ。
「何で宜しくしなきゃならないのか不明だけど、アンタは倒す必要がありそうね」
「あれま、俺ッチと戦うって? ハハッ、やめとけやめとけ。こう見えてもマスターの眷族だぜぇ? それによぉ、この姿は仮の姿でよ、本来の姿はこっちなんだなぁ!」
人形だったガルフォードが白く光り、本来の姿とやらに戻っていく。
「……狼?」
「ヘヘッ、ただの狼じゃないぜぇ? 狼種のブラボージャッカル、荒野のハンターとは俺ッチのことさぁ!」
ブラボージャッカルっていう名称らしい。
鑑定スキルがないからどの程度強いのか不明――と思ってたら、突然アイカが声を上げた。
「ブラボージャッカル! ――マズイですお姉様、ブラボージャッカルはSランクの魔物に指定されており、モフモフと同等の強さを持っていると思われます!」
「Sランクですって!?」
これはマズイ! ルーとミリーは素早さに難がある。上手く捕捉できなければ……
「さぁて、パーティーを始めようかぁ!」
ガルフォードの犬歯がギラリと光った。
アイカ「輸送車に乗った隊長を始末するシーンですが、以前どこかで見た記憶が……」
アイリ「作者いわく、ターミネーターからパクったそうよ」




