学園デビュー
「さて、いよいよね」
目の前にそびえ立つのは、魔導国家ガルドーラの首都クラウンにある学舎。
私が10人以上縦に並んだくらいの大きな学舎には――あ、一応言っとくけど、私の身長は150㎝よりも若干高いくらいよ? ――って話が逸れたわね……さっさと入ろ。
とにかく、今度こそ平穏な学園生活をエンジョイしたい私がここにいる。
そう、同じ過ちを繰り返さないために、ダンジョンマスターだとバレるわけにはいかないんだから!
「キミキミ、エントランスのど真ん中で仁王立ちして何をしてるのかね?」
「ハッ!?」
しまった。腰に手を当てて仁王立ちしてる姿を見られちゃったじゃない……。
けれどこの少々頭の薄い男性教員は、まだ私の全容を知らない。
今ならまだちょっと変わった娘――と、思われるだけで済む!
「あ、えっと……今日からこのウィザーズ学園に通うことになったアイリと申します」
「おお、キミがアイリ君かね! ワシが学園長のカーバインだ」
おっと、いきなり学園長と遭遇したみたい。
頭の薄い人だと思ってしまってごめんなさい。心の中で謝っておくわ。
「早速だが、これからキミのクラス振り分けを行うからついて来なさい」
「はい、お願いします」
――とは言ったものの、これからクラス振り分け? てっきり既に振り分けられてると思ったんだけれど……。
「フフ、なぜこれから――という顔をしているな?」
「ええ、もちろ――って、すみません!」
「ハハハッ! 素直なのは良いことだ。実はだね、この学園の生徒達は入学前に適性試験を行っているのだよ」
「適性試験?」
――ってことは、もしかして三者面談とかもするんだろうか?
だとすると、眷族の誰かを連れて来なきゃならないかも……。
ちなみに眷族というのは、眷属と違ってとても強い絆で繋がっている従僕のことよ。
「……何か勘違いしているみたいだが、今さら面談などを行ったりはないぞ?」
「そうなんですか?」
「うむ。ここで行う適性試験とはズバリ――アイリ君、キミの実力テストのことだよ」
「じ、実力テストォォォ!?」
まずい、どうしよう。
一般人とはステータスの桁が違うから、本領を発揮したら大変なことに……。
何せ以前は別の国にある学園に通ってたのに、一週間で卒業してしまったくらいのよ。
理由は先の通り私のステータスが規格外だからってことで、眷族達とのレベリングにより人並外れたステータスを持つ私には教えることは何もないって感じに。
あの時は貴族の同級生にバカにされたからついムキになって、訓練施設を半壊させちゃったし。
具体的には施設の上半分が綺麗サッパリ無くなったわね。
死人が出ないようには調整したけれど、あの日から貴族平民関係なく頭を下げられるようになって、どうにも居づらい状況が出来上がったのは事実よ。
そんな訳で、同じ轍を踏まないようにしなくちゃならない。
「すでに知っているだろうが、我が学園では12歳から17歳までの未成年者に通学許可を出しておる。従って、自分よりも低年齢の生徒が上位のクラスに――というケースもあり得るわけだ。ここまではよいかな?」
「はい」
「うむ。優秀な者であれば最短一年で卒業でき、引く手数多な存在になるだろう。だが6年かけても卒業出来ない者もおり、そうした者は泣く泣く冒険者となる場合もある」
これはガルドーラだけではないわね。
知識や知恵があるなら商人になれるかもしれないけれど、そうでなければ肉体労働で生活する羽目になる。
「アイリ君がどのような目的で通うのかは分からんが、くれぐれも後悔せぬように過ごすことだ。――さ、着いたぞ。ここが学園の生徒をテストする場だ」
「っ!」
な、なんだろ、この場所。
一見すると普通の体育館のような内装なんだけど、なんだか自分が存在してるのか分からないような奇妙な感覚が……。
「フフ、その年で気付くのは素晴らしい。ここは我々の居た世界――イグリーシアから切り離された空間になっておってな、つまり別次元なのだよ」
「別次元……」
なるほどね、この妙な感覚は次元が違うからなんだ。
「おや、あまり驚いてないようだね? だいたいの生徒は簡単には信じたりしないのだが」
「え……あ、いえいえ、すごぉぉぉく驚いてます! 普通こんな設備はないですよね!?」
「……まぁそうだね。普通の学舎には存在しないだろう」
ふぅ、危ない危ない。
私の眷族が出来るからって、平然と受け止めたらダメよね。
一々驚いたフリをするのも疲れるけど、我慢して演じないと。
「では簡単に説明するが、今からアイリ君の実力を調べ、それに見合ったクラスに入ってもらうよ。クラスは全部で8クラスあるからね」
ふ~ん? 8クラスもあるんだ。
しかもランダムに振り分けられるんじゃなくて、力量に合ったクラスに入れられると。
「クラスはS~Gに分けられ、優秀な生徒はSクラスに振り分けられる。そしてGが……」
これは言わずとも分かる。
要するにGが底辺ってことよ。
うん、まるで冒険者ランクそのまんまね。
「さぁアイリ君、ボヤッとしてる場合じゃないぞ?」
「……え?」
シュン!
「あ、ゴブリン?」
突然シルエットが浮かび上がったと思ったら、目の前にゴブリンが召喚された。
「小手調べだ。どんな手段を使っても構わないから、そのゴブリンを倒してみたまえ。そこに用意してある武器を使ってもいいからね」
どんな――と言っても、ゴブリンなんてFランクの雑魚よ。
Sランクの魔物と同等の強さの私が負けるわけない。
すぐそこの壁に剣や弓が掛かってるけど、自前の剣が有るから不要ね――ってことで!
ザシュ!
「グギャァァァ……」
はい、おしまい。
剣を手に取ってから僅か一秒で、上下に分断してやったわ。
「ふむ、さすがに簡単すぎたか。では次の相手はどうかな?」
さっきと同じようにシルエットがうかんできた。
召喚されたのは……
「グルルル……」
「Dランクのブラックウルフね」
この魔物は普通の狼よりもやや大型で、隠密走牙っていう一時的に視界から姿を消すスキルを持っている。
それこそベテラン冒険者ですら危うい相手よ。
「グガァァァ!」
「甘いわよ」
ゴスッ!
「ギャイン!?」
予想通り死角から襲いかかってきたから、落ち着いて肘鉄を食らわしてやったわ。
結果ピクピクと痙攣しながら消えたし、学園長も口を開けっぱなしよ。
「……で、では次で最後だ。今度の相手は少々危険なのでね、アイリ君が危機に瀕したらすぐに中断するよ」
む? なんか過小評価されてるみたいで気に入らないわね?
こうなったら徹底的にやってやろうじゃないの!
「気をつけたまえ。最後の相手はBランクのワイルドコングだ」
Bランクともなれば、騎士団とか複数の冒険者パーティに依頼するレベルよ。
普通ならね。
「ゴフゴフゴフ――ブゴォォォ!」
ドゴォン!
「――って危ないわね!」
私よりも格下だけど、力は凄まじいのよねこのゴリラ。
今ので床に大穴が空いたし、さすがの私でもコレを食らったら痛い。
うん、まぁ痛いで済むんだけれどね。
「ブゴォォォ!」
「よっと」
「ブゴゴォォォ!」
「はっと」
「ブゴゴゴゴォォォ!」
「ほいっと」
――っとまあ、動きは単調だから回避するのも楽だったりする。
ぶっとい腕で殴りかかってくるけど、当たんなきゃ意味がないわよね~。
「フンゴォォォォォォ!」
あらら、顔を真っ赤にして突進してきたわ。
それじゃあそろそろ終わりにしよう。
「一気に焼き尽くしてやるわ――イグニスノヴァ!」
腕を振り上げたところで、得意の火魔法をお見舞いしてわったわ。
イグニスノヴァは上位魔法だから滅多に使わないんだけれども、この際だから大盤振る舞いよ。
「ンゴゴゴゴォォォ……」
さすが上位魔法。巨体を難なく燃やしてしまったわ。
ま、私だから当然なんだけれどね♪
「…………」
ほら、学園長なんか口をパクパクしながら指をさしてるじゃないの。
少しは私の実力が分かったんじゃない?
「……う、うむ、実に素晴らしい実力だ。噂に聴いていた通りだよ」
「あ、ありがとう御座います」
うんうん、やっぱりこれよね。
多分私は褒められて延びるタイプだから、こうやって褒められるのは心地好いわ。
「さて、実力が確認できたところで、本題に入ろうか」
「え……本題?」
「勿論クラス振り分けの話だよ。勿論Sクラスでよろしいかな? ダンジョンマスターのアイリ君」
「……へ?」
あ、あれ? 今、私に向かってダンジョンマスターって……
「あ、あのぉ……人違いでは――」
「それはないな。事前に情報を得ているし、何よりワシの目で実力を見たのだ、並の人間がBランクの魔物に圧倒できるはずがない」
……言われてみればその通りじゃない。
張り切って強さをアピールしてどうすんのよ私……。
「アイリ君にも事情があるのだろうし、詳しくはワシの部屋で話そうか」
「お心遣い感謝します……」
自業自得とはいえ、学園デビューにて華々しくバレてしまったのは誤算だわ。
どうやらここでも平穏には過ごせそうにないわね……。
★★★★★
「ただいま~」
「おや、お帰りなさいお姉様」
自宅に戻ると、私そっくりな妹――アイカが出迎える。
妹といっても血が繋がってるわけじゃなく、私がそういう扱いをしてるだけ。
なら彼女の正体はというと、聞いて驚け! 髪の色が青色で私の2プレイキャラに見えるダンジョンコアよ!
「……お姉様、今脳内で恥ずかしいサブタイトルを付けませんでしたか?」
「気のせいよ。それよりダンジョンの様子はどう?」
「はい。本日も敵対行動を示す者は居りませんでした。街の方も平和そのものです」
「ならいいわ。ダンジョンで問題が発生したら、呑気に学園生活を送ってる場合じゃないしね」
わけ有って私がダンジョンマスターになってから一年が経過したところで、ダンジョンそのものは落ち着いている。
当初はDPを獲るのに四苦八苦してたけれどね。
特にアイカはこっそりDPを使って、好物のスイーツを召喚してた――なんてこともあったっけ。ええ、今では私の目の前で堂々と召喚してるわ。
ちなみに街っていうのはこのダンジョンの5階層にある街のことで、なんとその街――アイリーンには、人種を問わず様々な種族が生活してたりする。
「お姉様、今度の学園では上手く馴染めそうですか?」
「う~ん……正直言うと微妙ね。だけど上手くやってみせるわ同じ失敗は繰り返したくないし、学園長からの頼まれ事もあるし」
「頼まれ事……ですか?」
「ええ。簡単に言うと、より良い学園にするのに協力するって感じにね」
色々と大人の事情があるらしく、学園長の理想とはかけ離れた状態なんだとか。
それを少しずつ修正して、理想の学園に生まれ変わらせるのが目的よ。
要はダンジョンマスターである私か学園長の後ろ楯になるわけよ。
「それはよいのですが、ご友人の方はどうですか? 粗暴すぎるとクラスメイトから距離をとられますよ?」
「こんな美少女つかまえて誰が粗暴か! だいたい友人ならすぐにできたわよ!」
ったく、相変わらず容赦のないアイカね。
「ほほぅ、初日にしてご友人ができたと。ですが向こうが友人と認識してるかどうかは別ですよ?」
「そんなはずないわ! 多分……」
本当に容赦ないわね……。
「では詳しく伺っても?」
「なら朝の自己紹介からね。あの時は――」