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乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、中身はアホのこのままでした【連載版】  作者: 空飛ぶひよこ


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【番外編3】重い想い

※要視点ですが、要がかなり重く綾華に依存してますので苦手な方はご注意下さい

『ありがとう、要。……要がいてくれて、本当よかったよ』


 ーー俺の人生が始まったのは、多分その言葉を耳にした瞬間だったのだと思う。

 産声と共にこの世に産み落とされ、俺が「竜堂寺要」として生を受けてからは、既に10年以上の歳月が流れていたが、その瞬間まできっと俺は「生きていなかった」。

 だって、俺には何もなかった。

 喜びも、悲しみも、理不尽な運命に対する憎悪すら、俺は持っていなかった。

 ただ果てしない諦観と、人間であることの残滓のような僅かな苛立ち。それだけが、10歳の俺の全てだった。

 無機質で、モノクロな、寒々しい世界の中で、ただ機械的に知識を吸収することだけが、俺にとっては「当たり前」の日常で。

 それ以外を望むことすら、俺は知らなかった。それ以外の世界なんて、知らなかった。


 教えたのは………綾華。お前だ。


 お前がいたから、俺は感情を知った。

 鮮やかに色付いた世界も、ぬくもりも、俺は全部お前から教えられたんだ。

 どうしようもなくアホで、世話が焼けるお前が隣にいてくれたから、俺は「人間」になれたんだ。

 

 ……綾華。お前はこの世界が、前世でプレイしたゲームの世界だと言うけれど、どうしても俺はそれが信じられない。

 お前の話が嘘じゃねぇことは分かってる。

 実際お前のゲームの知識は、色々本筋から逸れてはいたが、未来のことですら当たってはいたからな。

 ……それでも、俺は、「お前と出会っていない俺」がいることが想像できねぇんだ。ましてや、そんな俺が、お前以外の他の女を愛するだなんて。

 きっとそれは、顔や境遇が同じだとしても、俺じゃない。限りなくよく似ているだけの、他人だ。


 だって今の俺は、お前によって、生まれたのだから。




「ーー要、重い。きつい」


 腕の中で抗議の声をあげる綾華の頭に、顎をのせる。


「……うっせぇ。黙って湯たんぽになってろ。寒いんだよ」


「いや、なら暖房の温度あげようよ! ケチらないで!」


「アホ。生徒会役員自らが、模範になって電力削減に務めるることに意味があんだろうが。時代はエコだぞ。エコ。上に立つものから、率先すべきことだろ」


「あ、なるほど………て、いやいやいや。要、そんなこと言って、寮の部屋ではわりとしっかり暖房つけてるよね。あと、愛那ちゃん辺りから、『模範云々言うなら、まずその距離感やめて下さい! 不純異性交遊は、校則に反してます!』って怒られるよ。こないだも言われたばっかだし」


 ちっ……アホの癖に、騙されねぇとは。

 斎ノ原の奴、綾華に余計なことを言いやがって……。

 なら、次の手だ。


「…………嫌か?」


「へ?」


「綾華……お前は俺に、こうされてるのが、嫌なのか?」 


 わざと、ちょっと拗ねたような口調で言ってやると、アホな綾華はすぐに満面の笑みを浮かべた。


「嫌なわけないでしょう~。全く、困ったわんこだなあ。そんなに私に引っ付いていたいか。そうか。そうか。仕方ないなー」  


 ………チョロい。やっぱり、こいつはアホだ。

 すっかり機嫌が良くなった綾華に体重を掛けてやると、ぐえっと蛙が潰れたような声を出した。


「………だから、要! 重いっ! 重いってばー」


 再びあがる抗議の声を無視して、ただ、腕の中のぬくもりを堪能する。

 ………定期的にこの熱を感じなければ、落ち着かなくなったのは、

先日のドエム女の件があってからだ。

 斎ノ原からはたかが昼飯くらい友人と食べさせてあげてもと呆れられたが、俺にとっては切実な問題だった。


「そうだな。………俺は、重いな」


「? 要?」


 だって俺は、綾華にとっての「友愛の好き」ですら、独占したいと思ってしまっているのだから。


「……え? その………確かに要は、重いけど、身長からしたら痩せ過ぎなくらいだと思うのよ? 要がデブだったら、この学園の生徒の7割がデブになっちゃうから、気にしないで良いのよ? ちょっと体重の掛け方を軽めにしてさえくれれば」


「……そういう意味じゃねぇよ」


「???」


 全く意味が分からず困惑する綾華に、苦笑いが漏れる。

 ……分かるわけ、ねぇか。この話の流れじゃ。




 俺は、きっと綾華が考えるよりも、ずっとずっと重くて、狭量で、そしてどうしようもなく綾華に依存している。

 恋愛感情に発展しかねない異性は勿論、同性との友情にすら、焼いてしまう程に。


「………えーと? 要、どうかした?」


「……いや。何でもない」


『……それに、私に離れろっていうけどさー、私いなくなったら要だってぼっちじゃん』


 不意に脳裏に浮かぶのは、中等部の時に綾華から言われた言葉。俺といると孤立するから離れろと言ったのに、それでもこいつは俺と一緒にいることを選んでくれた。

 ……時々、あの頃に戻りたくなるって言ったら、こいつはどんな顔をするのだろうか。

 二人ぼっちで、学園の中では互いしかいなかった、あの頃に。


 誰にも、近づけさせたくない。


 俺だけを、見て欲しい。


 ただの恋愛のそれだけじゃ、足りない。


 友愛も、家族愛も、全てが欲しい。


 そんな感情がいつだって俺の中には存在していて、些細なきっかけで簡単に噴き出しそうになる。

 泥ついた汚い感情に身を任せて、綾華の全てを奪いたくなる衝動が、常に胸の内にあって。

 ……いつか、それが綾華を傷つけてしまいそうで、時々怖くなる。


「なあ。綾華。……もし俺が、お前を他の誰にも会わせないように、どこかに閉じ込めたりしたとしたら、どうする?」



 

 


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