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アホのこと疑惑3

「いや、見た目はともかく、中身はどっからどう判断しても、大人でしょう! 11歳とはおもえぬ、非凡な勉学の才能! 豊富な知識!」


「そう言ったもの、全てを鑑みてなお、ガキにしか思えないから言ってんだよ。アホ」


 ……自分こそ……! 自分こそ、どっからどう判断しても11歳に思えないくらい老成している癖にぃいい!

 これで現地人とか、本当詐欺だよ! 世の中の全てが信じられなくなりそうだよ!


「……まあ、年齢を重ねたから、必ずしも模範的で自制が聞く大人になるとは限らないがな」


 そう言って要は、どこか痛みを耐えるかのような苦々しげな表情で、そっと目を伏せた。


「……俺の父親みたいに、仕事では有能な癖に、欲望のままに節操なしに女に手を出す男もいるわけだし」


「いや、要。確かに私は、年齢不相応なアホだけど、家に決められた婚約者がありながら同時に複数の妾さん囲って、本家に引きとった要が正妻さんにいじめられても丸無視してるあげく、ついには事業の為に鳳凰院家に売り飛ばそうとしてる、要のお父さんとは一緒にされたくない」


 要の父親は、見た目は要そっくりで格好良いし、事業者として有能だが、父親としても男としても、はっきり言って最低だ。

 妾腹な要を完全に道具としか見ておらず、会社の利益の為ならどうなろうと構わないと思っている。

 例え要が私の荒唐無稽な私の話を信じてくれる為だとしても、

あの人と一緒にされるのは、いやだ。

 ……だって、要はゲームの中のキャラクターなんかじゃなくて、実際に目の前でこうして生きて存在しているのだから。そして、要は私にとって、大切な……えと……そのなんだ? ……そう、大切なわんこ、なのだから!

 要を傷つけるような人は、私も嫌いだ。

 だから私は、嫌いな要のお父さんとは断じて同じ括りに入れられたくはないのだ!


 不機嫌露わに唇を尖らせる私に要は、少し驚いたように目を開いた。


「……お前、俺の事情よく知ってるな」


「そりゃあ、ゲームで全部語られたから……て、あ、もしかしなくても要知られたくなかった!? 何も知らないふりした方がよかった!?」


「いや。一部では有名な話だから別に構わないが……お前が知ってるとは思わなかったから、少し驚いただけだ」


 ……よけいなこと言っちゃったかな。要、いやな気分なってないかな。

 自分の言っしまったことに、ぐるぐると思い悩む私の隣で、要は少し思案げに眉間に皺を寄せて黙り込んでから、やがて真っ直ぐに私を見ながら口を開いた。


「……で? お前は前世の記憶を踏まえたうえで、これからどうしようと思っているんだ?」


 ………って、あれ?


「そりゃあ、原作通り欧洞学園で、毒々しくも艶やかな女帝様として君臨しつつ、要をしっかりわんこに躾て、学園に編入して来る正規ヒロインちゃんを返り討ちにする準備を……」


「不可能だ。諦めろ。……というか、そもそもお前が女帝様? として君臨さえしなければ、そもそもの編入生の学園改革イベントやらも始まらないだろう。お前が一般生徒として生活すれば、前提が崩れて、全てが未遂で完結する話だ。不毛な野望は、さっさと捨てろ」


「っそんなの、やってみなければわからないじゃないか! ネバーキブアップ! 夢は信じれば叶……ふぐっ」


「その夢が人に……ひいては俺に迷惑を掛けることになることなるから、諦めろって言っているんだ。いいか、綾華。俺は、四つん這いになって、犬の真似ごとするんなんてごめんだからな? 高等部に進学した後なら、尚更だ。そんなことをするアホはお前だけで十分だ」


 ……最初会ったばかりの時は、やれと言われればやるって言ってた癖に! 男なら言ったことはちゃんと貫こうよ! 初志貫徹しようよ!

 

 しかし、そんな私の当然過ぎる抗議は、要の手によって声にすることは許されなかった。

 くそ……1度で飽き足らず、二度も飼い主の唇を物理的にタコさん化させるとは、なんて躾がなっていないわんこだ……飼い主の顔が見てみたいぜ……って、私か。もっとわんこの躾方勉強しなければ……。


 ……て、待て待て。そうじゃない。

 私は何とかほっぺたをわしづかみにしている、要の魔の手から逃れると(やっててよかった、護身術)、真っ直ぐに要を見上げた。


「……要さ。私のさっきの話、信じてくれるの?」


「なんだ? やっぱり嘘だと言うつもりか?」


「いや、嘘ではない! 嘘じゃないけど……!」


 前世の記憶があって、なおかつ今こうして存在している世界が乙女ゲームの世界だと知っているだなんて、自分でもにわかには信じられない話だと思う。

 もし、私以外の人間が同じことを口にしたら、私なら厨二病を疑う。「選ばれた特別な存在的妄想乙」と、下手したらつっついて、怒らせるかもしれない。(ちなみに私の前世の高校には、異世界からやって来た賢者【魔眼持ちなので常に眼帯着用】がいて、たまにノートに描いたマンガ見せてもらってたりした。実を言えば同窓会で本人にバッサリ否定されるまで本当だと信じてたのに、終いには黒歴史思い出させないでくれと泣かれてしまった苦い思い出だ)

 私ですら、そうなのに、超現実主義者な要がこんな話信じるとは思えないのに。


「ーー俺にお前の嘘は通用しないと言っただろう?」


 要は、そう言ってふんと鼻を鳴らして、口端を上げた。


「嘘がわかるなら、嘘をついてないこともわかるに決まっているだろう?」



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