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アホのこと疑惑2

「………はあ?」


 しかし、自信満々で断言した私とは裏腹に、要から返って来た言葉は、心底訝しげなものだった。


「テンセイシャ? ……何言ってるんだ。お前は」


 ……え

 え

 え

 え

 ……ちょっと待って。


「………え……要、本気で意味分かってない?」


「そもそも【テンセイシャ】と言う単語が、何をサしているのかすら、理解できていないな。【テンセイ】は転がるに生れるで転生なのか、はたまた天に性で、天性、もしくは天に成るで天成、天の声で天声、てんらんの展に性質の展性……あとは中国語の恬静かどうかで、意味は変わってくるよな。あと、【シャ】は、人を指し示す者か、会社及び組織を指し示す社、もしくは建物を指し示す舎……可能性は限りなく少ないが、乗り物の車などが、あるが、お前は今、何を意図して発言したんだ?」


 ……ちょ、待って、ちょまて、ちょま……。


 私は、からからに渇いた口内を潤すべく、こくりとつばを飲み込んでから、できるかぎり限り平静を装って、要に問いかけることにした。


「……あれ? 要、もしかしなくても、本気で意味分かってなかったりする?」


「だからそうだと言ってるだろ。さっさと、お前が何を言いたいのか説明しろ」


 そう口にした要の表情は至って真面目で。

 そこに一切の、嘘や誤魔化し……焦りの陰は見えなくて。


 ……え、え、え? もしかしなくても、これ、マジ?

 マジで要意味分かってない?


 冷たい汗が、つと、こめかみの辺りをつたうのが分かった。



 ………しくったーー! もし、本気で要が現地人キャラなら、私の今の発言、完全に自爆じゃん!

 完全に、宇宙人的発言じゃん!

 十中八九信じてもらえないうえ、仮に信じてもらえたとしても、自分の丸秘情報晒したことになるじゃないか! 弱味にぎるつもりで、握られたのは私の方じゃないか!


 ……い、今からでも遅くない……ここは何とか冗談のノリで誤魔化して……。


「……な、なーんてね! ちょっと先日、ネットサーフィンしてたら、前世で遊んでたゲームの中に転生しちゃった! みたいな小説があってさ、もしそれが現実だったら面白いなーなんて、ちょっとノってみたというか! なんていうか、その……ただの遊びだから、あんまり気にしないでほしいな、うん!」


 スパイは嘘の発言をするとき、わずかに真実を混ぜて、信憑性を増すように仕向けると言う。

 なんて自然かつ、パーフェクトな言い訳! さすが私、女帝様な脳みそを持つだけある!

 これなら、いくら天才児な要とて、騙されるはず……。


 しかし、嘘をついた罪悪感が故に思わず背けた顔は、片手で頬をわしづかまれたことによって、真っ直ぐむき直された。

 ちょ……タコさん! 唇タコさん口で、めちゃくちゃ不細工な顔なってるんだけど、要! 


「__綾華?」


 まだ声変わりが始まってない、美少年に相応しい甘いテノールが、耳元で響く。

 ちょ、要、顔近い! 毛穴の大きさまで、ばっちり見えるから、その距離で話しかけるの、本当やめて! 耳が凌辱されてる気がするし!

 それに、要の目が、全く笑ってないうえ、びっくりするくらい威圧してて怖いんだよーーー!


「ーー俺に嘘が通じると、思うなよ? さっさとお前の秘密、暴露しろ」


 そう言って要は、私が今まで見たことがない「いい顔色」で、ほほえんだ。



 ……まるで、堕天使が如く麗しい顔の(そして目がマジの)美少年に凄まれて、嘘を貫ける女性が一体どれほどこの世に存在するでしょうか?

 少なくとも、私は無理でした。……というか、もし黙ってたら今後99.9%、要さんからひどい目に遭わされるのだろうと、本能が警告していたが故に、洗いざらい白状せざるを得ませんでした。


 ええ。私が前世ですっかり成人した大人であったことも。

 この世界が、私が前世でプレイした乙女ゲームの世界であることも。

 ゲーム上で、私は要を「わんこ」として従えながら、欧洞学園にて、「女帝様」として君臨していたことも。

 高等部の二年生で、正規ヒロインが編入して来て、学園改革を行うことも。

 私が知っている情報全て、白状しました。……というか、割愛しようとする度「で? それで終わりじゃないだろ?」と詰め寄られて白状させられました。

 最後には、もう半泣きで「もう、これで全部! 私が覚えてるのはこれで全部だよ! 嘘ついてないもん!」と主張する私を、探るように暫くじーっと見つめてから、要は大きく溜息をつきました。


「ーーにわかには信じがたい話だな」


 ……て、どうせ疑うなら最初から問いただすなよおおお! 本当、マジでさっきまでの圧力、怖かったんですけど! 無駄びびりなんですけど!


 ずびずびと鼻を啜る私に、要は小さく肩をすくめてみせた。


「転生云々はともかく……お前が前世ではとっくに成人していたとか、ありえない。本当はせいぜい5歳かそこらかだったんじゃないか……?」


 ……って、疑うの、そっちーーーー!?

 いや、転生云々は信じられなくて仕方ないかも、だけど、私の精神年齢は明らかに10代違うよね!? どっから判断しても大人なものだよね!


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