アホのこと疑惑
鳳凰院綾華です。
突然前世の記憶を思い出し、自分が前世でハマッていた乙女ゲームの悪役令嬢こと「女帝様」だと気がついてから、早一年経ちました。
記憶を思い出した当初は色々ありましたが、今ではとうとう勉学面でも本気の要と争うようになり、天才という名を欲しいままにしております。
と、いうことは、あれですね。そろそろ例のフラグが立つ頃ですね。
『今までの、鳳凰院綾華とはまるで違う……一体、一年前に彼女の身に何が起こったんだ』
『……まだ、11歳なのにあり得ない……あの娘何ものなの……?』
『お嬢様は、一年前からすっかり別人になられました……正直今でも信じられません』
そんな畏怖と賞賛交じりの瞳が向けられ、常に陰でザワザワ言われはじめる時期ですね。
というわけで、私が気配を殺して忍び寄り、耳をそばだてて聞き集めた鳳凰院家使用人達の、私に対しての評価をお教えてしましょう。
「ーー綾華様、勉強面ではもう、すっかり優秀になられて……普段の生活のご様子は相変わらずですが……本当、竜堂寺様には感謝せねばなりませんね」
「あら、綾華様が成長されたのは勉強面だけじゃないですわ! 最近では要様にご教育して頂いて、最近では公の場ではきちんと鳳凰院家のご令嬢らしく振る舞えるようになってますのよ! 私、綾華様が先日のパーティーを一つも粗相せずこなしたという話を聞いた瞬間、感動で泣いてしまいましたわ……まあ、でも一時間以上はまだ持続が難しいようですけど」
「俺は、んなことより要坊が、豪を煮やすことなく根気よく綾華お嬢様に付き合ってくれてることに感心するね。生まれた時から綾華お嬢様を知ってる大人の俺達にとっちゃ、足りないとこもまた可愛らしいと思えるが、親に言いつけられてるだけの、同年代の男のガキなら、投げ出したくなっても仕方ねぇだろうに……。怒ることはあっても、絶対に逃げたりはしねぇんだよな。しかも、それでいて、ガキ扱いするんじゃなく、 ちゃんと対等な目線に立っているんだから、恐れ入るぜ」
「「「なんにせよ、(竜堂寺様/要様/要坊)が、鳳凰院家に来てくれるようになって本当よかった(です/ですわ/ぜ)」」」
………以上、上から我が家の執事(63歳:ロマンスグレーナイスミドル)、メイド(27歳:ボンキュッボンロリ顔)、庭師(39歳:無精髭ワイルドおっちゃん)の、お茶のみ話にての供述ですた。
ーー解せぬ……! 解せぬぞ!
なんでそこで評価されるのは、要ばかりなんだ………!
「ーーそんなわけで、要。私はとうとう気づいてしまったのです」
慈愛溢れる顔で、聖母が如く微笑む私に、要はげんなりとした表情を浮かべた。
「……今度は何の遊びだ。綾華」
……ふふふ。嫌そうな、お・か・お。
でもね、そんな顔しても、無駄だよ。要さん。だって、私は、ついに君の秘密に気がついてしまったのだから。
ああ、もしかしたら、私が気づいてしまったことに気がついて、そんな嫌な顔をしているのかな。
大丈夫だよ。要。私は君の秘密を握ったからって悪いようにはしないから。……ちょっと私が女帝様として欧洞学園に君臨するために利用させてくれないかなーとは思うけど。
「……まあまあ、とりあえずお茶を淹れたから、これを飲んでリラックスして話を聞いておくれ」
「お前じゃなくて、メイドさんが淹れてくれたお茶だろ」
「……いーの! 私がしたことは、私の手柄! 鳳凰院家使用人がしたことも、私の手柄なの!」
「どういう理屈だよ……」
呆れかえった表情をしながらも、ちゃんとお茶を飲んでくれる辺り、要は順調にわんこ化していると思う。実に良いことだ。
………ふふふ。要よ。ボンキュッボンのロリ顔メイドさんが丁寧に入れてくれた、最上級の玉露はうまかろう? リラックスして、重い口も緩むだろう? ポロっと秘密を漏らす気になるだろ?
私は、要がお茶を飲み干したタイミングを見計らって、口を開いた。
「私ね……要の秘密に気がついてしまったんだ」
思い返せば、最初からおかしかったんだ。
高校レベルの勉強を平然とこなせる10歳児が一体どこにいるというんだ。
あんなに上手に、私を指導できるだなんて、いくらヒーロー補正があったとしても、おかしいじゃないか。
まして、女帝様としての天才的能力を開花させた私よりも、高評価だなんて。
だけど、それも全て一つの仮定があれば、納得できるのだ。
「……要。君は私のお仲間なんだろう……?」
「なんの話だかさっぱりだが、お前と同類に思われるのは心外だということは間違いないな」
もう、誤魔化しちゃって! 気づいてるって言ってるのに~。
私はにんまりと笑いながら、要に指を突きつけて、高らかに言い放った。
「要……いや、竜堂寺要! 君も私と同じ、【転生者】なんだろ!」
要が乙女ゲーム「箱庭の虜囚」を知っている、前世日本人男子であり、自身の不遇な身の上を改善すべく奮闘していたと思えば、全ての不自然に納得が行くのだ……!
さあ、要よ。キリキリ真実を白状するのだ! そして、私の女帝様化計画に協力するのだ! 私が、欧洞学園に君臨するために……!