アホのことお勉強3
だって、私知ってるもん……!
高校の数学って「いちぷらたんたんたんぷらたん」とか「こすもすこすもすさいたさいた」とか、謎の呪文唱えて、解答の数字を召喚する黒魔術的なアレだって……!
生物も、なんか豆が浮気してないかとかを調べるべく、子どもの見た目の割合調べるみたいな、昼ドラ的な奴だし。
フレミングの右手の法則と、左手の法則は、一昔前に流行った「チェケラッチョ☆」だし。
元素記号だって、水平リーベ、僕の船。みたいな、謎の物語紡いでるし。よまがりちっぷすくらーくか、とかってもうあれだよ! 冒険の書を開くための復活の呪文だよ!(ーーちゃららららららーん……残念ながら鳳凰院綾華の、前世の科学に関する冒険の書は消えてしまいました)
物理に至っては、選択してなかったから良くわからないけど、とりあえずリンゴよ、ニュートンさんの前で落ちないでくれよ、ってなる感じでしょ! ……え、違う?
ともかく……前世で散々染みついた理系コンプが、体に高等部の勉強を拒絶させるのだ。
だから……だからせめて、あと1年……あと1年は中等部前倒しくらいで済ませて……!
「……中等部前倒しくらいじゃ、足りないんだよ。数は少ないが、それくらいならやれている奴もいる。高等部は、帝王学の自学の場と抜かしてな。なんせ、その頃には家の仕事も手伝えて当たり前な世界だからな」
………なんという、恐ろしい世界だ……!
というか成人したら、いやでも働かないといけなくなるんだから、10代のうちくらいもっと遊ばせてくれよ!
前世の私なんか、20歳過ぎても、大学在学中は散々遊び倒したぞ。
ぎぶ・みー・子どもの権利! 遊びから得る学びだって、あるんですよ! ……私は結果、アホのままだったけど!
「……それに、欧道学園には俺がいる」
「……? そりゃそうでしょ。要を追って編入するんだから」
何を当たり前なことを……と首をかしげる私に、要は深々と溜め息を吐いた。
「……俺が既に高等部の範囲を学習してることは、学園ではわりと知られてるんだ。休み時間に、参考書を開いていたのを見られてな。……くそ。カバーしとくんだった」
……うわ。休み時間に高校生向けの参考書開いて勉強してる10歳児とか、何それ。控えめに言ってどんびきだわー。何時間も授業で勉強してるのに、休憩時間もって、どんだけお勉強好きなのよ。
休憩時間なんだから、ちゃんと休憩しなさい!
「……あまりに授業のレベルが低過ぎて、脳が働かないから、良い脳の刺激になると思って始めたんだが、こんなことなら外国語の本でも読んでた方がましだったな。題名だけじゃ、難易度も分からなかったろうし」
さらりと続けられた言葉に、頬が引き攣る。
………どこまで規格外なんだ、この男は。
乙女ゲームのヒーロー補正こわひ。こんなの、人間じゃない。
「……まあ、要の化け物っぷりは、ひとまず置いといて。それが、私が高等部向けの勉強することと、どうして繋がるの?」
要は、要。私は私。
メインヒーロー補正と、女帝様補正、比べてみても、どう考えても勝てる気がしないから、対抗する気もない。
唯一勝っている家柄を笠に着て、抑えつければ、それはそれで良いんじゃないかと思うんだが……。
原作女帝様もゲームの中で『可哀想にね? 要。有能かつ成績
優秀、人望もあって学園の帝王として憧れの視線を向けられる貴方が、妾腹かつ家柄が劣ると言うだけで、私の前に惨めに這いつくばらなければならないのだから。………ああ、その屈辱を押し殺した目、最高に素適だわ。さあ、私のかわいい、狗。高い声で鳴いてみせなさい?』って言う台詞あった覚えあるし。(いざ抜き出してみると、すげー台詞だな。……いつか絶対、わんこ化した要に言ってみよう)
「……やっぱり、お前はアホだな」
要が溜め息と共に肩をすくめた。……今日何回めの溜め息だい? それ。幸せ逃げんぞ。
「つまり、欧道学園には、既に俺と言う天才児が台頭しているわけだ。そこらの成績優秀者なんて、霞むくらいのな。そんな状況で、お前がそれなりに優秀な成績おさめたとしても、にじみ出るアホさをフォローするまでには至らないだろ。せめて俺と同じくらいの成績は取ってもらわないとな」
………うんわー………。
「……この人、とうとう自分で天才児とか言っちゃったよ。引くわー」
「……………」
「じょ、冗談です! ちょっとしたジョークです! この場を和ませるための! 要さんは天才! 間違いない! ……だから、でこぴんの構えを取るのやめてええぇぇぇ」
慌てておでこを押さえて、要から距離を取る。
さっきの凶悪なでこぴんを、もう一度やられたらかなわん。
「脳細胞が! 脳細胞が減っちゃうから! ほら、おでこって脳みそに近いじゃない? きっと打撃が脳に作用するから!」
「……お前の場合、一度脳細胞全部死滅させて、全て一から再生させた方がアホが治るんじゃないか?」
「全ての脳細胞死滅させたら、私まで一緒に死んじゃうと思われます! そんなリスキーな賭けに出るより、今生存している脳細胞を大切にしたいであります!」