表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、中身はアホのこのままでした【連載版】  作者: 空飛ぶひよこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/52

アホのことヒロイン6

 もし、これが本当に乙女ゲームの選択肢なら。

 よっぽどひねくれたゲームでない限り、「要との食事」を選択するのが私にとって、良い選択肢なのが分かりきってる。

 だって、私は七年来の付き合いである、かわいいわんこが一番大事で、誰より大好きだから。

 姫乃ちゃんルートより、要ルートに行けるものなら、行きたいに決まってる。


 ……だけど、私はーー……。


「……ごめんね。要。私、明日は姫乃ちゃんと食べるよ」


 気がつけば、そう口にしていた。


「……そうかよ」


 「箱庭の虜囚」は難易度の設定によって、選択肢による好感度の上がり下がりが分かるようになっている。

 最良の選択肢の時は、明るい高い音。

 普通の選択肢の時は、無音。

 バッドな選択肢の時は、暗い低音。

 もちろん、現実にはそんな音発生するわけない。


 だけど、その時私は、選択肢の間違いを告げる低い音を聞いた気がした。





 ……あれ、おかしいな。


「今日のお弁当は、コラーゲンたっぷりの美肌ランチよー! さあ、私の女帝様の玉肌をプルンプルンになさい」


「……いや、ちょっと待って! だからって豚足と、ゲンゲを弁当に入れるのはアレじゃない!? 見かけ、女子のお弁当とは思えないよ!」


「あら? でも味は美味しいでしょ」


「……美味しいけど、女子らしさって何だろう」


「はあはあ……より一層肌理が細やかになった、白魚のような手で顔が真っ赤に腫れあがるまでぶたれたら、どれ程快感かしらね……」


「………」


「いやん……その蔑みきった目……素敵だわ。……アホに見下されるって、屈辱過ぎて、快感ね。新たな性感の扉を開いた気がするわ……」


 ……何故、私はこの変態と、気が付けば一週間も昼ご飯を共にしてるのでしょう。


「あの姫乃ちゃん……これ、今までのお弁当代……」


「あら、学園長から材料費巻き上げてるから、別に良いのに」


「(今さらっととんでもないこと言ったような……)いや、そうも行かないって。それから、私、明日は……」


「まあ、これで一層気合い入れた料理作れるから、良いわ。やっぱり、お弁当は好みの女王様に献上するに尽きるわ。学園長に、肌がツヤツヤになったって喜ばれても、嬉しくも何ともないもの」


「学園長も同じお弁当食べてんの!? てか、前から気になってたんだけど、たぶらかしたってどういう意味……って、もういないし!」


 ……ああ、学園長との秘密の関係の真相を今日も聞けなかった……じゃない。今日も明日は要と食堂で食べると言えなかった。

 どうしても、姫乃ちゃんといるとツッコミどころが満載過ぎて、会話が持っていかれるんだよな。


「姫乃の弁当……ずるい……学園長も、アホ女帝も……」


 ……常に、ストーカーわんこの憎しみに満ちた視線を感じるし。

 武宮、ゲームで君ってそんなキャラだっけ? 他の攻略対象ルートの時は潔く身を引いてたような……いや、姫乃ちゃんが何故が武宮のストーキング気付いてないように、ゲームのヒロインが鈍くて気付いてなかっただけか。あくまで視線でしか訴えてないから、無害と言えば無害だからな。

 ……捨てられたわんこのことはどうでもいい。てか、そもそも拾われてないから、野生の野良わんこか。箱の中で哀れにきゅーんきゅーん泣いて庇護欲はそそられるが、どうせ姫乃ちゃんにしか懐かないからどうしようもない。

 

 ……問題は、うちの愛しい飼いわんこだ。




「……あ、あのさ、要……」


「……黙って、作業しろ」


「……………………」


 あれから、一週間……放課後二人きりになっても、仕事以外ではろくに口を効いてくれません……!

 ど、どうしよう。本格的に、今度こそ反抗期だ……!



「あ、あの要………ごめん……」


「……ごめんって、何が」


「い、いやだって、要怒ってるよね?」


「怒ってねぇよ……何で俺が、てめえに怒る必要があるんだ」


 ……どう見ても、怒ってます! 要さん!

 てか、要が私を「お前」じゃなく、「てめえ」呼びする時は、わりと最大に怒っている時の特徴です!

 これは……あれですか? やっぱりバッドな選択肢の結果ですか?

 あの一回の過ちで、こんなことなってるのですか!? 神様!


「あ、あのね、要……姫乃ちゃんに……」


 お昼ご飯一緒食べるのは、明日で最後だって言うから。

 そう続けようと思った言葉は、要が机を叩いた音でかき消された。


「その名前を、俺の前で口にするなっっっ!」


 あまりにその声が大きくて、要の剣幕が怖くて、思わず体が跳ねた。

 次の瞬間、要がハッとしたように目を開いてから、顔を背けた。


「………悪い。声が大きかった」


「……う、ううん……」


 どうしよう。沈黙が、重い。

 ……だ、誰か助け……


「ーー変なことしてませんね! ……って、何ですか、この雰囲気。あなた達らしくない」


 ーー救世主キターーー!

 愛那ちゃん、マジ、ナイスタイミング!


「……良い所に来たな、斎ノ原。悪いが、今日は生徒会室待機変わってもらえるか?」


「別に構いませんが……大丈夫ですか? 会長。顔色、悪いですよ」


「精神的なもんだから寝りゃ、治る。……悪いな」


 ……って、え、要、行っちゃうの?

 これは、愛那ちゃんに間に入ってもらって仲直りするフラグじゃないの?


「か、かな………」


「ーー綾華」


 引き止める言葉は、要が言わせてくれなかった。


「悪かったな……怒鳴って」


 扉が、しまる。


「……何があったんですか、あなた達。本当に」


 たった一枚の扉しかないはずなのに、要がどうしようもなく遠く感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ